膠着
「アスラ、また出れるか?」
「今回は何が来たんだ、レオ?」
「木造船だよ。旧時代的な大人数を使ってオールを漕ぐ遅い船だ。どうせ今回も何かを積んでいる。毒か核廃棄物かどちらにしろ海にばら撒かれると面倒になる」
「乗り込み、氷で覆えと」
「その通り、わかって来たね」
「何回も同じことしてるからな。僕以外にも氷で覆える人はまだ出ないのか?」
両手を上げて頭を振られる。
「水や火なら出来る人はいるんだが、氷も礫程度なら作れる人は現れ始めているよ。作ったものを飛ばせても浮かしていられないからな、毒かもしれないものを素手で持たせるのは危ないだろ」
「行ってきますよ。対人用にヴィクトルとナターシャを連れて行くからな」
「外で待ってるよ」
扉を出れば居る二人を引き連れて船に乗り込む。
亡者のように迫りくる人々を打ち倒しながら進み、やけに厳重に包まれた金属ケースを見つける。
ガリガリと魔力が削られる感覚があるから今回は核廃棄物だな。アティマに陽子を追加してもらおう。
「どうだ見つけたか?」
「今は近づかない方が良いぞ、ヴィクトル。駄目な方だ」
「核か。ナターシャにも伝えておく、先に行ってくれ」
「頼んだ」
魔力が尽きないうちに離れの小島へ置いてアティマに連絡。
近づくほどに削られる魔力を補ってもらいながらアティマの横で作業を観察。
黒色と淡黄色の石に変わったのを地中に埋めて作業完了。
「これで終わりね」
「お疲れ、体調は大丈夫か?」
「今日はまし。こんなことをしていたい具合ではないけどね」
「どんな体調でもやりたいものではないだろ。危険物の処理なんて」
「あっちよりはましでしょ」
アティマが指差す方向には煙が上がっている。
「義勇兵という名の口減らし。私たちが引き起こしたことではあるけど、気持ちのいいものではないわね」
「あれに慣れたら人として終わりだろ。ナオが本当に生き残りたい人だけ魔力の強制注入で魔人化を試みているけど、放射線に曝されているとなそれも難しいし」
「大人しくしてくれるならあんな方法じゃなくて、平の国で生きられるのにね」
膨大な電力に頼った食料生産をしていた原の国は既に破綻している。
唯一電力を時間制限付きとはいえ残している稲の国も2度の焼失によって余裕をなくしている。
寧ろ世界から引き裂かれるように圧がかかっているらしい。らしいというのはスパイ的に国に入って情報を届けてくれているからだ。
そう言うのから逃げてきたのにいいのかと聞いたら、
「スパイ活動は嫌いじゃないんス。魔力の使い方がわかって、相手の戦力もボロボロで捕まる心配がなくなったのがいいっスよね」
なんて、決め台詞っぽく言っていたが逃亡時ように付き添う魔人の娘をそういう目で見ていたことは知ってるぞ。
適当な場所に隠れて過ごす蜜月の日々を思い浮かべているんだろ?僕が言えたことじゃないんだけどさ。
彼女はそれを知ってついて行ってくれるんだろうか。いい人なのか、淫な人なのか。
「何を考えてるの、早く行くわよ」
「帰って休まないのか?」
伸ばされた手を取り、上昇する。
「あっちでも休めるでしょ。どうせ魔力を注ぐだけなんだから」
「城か、確かに」
元々中立を宣言していた平の国との取引が続いている。
平の国が主要な大陸と繋がっていないから出来る支援だ。
途中にある南北諸国も含めて平の国に集め、魔力を与えた作物の生産を人力で行う。
義勇兵で降伏した者も一定数は行っている。
その見返りに鉄鋼を受け取り、拠点の整備を進めている。
鋼にも魔力を蓄積させた魔鋼を使って築城もその一環だ。
「やっぱりこっちに来たか」
「レオか、二隻目が来たとかではないよな」
「ある意味ではあっている。乗って来たのは義勇兵ではなく、降伏の使者だったが」
