今
「おはようございます」
「おは、ぐえ」
急に上に打ち上げられ天井に衝突する。
そしてそのまま床に落ちる。
「ごめんなさい」
横に立つアルテアの手にはなんだか怪しげな機械が乗っている。
「その機械はだれから貰ったのかな?」
「ナオさんとソラさんから貰いました。使うと飛ぶほど面白いから落ち込んでる人に使ってって」
「あの二人か。でも、断りもなしに人に使っちゃいけないよ」
「ごめんなさい」
体を縮こませ身構えるアルテアの頭に手を置いて、撫で回す。
朝折角整えた髪をそれはもう入念に回す、わざわざ旋毛と逆方向に回す。
そして最後に整える。
アルテアはこれぐらいで許して上げるが、あの最近妙に仲のよい二人には後で拳骨を上げよう。
「今日は朝早く起きたようだけど、何かあったかい?」
「これなに~」
アルテアが持ち出してきたのは、何時か使用していた端末。
既に充電は切れていたと思っていたものが、淡い光を放っている。
何をしたのか、所々が焦げ、画面は蜘蛛の巣状のヒビが見える。
「随分懐かしいものを掘り当てて来たね。これは、ついアティマが可愛くて内緒で撮ったものだよ」
画面の中の少女は、小さく丸まって寝ている
「え~、それって良くないんじゃないの」
「今となっては時効だよ。もう許してくれるだろう」
「怒ると怖いよ~」
「そうだね。だから内緒にしておいてもらえるかい」
「二人で何の話をしているの?随分楽しそうじゃない」
扉からアティマが入ってくる。
アティマは写真の面影を残しつつも、大人びた雰囲気をまとい、頭上に生える角が光を反射し、神聖ささえ覚える。
僕らは顔を見合わせ、笑うと。
「「秘密」」
笑い声が部屋に木霊する。
椅子に座って朝食を摂る。
昼や夜はばらばらになることが多い僕らにとっては外せない家族団欒の時だ。
コンコン
「魔王様、歓談中申し訳ありません。人間側からの使者が到着しました。応接の間への移動を願いします」
「判りました。直ぐに向かいます」
扉の向こうの足音が遠ざかっていくのを待ってから声をかける。
「ごめんなさい。もう来たみたい」
「本当に一人で行くのか?」
「ええ、平和の為だもの。一人で行くだけで和平が結べるなら安いものよ」
「魔王様頑張ってね」
「勿論。でも、お母様って呼んでくれた方が頑張れるかも、アスラも応援してね。ようやく血みどろの時代から言葉で話し合いで解決出来る時代に変わる」
アティマは僕らというより自分に言い聞かせるように、外を眺めながら語る。
「でも、何かの罠かもしれない。人類同盟は魔人化した者たちを取り入れて勢いづいているじゃないか」
「お母様、大丈夫?」
「大丈夫に決まってるじゃない。私が一番強いんだから、何かあったらぶっ飛ばしてあげるわよ」
不安げな瞳を向ける僕とアルテアを心配させまいと、アティマは僕らを抱きしめる。
アティマは最後にもう一度笑みを浮かべると凛とした佇まいで去っていく。
「お母様大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。なんたって我らが魔王様だからね」
「お母様って呼ばないと悲しんじゃうよ」
「ごめんごめん。僕らのお母様は最強だよね」
仕方のない事だが交渉は一時間経っても二時間経っても終わらない。
「ねぇねぇ、お母様まだかな?」
「難しい話には時間がかかるからね。先に昼食を食べておこう」
食べ終え、眠たそうにするアルテアと遊ぶ。
「なんか嫌な感じする」
こっくりこっくり船を漕いでいたのに、背筋を伸ばし目を開いて辺りを見渡す。
「お父さんは何も感じないけどな」
ただ、知覚的には魔力量が多いアルテアの方が広く細かい訳で。
出し抜けにガンと貫くような爆発音が聞こえる。
「あ、お母様」
「アルテア。ここで待っていろ」
目を見開いて、涙が込み上げている姿に罪悪感はあるがアティマの元へ急ぐ。
扉を出た所で堪え切れなくなった泣き声が響き、意識を飛ばされる。
その声に後ろ髪を引かれつつも、応接の間に入れば什器が四散し、床や壁にも筋のような削り取られた傷が入っている。
そして、そして、その爆心地にはアティマが横たわっている。
横たわっているという表現はおかしいかもしれない。
そこにあるのは胸から上だけで、左手も腹から膝までもが無く、足先がそれぞれ離れた場所に落ちている。
「アティマ。」
「来てくれたのね、アスラ。アルテアは?」
「部屋に置いてきた」
「駄目じゃない、一緒にいないと。でも今はそれで良かったかも」
ダラダラと血が零れ、ヒューっと声に風邪のような雑音が混じっているにも関わらず、生きている。
それでも笑顔で話す。
「アスラ。聞いて。一度しか話せないから」
どうしていいか判らず、動くことも言葉をまとめる事も出来ない。
「ごめんね。ちょっと油断、しちゃった。まずはアルテアの、事をよろしく。アスラ、も、今まで楽しか、たよ。ありがとう」
「今までだなんて」
「ううん。流石に、無理。それで、私がし、ぬ前に、角を食べて」
「なんで」
「レオに聞いて。今は、私が死ぬ、前に」
血を吐きながらも言葉を紡ぎ、残った右手で顔を顰め乍ら、角を折る。
差し出される角を涙と一緒に口に含むと解けるように消える。
僕が食べたのを見て微笑み、もう片方の角も折る。
それも食べ終えると、体内から熱が溢れ、頭が割れるように痛い。
「ありがとうね。変な願い、聞いてくれて」
頬に指先を伸ばされると、もう触ったら痛いかもや動かしたら駄目かもなんて考えは消し飛び、それでも中身が出ないように頭だけ抱きしめる。
「アスラはどうだった?素直になれた?楽しかった?」
「勿論だよ。楽しかった。楽しすぎた。今の僕がいるのはアティマのおかげだし、どんな時でも考えないことはなかった。一番好きなのはアティマで、それは未来永劫変わらないと誓う」
「アルテアは?」
「悪いが二番目だな」
「変かもしれない、けど、嬉しい。私もアスラが、一番好き。アルテアと同率、だけどね。ナターシャは、どう思ってる?」
「良い子だとは思うんだけど、困ってる」
「不幸には、無下には、しないであげてね。最後にアスラ、愛してる」
「僕もだよアティマ、愛してる」
アティマと口づけをする。
唇を重ねるだけの柔らかな口づけを、記憶に刻み込むように誓いのように。
やっと最初に思っていたことを書けました。
こんな最後になるなんて、後数話ありますけど。
一つの区切りであることは確かなので、良かったら評価していってください。
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あとちょっと頑張って書くぞ、次はタイトル回収だ。
()内は嘘です。




