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ワールドイズマイン

作者: 天川閃人

 魔法少女ものの中編小説です。楽しんでよんでもらえたら幸いです。

特に、性的描写などはないので、全年代の方に対応しております。


     ワールドイズマイン

                    作 天川閃人


第一章 プロローグ


おはなしは遠い未来の地球にそっくりな環境の星で始まる。ハイテクな研究によって生み出された、兵器での戦争も霞がかかるほどの過去となっていた。この時代、兵器はもたず、争わずが絶対のルールだった。それというのも、この星の人類は一度絶滅しかけたからである。生き残った人々は、自らに厳しい規律を課し、過去の過ちを繰り返さないよう、機械には頼らない生き方を模索した。その結果、中世の自給自足の生活が、ちょうどよいという結論にいたり、自給自足の不便さはあるものの、平和な暮らしを送っていた。しかし、そんな平和も長くは続かなかった。力を持つものが、暴力による支配を企て、世は戦国時代を迎えた。そんな時代、力を持たない女たちが、古文書などを研究し、復活させたのが、魔法である。魔法は力を蹴散らし、この世にある程度の秩序をもたらした。魔法を復活させた魔女たちは、各地に魔法学校なる魔女育成学校を設立した。そして、300年の時が流れた。

そんな、魔女が秩序を守る世界が長く続き、世の中も、我が子を優秀な魔女にしたい親が、有名な魔法学校に入れるため躍起になる、『お受験』戦争時代に突入していた。男たちは、武器を持つことは禁止され、子種を残すすべとしてのみ重宝され、それは家柄によって優劣が決められていた。すなわち優秀な魔女のいる家庭である。であるから、親たちが必死になるのも無理はない。ここ、魔法学校『ヒイラギ』もまた有名な魔女を数多く輩出している、名門校である。グラウンドでは、魔法実技のテストが行われていた。テストを受けているのは、中等部三年の特進クラスの少女たちである。実技は、中級魔法バーストカノンでの、的あて。

「次、帳杏樹さん、前へ出て」

 テスト担当の教諭がそう言うと、ばたばたと後ろの列から出てきた少女が教諭の前でこけた。

「いたたたっ」

 皆、笑っている。中でも鮮やかな緑の髪をした少女は大爆笑している。

「ちょっとー、そんなに笑わないでよー」

 彼女の名は、帳杏樹。どじだが、そこしれない潜在能力を秘めている魔女の卵である。

「では、帳さん、初めてください」

 教諭がそう言うと、杏樹は呪文を唱えだした。そして、

「バーストカノン!」

杏樹が放ったバーストカノンは見事ど真ん中に命中、しかし様子がおかしい。勢いが強すぎる。頑丈に作られたうえ教諭の魔法壁まで張ってある的を、いとも簡単に突き破った杏樹のバーストカノンは、グラウンドの外の木に燃え移った。教諭はあわてて、水系の呪文、アクアブレスによって火を消した。

「帳さん、あなたはまだ、力を制御するのが下手糞ですね、今日は残って補習です」

「そんなぁー」

 杏樹のテストは大体いつもこうである。皆には笑われているが、大人たちには杏樹のそこしれない、潜在能力に一目置かれていた。特に校長のマチルダには可愛がられていた。そんな杏樹を小ばかにしつつも、いつも行動を共にしていたのが、先ほど大笑いしていた、鮮やかな緑色の髪をした、風間緑という少女である。彼女は名門、風間家の長女である。母は、国立魔法図書館の館長を勤めるエリートで、母と同じ鮮やかな緑色の髪は、その証である。緑は杏樹を友達とは思わず、ライバルというくくりで見ていた。それは、緑自身、杏樹の潜在能力がいずれ開花した時、きっと自分の邪魔になるだろうと確信していたからである。良くも悪くも杏樹は注目の存在だった。

杏樹が補習を終え帰り支度をしようと、教室に戻ると、そこに緑が待っていた。

「緑ちゃん、まっててくれたの?」

「ちょっと杏樹に話があってね」

緑は言った。

「あなた将来どんな魔女になりたいの?」

 杏樹は少し戸惑ったのちこう言った。

「わたしは、弟が、お嫁さん貰うのに苦労しなくていいくらいの魔女になりたいの。ほらわたしの家って緑ちゃんの家と違ってあまり家柄がよくないから……」 「何それ……」

「えっ?」

 緑は憤った様子で怒鳴りつけた。

「わたしは、あんた自身がこれからどうなりたいかが聞きたいの!具体的な目標とかないの?」

「だから、それは、弟がお嫁さん……」

「もういい!」

 杏樹の声を掻き消すように緑がそう言って、教室を出て行った。

「そっかー、もう三年生の夏だもんね、具体的な目標持たなきゃいけないのかもね……」 杏樹は家に帰ってからも、そのことをずっと考えていた。けれども、どうにもなりたいと思うものが見つからなかった。兎も角、弟が、家族が楽できるような、立派な魔女になる、という昔からの夢は曲げたくはなかった。しかし、その『立派』とはなんなのか、分からないまま朝がおとずれた。

「いってきまーす」

 杏樹はパンを口に挟み、靴を履くと、急いで駆け出した。今日はテスト週間最終日。総合演習の日である。テストは、学園西にある封印のほこら周辺で行われる。なんでも、今回のテストは、封印のほこら周辺にのみ生息する『マホロバ』という、妖精を三匹捕まえるというもの。『マホロバ』は非常に繊細で警戒心の強い妖精なので、うまく気配を消し的確な捕獲呪文を使わなければ捕獲は難しい。そして杏樹が教室に着くと同時にチャイムがなった。

「今日もギリギリだねー、杏ちゃん」

 横の席のメンティが可笑しそうに言った。

「ちょっと昨日夜遅くなっちゃってさー」

 杏樹はあっけらかんとそう言った。だけど、いつもと何か違う。いつもなら、ギリギリで着いた杏樹に、緑から、もうちょっと自覚もったら?とか、時間くらいまもりなさいよ、とか一声かかるところなのだが……。

(緑ちゃんまだ怒ってるのかなー……)

杏樹は後で声をかけようと思った。暫くして担任が教室に入ってきた。そして、テストにさしあたり、魔法着に着替えるよう指示があった。そして、3年特A組の面々はテストに向かった。封印のほこら自体は、西の草原地帯を抜けて、さらに西へ行った所にある森の中にあるが、今回のテストではくれぐれも封印のほこらには近づかないで下さい、という担任の忠告があった。『マホロバ』はその森の中に出現するので、まあ普通にやっていれば、封印のほこらまでは辿り着く恐れはない。

 道中、杏樹は緑に話しかけた。

「ねえ、緑ちゃん、昨日のことまだ怒ってる?」

「別に」

「ごめんね、緑ちゃん、わたし考えたんだけど答えがでなくて」

「そう」

 まったく会話をしてくれる、感じじゃあなかった。杏樹は少し悲しくなった。そんな様子を見ていたメンティが、心配そうに杏樹に理由を尋ねた。洗いざらい説明すると、普段は大人しい、眼鏡っ子のメンティが緑につめよりこう言った。

「ちょっと、緑ちゃんあんまりなんじゃないの?目標が曖昧だからってそんな態度。みんながみんな、あなたみたいにしっかりしてる訳じゃあないのよ」

すると緑は、

「向上心のない人嫌いなの、それに杏樹は……」

と言いかけたところで、無言になりすたすたと前の方に行ってしまった。

「なんなのよ、緑のやつ」

メンティは納得がいかない様子だったが、そこは杏樹がなだめた。 そして、一行はマホロバの森へ到着した。着くなり担任が説明をしだした。

「成績はマホロバを3匹捕まえて持ってきた順とします。捕まえ方は自由です、ただし、傷を負わせないこと。傷がついているマホロバを持ち帰ってきた場合は減点の対象となります、それから絶対に封印のほこらには近づかないこと、いいですね?」

「は〜い」

「では、試験を開始します、位置について、よーいドン!」

 その言葉と同時に真っ先に走り出したのが、緑である。後に続くように、杏樹たち他の生徒も走り出した。それにしても緑は速い。おそらく加速魔法を使っているのだろう。あっという間に他の生徒たちを置き去りにしてしまった。

「なにむきになってるんだか」

 メンティは、気に食わない様子である。

「まあまあ」

 杏樹はなぜか緑のフォロー。それだけ、緑のことを大切に思っているのだろう。緑は、友達とすら思っていないのに……。

木陰に身を潜めじーっと狙いをさだめるハンター、ではなく杏樹はついにマホロバを発見した。

(かっ…かわいい!)

その愛らしい容姿とぷにぷにと動く動作にやられてしまった。しかし、テストはテスト。無理にでも、捕まえて帰らなければならない。すると、もう一匹マホロバがやってきて、じゃれあい始めた。そのほのぼのとした光景を、捕まえることなど忘れて、満足気な表情で観察していると、後ろから、

「捕まえないんだったら、頂くわよ」

と突然、緑の声がした。

「緑ちゃん!」

「しっ!声が大きい」

緑は、もうすでに一匹、マホロバを捕まえていた。どうやら、シャボンスプレーで動けないよう、捕獲したようだ。

「あのね、杏樹……、あんたを無視してたのは謝るよ、だけどわたしもどうしても許せなかったんだ。あんたは気づいてるかどうか知らないけど、大人たちのあんたにかける期待はわたしなんかより、ずっと大きい。だから、自覚もって欲しかった、ただそれだけなのに、なんかこんなことになっちゃって……ごめん」

 緑は本音を口に出して伝えた。ライバルとして見ている、と言ってもやはり長く苦楽を共にすれば、友情は芽生えるものだ。その言葉に杏樹は、

「ううん、いいの、緑ちゃんわたしの方こそごめんね」

と謝った。

「あんたって奴は……馬鹿なんだから!」

「馬鹿ってなによー」

杏樹がちょっと不機嫌そうにそう言うと、マホロバたちがぴくっ、と反応した。

「感づかれたよ、杏樹、いくよ」

 緑は杖を片手に二匹のマホロバの前に姿を現した。続いて杏樹が登場!とおもったらマホロバたちは、一目散に逃げ出した。

「追うよ!」

「うっ…うん!」

二人はもの凄いスピードで逃げるマホロバを、加速魔法を使い追跡した。マホロバの逃げ足は予想以上に速い。二人とも、逃げるマホロバを追いかけるのに必死になるあまり、いつのまにか、封印のほこらに近づいていた。あるいは、マホロバにほこらへ導かれたのだろうか……。そして二人は、ついにマホロバを追い詰めた。

