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「次は|9時方向のカミラに渡しに行くぞ」
「わかった」
僕らは武器を運んでいる。
動けば動くほど|包囲陣が形成され、渡した相手に突破のために使ってもらうことも増えた。
今で半分は削れただろうか、最初程美しい編隊を組んでおらず正確な数は測れない。
だがこちらも、魔力不足や負傷やらで半分以下に減っている。
船も見える範囲まで近づいてしまっており、残り少ない機銃で攻撃するが追い払う事しか出来ていない。
まだ直撃していないだけで|至近弾も落とされている。
銃弾が引き裂くような音を立てながら鉄に穴を空け、海に水柱を上げる度にそれがアスラたちの乗る船じゃなくても冷や汗が流れる。
「アスラ、来てる」
ナターシャの声で敵の接近を思い出す。
懐で暖めておいた網を投げて対処するが僕らの魔力も残り少ない。
「助かった。まだいけるか?」
「怪我?魔力?どっちでも行くしかないけど」
「それもそう、」
魔力の波動を受けて意識が飛ぶ。
海に落ちかけた所を何とか上昇する。
「ナターシャ、ナターシャ。起きろ」
同様に意識を失っているナターシャを乱雑に揺さぶって目覚めさせる。
「あ?なに?」
「よし、起きたな。泳げたよな?海に落ちた仲間を救出していってくれ」
「良いけど、何が起こったの?」
「多分アルテアが魔力を一気に解放した。魔力に|威圧感を感じることはあったけど、意識が刈り取られる事があるんだな」
「アスラは近くで感じていたから回復が早かったのかな。あっちに降ろして。沈んでる」
入水の衝撃で起きる者もいるが、そのまま沈んでいく人もいる。
近くまで飛んで行きナターシャを落とす。
敵も意識を失い|直線飛行しかしておらず今なら攻撃の通りも良さそうなのだが、ぐっと堪えて救助を優先する。
滑空の勢いそのまま飛び込み、人を抱えて出てくる姿は正に海鳥、しかも人を食う怪鳥だ。
馬鹿な|現実逃避は止めて海に落ちた人を救出し終わった後、ナターシャを回収して船に戻る。
まだ着水せずに空を飛び続けるプロペラ機が抜けていくのを横目にアルテアの元へ急ぐ。
部屋の中ではアルテアが泣いており、必死にアティマが|あやしている。
泣くたびに魔力の波が弱々しく流れる。
「アスラ、外はどうなった?」
「味方は全員船に戻って、敵は飛び続けるのもいる」
「そう。じゃあ一旦アルテアを抱いていてくれる?」
優しい声のはずなのに重苦しい|威圧感を感じ、倣ってしまう。
簡単な抱き抱え方を教えてから、泣き続けるアルテアを優しく渡す。
「アティマも病人なんだぞ。何を|しに行こうとしてる?」
「アルテアを泣かした報いを受けさせるの」
止める間もなく高熱に侵された体で外へ向かってしまう。
会話をしている途中にもプロペラ機の風切り音や機銃の炸裂音が聞こえ、それに合わせて泣き声も大きくなっていたが、それにしても。
「ぎゃーっ、 ぎゃあああ」
「嗚呼ごめんごめん。もう大丈夫だよアルテア、お父さんがいるからね」
ちょっと抱き方が硬かったかな。
壊さないように慎重に、そして優しく揺らす。
「もうすぐアティマが、お母さんが静かにさせてくれるからね」
窓もない船室の壁の向こうを思い浮かべる。
アルテアの魔力で感じにくいが、少し不安定になったアティマの魔力をしっかりと感じる。
「ひっ、ふぇ、あぅ」
「そう、もう大丈夫だからね。さっきは僕らを助けてくれたね。もう心配ないから寝ていいんだよ」
段々と落ち着いて来たのを見てベッドに寝かせる。
「うわぁぁぁぁーん! ぎゃあああ!」
「寝るのは早かったかな?」
揺らすのを止めた途端に泣き出し、慌てて抱える。
頭が重く、座ったままでは上手く動かせない。
腕だけではなく足腰を使って、揺らし続ける。
服が濡れているのを気にして上着を借りてきたんだが、ボタンが気になるらしく捥ぎ取ろうと手を伸ばしている。
多分この上着はレオの物だが、許してくれるだろう、許してくれるよな?
