特待生
先週は冬の童話祭2026用に短編を書いてみたのでこっちの更新はお休みでした
「あ、起きた?」
「おはよう。よい朝だな」
「晴天よ。でも、これから暑くなっていくんでしょうね」
挨拶を済ませると、水と食料を探しに町へ繰り出した。
探すと殆どの家に雨水タンクが付いているものの、多くは風化し、役目を終えている。
無事なものから持ってきた瓶や水筒に移し替える。
釣り具は残念ながらボロボロになってしまっており、釣り竿はポキッと、リールは回らず、糸は簡単に切れてしまう。
釣り針だけは辛うじて形を保っており、防錆の為に密閉容器に入れられていた十数本は使えるだろう。
一応、リールも鞄に入れ、糸の代わりとなるものを物色する。
バレるかわからないけど、そう言ってアティマは電線から取り出した銅線を取り出して、針を取り付ける。
乗ってきた小型船に乗り込み、島の外周を周る。
人工物があるのは一部のみで、自然が溢れている。
入り組んだ海岸線で、砂浜も点在するが多くは岩場になっている。
服から取ってきたボタンを付けただけの釣り針を垂らせば警戒心の薄れた魚たちが簡単に食いつく。
そのまま齧り付こうとしたが、待ったがかかり、寄生虫がいるかもしれないから火を通さないといけないらしい。
船を少々奥の浜辺に隠すと、枯れ枝と葉っぱを集め、もって来ていたレンズで火を起こす。
「そんなのいつの間に持って来てたんだ?」
「アスラが朝お腹空いてそうだったからね。直ぐに食べたいんじゃないかと思って、カメラから拝借してきたの」
「わかりやすかった?隠してたつもりなんだけど」
「お腹を押さえて悲しそうにしてるんだもん。面白くて。でも、次からはちゃんと言ってね。隠さなくていいから」
「恥ずかしいんだけど、次からはお腹が空く暇もないように食料を確保しような」
初めて自分の手で手に入れた魚は、火で焼いただけにも拘わらず、これまでのどんな料理よりもおいしかった。
ゆっくりと海岸線沿いを歩き、拠点に帰る。
森に紛れているが、トマトやパパイヤなどの農作物が実っていたり、ヤギやブタの姿を見ることが出来た。
多くの家には腐食の差はあるが紙の本が保管されており、特に青い屋根の大きな建物とその近くの学校には大量に残されていた。
本によれば、四百年程前にはこの島でも戦争があったらしく、その時に掘られた洞窟が残されているらしい。
そちらに拠点を移すことも話し合いながら拠点へと帰る。
「今日の収穫は多かったわね」
「魚しか獲ってないけど多いのか?」
「情報も収穫よ。後、今日は魚の内臓を避けてたけど、これからは残さず食べてね」
「えっ、苦いからあんまり食べたくないんだけど。それに内臓を食べるなんて食中毒とかのリスクがあるんじゃないか」
「十分に加熱すれば問題ないわよ。本当に問題なのはタンパク質を取れないこと。見えたヤギとか鳥を狩るか、鳥の卵を取れれば解決するんだけど、それまでは魚の肝から補給しないといけないわ」
「よし、ヤギを狩ろう。もしくは鳥。明日は罠を作って置きに行こうぜ」
「それは良いけど、闇雲に置いても掛からないわよ。私の感覚でも知らない足音を探しても無駄でしょうし、飼育小屋があったから鶏が見つかれば楽なんでしょうけど」
「暫くはあの苦いのを食べないといけないのか」
天を仰いでもひびの入った天井が見えるだけである。
「拠点は勿論作らないといけないんだけど、服も必要よ。最初は残っている防火布を羽織るか穴をあけて被ることになるけど、そのうち木から服を作りましょ」
「木からどうやって作るんだ?それに下着はどうする?」
「下着は今着てる一着か肌触りが悪くなるけど樹皮製ね。だから、あんまり着ないと思うわ。嬉しいでしょ?木からはオオハマボウとかから内皮を取って、煮て、叩いて、乾燥させるの。それ用に炭酸ナトリウムも取って来たでしょ」
「あの崩れた紙箱と一体になってた奴か。オオハマボウってなに?マンボウみたいな?」
「マンボウは魚でしょ。オオハマボウは道の途中にあったオクラの花みたいな花を付けてた木よ。大きな浜の朴の木がオオハマボウね。朴の木とは科から違うんだけど」
流石の知識量だと褒めれば、正気を疑うような顔も照れに変わる。
危ういところだった。
アティマに置いて行かれると、サバイバル生活が続かないぞ。
多分一日目に最上階の大きな部屋を選んで、崩壊させて落下死している未来が見える。
「この程度じゃ、捨てないわよ」
心を読まれた?