「観念しなさい、マホロバ!」

「ごめんねマホちゃん」

二人は、ほぼ同時にシャボンスプレーを唱え、マホロバを捕獲した。

「よし、二匹目!ほら、あんたの分」

 そう言うと緑は、シャボンに包まれたマホロバを杏樹に渡した。

「だけど、結構難しいテスト押し付けてくれたもんだね、先生も」

 愚痴をこぼすように緑が言う。うんうん、と杏樹は頷いた。すると緑がなにか発見した様子で、

「杏樹、あれみて!」

 と言った。なんだろう?と言われた方を向いて見ると、そこにはマホロバの群れがいた。それも数匹レベルじゃあなく、数十匹レベル。

「うわー、マホちゃんがいっぱいだー」

 その光景に至福の表情を浮かべる杏樹だったが、それではいけないと、首を振り、真剣な眼差しになった。

「好都合ね、だけどここ、先生が近づくなって言ってた、封印のほこらじゃない?」

「たっ、たしかにほこらみたいなのがある」

 緑は、意を決して杏樹に言った。

「ささっと、捕獲して、さっさと帰るわよ」

「分かった」

二人は、戦闘体勢にはいった。そして緑はシャボンスプレーを唱えた。遅れて杏樹もシャボンスプレーを唱えた。そして、ばさっと茂みから身を出すと、二人はシャボンスプレーを放った。それは数十匹いたマホロバの半数を捕らえた。

「やったー」

「これだけあれば、十分」

 そう言うと緑は、三匹のマホロバを手に取り、内、二匹を杏樹に投げた。

「ありがとー」

「礼なんていいわよ、それより、さっさとずらがりましょう」

 緑がそう言った瞬間、どこからともなく声がした。

「少女たちよ、我のもとへおいで」

 その声はほこらの方からしているようだ。緑は、とんでもない、あやかしがこのほこらに封印されていることを、知っていた。ので、杏樹をつれ、さっさと帰ろうとした。が、あやかしは尚も続ける。

「君達は、世界を自分の物にしたくないかい?」

 その言葉に、緑はぴくっ、と反応した。そして、緑はほこらに歩みよろうとした。

「だめだよ、緑ちゃん、あやかしの言うことなんか聞いちゃ!」

 あやかしは追い討ちをかけるように、

「この世を自分の物にする呪文、知りたくないかい?」

 と妖しく語りかけた。緑は、ほこらへ駆け出した。

「あっ、緑ちゃん、待ってー」

 緑はほこらの中の石像の前にたって、

「その呪文、教えて!」

 と興奮を抑えきれない様子で言った。すると、あやかしはこう言った。

「ならば、石像に貼られている札すべて取り払え」

 緑は言われたとおり、10ほどある札を剥しだした。杏樹はようやく追いつき、緑を止めようとしたが、それを振り払うように緑は一心不乱に札を剥す。そしてとうとう、10程あった札すべてを剥してしまった。その瞬間、石像から光が放たれ、それは粉々に砕けた。そしてそこから現れたのは……、小さな犬のぬいぐるみの様な、可愛らしいものだった。全身は黒い。杏樹は、

「わんちゃんだ!可愛い……」

 と、愛らしいその存在を気に入ってしまった。しかし、封印のほこらに封印されていたあやかしが、こんな可愛らしいものだったとは、二人共、想定外だった。特に緑は、狐につままれたような表情でいる。そんな、緑とは対象的に杏樹は『ぬいぐるみのような犬』に近寄り、恐る恐る、さわりだした。それは予想以上にふかふかしている。

「可愛いねー君、なんていうの?」

 杏樹が言うと、『ぬいぐるみのような犬』は口を開いた。

「僕はバルボロス、犬ではなく狼のつもりで転生した。元々こことは別の異界の地で、生まれたんだけど、いろいろあって今にいたる。まあそんなところだ」

 もの凄く曖昧で適当な説明だった。緑は、激高してバルボロスに詰め寄ると、

「この世を自分の物にする呪文教えてくれるんじゃあないの?それともやっぱり、封印を解かせる為の誘い文句だったの?」

 するとバルボロスは、静かに語りだした。

「それを、教える為に、まず知っておいてもらわなければならないことがある。それは君達のいる現在の世界は中世に存在した魔女、エクシリアの意のままに動いているということだ。そしてどうやってエクシリアが世界を自分の意のままに操っているか、だけど、それは伝説の支配呪文、ワールドイズマインによって引き起こされたものなんだ」

 初めて聞かされる、ふたつの衝撃に杏樹と緑は驚愕している。特に緑は信じられないと言った表情で、すこしばかり驚嘆もしている。それは、そうである。自分のいる世界が何者かによって、操作され創られた、作り物の世界だという絶望に値する真実が知らされたのだから……。そして、それを引き起こしたのが、自分達が学んでいる魔法だというのだ。絶望、もあったが、緑はこう言い出した。

「そのワールドイズマインって呪文わたし達には使えないの?」

「使えないことはないよ、ただ、体にはそれ相応の負荷がかかるから体が持つかどうかっていう問題だけど」

 バルボロスはしらっ、とそう答えた。   「知りたいかい?ワールドイズマインを」

 バルボロスは続けざまにそう言った。

「知りたいわ!」

 緑は激しく反応した。

(緑ちゃんなんか熱くなってる……)

 緑の反応を見て、杏樹は止めようかどうか迷った。しかし、緑が望んでいるものに口出しするのもいかがなものかと、黙って、バルボロスと緑のやりとりを見ていた。

「それを、知る方法はただひとつ、魔女エクシリアがまだ、ワールドイズマインを使用していない世界へ飛び、それを著した魔法書を奪うんだ」

「盗みをやれと?」

「そういうこと」

 またもバルボロスはしらっ、と答えるとテクテクと歩き出した。

「どこへいくの?」

「外に出るだけさ、ついておいで」

 と、バルボロスが言うので、二人はバルボロスの後についていった。バルボロスは外へ出ると、気持ちよさそうに、毛づくろいをしている。杏樹は、

「ほんと、わんちゃんみたい、ねえ、君のことバルちゃんって呼んでもいい?」

と話しかけた。

「好きにするといいよ」

 バルボロスはしらっ、と言った。そして、

「えーっと、鮮やかな緑の髪の方が緑で、淡い赤髪の方が杏樹だね?」

 と、言ってもいないのに名前を当てられた。二人は驚いた様子で顔を見合わせ、

「なななっ、なんで分かったの?」

 と動揺の色をみせた。

「それは、秘密さ。それじゃあ、エクシリアの時代へ飛ぶから僕に掴って」

 二人はバルボロスに手を置いた。するとバルボロスは念じだした。次の瞬間、一同はその場から消えてしまった。

.第2章

   第二章 時空を超えて


バルボロスたちは、森の中にいた。しかし、なにかさっきまでいた森とは様子が違う。あたりを、見回すと、さっきまであったほこらもなく、微妙に景色も違う。

「ここは……」

「エクシリアが存在した時代、つまり中世さ」

 バルボロスが言った。

「で、わたしたちはどこへ向かえばいいのかしら?」

 緑が尋ねるとバルボロスは、

「君達の学校があった場所に戻るんだ、そこに、エクシリアを主とする城がある。そこに侵入するのさ」

 と言った。

「ずいぶん、簡単に言ってくれるわね、恐らく凄い警備なんでしょ?」

 と緑は不機嫌そうに言った。

「いや、今は丁度、エクシリアの国と、某国との戦争中なんだ。だから、戦争の混乱に乗じて城に侵入するのは、魔女ならお手の物だろう?」

「そうね、じゃあそうしましょうか」

 緑はすっかりその気になっている。杏樹は疑問に思っていた。なぜ、緑はワールドイズマインなんて、得体のしれない呪文なんかにこだわるのか。自分が創生の主になりたいから、なんて答えだったら、ひっぱたいてでも連れて帰ろうと思った。杏樹は意を決して聞いた。

「緑ちゃん、なんでワールドイズマインを求めるの?」

 緑は静かに言った。

「だって、許せないじゃん、そんな、呪文に支配された世界なんて。わたしはただ、エクシリアって人がそれを使うのを止めたいだけ、わたしが求めてるわけじゃないわ」  杏樹はちょっとだけ安心した。そして、一同は森を、出口へ向かった。それにしてもマホロバの数が尋常じゃあない。現在よりも過去の方が、自然環境が良いからだろうか?すると、出口付近で、誰かが倒れていた。杏樹と緑がかけより、抱きおこし、安否を確認した。

「しっかりしてください、大丈夫ですか?」

「ううう…申し訳ない、レディーに抱き起こされるとはこのボルゾイ、一生の不覚!」

「あはは……大丈夫そうだね」

 杏樹が苦笑いを浮かべる。そして、ボルゾイが聞いてもいないのに勝手に事の経緯を話し出した。

「実は拙者、この近くを統治する、エクシリアという魔女を討伐にはせ参じた騎士なのだが、このエクシリアの魔法が強力で、思うようにいかず、知らず知らずのうちに追い詰められ、現在に至る訳なのだ」

「ふ〜ん」

「なんだその、小馬鹿にした『ふ〜ん』は!」

「要するにやられちゃった訳ね、よわっちい」

 緑は辛辣だった。そして、なにか思いついたようににやっと微笑み、こう言い出した。「おじさん、手伝ってあげようかその仕事」

「おっ、おじさん?拙者まだ27歳なのだが……、まあいい、そう言うからには、腕に自信があるのだな?ならば拙者を倒してみろ!」

「バーストカノン!」

 緑は、ボルゾイを瞬殺した。

「緑ちゃん、ちょっとは手加減してあげなよ」

 杏樹は心配そうに言った。

「ううう…情けないこと限りなし、しかし君、魔法を使えるようだね、是非仲間になっていただきたい」

 ボルゾイは恥を忍んで、頼んだ。すると緑は、

「いいわよ、ただし、あんたは囮としてエクシリアの城に突撃してもらうわ、その隙に、わたしたちが城内に潜入するから」

「捨て駒になれと?」

「大丈夫、わたしたちがエクシリアなんてやっつけちゃうから、それなら文句ないでしょう?」

 緑が言うと、ボルゾイは小さく頷き、

「ではわたしは、残った兵を集めて、エクシリアの城に突撃する。突撃前にのろしをあげるから、それを合図に動いてくれ、では失敬」

 と、すたすた去っていった。

「それじゃあ、いきますか」

 緑は歩き出した。それに続くようにバルボロスと杏樹も歩き出した。森を出て、草原地帯を歩く一同。あたりには無残にも、魔法で焼き払われたかのような死体が山積していた。「緑ちゃん、作戦とかってあるの?」

