プロペラ機
潮風に鉄錆の匂いが混じる。
「アスラ、9時方向。通常ミサイル来るよ」
「道具で狙うだけなんだからナターシャも出来るだろ」
「私は見るだけでいいでしょ」
「僕より魔力量としては多いだろ」
ナターシャに支えられて照準を向ければ、直ぐに小規模な爆発をして空に消える。
「それにこっちの方が嬉しいでしょ?」
「僕には帰りを待ってくれるアティマがいるんだけど」
「今の男女比を考えれば一夫多妻でもいいと思うのよ。私の容姿もアティマさんに劣ってないでしょ。尻尾も触っていいの」
態々ズボンに穴を空けて出している尻尾を見せてくる。
「確かに尻尾には興味があるけど、その尻尾って何のために付いてんの?」
体長と匹敵する長さと腕程はある尻尾はもふもふとしており、マフラーにすれば気持ちがよさそうだ。
「目が恐いんだけど、|バランスをとるのに使ってるよ。走ったり跳んでるときの方向転換は大体これのおかげ。後は枕?冬でも暖かかったよ」
「自由に動かせるのなら骨が入っているのか。それも実験で付けられたのか?」
「違うよ。これは後から生えてきた。実験は耳を落とされて何かを注射されたの。こっちの耳が出てくれば成功、痙攣して死んじゃうと失敗。前にも話さなかったっけ?」
「レオかナオ辺りに話したんじゃないか?一体何を入れられたんだろうな」
頭の上に生える獣の耳を触り、撫で回す。
細かい毛がふわふわとした感触を生み出し、なんとも心地よい。
「擽ったいけど、受け入れてくれるってことで良いよね?」
それは違う。
手を引くが掴まれ、動かせない。
ふんふんと少し大きな鼻で歌を奏でる。
自分よりも小さな存在が頭を撫でられ気持ちそうにしてる姿にこれでも良いかと思ってしまう。
そうすれば、もう初夏だというのに寒気と視線を感じる。
「やっぱり僕にはアティマがいるから」
「けちぃ。愛人でもいいのよ」
「最初と比べると流暢に話すのは嬉しいんだけど、変な言葉をどこから覚えてくるんだ」
「母国語で話した方がいい?それとも通信用の信号?」
「僕が理解できなくていいなら、それに通信用に愛人なんて語があってたまるか」
「記号の組み合わせで一語を作るから、どんな単語でも作れるよ。覚えてみる?」
「それ一文を出すのに数倍の時数が必要ってことだよな」
「暗号文ってそんなもんじゃないの」
「確かに」
二人して海を見る無言の時間が流れる。
人類同盟が出来たといっても四六時中敵が来るわけではない。
獣人の知覚範囲に沿って海岸線沿いを別れて防衛しているのも相いまって一日中暇なことも珍しくない。
ミサイルが担当場所に飛んでくる方が珍しいと言いたいが、無駄に僕が守っているところは飛んでくるんだよな。ナターシャの知覚範囲が広いってのもあるんだろうけど。
「また来た、30㎞ぐらい北上する」
「了解、飛ぶから手を離すなよ」
「死んでも離さない」
「それどっちが死ぬ想定?」
抱きついてくるのを躱して背負う。
直上に上昇し、滑空。目標地点に着地して撃ち落とす。落としたら最初の地点に戻る。
この繰り返しが今の仕事だ。
偶に人が乗った船や飛行機が飛んでくるが、ミサイルを撃ち落とせている時点でお察しである。
「何でこんな無駄なことにリソースを消費するんだろうね」
「僕に聞かれても分からないぞ。でも、敵が欲しいんじゃないか?電気を奪われて民の不満爆発中だろうから、その矛先が自国に向かないように民で団結できるように敵が必要んだろ」
「そのリソースを復興に使えば、豊かに成れる筈なのにね」
「人が多くなれば合理だけで動かない者も出てくるんだよ、多分」
また穏やかな時間が流れる。
今日はそれ以上の襲撃もなく夜勤に交代した。
偶に来る襲撃を遠距離武器によって沈め、お相手も落とされる事がわかって攻撃が形だけになった日々が数か月、本格的な夏に入る頃。レオが防衛に加わる全員を集めた。今務めている者もいるから半分なのだが。
「とても言いにくいことに、敵に魔力持ちが観測された」
「獣人の研究施設は我々が出てくるときに破壊したはず」
「そのため、恐らく魔人だと思われる。爆発と魔力に曝される事が魔人化のきっかけになっていると考えていたが、アティマがいるんだ。もっと考えておけば良かった」
「敵の魔力持ちってアティマクラスなのか?」
