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シャッターの向こう側  作者: 双鶴


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15/17

第14話 『影の優しさ』

【SNS投稿】


今日の一冊:『灯りの届かない部屋』


暗い部屋の中で、

わずかな光だけを頼りに描かれた短編集。

光が弱いほど、

人の心の輪郭はくっきりと浮かび上がる。


“見えないもの”を見つめたい人へ。


#DelusionAndDeduction #弱い光 #静かな短編集



【コメント欄】


@uni_reader

「今日は行けるかもです!気分転換したくて。」


@night_reader

「この本、タイトルだけで惹かれますね。」


@shadow_reader

「弱い光ほど、真実を照らす。」


@anonymous_13

「閉店しないでください。

 あなたの店は、必要です。」



【妄想(Delusion)】


“あなたの店は、必要です。”


その一行を見た瞬間、

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


あの @anonymous_13 が、

初めて“優しさ”のような言葉を投げてきた。


本当に優しさなのか。

それとも、別の意図なのか。


分からない。

でも、確かに心が揺れた。


閉店しないでください――

その言葉は、

拓哉が誰にも言われたことのない種類の“肯定”だった。



【来店】


夕方、大学生の彼女が来た。


「なんか、今日しんどくて……来ちゃいました。」


彼女は棚の前にしゃがみ込み、

しばらく本の背表紙を眺めていた。


「ここに来ると、落ち着くんですよね。

 家より、大学より、なんか呼吸がしやすい。」


拓哉は、そっと言った。


「……来てくれて、ありがとう。」


彼女は少しだけ笑った。

その笑顔は弱かったけれど、確かに光だった。


彼女は『灯りの届かない部屋』を買って帰った。



【日記(Deduction)】


今日は客が一人だった。

売れたのは一冊。


数字は小さい。

でも、今日の出来事は大きかった。


@anonymous_13 のコメント。


“閉店しないでください。あなたの店は必要です。”


あの人が何者なのか、

なぜそんなことを言うのか、

分からない。


でも、その言葉は確かに僕を支えた。


大学生の彼女も、

「ここに来ると呼吸がしやすい」と言ってくれた。


この店は、誰かの“避難所”になっている。

それは、僕が子どもの頃に駄菓子屋で感じたものと同じだ。


閉店の二文字が頭をよぎる日々だけれど、

今日だけは、少しだけ踏みとどまれた気がする。


Delusion and Deduction。

妄想と演繹。

今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。


――売上は770円。

  でも、影が優しさの形をして触れてきた日だった。


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