杏樹はおもむろに聞いた。すると、緑は、

「おじさんの合図が出たら、城の裏口から、侵入してエクシリアのもとへいく、勿論、透過魔法を使ってばれないようにね」

 と答えた。するとバルボロスが言った。

「あまりエクシリアをなめない方がいいよ」

「じゃあ、どうしろっていうのさ」

 緑は怒り気味だ。

「エクシリアのことだ、透過魔法を無効化するテリトリースペルをはっているだろう、ここは僕にまかせてくれないかい?」

「で、どんな作戦?」

 緑は興味深々だ。

「作戦なんてものじゃあないけど、直接、エクシリアのもとへワープするのさ」

「そんなことできるの?そうならそうともっと早く言ってよ」

「だけど、直接ワープしても、おそらくエクシリアのいる部屋にはつかない。移動制限スペルをはりめぐらしてるだろうから、城の中のどこかに移動することになる」

「バルちゃん、くわしいんだねー」

 杏樹は感心して言った。

「じゃあ、ワープするよ掴って」

 杏樹と緑はバルボロスに手をおいた。バルボロスが念じると、一瞬のうちに城内へついてしまった。しかしそこは、地下の牢獄だった。

「よりによって、牢獄にワープするなんてついてないね」

 バルボロスが人事のように言った。

「嘆いてなんていられないわ、さっさと脱出して、エクシリアのもとへ行くわよ」

 緑はやる気に満ちている。緑は牢屋の鍵穴に指をいれる動作を繰り返している。

「何してるの緑ちゃん?」

 杏樹が不思議そうに聞くと、緑は、

「中級魔法、キーオブフィンガー。まあ杏樹は知らなくて当然よね、あんまりメジャーな術じゃないから」

 と自慢げに言った。

「カチッ!」

「開いた!いくよみんな」

 緑は本当に勉強家だ。こんな呪文など、学校で習うものではない。自ら勉強し、習得したのだろう。まあ、もともと、母が国立魔法図書館の館長ということもあり、昔から様々な魔法書を読んできた、という環境のせいもあるだろうが。緑たちは、牢獄を脱出し、効くかどうか分からないが、一応透過魔法を身にまとい、おそらく最上階にいるであろう、エクシリアのもとへ走る。兵士たちは緑たちに気づいていないようだ。途中何度か見つかったが、兵士たちは、気にもとめず平然としていたからだ。しかしここからは、気が抜けない。牢獄から数えて、階段を4つほど上がった階から、様子が一変した。そう、バルボロスが危惧していた、呪文を無効化にする、テリトリースペルが張ってあるようなのだ。それは、魔女ならば、大体、感覚や雰囲気で分かるものである。

「ここからは、透過魔法は効果なさそうね」

 と緑は、透過魔法を解いた。続けて杏樹もそれに従った。一同、息を潜めて慎重に歩を進める。すると向こうから声が聞こえた。女の声―魔女だ。魔女たちはどうでもいい世間話をしていた。そこで、緑が、

「隙をついて、奇襲するよ」

 と言った。杏樹も覚悟を決め、二人は戦闘態勢にはいった。

「バーストカノン!」

「フリーズロック!」

 二人の先制攻撃に、なすすべもなく倒れた、魔女たちだったが、その内の一人がむくっと起き上がり、逃走した。

「ちっ、増援を呼ぶつもりか、やっかいね」

 と緑。そして、

「一気に最上階まで、殴りこむわよ!」

 と少々、興奮気味だ。そして一同は次の階へ進む。そこには、おまちかねとばかりに、魔女達が構えていた。

「やばっ」

「これはきついね……」

 しかし、そんなこと言っている余裕は二人にはなかった。二人は勇敢にも戦った。バーストカノンやフリーズロックなどの攻撃呪文で、なんとか敵と渡り合っているものの如何せん数が多い。二人はじょじょに消耗していった。すると、バルボロスが、二人の前に立ち、こう言った。

「仕方ない、ここは僕に任せて、あまりこの姿にはなりたくなかったんだけど……」

 そして、バルボロスは念じだした。すると、バルボロスの体がみるみるうちに巨大化していった。風貌も犬ではなく、狼をさらに装飾したような、なにか神々しいものがあった。

そして、バルボロスは敵の魔女たちを軽々となぎ倒し言った。

「さあ、進もう」

 緑たちは、戦うバルボロスを尻目に先を急いだ。そして、次の階への階段を前にして緑が、

「いよいよね」

 と、緊張した表情で言った。杏樹も、

「そうだね」

 と言い、ごくりと唾を飲んだ。二人はバルボロスを待たずして、階段を登った。すると一番奥の方に、神々しい衣に身をまとった、魔女がいた。玉座に座っている。緑たちは、おそるおそる近づく。しかし、エクシリアは一向に気づかない。

「なんかおかしいわね、杏樹、声かけてみて」

「ええっー、なんでわたしが……」

 とやりとりしていると、さすがに気づいたエクシリアが、

「誰っ!」

 と叫んだ。

「あ、あのう、エクシリアさんですよね。わたし達は帳杏樹と、風間緑という者です。単刀直入に言います、わたしたちはあなたがワールドイズマインを使うのを阻止しに未来からきました。どうか馬鹿なことはやめて下さい」

 と杏樹がいうと、エクシリアはポカン、としている。そして、

「そなたらが未来から来たということは信じよう、しかしワールドイズマインとはなんじゃ?」

 と言った。おかしい、明らかに変だ。もしや、ワールドイズマインなんて最初から存在せぬ、バルボロスの虚言だったのでは?と緑は疑いだした。そこに、敵を蹴散らしたバルボロスが上がってきた。バルボロスにエクシリアがワールドイズマインなど知らないことを知らせると、バルボロスは、こう説明しだした。

「ひとつ、考えられることとして、何者かによって、歴史が改変されてしまったという可能性がある」

「歴史が変わっちゃうの?」

「うん、君達のいた世界はおそらくもうない」

「そんなっ……」

 二人は驚嘆した。そこにエクシリアが、

「なにか、事情があるようだね、力になれることがあったら言っておくれ」

 と優しい声をかけてくれた。しかし今は、エクシリアの力も及ばぬだろう。それに、歴史が変わって、エクシリアがワールドイズマインを使用していない状態なのだ。余計なことを話すのはやめにした。しかし、ワールドイズマインによって支配された未来が解放されたであろうことも、事実。問題は、杏樹たちの知っている世界がなくなってしまったかもしれないという事実。緑は、

「確かめにいきましょう!杏樹、バルボロス、戻るわよ」

 と震えた声で言った。二人はバルボロスに手を置いた。例によって念じだしたバルボロス、杏樹と緑は、

「どうも失礼しました」

 といい、バルボロスと共に消えた。元の世界に戻った一同は、マホロバの森に着いた。「まず、森を出よう」

と、緑が言い、一同は森の出口へ向かった。そして、森から出ると、草原が広がっているはずだった。が、そこには、要塞らしきものが無数に存在していた。

「やっぱり歴史変わっちゃったんだね」

 杏樹は悲しそうに言った。すると、バルボロスがぼそっと、

「これが、本来あるべき姿さ」

 と呟いた。

「えっ、なんか言ったバルちゃん」

 杏樹が聞いたが、バルボロスは二度は言わなかった。そこで緑から、一言、

「とりあえず、情報収集しましょう」

「そっ、そうだね」

 一同は要塞を避けつつ、とある、街についた。そこで、汚らしい老人から、こう聞かされる。

「今の世界はだれのもの?おかしなこと聞く子らじゃなー。そんなの魔王タナトス様のものに決まっておろうが。しかし、あのお方どこからきなすったんじゃろうか?不思議でならん」

 明らかに、存在していなかった者が、支配者となっている事実。しかし、緑や杏樹はなすすべもなく、落ち込んでいうる。そこで、バルボロスが、

「落ち込んでいても始まらない。僕は時空神クロノスのもとへ行こうと思うんだけど、君達はどうする?」

 と聞いてきた。どうするもなにも、なんのすべももたない二人はついて行くことにした。  


.第3章

   第三章 その訳を


一同はクロノスの住む、時空の最果て、まできていた。しかし、何もなく、青白い、夕暮れのようなシュチエーションである。その中をただ真っ直ぐ、バルボロスに着いていく二人。なにか、言い知れぬ不安感が漂う。暫く歩いていると、大きな時計が見えた。多種多様な時計がその周りを飛んでいる。それに対してバルボロスが話しかけた。

「御初にお目にかかります、クロノス神様、わたくしバルボロスと申します」

 すると、大きな時計が、鐘を鳴らした、かと思ったら、大きな時計は目を開けた。そして、

「おぬしがバルボロスか、大変なことをしでかしてくれたのう」

 と言った。クロノスは続ける。

「おぬしがしでかしたことで、人間界の秩序はめちゃくちゃじゃ、どうしてくれる?それと、おぬしは一体何者じゃ?人間界のものでも、霊界のものでもないようじゃな」

「裏宇宙、といえばあなたならおわかりになるかと」

バルボロスが意味ありげに言った。

「この宇宙とは別の似て非なるパラレルワールドじゃな、そこから来たというのか。では今回の不祥事は何ゆえ起こした?」

「あなたも、神ならば知っていよう。魔力の質量と世界のバランスの関係のことを。今の裏宇宙は、存在そのものが、今いるこの宇宙より、規模が小さくなってしまっている。そのせいで裏宇宙はなくなりつつあるんですよ。それを救うため今回、帳杏樹という強力な魔力を持つ少女を使って、歴史を改変した、という訳です」

 その言葉に緑が食いついた。

「ちょっと、杏樹を利用したって、いったいどうゆうこと?」

 その問いには、クロノスが答えた。

「その少女、帳杏樹に類稀なる魔力が潜在していることは、君も存じているとおりだ。しかし、その大きな魔力が時間移動すると、時空間にひずみができる、これがもとになり歴史は変わるのじゃ」

 クロノスは続ける、

「じゃが今回、バルボロスがしたことはそれ以上。我々が秩序をもたらすため用意した、エクシリアという女を、ただの地域の支配者に変えてしまった。これは、ただ単に帳杏樹の魔力による、時空間のひずみだけでおこる歴史改変とは考えにくい。バルボロス!貴様何をした」

「なあに、簡単なことです、歴史が改変されるとき時空間にひずみができる、その中に帳杏樹の潜在魔力を一時的に最大まで放出させることができれば、歴史を根底から覆すことも、可能でしょう?わたしは、エクシリアの時代に帳杏樹を飛ばして、その道中、潜在魔力を一時的に放出させれば、ワールドイズマインにかかわる事象は必ずかわると思っていましたからね」

