生命の誕生
「プロペラ機だけど、今のままじゃ追いつけないし、機銃もなんか強い」
「まあ。知ってるけど、アスラたちでも駄目だったか」
「一応爆弾部分を壊したら帰っていったけど」
「こっちを狙うために速度を落としてくれたから助かったけど、ずっと飛ばれてたら負けてるだろうな」
帰ると直ぐにレオへ相談に行く。
レオは待っていましたとばかりに靴を取り出してくる。
「行ってくるだろうなと思ってナオと作って置いた。構造としては靴底に鉄板を張り付けただけなんだが、魔力を流せば靴の上方向に速度が得られる。更にこれ。このヘルメットを被れば全体に空気の渦を作って空気抵抗を減らして寧ろ引き上げてくれる」
続いて無骨な四角い箱に見えるヘルメットが取り出される。
「よし、これはナターシャに」
「うぎゃ、冷た」
受け取ったヘルメットをそのまま被せる。
「僕がこれ以上魔力消費増えても使えなくなるからな」
「なら私がそっちで飛びたい」
「ナターシャには撃ってもらう仕事もあるからな」
「役割分担は二人で決めて貰えば良いけど、それらを全部使ったら計算上は時速1000㎞超える筈だぞ。魔法が上手いアスラが速度の微調整をした方が良さそうであるとは言っておく」
「ほらな」
口籠るナターシャを措いてアティマの元へ戻る。
次の日も敵機はやって来る。
余りに速すぎる速度に振り回され狙いも碌に付けられない。
呼吸もほぼ出来ずに地面に激突するかとも思ったが偶然近づけた時に投げた石ころが翼に当たったのを受けて戻り始める。
魔力が尽きかけていて追撃は出来なかったが、帰ってみると他の場所でも現れていたらしい。
どこも何とか撃退したようだが怪我をしている者も見える。
でも、撃たれた傷というよりは擦り傷や打撲が多いのは気のせいじゃないだろう。
次の日はもっと楽に勝てた。
最初から追いつき後を取るなら、銃で十分だった。
弾薬に余裕が無いことを除けば銃はやっぱり強い。
その次の日は相手が爆弾を持ってこなかった。
こちらは魔力切れで速度が出せなくなり、攻撃も決定打とならない。
相手も機銃を撃ち尽くし、睨み合う時間が続く。
実際には相手の顔なんて見えないし向かい合うことも少ないんだが。
恐らく燃料切れで相手が帰って行くのを見送る。
更に次の日は敵が増えていた。
一機ずつ飛んで来て少し撃っては速度を出して離してくる。
それを追い回せばこちらの魔力だけが消費されてまともに撃ち合えない。
最初の一機はそれで良かったが入れ替わるように来た二機目には逃げ回るのが精一杯で、三機目は応援を呼んで命辛々撤退する。
固定を減らして遊撃を増やせば一直線に本部を狙う機体が現れたりと後手後手になってしまう。
「流石に強いな」
「レオでも読めないのか?」
「今までが、魔力なんていう未知物質を使った奇襲で押し付けていたから何とかなってたけど、責められている今だとな。戦争の歴史を持つ向こうの方がどうしても強くなるな」
「それならこちらから攻めるわけには行かないの?」
「こちらの最大戦力が休息中だし、あの機体は色々な場所で作られているようだからな。襲撃する場所が絞れないのも理由の一つだよ」
「じゃあ、本部が直接狙われるのは何でなんだ?感知能力が高いとか?」
全員に笑われるのを不可解に思えば教えられる。
「アスラは忘れているかもしれないが、アティマの魔力量は相当なものだぞ。それこそ離れていても気付ける程度には」
「まあ、確かに。何時も感じていたから当たり前になってたな。じゃあ今更アティマを拠点に戻してもそっちが襲撃されるようになるのか」
「そうなるだろうな。取り合アティマが万全になるまでは維持するしかない無いだろな」
敵は何処から出してきているのか、敵の数が減らないどころか増えている。
こちらも拠点から人を引っ張り防衛に充てるが徐々に陣地を縮小させられている。
