餃子1人前無料
えたいの知れない重苦しい倦怠が、七月の湿気と共に私の心を始終圧えつけていた。街路を歩けば、まとわりつくような熱気がアスファルトから立ち昇り、私の足取りを鈍らせる。そんな水曜日の夕暮れ、私が逃げ込むように足を踏み入れたのは、あの赤と黄色が毒々しいまでに主張する中華料理店であった。
店内には、熱した鉄鍋に油が弾ける鋭い音と、豚肉とニンニクが焦げる濃厚な匂いが充満している。正規の対価を支払い、炒飯やビールを胃袋へ流し込む労働者たちの熱狂を横目に、私は手の中にある冷たいガラスの板を見つめていた。
そこに浮かび上がっているのは、「二人前以上で一人前無料」という無機質な電子の文字列である。
それは私にとって、巨大な資本の網の目をすり抜けるための、一枚の美しい切符であった。私はただ、この冷徹なシステムの中に小さな亀裂を入れることだけに、一種の退廃的な喜びを見出していた。他の客のように、余分な一品を頼むような感傷は私にはない。ただ純粋に、最も効率的な数字の均衡だけを求めていた。
やがて、私の前に差し出されたのは、いささか小ぶりで、焼き色にムラのある二つの包みであった。おそらくは厨房の片隅で出番を待っていた見込み焼きの残骸――店側が私に突きつけた、沈黙の抵抗である。しかし、そのいびつな琥珀色の焦げ目すら、今の私には奇妙に美しく見えた。完璧な商品を供すれば赤字になるという彼らの苦悩が、その焦げの苦味に凝縮されているように思えたからだ。
私がそれを手に取ろうとしたその時、レジの向こう側から、甲高く、そしてひどく芝居がかった声が店内に響き渡った。
「お持ち帰りの餃子二人前のみご注文の、ハイパークリエイター様!」
それは、巨大な歯車の一部である店員が放った、最後の刃であった。私の名と、最小限の注文であるという事実を大音声で空間に晒し出すことで、私の胸郭に羞恥という名の重りを埋め込もうとする企みである。ラーメンの湯気をすする周囲の客たちが、一斉にこちらへ視線を投げかけるのを感じた。
しかし、どうしたことだろう。私の心はひどく澄み渡っていた。
彼らが私を打ち据えようとすればするほど、私の手の中にあるささやかな戦利品は、まるで私の冷徹な計算を祝福するかのように、確かな熱と重みを伴って存在感を増していくのである。
私は静かにガラスの板をしまい、わずかに焦げた匂いを放つ包みを抱えて、再び熱気帯びる街へと歩み出た。
背後で自動ドアが閉まる音がした。私はふと、自分がレジカウンターに置き去りにしてきたものが、確実な約1,600円分お得の重圧となって、あの油ぎった厨房の奥で、レモンのように静かに爆発する様を想像した。息苦しかった七月の夕風が、ほんの少しだけ心地よく私の頬を撫でていった。