 バルボロスがにやりと笑った。つまりまとめるとこうである。裏宇宙の存在そのものが魔力の質量の低下のせいで、なくなりつつあった為、杏樹という強力な魔力を持つ少女を使って、時間移動の際できる、時空間のひずみに杏樹の強力な魔力を放出させ、歴史を改変し、魔法の存在しない未来へ変化させた、というのだ。おそらくそれにより、裏宇宙との魔力の均衡もとれ、裏宇宙の滅亡は阻止できたであろう。バルボロスは、

「では、わたしはこれで、まだやることがありますので」

 とその場から、一瞬にして消えた。杏樹と緑は、まだ事態を飲み込めないでいる。そんな二人にクロノスは、

「まあ、お茶でも飲んで、落ち着きなさい」

 と時空間から紅茶をだし、杏樹たちの前に置いた。

「あっ、ありがとうございます」

 二人はありがたくそれを頂戴し、少しだけ落ち着いた。するとクロノスが話し出した。「この世界はバルボロスの企みによってめちゃくちゃにされた。これを元に戻すには、支配呪文、ワールドイズマインを再使用して、元の世界に創り変える他ない。幸運にもこちらには、帳杏樹という、超一級の魔力を持つ魔女がおる。おそらく、ワールドイズマインにも耐えうるだろう。どうだい?力になってくれないかい?」

神様から、頼まれごとをされてしまった杏樹は少し困り顔だったが、暫くして、

「わたし、やります!」

 と決心した。緑も、

「協力するよ」

 と言ってくれた。

「で、何をすればいいんでしょう?」

 杏樹はクロノスに聞いた。すると、クロノスは、

「修行じゃな」

 と言った。

「まずわしの元で、時空呪文を習得し、それから、杏樹君にはイフリートのもとで、炎系の呪文を教わってもらおう。緑君には、シヴァのもとで、氷系の呪文を習得してもらう」「わかりました!」

 二人ともやる気満々である。そして、二人は時空呪文の習得にとりかかった。まず、クロノスから命じられたのは、時間感覚の正確化である。二人はクロノスから、ストップウォッチを渡され、目を閉じて10秒きっかりで止めれるようになるまで、繰り返させられた。それから、二人は本格的に時空呪文を学ぶ。まず、すべての基本、人や動物の動作をストップさせる、『タイムストップ』の習得に時間が費やされた。何日かで、それを習得し、

いよいよ本丸の時空間移動呪文の修行である。まず時空間に入るため、時の剣と呼ばれるオーラ剣により、空間を切り裂いて、時空間への扉を開ける修行が繰り返された。そして、時間移動に関する知識を一通り叩き込まれ、二週間程の修行は終了した。

「二人とも、よくやってくれた、ではさっそく時空間移動呪文で、イフリートとシヴァのもとへ向かってくれ」

「えっ、どこにいるんですかその神さまは?」

 杏樹が聞くとクロノスは、

「ここが、次元の先端として、イフリートは50年前、シヴァは100年前に永久存在しておる。次元の先端から1000年間は神の領域として存在しており、時間の概念がないのだ」

 と言った。二人はお互い見つめあい、うん、と頷きあうと時の剣で、時空間への扉を開き、その中へ入っていった。


.第4章

第四章 修行


緑は、見渡す限り一面雪と氷の銀世界にいた。そう、この世界がシヴァの統治する時代。しかし、緑は少し途方に暮れていた。何故なら一面銀世界の上、吹雪で視界が非常に悪かったからだ。こんな中歩き続けていたらいつか凍死してしまう。緑は、吹雪がしのげる場所を探していた。すると、一本の巨大な木が向こうにあった。緑は、すぐさまそれに近寄った。すると、木の根元に、ほら穴のような、吹雪をしのげそうな場所があったのでそれに入り、吹雪をしのいだ。しかし、なにか違和感がする。なにか別の生き物がいそうな雰囲気だ。その予感は的中する。奥の方から、足音が聞こえたと思ったら、それは現れた。それは、銀色の狐だった。その狐は馴れ馴れしく緑に近づいて頭をこすりつけたり、臭いを嗅いだりしてきた。緑は、

「あんたもひとり?」

 と話かけた。すると狐が、

「そうだよ」

 と答えた。緑は、まさしく狐に化かされたといった表情で、少し驚く。そして狐が、

「お姉ちゃん、こんな所に何の用できたの?ここは人間の来るところじゃないよ」

 と言ったので、緑は、

「そうだ、シヴァ様のもとへ行かなきゃならないのわたし」

 と言うと、狐は驚いて言った。

「力を求めて来たんだね、過去に二人、そういう魔女がいたっけなあ、それじゃあ、僕がシヴァ様のもとまで案内してあげるよ」

「ありがとう、あんたっていいやつね」

「よくいわれるよ」

 そして、狐と緑は吹雪の中を歩きだした。長いこと歩きようやく辿り着いたのは、とある洞窟だった。洞窟の中はつららや、結晶が多く存在している。すると狐は、

「ここからは一人で行ってね、僕もまだ死にたくないし」

 と言い去って言った。

「意外と薄情ね」

 緑は呟く。そして洞窟内を歩きだした。すると向こうの方から何か来る。なんだろう?と覗き込むと、それはこうもりの大群だった。

「きゃあ!」

 こうもりたちは執拗に緑を攻撃する。緑はそれに応戦するように、バーストカノンやフレイムサークルといった炎系の魔法を使って対抗した。すべて、焼き払い、なんとか狭い通路から、大きな池が凍った広い場所へ出た。

「なんだろ、ここ」

 すると、池の氷が粉々に砕け散りそこから、大きな蛇の魔物が現れた。

「うわあ、また気持ち悪いのがきたよ」

 ぼそっと、呟いた緑は、バーストカノンを使った。しかし、蛇の魔物にはまったく効力がない。

「そんなっ」

 少し躊躇している間に、蛇は凄いスピードで緑にからまりついてきた。

「きゃあああ!」

 蛇の魔物は、緑をじわじわと絞めつける。

「くそっ、こうなったらいちかばちか」

 緑は自分が、一番得意としている雷系の呪文、エクススパークを放った。蛇の魔物は内部から電撃を浴び、即死した。

「よしっ、でも……あばら二、三本いかれちゃったかも」

 緑は、あばらをおさえ必死に前に進んだ。またもや、細い通路である。しかしそこを抜けると、驚くほど鮮やかな、銀化粧した花畑があった。そこに、全身銀色の女性らしき人がいた。緑は、その人に、

「あの、シヴァ様はどちらですか?」

 と聞いた。すると女性はにこっと笑って、

「わらわがシヴァじゃよ」

 と言った。まあ確かに全身銀色の時点で、その可能性は限りなく高かった訳だが。緑は、「お願いします、修行をつけてください」

と頼んだ。シヴァは、

「そのつもりじゃ、厳しいがついてきてくれ」

 と快く迎え入れた。そして、修行が開始された。シヴァは、まず緑に、フリーズロックを使ってみるように言った。そして、それを見るとシヴァは、

「やはり、クロノス見初めたとおり、氷属性が得意なようだね」

 と言った。しかし緑は、自分が一番得意なのは雷属性だと思い込んでいたので首を振り、「一番得意なのは、雷です」

と言った。しかしシヴァは、こう言った。

「潜在能力というのは自分では計り知れないものなんじゃよ、それとおぬしからは青白いオーラが見える、それは、水、氷に特化している証じゃよ」

 緑は、納得がいかなかったが、そんなこと言っていても何も始まらないので。氷神のありがたいお話として胸にしまった。そしてシヴァが、

「氷系の魔法を操る為、もっとも重要なものはなんじゃ?」

 と問うてきた。緑は少し考えた後、

「敵を完膚なきまで叩きのめす冷徹な心ですか?」

 と言った。シヴァは、大きく首を横に振り言った。

「標的を見失わない冷静さじゃ、氷属性の魔法は、その性質上、広範囲にわたるものが多い。その為、二流が使えば効果は半分以下になることもある。わらわのもとではその冷静な心を育んでもらう」

「一体なにをすれば?」

 緑が聞くと、シヴァはニヤリと笑って、

「これを育ててもらう」

 と、銀化粧した花畑を指差した。

「ガーデニングですか?」

 緑が言うとシヴァは、

「そんな、簡単なものではないぞ、この雹月花の飼育は」

 と言った。緑は、

「雹月花?なんですそれ?」

 と不思議そうだ。

「雹月花は氷の魔力を吸って、生きておる。すなわち、雹月花の飼育とは、氷魔法の力の加減を自在に操る為の訓練になる、ほれ、わらわと替わってみい」

 とシヴァが言ったので、緑は、

「分かりましたやります」

 と花畑の前で、念じだした。すると雹月花は萎れてしまった。

「なっ、意外と難しいじゃろう?」

 と、シヴァは微笑んだ。

暫く緑を一人にして、居眠りをしていたシヴァだったが、むくっと起き上がり緑のもとへ行った。すると、雹月花は生き生きとしている。

(こやつ、こんな短期間で雹月花を……)

 シヴァが驚いていると緑が、

「シヴァ様、見てください、結構な…もんでしょ…」

 といい、ばたっと倒れた。

(そうか、こやつ、センスはよいが、肝心の魔力の質量が少ないのじゃな)

 シヴァは緑を抱きかかえると自分の部屋へ連れていった。

「ううーん」

緑が目を覚ますとシヴァは、

「起きたかい?」

 といい、話だした。

「今、あんたに必要なのは、知識でも修行でもなかった。それは、魔力の質量の底上げじゃ、それはわらわの力で何倍にも何十倍にもできる、やってみるか?」

 そう言われて、緑は、シヴァに抱きついて、

「本当ですか!お願いします!」

 と嬉しそうに言った。

「ただし、おぬしは金輪際、攻撃系の魔法は氷系のみしか使えなくなるぞ、それでもよいか?」

 そう言われ、緑の表情は一変した。自分自身は、雷系が得意だと思っているし、それは母も同じだったから、雷系への思い入れは大きかった。しかし、緑は力を手に入れるべく決心した。

「はい、覚悟はできています!」

「あいわかった」

 そして、シヴァは緑の頭の上に手を置き、なにやら念じだした。緑自身、なにかが体の中に、すぅーっと送り込まれている感覚に襲われた。そして緑は青白いオーラに纏われた。「これが、氷魔法を究極にまで、極めたものだけに発することが許される、青のオーラだ」