もう内側は水浸しだし、外側にも涎が垂れている。
稲の国から撤退して手に入り難くなっているとは言え、レオなら平の国との取引で何とかするだろう、うん。
人間揺り籠を必死に|こなしていると船のエンジン音以外がなくなっている。
扉が開きアティマが見えると、アルテアが笑顔を浮かべ手を伸ばすのにちょっと嫉妬心が芽生える。
「もう終わったのか?」
「勿論。静かになったでしょ。アスラも泣き止ませれて凄いじゃない」
「ありがとう。でも、僕の子でもあるんだ当然だろ」
アルテアを渡し、毛布を掛ける。
「素直に受け取れるようになったのかしら。ケホ」
「熱が出ているのに無理するから」
アルテア共々にベッドに寝かす。
今度は泣かれることなく穏やかな呼吸を始める。
敵の増援は現れず、夜が更ける頃には水平線の向こうに城が見え、少し後に拠点へ到着する。
幾日かすれば風邪も治り、一旦の平和が訪れる。
「ねぇ、アスラ。あの撤退の日、泣き寂るアルテアの声を聞いたとき、心の底から不快になったの」
アティマは寝ているアルテアの頬を指先でなぞりながら、静かに溢す。
「まあ僕もあれは衝撃だったよ。意識を刈り取られた事も含めて」
「魔力の放出は微笑ましい物じゃない。そうじゃなくて、敵プロペラ機の|駆動音も|味方機銃の|発射音もアルテアにとっては等しく爆音で音の暴力でしかない。もしかしたら私たちが無意識に制限している音をそのまま聞いているかもしれない。音だけならまだ、仕方ないかもしれないけど、何時かは刃が銃口が向くことになるかもしれない」
重ねた手が震え、力が|こもる。
「アティマ。だがそれは」
「人類同盟との和平か、完全な鎮圧どっちが早く達成できると思う?」
驚く僕の顔を見て、アティマは哀しげに、それでいて慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「どちらにしろレオ達と話し合う必要があるだろうな。僕は和平であることを祈っているさ」
「祈るだけじゃなくて自分の手で叶えるのよ」
だが願いは空しく、|人類同盟からの攻撃は増加する。
プロペラ機による銃撃だけではなく、魔法のような攻撃やそのまま突っ込む自爆も行われる。
敵の数は増えた、しかし初期に見た|変態的な動きをする機体は殆どいない。
まるで競い合うように多くの機体が訪れ、それに対抗するためにアティマも攻撃を苛烈にしていく。
戦火に影響されて世界にも影響が現れる。
先ず|魔物化が広がっており、元から僅かながら存在していたが、野生で暮らす多くの動物が|魔物化している。
元々居た場所では|空間自体が歪み、迷宮のように変わってしまった。
一時訓練に使った洞窟はそれが顕著で魔物が出てこないように常駐させている。
対処のために組織立った行動が増えている。
前線に立つようになったアティマは神聖化され、アティマを頂点にこの国は回っている。
食料問題の解決や圧倒的な力から、それを支持する勢力が魔力を感じられない|人類側からも現れ、船やメガフロートを利用して参加する。
人々が参加するほどに僕らの国、魔人の国は|人類同盟にとって強大で非道な敵国となる。
これらはレオが教えてくれたことだ、それと自爆特攻してくるような奴らはプロパガンダに踊らされ、人体実験された挙句に普通の意識を失った者達らしい。
そんな目先の敵に執着せず、復興に力を入れろと思うのは、思ってしまうのは僕だけじゃないだろう。
戦争が激しくなる程に仲間たちの顔が険しくなるが、アティマはアルテアの前でそんな顔は絶対に見せないのは流石と言ったところか。
なんで上から目線なんだろうな。
「不思議な顔をしてどうしたの?」
「考え事をしていたら、ちょっとね」
「何でもいいけど、アルテアの前で変な事は言わないでね」
「とっと、かっかどったの?」
「お母さんが父さんの事を変だって言うんだよ」
駆け寄ってくるアルテアを抱き締め頬擦りする。
おでこに生える角とも言えない小さな突起がちょっと痛い。
「かっか、メっだよ」
「ちょっと、卑怯じゃない」
ハハハ、今の僕らの最高権力者はアルテアだ。
先に味方に付けた方が強い。
だから何で上から見てるんだろうか。