「そんなことになったら、のんびり会議してる場合じゃ無くなってる。魔力量としては大した物では無いが、敵に魔力持ちがいる点と飛行機に乗っている点で厄介になっている」
「飛行機だったら簡単に落とせないのか?落とせなかったから呼ばれてるんだろうけど」
もし、アティマ程の敵が現れていたら|こちら側が人海戦術を取る必要がある所だった。危ない。
今は資材をケチってプロペラ機程度しか飛んでこない筈だし、問題なく処理できると思ったんだが。
「魔力で飛行を補助しているようだ。相対した者からはちょっと信じられない速度と旋回性能を持っていたと報告されている。加えて魔力を察知して回避運動を取るそうだ。元々の防御力も上がっていたと」
「僕の方で携帯型マイクロ波収束、」
「小型アンテナな」
名前に拘るソラの言葉を修正するレオ。
ソラは苦虫を噛み潰したような顔で言い直す。
「小型アンテナの出力を上げています。その分魔力量が必要になるので、役割分担を決めて防衛に当たってください」
「それと、狙う場所は搭載されている爆弾を主にしてくれ。これまでは何処でも一定の効果は与えられていたが、一番本体と繋がりがない爆弾部分ぐらいしか減衰してしまって、相手の魔力量との持久戦になってしまう。無理はせず、下がって味方の援護を待つことも頭に入れてくれ」
なにか嫌な予感がする。レオと目が合うような、見られているような。
「アスラ、ナターシャペアとヴィクトル、エレナペア、アーシャ、エルクペアは知覚範囲を活かし遊撃班として動いてくれ。では明日からも頼む」
「それ僕じゃない方が良くないか?魔力量としては低いぞ」
「アスラが一番飛行魔法を上手く使えるんだから適任だろう。それに、落とすのはナターシャに任せれば良い、全部ひとりでやる必要は無いさ」
「まぁ、確かに?否でも多い人が言った方が効率が良くないか?」
「仲間の危機に胡坐をかくような人だったのかい」
「大概そんな感じだと思うけど」
「自分を卑下しなくていい、アスラの魔法は冷たいけど心は熱い奴じゃないか」
「言われたの初めてなんだが」
なんやかんやで押し切られ、次の日からはナターシャを抱えて空を飛び回る。
「多分あっち。魔力を感じる」
「了解、飛ぶぞ」
「待って、向こう側に移動中だからあっちらへん?」
「よし、もう手でずっと指しとけ。取り合えず向かうぞ」
ナターシャを抱えて飛び立つ。
近づくと相手もこちらに気づいたのか指の動きが止まる。
一旦着地すれば彼方から黒い点が広がる。
「だいぶ速くないか?あれってジェットエンジンを積んだ戦闘機だったりしないか?」
「プロペラ回ってるよ。打ってみるからサポートして」
ナターシャが小型アンテナを取り出して構える。
その次の瞬間、エルロンロールし始める。
「何だあれ」
「回ってるね」
「あれ狙える?」
「無理」
そのまま頭上を飛び越えるプロペラ機を目で追う。
反転し、機銃を撃ってくるのを何とか弾く。
しかし、銃本体は通常の戦闘機より弱くなっている筈なのに、明らかに重い。
数発は弾き切れず体を掠める。
精度自体も向上しており、ほぼブレがない一直線の弾痕を残している。
そのお陰で弾き易くなっているのが不幸中の幸いだ。
「アスラ、あれどうするの?」
樹々の間を逃げ回りながら聞いてくる。
「どうにかするしかないだろ。空中戦のセオリー通り後でもつけてみるか?」
「速度が違いすぎない?あっちの方が十倍は速いよ」
「知ってる。でも、直線に成れさえすればナターシャが当てるだろ?」
手を叩き合わせるナターシャを抱えて飛び立つ。
当たり前のように後を取られるのを蛇行して狙わせない。
「行けるよ、合わせて」
ナターシャからの合図を受けて直線飛行に移る。
此方が攻撃しても回避運動をしない代わりに、銃撃がより苛烈に、重くなる。
必死に飛行魔法を制御しながら、攻撃を阻害しないように防御用の氷を展開する。
「行け、あ」
下部の爆弾に十分照射して赤熱し始め、勝ったと声に出したところで投下される。
空中で爆発し、地上に被害が出ないもののプロペラ機にも目立った傷はない。
だが、攻撃が緩み次の作戦を考える隙が生まれた所でプロペラ機が元来た方向へターンして行く。
飛行魔法ではそれに追いつけず逃げられる。
「逃げられてるけど、どうする?」
「帰って対策考えるしかないだろ。せめて追いつけるようにしたいな」
ちょっとここまで