緑は驚いた。まるで魔力が滝のように溢れんばかりに満ちている。

「これが……わたし?」

「そうじゃ、わらわの力もなかなかのものじゃろう?」

 シヴァはそう言うと、部屋の片隅に飾ってあったクリスタルを渡した。

「わらわの力が必要な時、青のオーラを発しながら、強くわらわを呼ぶがいい、力になろう」

「ありがとう、シヴァ様」

 こうして、緑は短期間に、強力なパワーアップを遂げた。

一方そのころ、杏樹は、イフリートにしごかれていた。こっちの方は緑のように短期間と言うわけにはいかなかった。それというのも、やはり基本の部分が緑より劣っているため、教える方も一苦労していたのだ。特に力の制御が杏樹は下手だ。その特訓として、骨付き肉をこんがり焼く、トレーニングをもうかれこれ3日やっているが、一向に上達しない。最終的には焦げ付き肉になってしまう。しびれを切らしたイフリートは荒療治にでた。「杏樹、貴様が力の制御が下手なのは、感情をうまくコントロールできないからだ。魔法を撃つときでも平然と撃てなければならん。で、まず、ここにいる鶏を全部、フレイムサ

ークルで焼き殺すことを命ずる」

「そんなー、可哀想じゃあないですかー」

「馬鹿者!人間がそんな口叩くな!生きるため散々他の生き物を殺し、繁栄してきたのが人間だぞ!それをわすれちゃあいかん」

 イフリートは、熱血漢だった。修行も常にマンツーマン。

「わかりました、ごめんね鶏ちゃん!フレイムサークル!」

 弱弱しい炎が鶏の羽を焼いた。しかし、殺すどころか全然力の入っていないフレイムサ

ークルに、イフリートは、

「馬鹿もん!」

と杏樹をビンタし、

「殺すつもりでやれ、と言ったんだぞ!ただそれだけだ、何も考えるな、焼き払え!」  と、叱りつけた。そんな熱血教室を繰り返し行ううち、杏樹は鶏を殺すことをさほどなんとも思わなくなった。そして、イフリートは満を持して、骨付き肉の丸焼きをこんがり焼く修行を命じた。そして―。

「やったー、結構美味しそうに焼けましたよイフリート様」

「うむ、よくやった、今日はこんなところにして、丸焼き肉をおかずに夕食とするかの」 そして、杏樹とイフリートは美味しそうに丸焼き肉と鶏の丸焼きを食べだした。食べ終わるとイフリートは、杏樹に言った。

「おぬしには教えたいことがたくさんありすぎるが、時間もないことじゃし、ある呪文を

教えて終了とする、その呪文は、炎系究極魔法『スペースフレア』じゃ」

「なんだか凄そうな魔法ですねぇ」

 杏樹がのほほんと答えると、イフリートは咳払いをし、『スペースフレア』の凄いところを、話しだした。その数なんと、100個以上。それを、適当に聞き流していた杏樹だったが、ひとつだけ、深く脳裏に焼きつく凄い所があった。それが、全宇宙どんなところでも使える、ということだった。その日は、結局そのまま眠ってしまった。

あくる日、杏樹が起きるとイフリートが、なにやら、精神統一していた。ので、こっそり近づいて、イフリートを驚かしてやろうと、近づいていくと、

「杏樹か!起きたら、おはようございますだろ?」

 不機嫌そうに言った。

「あはっ……おはようございまーす」

 あっけなくばれてしまい、心の中で、つまらなぁーい、と思っているとイフリートが、「なにがつまらないんだ?」

と言ってきた。杏樹は驚いている。イフリートは、

「炎の呪文を極めると心を読めるようになるのだ、ふははは」

 と笑った。そしていよいよ、『スペースフレア』の習得訓練が始まった。

「スペースフレアは、無心で撃つことで効力を発揮するのだ。じゃから、いかに無に近づけるかが鍵となる」

 とイフリートが言うと、杏樹に瞑想を命じた。しかし、無心になろうという必死な気持ちから、無心になれない。

「眠る時と一緒だ!自然体になれ」

 その言葉に、杏樹は気が抜け、無心となれた。

「よし、今の感覚を忘れるな、その状態でこの呪文を唱えるんじゃ」

 そう言うと、イフリートは一枚の羊皮紙を渡した。そこには呪文が書いてあった。杏樹

は今一度、無心になり、呪文を唱えた。すると、杏樹の体に赤いオーラが纏われた。

「それが、火魔法を究極にまで極めたものだけに纏われることが許される赤のオーラじゃ」

「これが……赤のオーラ」

「そう、その状態で、放出するとスペースフレア、練ると魔力増幅じゃ」

 そう言うと、イフリートは懐から、クリスタルを取り出し、杏樹に渡した。

「赤のオーラを纏っている時、心の中で、わしを呼べばいつでも助けに登場しよう。ただし、ピンチの時だけじゃぞ」

「ありがとうございます、イフリート様!」

 そして、杏樹の修行もなんとか終了した。しかし、問題はこれからだ。杏樹は時空間移動魔法を使い、クロノスのもとへ戻った。 


   

.第5章

   第五章 アリエンティス


杏樹が、クロノスのもとへ帰ると、既に緑は帰っていた。そして、

「あら、遅かったわね杏樹」

 と、一言。そして、クロノスがこう言った。

「おぬしらはよく頑張ってくれた、で、これからじゃが……」

 少しためた後クロノスは、

「古代のアリエンティスという魔女のもとへ向かってもらう」

「アリエンティス、聞いたことがあるわ。魔法の力で一時代を築いた伝説の魔女ね」

 と緑が言った。さすが博学である。杏樹は聞いたこともなかった。

「彼女が、ワールドイズマインを一人で完成させ、自分の時代でのみ使用し、一代でそれを自分で封印し我々神に託したのじゃ」

「!?」

「そして、我々神は時代が混沌としてきたエクシリアの時代にそれを天啓として、授けた、はずじゃった……、がバルボロスの企みにより歴史は変化してしまった」

 続けてクロノスは、

「アリエンティスのもとへ行けば、ワールドイズマインのことを教えてくれよう、行ってくれるかの?」

 と言った。二人はすぐさま頷き、クロノスの時空間移動呪文によってアリエンティスの時代へ飛ばされた。そこは、乾ききった砂漠の中だった。二人はうだるような暑さの中、砂漠を歩いていた。すると、ずっと遠くにピラミッドのような建造物が建っているのが見えた。二人はそれに向かって歩いていった。ピラミッドのふもとには村があった。二人はのどが渇いていたので、とりあえず水を求めて民家の前に立っていた婦人に話しかけた。「あの、すいません、わたし達遠くから旅してきたものなんですが、のどが渇いちゃって、お水一杯いただけませんか?」

すると、婦人は、

「いらっしゃい、旅人さん、中へどうぞ、水をお持ちしますわ」

 と、なにやらウエルカムな感じだった。そして杏樹と緑は民家に上がらせていただいた。

婦人が水をもってくると、二人はあっという間に飲み干してしまった。その様子が可笑しかったのか婦人はクスクス笑っている。そこで、緑は、

「あっ、あの、わたしたちアリエンティスと言う方を探してやってきたのですが、ご存知ですか?」

 と聞いた。すると婦人は、二階に向かって声をあげた。

「おばあちゃん!例の、お客さんですよ」

 すると、二階から杖をついた老婆が降りてきた。そして、

「あらまあ、随分お若いのお」

 と一言言うと、杏樹たちと同じテーブルの椅子に腰掛け、話し出した。

「だいだいの話はクロノスから聞いた。わたしの呪文がえらく迷惑をかけたねえ。しかしあれほど、封印を解くなと言っておいたのに、神も神じゃよ」

 と、完全に神と対等な立場じゃないと言えないセリフを吐いた。

「あの、貴女はどうしたらいいとお考えですか?」

 と緑が聞くと、アリエンティスは、

「おぬしたちの住んでいた未来をとりもどしたいんじゃったら、しゃくじゃろうが、中世のエクシリアとかいう魔女にもう一度、ワールドイズマインを使わせることじゃな、わしはあまり薦めたくはないがの」

 続けて、アリエンティスは、

「もうひとつは、おぬしたちが適当な時代、例えば、中世以降のとある時代に飛んで、ワールドイズマインで、好きなように歴史をつくればよい。完全に元通りとはいかぬまでも、ある程度歴史を学んでいるなら容易いじゃろうて、わしはこっちの方を薦める」

 と言った。緑は、

「わたしたちにワールドイズマインを使えと?」

「わたしたちではない、そっちの赤髪のお嬢ちゃんに言っておるのだ」

「!?」

 その視線は杏樹にむけられていた。

「それに、してもこのお嬢ちゃんの潜在魔力は凄い、わたしの若い頃そっくりじゃ」

 と言い、えらく杏樹を気に入っている。緑は面白くないとばかりにブスッとふてくされた。アリエンティスは聞いてきた。

「赤髪のお嬢ちゃん、あんたはどっちを選ぶ?」

 杏樹は少し考えたのちこう言った。

「わたしは、エクシリアにもう一度呪文を使ってもらうほうを選びます、自分で好きなように、作り変えちゃったら、多分滅茶苦茶な世界になっちゃうと思うから、歴史も詳しくないし……」

「ふむ、そちらを選ぶか、ならばこれを」

 と、大事そうに持っていた一冊の本を杏樹に渡した。

「これがワールドイズマインの全文じゃ、おぬしの時代の文字ではないから分からぬじゃろうが、エクシリアという魔女ならば分かるじゃろう。しかし最近妙なモンスターに奇襲されてのう、追っ払うには追っ払ったんじゃが、本の最後の1ページだけ食いちぎられてしもうたんじゃ」

 二人はすぐに、バルボロスの存在が浮かんだ。そして、アリエンティスが、

「残念じゃが、わしはワールドイズマインの中身を一切覚えておらん。なぜなら一度使ったら、もう二度と必要なくなるじゃろうと、過去のわしは考えておったからのう。こんなことになるとは夢にも思わんかった。いささか、あの頃のわしは神を信頼しすぎておったわ……」

 と言った。そして、続けざまにこう言った。

「しかし、心配はいらん、エクシリアという魔女なら、おそらく最後の1ページくらいなら復元できるはずじゃ、協力を求めるがいい」

「分かりました!」

 二人は、そう返事し、礼を言ってから、アリエンティスの家を出て、暫く歩いた砂漠の中で、時空間移動呪文を使いクロノスのもとへ戻った。二人はクロノスにエクシリアの時代へ再び飛ぶことを告げ、エクシリアの時代へ時間移動した。


