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シャッターの向こう側  作者: 双鶴


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9/17

第8話 『最初の常連』

【SNS投稿】


今日の一冊:『雨粒のパターン』


雨の日にだけ起きる“ささやかな謎”を集めた短編集。

傘の置き方、濡れた足跡、曇った窓ガラス。

どれも日常の一部なのに、どこか不自然で、どこか美しい。


静かな雨音の中で読みたい一冊。


#DelusionAndDeduction #雨の日の謎 #静かな短編集



【コメント欄】


@uni_reader

「今日、大学の帰りに寄ってみます。雨だし、ちょうどいいですね。」


@night_reader

「この本、気になってました。雨の日の話って落ち着きます。」


@shadow_reader

「雨は、痕跡を消すと同時に、痕跡を残す。」


@anonymous_13

「雨の日は、観察に向いています。」



【妄想(Delusion)】


“今日、大学の帰りに寄ってみます。”


その一行が、昨日とは違う種類の緊張を生んだ。


@anonymous_13 の影とは違う。

もっと柔らかくて、もっと人間らしい気配。


雨音が店内に薄く響く中、

拓哉は棚を整えながら、

「誰かが来る」というだけで胸が少し温かくなるのを感じた。


扉のベルが鳴いた。



【来店】


入ってきたのは、

濡れたフードを外しながら笑った大学生の女性だった。


「こんにちは。SNS見て来ました。」


その声は、店の空気を一瞬で明るくした。


彼女は棚をゆっくり見て回り、

時々「これ面白そう」「この写真、すごい」と小さく呟く。


その呟きが、拓哉には宝物のように聞こえた。


やがて彼女は『雨粒のパターン』を手に取り、

レジに置いた。


「これ、ずっと読みたかったんです。」


拓哉は、久しぶりに自然な笑顔で会計をした。


「また来てもいいですか?」


その一言に、胸が少し痛くなるほど嬉しかった。


「もちろんです。」


彼女は本を抱えて店を出た。

雨は少し弱くなっていた。



【日記(Deduction)】


今日は客が一人だった。

売れたのは『雨粒のパターン』が一冊。


でも、数字以上のものがあった。


彼女は、ただ本を買いに来たわけじゃない。

店の空気を楽しんでくれた。

棚を見て、声を漏らして、笑ってくれた。


誰かがこの店に“居場所”を感じてくれたのだと思うと、

胸の奥がじんわり温かくなった。


昨日の来訪者とは違う。

影ではなく、光のような存在。


経営はまだ厳しい。

売上は770円。

でも、今日の770円は、昨日までの数字とは違う。


Delusion and Deduction。

妄想と演繹。

今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。


――初めて「また来たい」と言ってくれた人がいた。


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