キラキラしたアレ
意気込んで保健室のドアを開けたはいいが、俺は記憶の扉もあけたようで、あることも思いだす。
今授業中で、しかも俺体調不良(と言って)で保健室へ休みに来ているんだった。青春のもたらす心臓の躍る興奮が冷めやらぬうちにと思って即座に行動したが、冷静な脳はそれを許さなかったらしい。俺が青春って熱さだけで感じるものだろっ! とか一人熱血してみても、冷血な心は目を閉じたままで動くことさえも怠けている。
でもよくよく考えてみると、授業中、他のクラスメイトが多数いる中で俺が「維月ぃぃぃぃぃぃ!」なんて叫んで教室に入ってくると却って迷惑かもしれない。それを思うと俺の頭は最良の判断を下したわけだ。
「えーっと、やっぱり休んでから青春する」
「そ、そうなんだ……?」
ちょっと意味不明なんですけどコイツぅみたいな視線だった。勿論そんな言い方ではない(と信じたい)が、要約して簡潔化するとこんなところだろう。
俺は猶も忙しなく血液を送り出す心臓に焦燥感を隠しきれないでいながらも、半身を起して不思議そうな視線を投げつけてくる同級生の隣のベッドに腰掛ける。ギィと軋んだ音を立て、俺が背中から倒れると布団がそれを受け止めてくれた。
ひんやりとした布団が心地いい。
「あ、あのぉ」
「あん?」
遠慮がちな目で、縮こまって挙手しながら相崎が発言。俺がそれに返事するとその顔に僅かながらも恐怖が滲んだ。怒ってないのに。
「名前、教えてもらっていいです、か?」
え?
俺は一瞬、相崎の言ったことがわからずに呆けてしまった。
名前?
あぁ、マイネームイズほにゃららって紹介してほしいってことね。
「なんで今更?」
「え、あ、だって、浅田さんの元彼氏さんじゃ長いから」
「これから彼氏に復帰するから元いらねぇよ」
俺勝手気ままな発言しすぎだな、自分で言ってて笑える。
そんなことより、相崎の方は「と、とにかくクラスメイトの名前覚えたいってのが本ヴェ、本音でぃぇす」と盛大に舌を噛みながら言ってくる。これを計算でやっているというのなら、女子とはとても恐ろしいものだと痛感する。その点を考えると、維月はひどく分かりやすくていい。
「へぇ、じゃあ教えておこうか」
「う、うん!」
俺は精いっぱい勿体ぶって、焦らしながら期待感を煽っていく。
まだかまだかと俺の話を聞く相崎が面白くて、ついつい……。
ただ、これ以上やるとさすがに相崎もかわいそうだったのでそろそろ教えてやることにした。
さっきからお座り、お手、待てを命じられている犬のように待機しているというのにこれでは報われないからな。
「聞き逃すなよ、俺の名前は―――」
♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥
俺は、維月から下の名前で呼ばれたことがない。
それにはきっちりと理由があって、呼ぶのに違和感を覚えるからだった。
俺と維月は同じ名前。つまり、同名ってやつだ(そのまんまだ)。まあ漢字は違うが、とにかくそのせいで相手の名前を呼ぶときに違和感を覚える。それが、維月から名前を呼ばれない理由だ。
それでも俺が維月の名前を呼ぶのは、どういうわけか俺が名前で呼ばれることがほぼないことに起因していた。名前を呼ばれたとしても、それは名字か渾名のどちらかで、親に付けられた名前で声を掛けられたことは今思えば一度もなかったように思える。
そういうことで俺の方から維月の名前を呼ぶのに違和感がないから俺はあいつを呼び捨てにできる。
ところで余談になってしまうのだが、俺はこの名前が似合わないと常々思いながらも特に嫌ったりせず、どちらかと言えば好きなのだった。
それは、あいつと同じ名前だからという理由、と少し似ている。
あいつは昔ひどい人見知りで、初対面の人と目を合わせるどころか自分を隠そうと何かの影にすぐ逃げ込むほどだった。それでも俺と打ち解けられたのは、この名前のおかげだ。俺が自分の名前を明かすと、それを契機に維月の方も少しずつ俺に心を開いてくれた。どういうわけか安心感を誘うことに成功したわけである。