.第6章

   第六章 思惑どおり


エクシリアの時代へ飛んだ二人は、例によってまた、牢獄についた。

「いちいち面倒くさいわねえ!テリトリースペルなんて外しちゃえばいいのに」

 緑は不機嫌そうにそう言った。そして、二人は今回堂々と、正面から突入した。無論、警備兵に止められたが、緑が、

「エクシリアに会いたいの、緑の髪の可愛い女の子がそう言ってたって伝えてきてよ」

 と物怖じすることなく言った。警備兵は

「ここで待て」

 と言いそれをエクシリアに伝えに行った。しかし、今日は警備兵も少ない。少し変だなと思い、杏樹が、

「今日は、お城の兵隊さん少ないですねぇ」

 と若い警備兵に言うと、若い警備兵は、

「でかい戦争がおっぱじまったからな、なんでも相手はタナトスとかいう魔王気取りのやつらしい」

 二人は驚いた。タナトスはこの時代に既に異世界より登場していたのだ。このままいくと、エクシリアの国は滅び、杏樹たちのいた時代まで繁栄するということになる。暫くして、エクシリアのもとへ伝令に行っていた警備兵が戻ってきて、

「エクシリア様が上がってこいとおっしゃった、くれぐれも粗相のないように」

 と言い杏樹たちを通した。階段を登り、エクシリアのもとへ辿り着いた二人は、事の経緯を説明した。

「なんと、するとこのままでは我が国も滅びるのか」

「ですから、ここにあるワールドイズマインの元本を復元して、貴女にワールドイズマインを使用して欲しいんです」

 と緑が言うと、エクシリアはうんと頷き、

「では、共に完成させよう、手伝ってくれるな?」

 と言った。二人は勿論の如く、

「はい、できることなんでもおっしゃってください」

 と言った。一同は魔法書がおさめてある魔法書室へ向かった。難しそうな本があれやこれや並んでいる。二人はエクシリアの指示通り、本を持ってきたり、そこはそうなんじゃないかと案をだしたりした。ワールドイズマインの元本の復元は困難を極めた。しかし、エクシリアは、その天才的頭脳で、少しづつ最後の1ページを書き進めている。杏樹と緑には、到底敵わないであろう知識と経験がそれを可能にしているのだろう。どれくらい魔法書室に缶詰になっていただろうか?杏樹はしらぬうちに眠ってしまっていた。

「うう〜ん、あれ?わたし寝ちゃってたんだ……」

 エクシリアは、

「おはよう、杏樹さん、もう少しで完成よ」

 と言った。しかし、最後の一行がどうしても思い浮かばないとのことだった。最後の一行の前の行の文は、『導かれし運命と絶対の支配を』だった。

「最後の一行は、何が正解なのか全く分からない、なにしろ選択肢が多すぎて……」

「なら、『そして、平和を』にしてくれませんか?」

 珍しく杏樹が意見を出した。

「いいじゃんそれ」

 緑が言った。エクシリアも、

「ではそうさせていただきます」

 と、杏樹の意見に賛成した。そして、ワールドイズマインの元本の復元は完了した。そして、エクシリアが皆に紅茶を入れようと立ち上がったその時、ズドン!という大きな音と共に、魔法書室の扉が破られ、そこに、変化したバルボロスが現れた。

「皆さん、ご苦労様です」

「バルボロス!あんたどの面下げてわたし達の前に立っている訳?」

 と緑が言うと、バルボロスが、

「雑魚はひっこんでろ」

 と強めの口調で脅した。そして、

「その、ワールドイズマインの元本、渡して貰いましょうか」

 と憎々しい表情でそう言った。無論一同は、戦闘態勢に入った。

「なるほど、この僕と争おうというのですね、いいでしょう」

 と言うと、バルボロスはもの凄いスピードで、エクシリアを襲った。それをかばうように緑がエクシリアを押し倒し、バルボロスに右腕を噛みちぎられた。それをみて杏樹は怒りに震えながら、赤いオーラを纏った、そして、

「許さない、バルボロス!」

 といい、スペースフレアをぶっ放した。

「ぐわあああああああああああ」

 さすがのバルボロスも致命傷を負ったようだ、しかし次の瞬間、バルボロスの頭部にある、触手が伸び、エクシリアを襲った。避けきれなかったエクシリアは心臓を一突きにされてしまった。そして元本は床に落ちた。杏樹はせめてこの本だけは守ろうと、本に飛びついた、がまたしてもバルボロスの触手によって阻まれてしまった。そして、バルボロスは杏樹を踏みつけながら、元本を咥え、

「さすが、全宇宙最高の魔力をもつ少女だけはある、しかしまだまだだね」

 と、言った。そして、杏樹を暫くいたぶったあと、バルボロスは静かにその場から消えた。杏樹はボロボロになりながらも、緑のもとへ駆け寄り、

「緑ちゃん!大丈夫?みどりちゃーん」

 と泣きじゃくりながら安否を確認した。

「はは…さすがに腕もがれたら、くっ…痛いわね」

 と、意識が朦朧としている。

「わたしより、エクシリアさんを……」

 緑に言われ、はっとなって杏樹はエクシリアのもとへ駆け寄った。

「エクシリアさん!エクシリアさん!」

 その呼びかけは虚しく空をきるだけだった。エクシリアは心臓を一突きにされて即死だった。

「そんな…」

 絶望する二人のもとへ兵士たちが駆けつけ、二人を取り押さえた。あろうことか、二人は、エクシリア殺害の罪をきせられてしまったのだ。杏樹は牢獄に入れられた。それから二時間後、手当てされた緑も牢獄にいれられた。

「まったくこんな一大事の時に、あろうことか城主様を殺すとは……」

 兵士が愚痴をいい去っていった。杏樹は緑が心配で、

「緑ちゃん、右腕……うわーん」

 と泣き出してしまった。しかし緑の目は死んではいなかった。

「杏樹、さっさとクロノス様んとこ帰るよ」

「だけど腕が……」

「こんなとこにいた方がよっぽど痛むわよ、いくよ」

 と緑に言われ、涙を拭いた杏樹は、緑と共にクロノスのもとへ帰ったのだった。そして事の経緯を説明すると、クロノスはこう言った。

「真に言いにくいことじゃが、君達の星は滅亡した」

 ふたりは驚嘆した。そして絶望した。肩を落とす二人にクロノスは、

「おそらく、現在バルボロスは既にワールドイズマインを使用し、歴史を好きなように、弄んでいるじゃろう」

 緑はすがるように、クロノスに聞いた。

「わたし達にすべはもうないのですか?」

 と。するとクロノスはこう言った。

「唯一の可能性としては、若き日のアリエンティスのもとへ向かい、ワールドイズマインの元本を提供してもらい、杏樹君がワールドイズマインを使用して、世界をもとに戻す方法しかあるまい。完全に元通りとはいかぬまでも、滅亡した未来は少なくとも変えられる」 杏樹たちは、もうそれにかけるしか道はなかった。早速二人はアリエンティスの若き日の時代へ時空間移動した。




.第7章

   第七章 絶望の一文と希望


二人は若き日のアリエンティスの時代へ着くと、一目散にアリエンティスの家に向かった。そして、到着した二人はアリエンティスに事の経緯を説明し、本を貸してほしいと懇願した。しかし、アリエンティスはかたくなに本を渡すのをこばんだ。それでもしつこくせまる二人は、近所の男達によって拘束されてしまった。

「こうなったら、盗みだすしかないようね」

 緑がそう言った。

「ええー泥棒するの?」

 杏樹はあまり気が進まなかった。

「背に腹はかえられないわ」

 との緑の決意に杏樹も覚悟を決めた。例によって緑のキーオブフィンガーによって軽々牢屋を抜け出した二人は、真夜中、アリエンティスの部屋に侵入した。そしてまんまと、ワールドイズマインの元本を盗み出した。二人は村から離れたところで、火を焚き、元本を開いた。しかし、そこには、

「おそかったな、お二人さん、すでにアリエンティスは僕の世界の一部、君達二人以外は僕の世界の一部なのさ」

 と書かれてあった。二人は絶望に打ちひしがれた。もう、自分達にすべはない。そんな時、なにやら足音が聞こえた。身構える二人。そこに、全身黒で統一された、黒衣の騎士が現れた。黒衣の騎士はこちらを向き、

「あなたが帳杏樹さんですね、そちらが風間緑さん」

 と二人の名前を言い当てた。

「あなた何者?」

 緑が聞くと、黒衣の騎士は語りだした。

「俺は、人類滅亡の際、バルボロスという神獣と戦った最後の将、ジェイクといいます、奴は、世界を滅亡させる際、我々の時代に機械兵士を送り込み、戦争を起こさせた。自らも戦争に参加していたバルボロスと対峙したとき奴はワールドイズマインの元本を持っていた。わたしはそれをなにかも分からず戦っているうちにその半分を手に入れたのです、すると、いつの間にか、クロノス神のもとへ転送され、事の経緯を説明され、今に至るわけです」

「でかしたわ、ジェイク!はやくそれ見せて」

 緑が言うと、ジェイクは半分に引き裂かれた元本を緑に手渡した。

「しかし、半分だけじゃあねえ……、杏樹が全部覚えているわけないしなぁ」

「わたし、覚えてるよ大体、こうみえて記憶力には自信あるんだ、えへっ」

 杏樹が言うと、緑は、

「分かった、じゃあ、杏樹の記憶とこの本の半分を頼りに、ワールドイズマインを完成させましょう」

 と言った。そして、一同はクロノスのもとへ戻り、元本を完成させるべく奮闘した。所どころ曖昧なところもあったが、杏樹の記憶力もなかなかのものである。みるみるうちに完成に近づいていった。最後の一行は、そして全て元に戻したまえ、にした。杏樹たちのいた世界が復活して欲しいという期待を込めてだ。そしてワールドイズマインは完成した。「ところでクロノス様、わたしが、ワールドイズマインを使用したら、バルボロスはどうなるんですか?」

杏樹が言うと、クロノスは、

「おそらく、現支配者と新支配者候補による決戦になるじゃろう」

 と言った。杏樹は覚悟を決め、

「じゃあ、いくよ」

 と言い、ワールドイズマインを唱えだした。

「導かれし運命と絶対の支配を、そしてすべて元に戻したまえ、ワールドイズマイン!」 その瞬間光る門が現れ、開いた。導かれるように杏樹は中へ入っていった。続いて緑とジェイドも中へ入っていった。最終決戦の幕がきって落とされた。

.第8章

   第八章 決戦


杏樹たちがその世界に入ると、そこはなにもない無の空間だった。一同はその無の空間をひたすら真っ直ぐ、歩いた。しかし、一向に何もない。

「なんで、何もないんだろう?バルボロスも見当たらないし」

 一同は少し不安になりながらも暗黒の世界を真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ突き進んだ。すると、向こうの方で、光が射している。皆その方向へ向かった。するとそこには、バルボロスがいた。

