第2話 『毒物のやさしい基礎知識』
【SNS投稿】
今日の一冊:『毒物のやさしい基礎知識』
タイトルは物騒だけれど、内容は驚くほど丁寧で読みやすい。
毒物の作用、致死量、症状の進行、解毒の仕組み。
どれも“事件の裏側”を理解するための基礎が詰まっている。
特に、同じ毒でも「投与方法」で症状が変わるという章は、
サスペンス好きにはたまらないはず。
知識はトリックを照らす光になる。
#DelusionAndDeduction #毒物の基礎知識 #サスペンスの仕掛け
【コメント欄】
@med_student
「この本、授業で使いました。意外と実用的ですよ。」
@night_reader
「毒って、身近なものほど怖いですよね。」
@shadow_reader
「知識は光にもなるし、闇にもなる。」
@anonymous_13
「“投与方法”の章、あれは現実でも使える。」
【妄想(Delusion)】
“あれは現実でも使える。”
そのコメントが、今日の店内の静けさよりも重く響いた。
誰が書いたのか分からない。
アイコンも名前も曖昧で、投稿履歴もほとんどない。
ただ、その一行だけが異様に生々しかった。
もし、このコメントの主が――
毒物の知識を“必要としている”人間だとしたら。
投与方法。
症状の進行。
解毒のタイミング。
本の章立てが、そのまま“計画書”のように見えてくる。
拓哉はノートを開き、書き始めた。
「犯人は、毒そのものではなく“投与の順序”に真相を隠した――」
妄想は、現実の影を勝手に濃くしていく。
【日記(Deduction)】
今日は客が二人だった。
売れたのは、古城の写真集が一冊。
毒物の本は売れなかったけれど、
SNSのコメント欄は、なぜか昨日よりもざわついていた。
特に“現実でも使える”という一行が、
頭のどこかにずっと引っかかっている。
もちろん、ただの冗談かもしれない。
ネットには、影のような言葉を落としていく人がいる。
それでも、僕はその影を無視できない。
サスペンスを扱う店を始めた以上、
“言葉の裏側”を考えてしまうのは、もう癖のようなものだ。
Delusion and Deduction。
妄想と演繹。
今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。
――売上は昨日より少なかった。
でも、コメント欄は昨日より深かった。