以上、俺と維月のちょこっと過去編でしたーパチパチパチー。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥
『ほぉ、また来るとはおもわなかった』
霞がかかったようなぼやっとした世界。前と同じ公園。
そいつは不気味にもジャングルジムに絡まって、あたかも木々に肉体が引っかかって落ちてこない死体でも表現しているかのようだ。だらんとだらしない姿勢が余計、そう思わせる。
『今度は何の用だ?』
いや、用なんてないんだけどな。
『用もないのに来るとは、お前は本当におろか者だな』
またも俺の心の声が聞こえているように、そいつは非現実的な会話を実践する。傍から見れば独り言を延々と吐き出し続ける人形に映るかもしれないな。
ってか、来たくて来たんじゃねぇっつの。
『ふん、まあいい。お前、あのキラキラの正体とか彼女が泣いた理由分かったか?』
そいつが質問してきたので、俺はわざとらしく胸を反らせた。
『なるほど、分かったんだな』
おい、俺まだ何も言ってねぇぞ。あ、そうか、心読まれたのか。
俺はやや悔しいと思いながら、その現実を受け入れてそいつの前まで歩く。
『ふむふむ、大分ふっきれたような顔になったじゃないか』
おかげさまでな。
『この前はゾンビも尻尾巻いて逃げ出すほどの形相だったのにな』
うるせえ。
ジャングルジムの真ん中には、あのゴミ箱があった。
あの、キラキラした何かが入っていたものだ。
今も口元から光の粒子をよだれの様にたらし続けて、中にそれが残っていることを確信させる。
『なんだ、取りに来るのか』
あれはもともと俺のもんだからな。
返してもらうぞ。
『ほほぉ、進歩したな』
そいつは初めて口端を歪めた。
笑顔と捉えるには凄絶が過ぎる笑み。不器用にも程度というものがあるのだから弁えるくらいのことはしたらどうだ? と思わず口に出しそうになった。そのくらい、その笑い顔はゆがんでいる。
笑顔の質としては最悪の部類だった。
『悪かったな、ほら、取りに来いよ』
そいつはもう普段の不機嫌面に戻っていて、どうやら機嫌を損ねたらしいと感じた。
俺は指図すんな、と強気に言い放ちながらジャングルジムの構造に入り込んでいく。高校生の体格では大きすぎるためか、鉄棒が頭やら腰やら脛やらにガンガンあたってきた。あ痛っ! は、鼻に当たるとは予想外だっ!
やがて、俺はゴミ箱の前に立つ。
ところでなんか鼻の痛みが消えないし、どういうわけか苦しいんだけど。なんで?
まあいい、今はそれよりも、こいつを取り出そう。
そう思って手を伸ばす。
煌々と輝きをより一層強く放つ何かは、もう眩くて直視すらできない。
しかし眼をそらすのはルール違反だ。俺は眼をそらさない。
眼が痛い。でも、見ていられる。
視神経が焼き切れそうになりながらも、俺の手は伸び続けた。
指先が光の粒子の感覚を掴んでいく。
綿毛でも指先に触れているようなくすぐったさを楽しみながら、ようやくキラキラの本体に手が届こうとする。
そして、
手が触れる直前だった。
『今度捨てたら、今度こそお前を殺す』
毒々しい殺気が存分に籠ったそいつの眼が黒く染まっていくのを、遠く見た。
手放すかよ、と叫んでやったがな。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥
眼を覚ますと、まず最初に鼻に痛みがあることに気づいた。
眼球を下へやると、薄緑色がさらに色落ちしたなにかが眼に入る。
ん、これって。
「洗濯バサミ?」
いやいやいや……。
痛たたたたたたたた「イタタタタタタっ!」
無理やり眼を閉じて現実逃避しようにも、洗濯バサミの拷問は俺の睡魔を飲み込んでしまうほどに強烈でなおかつ痛かった。おかげで目は覚めて覚醒状態だったが、気分は消沈の一途を辿るという矛盾を体一つで体験してしまったイタイイタイイタイっ!