「やっと見つけたわよバルボロス、観念しなさい!」

 緑が意気揚々とそう言うとバルボロスは微笑して、

「まさか、ここまで辿り着くとはね、計算外だったよ」

 と憎たらしい口調で言った。そしてバルボロスは話し出した。

「僕はもともと全ての神々の父である、ゼウス神の飼い犬だったんだ。ゼウス神はある時自分の子である神たちに、この宇宙をまかせ、自分は裏宇宙へ移り住んだ、そしてそこで自らを封印し眠りについたのだ、僕にはゼウスの意思どおり、円滑に裏宇宙を繁栄させていく義務がある、今回のことで、君達のいる宇宙と、裏宇宙は均衡がとれ、理想的な状態にあるんだよ」

「だからなんだっていうの?わたしたちの世界を滅茶苦茶にしたくせに」

 緑が喰らいつくと、バルボロスは、

「裏宇宙のためさ、いたしかたない」

 と、しらっと言った。そんなこと納得できるわけもない一同はバルボロスに戦いを挑んだ。

「衝突もやむなしか……」

 そう言うとバルボロスは杏樹に襲い掛かった。それをジェイクが剣で受け止めると、緑が、フリーズメテオで攻撃した。

「ぐわあああああああ」

 それはバルボロスにダメージを与えた。

「よしっ、どんどん攻撃するわよ!」

 緑が言うと今度は、杏樹がスペースメテオで追い討ちをかけた。それはまたしてもバルボロスに大ダメージを与えた。しかし、バルボロスはたじろぐ様子もなく反撃に転じた。口から炎を吐き杏樹たちを攻撃すると、それを回避しているうちに回り込み、杏樹を右足で蹴り飛ばした。そこで、ジェイクがすかさず、剣技、真空斬鉄剣を打ち込み、ひるんだ隙に、緑が、フリーズメテオをお見舞いした。一身一体の攻防は続く。しかし、バルボロスはタフだ。ダメージは確かにある。が、しかし倒れる様子はない。

「キリがないわね」

「全くだ、長びきそうだ」 

 すると、杏樹は赤のオーラを身に纏い集中しだした。

(イフリート様ですか、杏樹です、力をお貸しください……)

「あいわかった」

 すると、杏樹の前にイフリートが現れた。

「そうか、その手があったか!」

 緑は目から鱗とばかり、自分もシヴァを呼んだ。

「神を召喚するとは、生意気な餓鬼どもめ!」

 バルボロスは怒った。そして雄叫びをあげた。イフリートが地獄の業火を放つと、バルボロスはさすがにそれを避けた、しかしそこに、シヴァのダイヤモンドダストが命中した。「ぐああああああああ」

 バルボロスは苦しそうに声をあげた。

「やった!さすがシヴァ様」

 緑はとても嬉しそうだ。一

「安心はできぬぞ、まだ奴はぴんぴんしとる」

 シヴァがそう言うと、バルボロスは何やら、念じだしている。とてつもないオーラだ。

すると、バルボロスの形態が変化していく。それは、人型へと姿を変えた。バルボロスが言う。

「この姿になるのは、何千年ぶりだろうか……、いずれにしてもただではすまされないよ君達」

 その、姿は、獣の皮を纏った美少年といった感じでさほど威圧感があるわけではなかったが、雰囲気は持っていた。

「いくぞ!」

 そういうとバルボロスは爪で、ジェイクに斬りかかった。そのあまりのスピードに受けるのがやっとといった感じのジェイクだった。援護しようと杏樹が呪文を唱えだすと、バルボロスはすかさず、杏樹に一瞬のうちに詰め寄り、呪文を封殺した。

「くそっ、スピードが速すぎる」

 緑が言うとシヴァは、

「こういう時の為の氷魔法じゃ、足元を凍らせよ」

 と言った。なるほど、と緑はバルボロスの足元をフリーズフィールドで凍らした。

「くっ!」

 バルボロスは身動きがとれなくなった。そこに、チャンスとばかりにジェイクが斬ってかかった。

「喰らえ!真空斬鉄剣!」

 それは、見事クリーンヒットした。続けざまに杏樹がスペースフレアを放ち、バルボロスは倒れた。

「やったね!」

 杏樹と緑は喜んでいる。しかし、ジェイクは、

「まだだ、やつは生きている」

 と言った。その言葉どおりむくっと起き上がったバルボロスは、

「なかなかやるね、しかしこれならどうかな?」

 とまたも念じだした。その形態は人型をベースにさらにまがまがしくなり、羽が生えた。「ちっ、あれやこれやよく変身なさる」

「この形態はいままでのそれとは比較にならないよ」

 と言うとバルボロスは、

「ギガンテックアルティメーション!」

 と叫んだ。と思った瞬間、バルボロスを中心に大爆発がおき、一同は致命傷を負った。杏樹と緑はイフリートとシヴァにかばわれなんとか無事だったが、ジェイクは直撃し、倒れこんでいる。イフリートとシヴァも倒れこみ、

「どうやら、力になれるのもここまでのようだ……」

 と言うと、すぅーっと消えていった。

「万事休すね」

 緑が言うと、杏樹は、

「考えがあるの、わたしが魔力を増幅させて、最大パワーのスペースフレアをお見舞いするわ、だから、緑ちゃん、それまで囮になって」

 杏樹のらしからぬ、積極的な発言に、緑はうん、と頷き走り出した。

「こっちよバルボロス!」

「小ざかしい蝿め!」

 緑と、バルボロスがやりあっている間、杏樹は必死に魔力を増幅した。しかしそれに気づかぬバルボロスではない。

(まあいい、奴がどれだけ魔力を増幅さそうと当たらなければ意味がない)

 バルボロスはそう思い、緑を先に片付けることにした。緑は必死のおもいでバルボロスの攻撃をかわしていたが、ついにとらえられてしまった。首根っこをつかまれ、締め付けられる緑。

「ふふふっ、終わりだな」

 バルボロスがそういうと、後ろから

「あんたがね!」

 という声が聞こえた。

「貴様!いつの間に!」

 バルボロスはがそう言うと杏樹は、

「喰らいなさい、全てを込めた、わたしの全力を!スペースフレア!」

 といい、フルパワーのスペースフレアを放った。それはバルボロスを吹き飛ばしながら粉々にし粉砕した。ついに、杏樹たちはバルボロスを倒したのだ。すると、無の空間にとある扉が開いた。それはまるで、杏樹に入ってこいと言わんばかりに輝いている。杏樹は導かれるように、その中へ入っていった。


.第9章

第九章 楽園


杏樹は扉の向こうの世界に降り立った。そこは美しい、自然が広がる、まさに楽園といった景色が広がっていた。

「なんだろう、ここ、懐かしい感じがする」

 杏樹はそう呟くと、導かれるように森の中を歩いた。すると、途中にある石碑があった。我が娘、ソニア此処に眠る―。どうやらお墓のようだ。それから、杏樹はさらに森の奥を目指した。あたりには見たこともない動物たちが存在している。それは、特におびえる様子もなかったので、杏樹はとある鹿を派手にしたような動物に近づき、顎をなでた。それは、とても気持ちよさそうにうっとりしている。そんなことをしていると……。

「ソニア!ソニアなのか!」

 と言う声が聞こえた。そして、大柄な男が近づいてきて、

「間違いない、ソニアだ……」

 と信じられないような顔をしている。しかし、ソニアとは何者かも分からず杏樹は、

「わたしは、帳杏樹です!」

 と言った。大柄な男は悟ったように、

「そうか、君はソニアの生まれ変わりなんだね、わしはゼウス、巷では絶対神とか呼ばれとる」

 と言った。いまいち状況が飲み込めない杏樹であったが、このお方が絶対神ゼウスであることは、分かった。

「あの、ソニアさんって誰ですか?」

「わしの娘じゃった」

(あっ、さっきのお墓!)

 杏樹は思い出し、

「なんだか、すいません」

 と思わず謝ってしまった。

「いいんじゃよ、それよりここに来たということはワールドイズマインを使用したのだね

?」

「はい、そしてバルボロスと戦って、勝って、今ここにいます」

 と杏樹は言った。

「よかろう、すべてを話す時がきたようじゃ」

 というと、ゼウスは語りだした。

「遠い昔のお話じゃ。わしはある日、病気の娘を失った。わしはえらく沈み、自らをこの世界に封印し神を息子たちに任せ引退した。しかし、息子たちは、裏宇宙の存在を忘れ、自らが楽したいばかりに、人間にワールドイズマインを授け統治させた。裏宇宙は魔力の質量の低下により縮小していく。表の宇宙と裏宇宙は、表裏一体。片方が小さくなり、消滅すれば、自然と表の宇宙も、崩壊する。わしは、神を引退した身じゃったが、この宇宙のことを思い我が飼い犬バルボロスを派遣した。しかしバルボロスが飛んだ時代に奴はいた。そう冥界の主、ハーデスがの。奴は、バルボロスを封印し、わしの計画の邪魔をした。なぜなら、冥界にとって人間の滅亡は、魂を大量に獲得するチャンスだからじゃ。幾多の災厄は奴の手下どものせいなのじゃ。そんなとき君達がバルボロスの封印を解き放ってくれた、そしてバルボロスはわしが命じたとおりに動いてくれた」

 ゼウスは続けた。

「ワールドイズマインはアリエンティスが創ったものではあるが、そのもととなった考え方はすべてわしが書いた書物にある。ワールドイズマインとはすなわち、全知全能の神であるわしのいる世界への扉を開く呪文なのじゃ、けして歴史を思うように、改変してしまうような呪文ではない。わしは、ただ、どうしたら平和な世の中になるか助言してやったにすぎん」

 杏樹は、言った。

「じゃあわたしたちのいた世界もけしてまがい物の世界じゃあなかったんだ」

 ゼウスは深く頷き、こう言った。

「現在では神でさえ、ワールドイズマインを誤解しておるものが多いようじゃ、クロノスもその一人じゃな」

 そして、ゼウスはこう言った。

「さて、本題じゃが、うぬらの世界に魔王タナトスを派遣したのは、いうまでもなくハーデスじゃ、奴は宇宙とは別の次元、冥界におる。奴はおぬしが時空間移動した際のひずみから、魔物を送り込んだ。奴さえ倒せれば、他の雑魚どもは世界から消える」

