第9話 『小さな波紋』
【SNS投稿】
今日の一冊:『影のない午後』
ある町で“影が薄くなる時間帯”をテーマにした短編集。
日差しは強いのに、影だけが妙に曖昧になる。
その曖昧さが、登場人物たちの心の揺らぎと重なっていく。
光と影の境界がぼやける瞬間を描いた一冊。
#DelusionAndDeduction #光と影 #境界の物語
【コメント欄】
@uni_reader
「昨日の本、すごく良かったです!今日も寄ります!」
@film_addict
「この短編集、映画化の噂ありますよね。」
@shadow_reader
「影が薄くなるのは、光が強すぎる時だ。」
@anonymous_13
「今日は“複数人”来ると思います。」
【妄想(Delusion)】
“今日は“複数人”来ると思います。”
その一行が、胸の奥にざわりとした波紋を広げた。
複数人?
なぜ分かる?
誰が来ると?
でも、昨日の常連の投稿が小さくバズっていたのも事実だ。
「この店、落ち着く」「選書が面白い」
そんなコメントがいくつかついていた。
期待と不安が入り混じったまま、開店時間になった。
扉のベルが鳴いた。
【来店】
最初に来たのは、昨日の大学生だった。
「こんにちは、また来ちゃいました。」
その笑顔だけで、店内の空気が少し明るくなる。
続いて、彼女のSNSを見たという友人が二人。
さらに、映画原作棚を目当てに来た男性が一人。
店内に“人の気配”が満ちるのは、開店以来初めてだった。
写真集を手に取る人。
推理漫画を読みふける人。
地図の棚で立ち止まる人。
拓哉は、レジの奥からその光景を見つめながら、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
結局、今日は四冊売れた。
『影のない午後』
『雨粒のパターン』
『湖畔の残響(原作版)』
『名探偵ミナトくん(第1巻)』
レジに並ぶ数字が、久しぶりに“現実の希望”に見えた。
【日記(Deduction)】
今日は客が四人だった。
売れたのは四冊。
開店以来、初めての“にぎわい”だった。
大学生の彼女が友人を連れてきてくれたのが大きい。
SNSの力は、時に現実を動かす。
でも、気になることが一つある。
@anonymous_13 のコメント。
“今日は“複数人”来ると思います。”
なぜ、そんなことが分かったのだろう。
偶然かもしれない。
ただの予想かもしれない。
でも、あの人が店に来た日のことを思い出すと、
胸の奥に小さな影が落ちる。
光が広がると、影もまた濃くなる。
Delusion and Deduction。
妄想と演繹。
今日もその二つの間で揺れながら、シャッターを下ろした。
――売上は3,520円。数字は小さい。でも、希望は確かにあった。