「だ、大丈夫っ!?」
パチン。わぉ、小気味いい音ぉ。じゃなくて今のかなり痛かったんだけど相崎。俺の涙腺を弛緩させるつもりかコノヤロウ。
俺が鼻を押さえて苦しがっていると、ケラケラと笑う甲高い声が保健室に響いた。
「君は面白いねぇ、洗濯バサミでつまんでも苦しそうな顔するだけで起きようともしやがらない」
あぁ、俺寝てたのか……。
ってか、いや、苦しんでいる時点でやめろよ。相崎もなぜ止めなかった。
俺は恨めしそうな顔で保険医を睨む。この人はおそらくとんでもないロクデナシだ、と悟ったのがこの時だったのだが時すでに遅し。もう少し早ければこんな部屋で寝るなどと言う自殺行為を思いとどまることだってできたのに。
「ご、ごめんね。止めてみたけど止まらなくて」
どっちだ。日本語変だぞ。
「いや、まあ別にいい」
「M?」
「あんたは生涯口だけを慎んで生きた方が利口だと思いますよ」
「大人に対してなんて口をきくんだね若造」
「うっせ寝てる生徒の鼻に洗濯バサミで拷問する大人がどこにいる!」
ここにいるよ! 自分で言っておいて自分でツッコんでしまったっ! 一人ノリツッコミか!
「え、あ、え、あの、ここにいるよっ!」
遅ぇよ! ツッコミはもう少しキレよくいこうな相崎!
俺は覚醒からそんなに時間がたっていないのにも関わらず、別の意味で頭が冴えていた。
クソぅ、なんだよこのショートコント。
「それで? もう体調不良は治った?」
保険医は唐突にそんな質問を投げかける。さっきからの子供じみた部分が一気に削ぎ落とされて、急に大人びて見えた。
「え、あ、あぁはい。気分は良好です」
寝る前からな。
「そ、じゃあ出てけ」
「せんせー、今何時ですかー」
「ん? もうすぐ六限終了だけど」
ふむ、時間ぴったりか。すごいな俺。
あと、
「相崎はなんでずっといたんだ?」
「あぁ、コイツね。あんたの寝顔みて嬉しそうに「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
うお? 何だこの悲鳴はっ。断末魔かと思ったぞ。
「先生っ! うぇ、わたしゃ、し、しゅ、わたしゅはそぬぁ……、そんなっ!」
うわぁ、動揺が耳だけで感じ取れるほど噛んでる。うぇ、て。
先生はその様に破顔一笑し、保健室に明るさが灯った。
俺はその光景をバックに、扉に手を掛ける。
「あ、もう出て行くんだ」
先生が俺に気づいて声を掛ける。
「浅田の両親に伝えといて、『よろしくやってるかー』って。柴田って言えばわかるから」
先生はふと懐かしそうな表情になって柔らかく微笑んだ。
オーライ、じゃあそれのついでに俺は維月に会いに行くか。
あいつの元へ、立嶋をぶっ飛ばしにいこう。
あいつの隣にいるのは俺だ。
オマエなんかじゃない。
待ってろ、今隣行くから。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡ ♥
思えば、初めから俺が悪かったのだ。
中学生のころの話だ。
その日、俺の親は仕事の関係で家におらず、夕飯を浅田家で世話になることになっていた。
小学生のころから何度か泊まったことはあったが、さすがに中学生になってからは自重していたので久々のお泊りということになる。思春期という枷のせいで気乗りはしなかったが、料理もまともに出来ない俺は家で夕飯を作るということも出来ずに空腹に蝕まれるだけだっただろうから、素直にお世話になることにした。