「そいつを倒せば元の世界に戻るんですか?」

 杏樹は疑問をぶつけた。

「少なくとも、魔王タナトスによる支配はなくなる、おぬし達の家族もいる世界に戻るかもしれない、しかし、おぬし達のいた星の運命は変えられん。うまくいっても、おぬしの住んでいた世界の500年後、ジェイク君のいた時代に消え去る運命なのだ」 「あの、少し気になることが……、ジェイクは人類が滅亡する際、バルボロスと対峙したと言っていました、しかもバルボロスが機械兵士たちを引き連れてきたと」

 杏樹が聞くとゼウスは、

「それはわしが命じたからじゃ、何故か、すべては宇宙を継続させるため。さっき言ったのう?表の宇宙と裏宇宙のバランス関係のことを。君のいた時代から500年後の未来の裏宇宙では兵器による戦争ののち、人類が大量に死んでいったのだ。無論、魔力の質量は

ゼロに近い。バランスをとるため、君達の星を含め、10の知的生命体を有する星に犠牲になってもらった」

 と、言った。

「そんな……、その話が本当なら、敵はハーデスじゃあない、あなたよ!」

 と杏樹は矛先をゼウスに向けた。ゼウスは無理もないといった表情で、

「わしを、倒そうというのか?しかしそんなことしても何も変わらんぞ」

 と言った。確かにそうである。少女は残酷な運命を受け入れるしかなかった。

「ゼウス様、わたし、逃げたくない、だから運命を受け入れます」

「そうか、しかしハーデスは強大じゃ、わしの知恵を貸そう」

 そう言うとゼウスは杏樹の頭に手を置いて念じだした。

(?∀∃εφξ……)

「よし、わしのもっている呪文の知識すべてそなたに授けた」

 とゼウスが言うと、杏樹は、

「ハーデスのもとへ転送してください」

 と言った。ゼウスは頷くと、杏樹を冥界に転送した。

.第10章

   第十章 冥界での死闘


杏樹が転送され着いたのは暗い城の中。かたわらには登り階段があった。上を見上げるとそれは果てしなく続いている。

「うわー、長い階段!」

 少し驚いたが杏樹は目的の為、階段を登りだした。すると、登り出したと同時に、宙に浮くロウソクがしゃべりかけてきた。

「ようこそ、無限階段へ、くくくっ」

 と、卑しげな感じのロウソクだった。杏樹は加速魔法を使って、一気に登ろうとした。しかし、登っても登っても一向にてっぺんにつかない。杏樹は聞いた。

「ロウソクさん、これ、どうしたらいいの?」

 ロウソクは言った。

「ただ登るだけじゃ駄目、階段は登るだけじゃないってね」

「ふーん」

 と言うと杏樹はバーストカノンを階段にぶっぱなした。すると階段が熱がって、みるみる上に上昇していく。これはいい、とばかりに杏樹はバーストカノンを連射した。階段は身が持たないといった様子で、自動的に杏樹をてっぺんまで運んだ。

「階段さんありがとうね」

「もう勘弁してくださいっす」

 階段は、泣きっ面だった。ロウソクは、

「さすがゼウス神がみこんだ魔女だ素晴らしい」

 と杏樹を褒め称えた。そして、

「まっすぐ行けばハーデス様のお部屋です、では失礼」

 とささっと、消えた。物々しい大きな扉を筋力アップ魔法で強化した腕で開け、ハーデスの部屋に入った杏樹。そこには、黒いマントに身を纏った、いかにも敵の親玉といった風貌のハーデスがいた。

「あなたがハーデスね!観念しなさい」

 杏樹がそう言うと、ハーデスは、

「虚しい…虚しいねぇ」

 と独り言のように呟いている。

「何が虚しいのよ!」

 杏樹がいきりたつとハーデスは、

「神に踊らされている君の心の叫びさ、虚しい、虚しいって言ってるよ」

「うっ」

 確かに、自分でも納得できない事実を告げられ、それを、術がない為、受け入れざるをえなかった自分はなんて無力なんだろう、と感じていたのは事実。しかし、今は、迷っている暇などない。杏樹はスペースフレアを放った。

(やった!)

 完全に捉えたはずだった。しかし、ハーデスは残像だけ残して一瞬消え、また現れた。「なっ、なぜ?」

「君が撃ったのはわたしの虚像、はたしてわたしを捉えられるかな?」

 すると何体ものハーデスが杏樹を取り囲んだ。そして、一気に襲い掛かってきた。

(本体は、一体どれ?)

 そこで、ゼウスからテレパシーが送られてきた。

「真実の眼を使うんじゃ、杏樹」

「はっ、はい!」

 杏樹は真実の眼を発動させた。すると、部屋の奥にある絵画が光っている。杏樹は攻撃を避けつつ、絵画のもとへ走り、それをバーストカノンで焼いた。すると、

「ぎゃあああああああ」

 絵画の中から澱んだ魂が大量に出てきた。それが一塊になって杏樹を睨みつける。

「一気に焼き払ってやるわ!スペースフレア!」

 それは澱んだ魂を焼き尽くした。

「やった!」

「いや、まだじゃ」

 ゼウスのテレパシーが聞こえた。

「先ほど気づいたが、この部屋自体がハーデス本体らしい」

「じゃあ、この部屋を焼き払えば…」

「ああ、ハーデスは完全消滅する」

「わかった、あれを使います」

 すると杏樹はふぅーと息を吸い込み呪文を唱えだした。そして、

「古の業火よ、すべてを焼き払え、メルティックフレア!」

 と言うと、それは放たれた。杏樹を中心にすべてが古の業火によって焼き払われ、ハーデスは完全消滅した。終わりはあっけないものであった。

.最終章

   最終章


杏樹は、ゼウスによって、ゼウスの世界へ戻されていた。

「杏樹、おぬしはよくやってくれた、運命は変えられんが、おぬしの時代は取り戻せたようじゃ」

 とゼウスが言った。すると、杏樹は涙目になり、

「わたし、お父さんや、お母さん、それに、弟や学校のみんながいたあの頃に戻りたい!」 と言った。ゼウスは言った。

「その前に、まず、風間緑という少女の腕を治してやらんとな、ジェイクという騎士の怪我も治してやらんといかん」

そして、ゼウスはワールドイズマインの異空間にいた二人を、ここへ転送し、緑の右手をあっという間に治し、ジェイクも回復させた。

「うそ、夢みたい」

 と緑は喜んでいる。

「さて、これからじゃが、おぬしらどうする?」

 ゼウスに聞かれて、杏樹は真っ先に、

「元の時代へ戻る!」

 と答えた。緑も、

「同じく」

 と答えた。そして、ジェイクは、

「俺は、杏樹たちと同じ時代へ飛ぶことにするよ、自分の時代に戻っても、待っているのは滅亡だからな」

 と言った。

「うむ、あいわかった、では皆を元の世界へ戻すぞい!」

 そう言うとゼウスは一同に手をかざし、転送さした。

どさっ―。

「いたたたっ、ゼウス様、もっとスマートに運んでよ」

 緑はしりもちをついて、少し不機嫌そうだ。そこは懐かしい、マホロバの森だった。するとジェイクが、

「俺はここで失礼する、またどこかで会うことがあったら声をかけてくれ」

 といい、去っていった。

「うん、分かった、元気でね、バイバーイ」

 と言うと、杏樹はしみじみと、

「やっと終わったんだねぇー」

 と言った。緑も、ただ、

「うん」

 と言い、二人でぼけっとしていると、

「帳さーん、風間さーんどこですかー」

 という担任の声が聞こえた。

「あー先生の声だ、懐かしいー」

 杏樹は呼びかけに答え、声を張り上げて、

「ここですよー!」

 と言った。どうやら、この時代は奇跡的に元に戻ったらしい。そして、先生やクラスの仲間、そして杏樹の両親と、緑の両親が、

「ほんと、心配したんだから」

 と迎えてくれた。そして、杏樹たちは、元の生活に戻ることができた。奇跡的に、多少今までと違うこともあったものの大体いままでと同じだった。そして10年が過ぎた。

今日は、魔法学校ヒイラギ中等部の同窓会の日である。杏樹は支度をしていた。

「こら、聖魔!いたずらしちゃだめでちょ!」

「ばぶっ!」

「おい杏樹ー、なんで中学の同窓会に俺までいかなきゃならんのだ」

「いいじゃない、どうせ暇なんだから」

杏樹は結婚して子供をもうけたのだった。旦那は、なんと、あのジェイク。今は、仕事を休んでいるが、子供ができるまでは、バリバリの討伐系魔女をやっていた。

「じゃあいくよ!運転よろしくお父さん」

「へいへい」

 ジェイクは格好つけて、どこかに去っていったはいいものの、あてもなく、金もなかったので、野垂れ死にしそうになっているところを、杏樹の母が発見し、可愛そうだからという、子猫を飼うときの子供の理由で拾われ、居候することになり、今に至るわけだ。そして、帳一家は、同窓会の開かれる魔法学校ヒイラギ、3年特A組の教室についた。着くなり、メンティが、

「杏ちゃーん久しぶりー」

 と声をかけてきた。メンティも結婚しているらしく旦那さんと子供二人を連れてきていた。

「緑ちゃんまだかなー?」

「緑なら、遅れるって電話あったよー」

「そう」

「なにしろ、国立魔法図書館の正司書だからね、色々忙しいみたい」

 と立ち話をしていると、後ろから影が……

「わっ!」

「うわーあぁ、ん?緑ちゃん!子供じみた真似を……」

「さすが杏樹、期待を裏切らないリアクションだわ!」

 と緑は、満足気だ。

「それにしても、こんな男のどこがよくて結婚なんてしたのよ」

 ジェイクを睨みつけてそう言う緑に、杏樹は、

「そりゃー、なんとなくよ、なんとなく」

 と言った。ジェイクはむすっとして。

「なんか、ないのかよ!俺は悲しいぜ!」

 と嘆いている。

(こいつ、こんなに馬鹿っぽかったっけ?平和ボケか?)

 と緑は思ったが、心の中にしまって、聖魔をあやしだした。そして同窓会は始まり、皆当時の思い出や、先生ネタなどで盛り上がった。そして、同窓会は終わった。終了後、杏樹一家と緑は、マホロバの森へ向かった。

「思えば、ここから始まったのよね」

「そう、今考えると、バルボロスも忠犬だったんだよね……」

 二人がしみじみと話していると、ジェイクが叫んだ。

「うわー、聖魔のやつクソ漏らしやがった!」

「あははははは」

 幸せは森の中に響く笑い声が、証明していた。

                          (了)

 

 


 すべての内容が理解してもらえることはないと書き終わって感じています。物語で、少女たちがワールドイズマインにふりまわされるように、わたし自身も設定に振り回されました(笑)

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