「へぇ、原の国がようやく負けを認めたのね」
「いや、来たのは稲の国からの使者だ」
「は?稲の国はまだ電力もあるだろ。なんで真っ先に降伏するのが稲の国によるんだよ」
「詳細は聞き切れていないが、民を切り捨てられない国民性らしい。他国に詰め寄られるのも効いたようだな」
「それで、ここにいる理由は?貴方が応対するんじゃないの」
「トップはアティマに決まったじゃないか。話し合った後に返事をするから呼びに来たんた。アスラも来るだろう」
付いてこい。と背を向けるレオを抱えて拠点に飛ぶ。
丸二日は話し合い、更に調停に1ヶ月かけて妥結する。
降伏されてもダイソン球の自壊が止められるわけではない。
食料に対する不安はなくせたが、ダイソン球を破壊した時の恐怖が消えたわけではない。他国へ亡命していったのはそのうような人々だ。亡命できるだけの何らかの力がある人に限定されるのだが。金であったり、知識であったりな。
そして、稲の国が下ったことで僕らは完全に建国することになる。
世界の敵として。
通信網が麻痺している筈なのになんでそんなに動きが早いんだよ。人類連合て、僕らは人じゃなくなったのかよ。
適当な敵にするのに適役だったんだろうけどさ、人でなしと言われるのはな。
連合は大国主導で動き始め、機械の穴埋めとして中小国家の人的資源を使い復興を進めている。
復興が進めば外に向ける余力が生まれる。
余剰人員を活用した総力戦、なまじ生産の効率化が進んでいる分肉体労働であった仕事を女性でも補えてしまい容赦なく男性が投入される。
冬が終わると、大陸と稲の国を隔てていた海が穏やかになり送られてくる人が増える。
そんな中でアティマの体調が更に悪化する。悪化、悪化というか、簡単に言えばお腹が膨らんできた。
うん、認めなければならないだろう。出来たことを。
元々平の国から来た人に指摘されてはいたんだ。気にしていなかったというか信じていなかったというか。
目に見える形で表れて気づかされたというか、周りの人から祝福されて、レオからは「忙しい時期に」と大目玉を食らったり滅茶苦茶大変だった。忙しいという意味でも変化があったという意味でも。
「大丈夫か?安静にしないといけないんだから拠点の方に戻って良いんだぞ。城も完成したんだから」
「私しか作れない船の燃料を無駄遣いするつもり?それにアスラが戦っているのに隣にいられないのは嫌よ」
「ここが攻撃されかねないと考えると気が気でない僕の気持ちも考えてくれよ」
「でも、守ってくれるんでしょ?それに、ここまで攻撃が来るのならどこでも同じよ。どうでもいいことは置いて、今日はどんな活躍をしたの?聞かせてね」
アティマが満足するまで語り合う。
夜の帳が降りる頃、部屋を出る。
「説得は出来なかったみたいだな」
「多分レオの事気づいてたぞ。意識がチラチラ外に向いてたからな」
「魔力が下がっているのに流石だが、アティマのように見てわかる力の象徴は統治に必要だからな。出来れば安全な場所にいて欲しかったんだが」
「私は此処から動かないからね」
「アティマは安静にしておいてくれ」
扉を開けて加わるアティマをベットに戻す。
「取り合えず明日はソラの下に行ってくれ。人海戦術の対抗には一騎当千となるしかない。道具の発達は急務となる」
「次は何を作ってるんだ?氷の弾丸の発射装置は完成したよな」
「ソラに聞いてくれ。ミリアも加わっていたから、服の改良じゃないか?」
翌日になって工房に向かえば飛行魔法のベクトル付与を用いた防護服の作成に着手していた。
銃弾を弾く程のベクトルを常時纏っていると体が空中に飛んでいくし、手足を無理やり曲げられそうになったりとひどい目に合った。
結局魔力による素材の補助のみで糸より作ったものには及ばなかった。