外ではゴロゴロと、空を割る音を轟かせる雷が迸り、絶えず雨音が屋根を打ちつけていた。
夕食後、俺は浅田家の大黒柱さんが誘ってくれたのでオセロに励んでいた。俺はボードゲームなどが割と好きな方なので、後先考えていないだろとしか言いようがない俺とオジサン(でも見た目は高校生そのものなんだよな)の低レベルな戦いでも十分楽しめる。予想通り、何度か再戦してしまうほど没頭してしまっていた。
だからだろう、気づかなかったのは。
最初は、風呂場から何やら聞こえていたということでオバサン(最早お姉さんである)と維月が風呂に入っているな、というのは理解できた。だけど、よく耳を傾けて聞いてみると今度はバタバタと慌ただしい音が聞こえてくるのだ。
何事かと俺とオジサンは立ち上がり、風呂場へ向かう。
するとだ。
俺はとんでもないことになった。
維月が半狂乱気味に、バスタオルだけ身につけて俺に飛びついて来たのだ。
は? と疑問を抱いたのも一瞬。途端に俺は頭の方に血が上るのを感じ取り、気絶寸前まで追いやられた。だって中学生だったんだもの。
維月は俺の顔をペタペタと濡れた手で触っては「いる!? いるよねっ!」とわけのわからないことを言っていた。顔をくちゃくちゃにしながら「大丈夫だよねっ! ここにいるよねっ!」と真剣に言ってくるので頷くしかなかったのだが、とりあえず、落ち着かせるために、あくまでも落ちつかせるために俺は維月を抱きしめて何度も「大丈夫だ、大丈夫」と言っていた。まあ全然何が大丈夫なのかも分かっていないという体たらくだったけどな。
そんなことがあって、維月がようやく落ちついてから理由をオバサンに訊ねると、つまりこういうことらしい。
維月と風呂に浸かっていた時、不意にゴロゴロと雷が鳴った。そこでオバサンの悪戯心がうずき、実行が伴ったとのことらしい。
「維月、雷はね、とっても怖いのよ?」
みたいな会話から始め、興味津津で聞いていた維月の顔が蒼くなっていくのが面白かったとのこと。
だが、そこまでならまだ許せるだろう。維月が泣きださなかったのだから。
維月が半狂乱したのは、オバサンの放った言葉が原因らしい。
「雷は、その人の大切なものを奪っていくのよ」
その言葉がカギだった。
それが維月をあんな行動に駆り立てたのだ。
維月はそれを聞いてすぐに風呂から出た。そして俺の元へ急いでやってきたというわけらしい。
なんで俺の元へ来たんだ? と最初は思っていたが、高校入学当時の告白を思い出せば容易にわかることだ。俺と同様に、維月の方も俺に好意を寄せてくれていた。それゆえに『大切なもの』を奪われるのでは、と戦慄したのだろう。その気持ちは俺にも分かる。
以上、中学時代の青春の話。
これからも分かる通り、維月はひたむきに信じるという傾向にある。母親、父親、俺などの信頼のおけると判断した人物は徹頭徹尾信頼し、疑わない。
屋上で俺が立嶋に放った言葉を聞いた維月が、絶望するわけだ。
絶対的な信頼を裏切られたんだから。
ずっとずっと、俺のことをひたむきに好きでいてくれたのに。
それなのに、俺がそれを踏みつぶしてしまった。
全く、俺は最低の男だな。
「喜んでくれるかなぁ」と、彼の喜ぶ姿を想像しては微笑んでいる彼女のプレゼントを、冷たく一蹴したようなもの。これでは、維月だって耐えられない。
もともとあいつは特別な女の子じゃない。
至って普通なのだ。だから普通に傷つくし、普通に絶望する。
