第5話 『失われた峠道の地図帳』
【SNS投稿】
今日の一冊:『失われた峠道の地図帳』
明治から昭和初期にかけて存在した“今はもう通れない峠道”だけを
集めた奇妙な地図帳。
廃道、旧街道、地滑りで消えた山道、地図から抹消された集落跡。
ページをめくるたびに、
「ここで何があったのか」と問いかけてくる。
サスペンスの舞台は、時に“地図の余白”に潜んでいる。
#DelusionAndDeduction #廃道地図 #サスペンスの舞台
【コメント欄】
@mountain_memory
「この峠、祖父が“絶対に近づくな”と言ってました。」
@urban_legend
「地図から消えた道って、だいたい理由がありますよね。」
@shadow_reader
「道が消えるのは、人が消えた後だ。」
@anonymous_13
「この地図帳、最後のページだけ“あるはずの道”が載っていません。」
【妄想(Delusion)】
“最後のページだけ“あるはずの道”が載っていません。”
そのコメントが、今日の店内の薄暗さに妙な冷気を運んできた。
地図帳の最後のページ。
本来あるはずの道が、そこだけ抜け落ちている。
もし、それが単なる編集ミスではなく――
“意図的に消された”ものだとしたら。
道が消える。
人が消える。
記録が消える。
地図は事実を写すものではなく、
“残されたものだけを写す装置”なのかもしれない。
拓哉はノートを開き、書き始めた。
「地図から消えた道は、真相に最も近い痕跡だった――」
文字が、峠道のように細く、曲がりくねっていく。
【日記(Deduction)】
今日は客がゼロだった。
地図帳を手に取る人もいなかった。
棚に並べた本たちは、まるで“誰にも発見されない証拠品”のように沈黙している。
レジを開けるまでもなく、売上はゼロ。
昨日の770円が、妙に遠い数字に思えた。
――本当に、ちょっと経営ヤバいかもしれない。
でも、SNSのコメント欄は今日も賑やかだった。
特に“消えた道”の話題は、僕の妄想を深く刺激した。
現実は静かで、SNSだけが騒がしい。
そのねじれは、もう日常になりつつある。
Delusion and Deduction。
妄想と演繹。
今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。
――売上ゼロ。けれど、物語はまた一つ生まれた。




