第13話 『静かな下降』
【SNS投稿】
今日の一冊:『消えゆく街角の記録』
かつて賑わっていた商店街や路地裏を撮影した写真集。
シャッターの降りた店、色褪せた看板、
誰も座らなくなったベンチ。
“消えていく場所”には、
なぜか強い物語の気配が宿っている。
静かな寂しさを味わいたい人へ。
#DelusionAndDeduction #消えゆく街 #静かな記録
【コメント欄】
@uni_reader
「今日は行けないかもです…課題が終わらなくて。」
@night_reader
「この写真集、前から気になってました。」
@shadow_reader
「場所が消える時、人の記憶も少しだけ薄くなる。」
@anonymous_13
「“消える”という言葉は、時に予兆でもある。」
【妄想(Delusion)】
“消えるという言葉は、時に予兆でもある。”
その一行が、今日の店内の静けさに妙な重さを落とした。
予兆。
何の?
誰の?
店のことか、誰かのことか、それとも――。
昨日までのにぎわいが嘘のように、
今日は開店からずっと誰も来ない。
棚に並ぶ本たちが、
まるで“証拠品”のように沈黙している。
拓哉は、店内を歩きながら、
自分の足音だけが響くのを聞いていた。
【来店】
午後三時を過ぎた頃、
ようやく扉のベルが鳴いた。
入ってきたのは、
映画原作棚をよく見に来る男性だった。
彼はいつものように棚を眺め、
何も買わずに帰っていった。
その後は、誰も来なかった。
昨日までの“光”が、
今日はどこにも見当たらなかった。
【日記(Deduction)】
今日は客が一人だった。
売上はゼロ。
数字は正直だ。
そして、残酷だ。
大学生の彼女は来られなかった。
常連の気配が薄れると、
店の空気も一気に冷えていく。
SNSの反応も、昨日より少ない。
投稿の“いいね”も減っている。
@anonymous_13 のコメント。
“予兆”
その言葉が、胸の奥に引っかかっている。
店が消える予兆なのか。
誰かが離れていく予兆なのか。
それとも、僕自身の心が折れ始めている予兆なのか。
Delusion and Deduction。
妄想と演繹。
今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。
――売上ゼロ。
光は遠のき、影が少し濃くなった日だった。