あいつを悲しませた原因は俺にある。
一人で勝手に、あいつは俺のことを別にどうとも思っていない、などとネガティブに想像して疑念を募らせて誤解して。
俺だけが勝手に一人で踊っていただけだった。
相手の思いの一端にも触れようとしないで勝手気ままで。
馬鹿だなぁ。相手が維月だってのに、気づかないなんて。
考えるまでもなく、あいつはいつだって俺のまわりにいてくれたのだ。初めに立嶋に相手にされたときだって、あの屋上の件がなければ、ずっと周囲にいてくれただろう。
それなのに、俺はねぇ。
ほんと、しょうがない奴ですよはい。
六限終了のチャイムが鳴ったのは俺が保健室を出てすぐ。そして俺が教室へ戻った時に維月の姿はなかった。立嶋の姿もない。
「あれ、お前、保健室に……わっ?」
俺はのんびり教科書類を鞄に詰め込んでいく朝川の肩を掴んで、ガクガク揺さぶった。
「維月どこ行ったかしらねぇか!」
「か、かかかえったよ!」
「わかった恩にきる!」
俺は朝川を開放して、自分の鞄だけ持ってすぐさま教室を出る。
朝川の呼びとめる声が聞こえたが、最後に聞こえた「頑張れよー」という声のおかげで振りかえるどころか後押しされてしまった。いい奴だっ! 今なら泣きそう!
階段を何段も飛ばして下りていく。
でも見つからない。
下駄箱までダッシュ。
でも見つからない。
グラウンドまで息切れしながらも。
でもしかし見つからない。
「チッ」
思わず舌打ちがもれたが、ここで止まるようなゼンマイの巻き方してませんので!
あいつの通学路は俺と一緒、だったら把握している。
そして俺はまた走り出す。
誰とも知らぬ生徒が俺の必死な形相に驚いたりしている……、おい誰だ今笑った奴。前出てこい!
しかしそんなことにかまっている暇もないので、俺は校門から外へ出ていく。
まだか、まだ見つからないのかっ! そんなに遅かったか俺!
すこしずつ足がもつれてきた。もしかしたらまだ学校に残っている可能性だってあるのだ。何を確信して俺はここまで走ってきたんだろう。
そう思いながらも走り続ける。
そして。
俺はようやく見つけた。
ハハハッ「みぃーつーけーたぁーっ!」
俺が叫ぶと、その華奢な肩がビクッと持ちあがった。
黒真珠をそのまま糸状に加工したかのように瀟洒な長髪が翻って、凛と鋭くも愛らしい大きな両目が見開かれる。
横の男は鬱陶しそうに眉をひそめたが、そんなものは眼中にない!
やっと、見つけた!
やっと、ここまで来れた!
やっと、やっとだ。
ようやく俺は、ほんのすこし『本物』を覗かせることができた。
まだまだ『偽物』だけど。
だがそれの何が悪い。本音をベラベラ喋っているだけじゃ恋愛は面白くないだろう?
俺は盛大に息を乱しながら、目だけは維月に向ける。
あいつは、携帯のメールで俺に『本物』を見せた。
それは、ズルイ。
俺はまだ言っていないのに。
それから、
そんなので伝えてくんな馬鹿。
それから、消えちまえ馬鹿野郎。
テメェのことだ、爽やか振りの唐変木が。
それから夢で見た無表情なあいつへ。
俺はお前に殺されたりなんか、しない。
だって、俺は維月の隣にいるんだから。
膝に手をついて、ふぅー、ふぅー……。
息が整い始める。
維月は完全に俺に釘付けだ。そんなに俺がカッコイイか。
よぅし、今日は調子に乗ろうじゃねぇか。
「彼氏、登場!」
精いっぱい叫んだ。この声は、別に空に届いてほしいわけじゃない。
維月、お前に届けば、いいなぁ。