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第3話 強制リザレクション(デッドループ)の始まり


「くえ。わたくしのメシが食えないのですか」


アスタルトは、力尽きて抵抗できない健太の口に、真っ黒なゴブリンの炭を力ずくで押し込んだ。


健太の胃袋は既に食中毒で限界を迎えていた。

そこに、この異界の魔物――それも丸焦げの炭――が投入されたのだ。


それは、健太の生命維持システムに対する、創造神からの強制シャットダウン命令に等しかった。


「う……ご、はっ……!」


異臭と、ボソボソとした炭の食感が、健太の意識を最後に襲う。

視界が、急速に暗転していく。


熱と痛み、そして汚物にまみれた屈辱的な状況から解放されるという事実が、かえって心地よかった。


(あ、ああ……終わった。よかった、やっと……)


トラックに轢かれ、バカ女神に蹴り飛ばされ、食中毒になり、人前で恥を晒し、ゴブリンの炭を食わされる。


誰にもチートをもらえず、誰にも助けられず、ただただ惨めに死んでいく。

それが、田中健太、28歳、元ブラック企業SEの異世界ライフの結末だった。


(俺の人生、トラックと駄女神のせいで最悪の終わり方じゃねぇか!)


健太の最後のツッコミは、声になることなく、夜の闇に消えていった。


彼の意識は完全に途絶した。

呼吸も、心臓の鼓動も、停止した。


◆ ◆ ◆


健太の身体がぐったりと地面に倒れ伏した瞬間。


創造神アスタルトの顔が、棒人間からさらにノイズの走ったポリゴンへと劣化し、大きく目を見開いた。


「え、うそ、フリーズ……!? マジでフリーズしたんですか、田中健太ぁっ!」


女神の顔に、初めて明確なパニックの色が浮かんだ。

彼女の口調から、完璧な美少女としての丁寧な敬語が消え去る。


「やべぇ! 完全にシステムダウン(死亡)じゃん! 何で死んだのよ!? ゴブリンの炭、ちゃんと焼いたじゃん! リソース不足で処理が遅れてたけど!」


アスタルトは健太の死体を揺さぶりながら、必死にキーボードを叩くような仕草をした。


「だ、だめだ。教会の課金システム(お布施)が起動しないと、正式な蘇生プログラムが動かせない! チート付与のパーミッションも、再インストールには時間がかかる!」


女神は真っ青になった。

彼女の頭を過ったのは、自分が世界の理を捻じ曲げて勇者を私的に召喚したという事実が、教会の最高権力者に知られ、さらに多大なシステム負荷(責任)を負わされる可能性だった。


「このままじゃ、世界の勇者アサイン枠がエラー落ちしたって教会にバレる!」


アスタルトは、壊れかけのPCから無理やり力を絞り出すように、全身の光を激しく瞬かせた。


「マジ無理! こうなったら、バックアップからの強制リセット(リザレクション)しかないっしょ! 緊急リソース全開!!」


彼女の叫び声は、世界の悲鳴のようだった。


「田中健太の生存を許可! 時間を巻き戻せ! 強制リザレクション、発動おおおお!!」


◆ ◆ ◆


次の瞬間。

健太は猛烈な吐き気と共に意識を取り戻した。


「ぐ、おぇ……っ!」


口からはまだ何も出てこない。

だが、食中毒特有の吐き気と、腹の底から湧き上がるあの激しい下痢の予感が、既に身体を支配している。


彼は、自分が地面に座り込み、スーツの上着を羽織っている状態であることに気づいた。

そして、目の前には、小川のせせらぎ。


(あれ……?)


健太は混乱しながら、周囲を見回した。

夜空は暗く、森の木々が立ち並んでいる。


そして、脳内に、あの甲高い声が響き渡った。


「ふぅー……再起動リザレクション、成功。危なかったわー、マジでリソースギリギリだったってば。もう少しで永久フリーズ(世界滅亡)するところだったわよ」


声と共に、視界の端に、先ほどまでいたはずの女神アスタルトの姿が見えた。

彼女はまだポリゴンが乱れているが、どこかホッとした表情を浮かべている。


「な、なんで……」


健太は、慌てて小川に目をやった。


その水面には、喉の渇きに耐えかね、両手で水を掬い上げようとしている、まさに今、小川の水を飲もうとする自分の姿が映っていた。


健太は、悟った。


(死に戻り……? いや、死に戻りって、時間を巻き戻すチートか? ……でも、なんで食中毒とゴブリン炭の記憶だけ残ってるんだ!?)


彼の脳裏に、下半身丸出しで汚物を垂れ流した屈辱、そして、口に押し込まれたゴブリン炭の異様な感触が、鮮明に蘇った。


「え、嘘だろ……?」


健太は、目の前にある、キラキラと輝いて見える生水を凝視する。

そして、その水を飲んだ後に待っている、地獄の数時間を経験済みであることに、身体が震え上がった。


アスタルトは、そんな健太の絶望をよそに、満足げに微笑んだ。


「これで貴方は、何度死んでもやり直せる『勇者殺し(スレイヤー)御用達の肉壁チート』を手に入れたわけ。リソースがヤバいから、もう勝手に死なないでよね」

「ち、ちげぇよ! こんなチート、いらねぇよ!」


健太は、喉が潰れるほどの大声で叫んだ。


目の前の小川の水を飲むか否か。

彼の異世界ライフは、地獄のデッドループと共に、今、最悪のスタートを切ったのだった。

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