暴走
思っていたより話が間伸びしているのでちょっと進めます。
露の国が負けた。そうなるまでに大して時間はかからなかった。
そして敵の喪失によって稲の国は世界に向けてこちらを国家犯罪の重罪人だと宣言した。
平の国からは流入が終わり、不干渉を約束された。
祖国との別れに悲しむも概ね新しい生活を楽しんでいる。
麦の国はいつの間にか来なくなり、傍観者を気取られている。
稲の国の宣言に教義の国が乗っかり、魔人化した者を悪魔の子だとして排斥運動が行われているとニュースで流れている。
拠点では相変わらず食料生産に翻弄されている。
ナオが牛にも魔力を与えて狂暴化したのをヴィクトルやナターシャらの力で押さえつけている。
牛乳が美味しく成ったり、繫殖力が高まったりするが、殺すと光に解け偶に肉の塊が残る。
魔力を持つものは死んだときに魔力に帰るようだ。そしてそれは人も同じ。
完全に死ぬ前に食べれば食べられるのだが、生肉は忌避感が強い。
自分の内にある魔力が高まる効果もあるが、残る物でも良いため半殺し状態で削いで食う者はほぼいない。
そうそう、ナターシャ達のように実験で生み出された獣のような特徴を持つ者を自然に魔力に目覚め変化した魔人と区別するように獣人と呼ぶようになった。
魔人も蝙蝠の羽や羊の角のような哺乳類的特徴を持っているが、獣人は耳を置き換えられている事が多く、魔力による変化の方向性が身体強化に寄っている。
ナターシャなんかはヴィクトル達と混ざって動いているが、同期が何処かに捕まっている者達は落ち着かない様子だ。何度もレオに直訴しては、却下されていた。
そう、されていたんだ。
無視して勝手に行ってしまった。そして帰ってきた。付近で虐げられていた魔人たちも引き連れて。
追放も考えられる独断専行ではあるが、救われた者からの目もあり重くはしにくいそうだ。
無駄に個人が強い力を持つことは考えものだと愚痴っていた。
アティマの魔力量にビビっていて、話を聞いてくれるのはまだましな事か?
獣人たちの動きのおかげで麦の国も含めた多くの国から敵として認定された。
通信回線を切られ、衛星通信をハッキングして使っている。
問題になる戦闘機に対しては、問題の獣人たちに24時間体制で見張らせている。見つかれば小型化したアンテナで電子機器を狂わせて落としている。
ソラ開発の魔力を流すだけで同様の効果が得られる道具だ。見た目はただの鉄の筒だが、人に向けると血が沸騰するらしい。魔力を流さなくても人には向けず、覗き込んだりもしてはいけないと残念そうに言っていた。
膠着によって焦れた稲の国側が警告を発する。これ以上は実力行使に出ると。
特に問題ないと思われた警告に行われなくなった攻撃、油断はあっただろう。しばらくぶりにやってきた弾道ミサイルをいつも通り電波妨害で海面突入させる。
だが今回は海に入る前に起爆する。
昼にも関わらず目が潰れる程の光と吹き飛ばされそうな爆風と音、熱が訪れる。何かが体を通り抜けようとするのを魔力によって防いだ気がする。
周りにいた人は蹲っているだけで問題なさそうだが、草木は白や茶褐色に変色している。
島の頂上付近は消え去り、ここらも火が燻る。
魔力を含み強くなっていた筈の家も半ば崩れて、地下への入り口も脆くなっている。
海が煙をあげるのを横目に動けない人を背負って地下に潜る。
それぞれが思い思いの対処を話し、混乱を極める。
何とかアティマが大人しくさせ、レオがまとめた。敵の電力補給を断ち、こちらへの攻撃に出られなくさせる。
よっぽどの僻地では火力発電を続けているが大国であるほどダイソン球からの電力に頼っている。稲の国はアティマの両親が作ったおかげでそれが顕著だ。
問題は制御装置が本土内で、ダイソン球を自壊させないと降り注ぐ光線が全てを焼き尽くす死の光と化すことか。
「アスラ、何考えてるの?緊張してる」
「そら魔人化で身体能力が上がっても無敵の肉体じゃないからな」
「怖いのなら参加しなければ良かったじゃない。拠点の防衛にも人は必要なんだから」
「アティマが行くって言ってるのに待ってるだけなのは嫌だろ」
「ふーん。私から離れないようにね、守ってあげるから」
耳の先が赤くなっているのは寒さからか、それとも。
「アティマこそ緊張していないのか?」
「勿論してるわよ。触ってみる?」
張られた胸、を支える腕に手を当てる。
確かに組まれたはずの両手は震えており、ザラザラと鳥肌になっている。
「そっちでよかったのかしら」
「本当は寒いんじゃないのか。緯度も上がってきたし、冷えるだろ」
「そう思うなら、わかるでしょ」
腕は解かれ此方へと伸ばされる。
伸ばされた腕を受け入れ、双方の体温を交換する。
いつまでも続くかに思えたが、扉の慌てて閉じられる音で現実へと引き戻される。
「もう終わり?」
「船内の方があったかいだろ」
まだ手を伸ばし続けるアティマに軽い口づけを交わし、船内へと引き寄せる。
「お楽しみはもういいのかい?」
「レオ、揶揄わないでくれ」
「今回の作戦はアスラたち強襲班が最も重要になるんだ。士気管理も重要な仕事だろう、指揮官だからね」