上陸だけは何とか阻止しているが、怪我人も増えている。
気丈に振る舞っているものの、アティマと話すこともせずに寝てしまう頻度が多くなる。
少しずつ大きくなるお腹を見るのは、嬉しいような汚す背徳感のようななんかこうなんとも言えない気持ちがある。
既に銃弾は尽き欠け、元々爆弾を積んでこないプロペラ機には効果が薄く、スリングショットを改良したこともある。
今は追い越してネットを投げる方法が確実だ。
魔力を通した糸は簡単に切れず、プロペラの動きを阻害する。
問題はネットが開く距離まで前に出ないと行けなかったり、墜とした人が命賭した様相で向かって来たり、人を自らの手で殺さなければならない点か。
又これに対して火炎放射や前に出させてくれない対策を出される鼬ごっこを繰り返す。
今日はそんな忙しい日々の一日休み、アティマが産気づいたのを受けての付き添いだ。
久しぶりに朝から風呂に入り身を清めて部屋に入る。
戦場とは違った緊張が漂い、穏やかに、しかし慌ただしく人が動いている。
アティマは痛みに耐えるように身を縮めており、顔色も悪い。
「アスラ、来てくれたの?」
何時ものような自身が失せた弱弱しい姿に既視感を覚えつつもあの時には見られなかった喜びを端に感じる。
傍に座って手を握る。
「勿論来たよ」
手は震えていて冷や汗が流れている。
タオルを受け取って拭う。
「何か僕にして欲しいことはあるか?」
「痛っいから、背中を、さっすって」
陣痛が再び始まって苦しむアティマの背中を痛みの波を逃せるように強くさする。
「アティマさん楽な呼吸法を取ってください。深呼吸やラマーズ法が有名ですよ。ひっ、ひっ、ふー。です。アスラさんも一緒にやってあげてください」
エレナさんが準備に働きながら助言をくれる。
呼吸のリズムを作りながら、紛らわせるように話しかける。
子供の名前であったり、住む場所や行いたいこと、感謝だって。
「出てきそう」
「すいません」
吐くセリフが逆で笑ってしまうと部屋にいるすべての人の視線が集まり、大人しく謝る。
アティマだけは少し微笑んでくれるのに救われる。
進むほどに握った手に力が強まるが魔力による強化がない。
お産が進むほどにその理由がわかる。
アティマの物だと思っていた魔力は子供の物だったようだ。
魔力の中心地が下へ下へと降りてくる。
頭が見え、出てくる瞬間が最も苦しいようで、気合を入れるように深呼吸が声にならない叫び声に変わる。
それに呼応するかの如く子供から魔力が溢れ、ただの魔力であるはずなのにその多さから部屋を揺らす。
頭さえ超えてしまえば体は比較的簡単に抜ける。
へその緒を切り離し物理的なつながりが無くなると、アティマの魔力が回復し始める。
「大丈夫か?」
「ええ、今はとてもいい気分。早く抱かせて頂戴」
痛みは既に消え優し気な笑みを浮かべながら我が子を抱いている。
「ねぇアスラも見て。可愛い女の子、ちょっと角も生えてて愛おしいわね」
「ああ可愛らしいな。どんなふうに育つんだろう?楽しみだ」
それが只の反射だと知っていても、目も見えていないだろうに指を握ってくる子供に愛おしさが止まらない。
十数分も経てばアティマの魔力も回復し、自然放出される魔力だけで酔いそうな密度だ。
よくよく感じれば子供の方が少し魔力量が多いようだ。
産まれた直後は大声で泣いていた子供であったがアティマの腕の中でスヤスヤと寝ている。
「女の子だったし、名前はあれで本決定で良いか?」
「こうして、腕の中でこの子を見ているとピッタリだと確信出来たわ。折角だから一緒に言いましょ」
汗に濡れた髪をかき上げ、アティマが少し誇らしげに新しい小さな生命を見つめる。
僕も壊してしまわないように慎重に優しく小さな生命に触れる。
「貴方の名前は「アルテアだ」よ」




