第14話 『影の優しさ』
【SNS投稿】
今日の一冊:『灯りの届かない部屋』
暗い部屋の中で、
わずかな光だけを頼りに描かれた短編集。
光が弱いほど、
人の心の輪郭はくっきりと浮かび上がる。
“見えないもの”を見つめたい人へ。
#DelusionAndDeduction #弱い光 #静かな短編集
【コメント欄】
@uni_reader
「今日は行けるかもです!気分転換したくて。」
@night_reader
「この本、タイトルだけで惹かれますね。」
@shadow_reader
「弱い光ほど、真実を照らす。」
@anonymous_13
「閉店しないでください。
あなたの店は、必要です。」
【妄想(Delusion)】
“あなたの店は、必要です。”
その一行を見た瞬間、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
あの @anonymous_13 が、
初めて“優しさ”のような言葉を投げてきた。
本当に優しさなのか。
それとも、別の意図なのか。
分からない。
でも、確かに心が揺れた。
閉店しないでください――
その言葉は、
拓哉が誰にも言われたことのない種類の“肯定”だった。
【来店】
夕方、大学生の彼女が来た。
「なんか、今日しんどくて……来ちゃいました。」
彼女は棚の前にしゃがみ込み、
しばらく本の背表紙を眺めていた。
「ここに来ると、落ち着くんですよね。
家より、大学より、なんか呼吸がしやすい。」
拓哉は、そっと言った。
「……来てくれて、ありがとう。」
彼女は少しだけ笑った。
その笑顔は弱かったけれど、確かに光だった。
彼女は『灯りの届かない部屋』を買って帰った。
【日記(Deduction)】
今日は客が一人だった。
売れたのは一冊。
数字は小さい。
でも、今日の出来事は大きかった。
@anonymous_13 のコメント。
“閉店しないでください。あなたの店は必要です。”
あの人が何者なのか、
なぜそんなことを言うのか、
分からない。
でも、その言葉は確かに僕を支えた。
大学生の彼女も、
「ここに来ると呼吸がしやすい」と言ってくれた。
この店は、誰かの“避難所”になっている。
それは、僕が子どもの頃に駄菓子屋で感じたものと同じだ。
閉店の二文字が頭をよぎる日々だけれど、
今日だけは、少しだけ踏みとどまれた気がする。
Delusion and Deduction。
妄想と演繹。
今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。
――売上は770円。
でも、影が優しさの形をして触れてきた日だった。