「読んだのは顔ね。アスラは最初の頃からわかりやすいわよ。特に、慌ててるときは」
「いつから読んでるんだよ」
「聞きたい?」
「やっぱいいです」
アティマの笑みにはどこか凄みがあり、されると弱い。
ムムムと唸ると、手を取られソファーに寝かされる。
「今日は一緒に寝ましょ。もう暗くなってきていることだし」
「そういえば昨日、アティマはどこで寝たの?」
「寝てないわよ、危険生物が出たりすると大変だからずっと起きていたわ。心配はしないで、角が育ってから眠くないの」
「寝れるのか?」
「ここなら、アスラ以外の人の気配がないもの」
ソファーに寝転んでいると直ぐに隣から寝息が聞こえてくる。
つられるように眠気が僕を包み、感覚すらも消えた深く暗い世界に誘われる。
意識が戻り、鳥のさえずりが耳に響く。
目を開けると、アティマと目が合い驚くが、何事もなかったように立ち上がる。
「今、驚いたでしょ」
「驚くに決まってるだろ」
朝の挨拶も済ませ、生活を送る。
適当な蔓性植物を使って罠を張り、魚を釣る。
船の斧を使って、木を切り倒し、乾燥させる。
無事な建物の中に入れ、木の燻製を行えば直ぐに乾燥していった。
積み方にもコツがあるのか細かく指示され、煙が出て行かないように細工したときは足場が少し崩れてヒヤッとさせられた。
地面に穴を掘って、木を詰め込んで燃やし、炭を作る。
崩れたコンクリートを積み、粘土質の土を内側に塗り込む。
錆びた鉄製品を赤色化させ、ノミなども作ってしまう。
布を羽織っただけの姿にドキッとさせられたのは1か月ほどの話で、今は樹皮から丈夫な服を編んで着ている。
網目がそれなりに大きいから所々に肌色が見えて心臓に悪いのは相変わらずだ。
ヤギも獲れたし、鶏も確保できた。
ヤギの角は空洞でアティマの角に被せると、禍々しさが増して大笑いして怒られた。
鶏には毎日つつかれながら卵を貰っている。
これからは雄鶏も捕まえて、繁殖を目指すつもりでいる。
町から離れた場所に家も作った。
自家製の道具を使用した新築一戸建て地下室付きだ。
大きくはなく、不自由な点も多い。特に最近暑い。
それでも、勉強島に居た頃より充実した、楽しい生活を送っている。
「これどう?新しく作ったの」
「スカートは可愛いんだけど、下履いてないんだから何時ものズボンにしとこ」
「えー、視線は釘付けなのに」
「今日は洞穴だっけ?嫌な感じがした場所に行くんだろ。ズボンの方が安全だろ」
「ちゃんとニーソも編んだから安全性はそこそこ高いよ?」
「じゃあ下着も着けてくれ」
「上は着けてるわよ、下側だけだけど」
諦めて出発する。
洞穴は確かに不気味で粘りつくような冷気が吹いている。
簡単なマスクをしてきているが、吸いたい空気ではない。
ヤギの油を染み込ませた松明に火を点けて中に入る。
武器には斧と竹を鋭く切ったものを持ってきた。
中に入ると壁際は薄っすらと明るく、近くによれば苔が光っていることが分かる。
この洞穴は外の穴より、広く奥まで続いている。
「おかしいわね」
「もう何か見つけたのか?」
「アスラも見てるじゃない。その苔よ。苔の中には月光などを反射することで発光しているように見せる種類はいるけど、本当に発光している苔はいなかった筈よ。それに、そういう苔は強すぎる光を当てるとただの緑の苔に見えるのよ」
「じゃあ、この青白く光っている苔は新種?」
「常識的に考えれば、発光する菌や細菌と共生しているのが最もあり得る話だけど。苔から私の角から出るものと同種の違和感を感じるのよ」
「苔にも角が生えているって事か。アティマだけに起こった事ではなく、人だけですらなく、植物にすら影響を与えているのか」
苔に顔を近づけて角を見ようと頑張るが、流石に見えない。
ちょくちょくぴょんと飛び出ているが、苔は元々そんなもんだし。
「不用意に近づかないで。何を持っているか分からないわ」
「角を移される分には大歓迎なんだけど」
「角が移るのなら、とっくに私から移っているわよ。それよりもここから出ましょ。野生動物程度なら何とかなると思っていたけど、そんな範疇には収まらないかもしれないわ。私の感覚も違和感に阻まれて常人程度に落ちているから」
さっきから服の裾を掴んでいたのはそういう理由かと気づく。
まだ、十数歩入っただけの洞穴探索に後ろ髪を引かれながら、仕方ないなと引き返す。
洞穴を出ると、暗明の差でやけに太陽が眩しく映る。
「やられたわ。私たちが入っている間に誰か来たみたい」
「本島からの追手か?」
「船は軍用ぽいけど、乗ってるのは二人みたい。見える範囲に行くわよ」
「見つからないようにしないとな」
「手遅れね。その二人からも角と同種の違和感を感じるわ。あっちも気づいているでしょうね」