「やかましいのよ。私たちは飛行魔法によって送電基地を襲撃。自壊プログラムを作動させれば良い。そうよね?」
ニヤニヤと待っていたレオをアティマが机に片足を乗せる姿勢で威圧する。
「二人はそうだね。他の陽動班は飛ぶときに獣人の人を抱えて飛んでもらう。室内の狭い通路を主な戦場に、獣人の知覚を頼りに先制攻撃を繰り返してくれ。最後はこの船に逃げて来て貰いたいが、無理そうなら拠点に直接でも適当な島に潜伏してくれても構わない」
そこで話を区切ると、船の時計を確認する。
「またこの作戦は他国のダイソン球破壊と同時に進行する。後2時間で開始だ。しっかり準備しておいてくれ」
船は結局GPSを壊されており進んでいるかは分からないんだが、ゆっくりと本島に近づいているらしい。
ここはアティマによってレーダーを誤魔化せているが、他の場所では見つかっている頃だろうか。
僕らにも開始時間が近づく。
全員が甲板に集まる。
「ここからは飛んでもらう。開始時刻は20分後、陽動班は到着と同時に開始してくれ。出来るだけ軍の施設や無人の建物を狙い、民間人への被害は抑えて欲しい。強襲班は陽動班が動いたことを確認してから潜入開始。ダイソン球を破壊してくれ」
「じゃあ行くわよ」
レオの号令を元に実行犯全員が空に上がっていく。
空気が薄く呼吸が厳しくなってきたところでそれぞれに別れて滑空を始める。
両手足を広げ魔力による推進力も得ながら宇宙と送電施設とを繋ぐ柱を目印に飛んでいく。
施設が目視で見えると、魔法による推力を切って空気抵抗によって減速する。
監視カメラの範囲に入らないように何かの機械裏に着地。
ほぼ同じタイミングでアティマも飛び込んでくる。
「飛んでる最中に火が上がるのが見えたわ。直ぐに入るわよ」
「わかった」
施設に入る時は写っていただろうが、アティマが良い感じに屈折させて隠してくれているらしい。
アティマに通路の先を索敵してもらい、カメラを誤魔化してもらいながら進んでいく。
僕も機械を壊すのに役立ってるから、腰巾着じゃないからな。
自分への言い訳をしている内にもどんどん進んでいく。と言ってもただの送電施設、研究施設が敷設されているが制御室までの道のりは短い。
「あれどうする?」
アティマが夜勤の3人を指差して話す。
「眠らせるとか」
「それじゃあ窒素濃度を上げて見ましょうか」
換気口を氷で塞ぎ充満させる。
数分で昏倒し、換気後に制御盤にアクセスする。
流れる様な操作で管理者として入り、プログラムを起動する。
「ねぇ、この暗証番号ってわかる?」
「身分証に書かれてた番号をもう試したなら、コンピュータ内に残ってたりしないのか?」
「ないのよね、引き出しを漁っていくしかないのかしら」
「上司っぽいこの机から見て行くか」
いくら書類をぶちまけようと自爆プログラムを進めるためのコードは見つからない。
研究室の方も探索する。
「何か見つかったか。こっちには無かった」
「見つかったわよ。コードは見つからなかったけど」
アティマが食い入るように見つめる資料を後ろから覗き込む。
ああ、なるほど。レヴァンシア夫妻の研究レポートか。
ここで研究していたのか。
「コードだけど、あれの可能性ないか?」
「あれってなによ」
「手紙に書いてあった数列」
「そういえばあったわね。辛い記憶すぎて抹消していたわ。数字、覚えている?」
チラッとしか見ていないし、直ぐに処分しちゃったからな。
「規則性が無かったことぐらいしか覚えていないな。最初は5から始まっていた気がする」
「ええ、そうね。最初は5。あの頃から魔力はあったもの、思い出してきたわ。入力しに行きましょ」
『510…94』
一桁ずつ噛み締めるように入力していく。
震えながら、でも正確に。
何処か祈るようにエンターキーを叩けば、
『動作に成功しました』
プロンプトに動作完了のメッセージが流れる。
カウントダウンが始まり、電力の供給が止まるまでの時間が表示された。
残り16年か。
「帰るわよ。今日はこれ以上できることはないわ」
「そうだな」
一切警告を出させなかったからか陽動が上手くいったのか帰るのにさしたる苦労を掛けずに済んだ。
だが、他国に向かった方では苛烈な反撃を受けた者もおり、帰ってこれなかった人も少なくない。
効果は直ぐに表れることになる。
世界は太陽に作られたダイソン球に依存していたのだ。稲の国のように単独でダイソン球を作成している方が珍しい。麦の国がウォルフ359に作成しているが、届くまでに拡散し温度が数度上がったために過去に破壊されている。
そんなわけで世界から灯りが失われた。
稲の国には余命が残されているが他国との調停で戦争に回す余力は残されていない様だった。
勿論ダイソン球再建の動きはあったが、悉くを邪魔している。
世界の敵に認定されるまでさしたる時間はかからなかった。まあ、それでも、電気を失った社会に負けることはなかった。
各国は原子力に戻り、何とか世界を回しているようだ。
元々原子力を使っていた戦艦等を元手に動かしている。




