動乱
「それでは、緊急会議を開始します。内容は独立宣言について」
重苦しい雰囲気が漂う中、レオが話し始める。
「やらかしてくれたわねレオ」
「本当に申し訳ない」
アティマに軽く蹴られ乍土下座に移行する。
それでも、刺すような視線は強まるばかりである。
「私がもっとちゃんと止めておけば良かったですよね」
「俺でもそれはしないぞ」
イリヤが泣きそうになって話し、ヴィクトルは明確に責めている。こいつ訓練のし過ぎで特待生だった事を忘れてるんじゃないのか。
「その体勢のままで、会議を進めなさい」
「流石に黒板を使えないと難しいのですが」
「私が書いてあげるから、感謝しなさい」
足蹴にされたまま会議は進んでいく。
「放火か宣言のどちらが効いたかは分からないが追撃はなかったことから、身の振り方を考える必要がある。具体的には稲の国と本格的に敵対するか、そして何処の国と同盟を結ぶかだ」
「稲の国との敵対は確実でしょうね。相手がどう動くかは分からないけど」
「我としては原の国と同盟を結びたいぞ、世界有数の資源量というじゃないか。是非魔力を込める素材が欲しい」
「僕は麦の国の方が良いですね。あそこも資源を持っていますし、先進技術を多く開発しています。魔力を研究するような所もあるかもしれません。数年前から魔力はあったようですし」
「はい。私、なった。五年前」
「私は十の国を見てみたいです。医療技術が発展しているそうですよ」
各々が気になる国を言い、聞かれたことにナターシャが答える。
世界の地理についてはさっぱり分からないのでナターシャの情報を聞き出すのに止める。
「原の国は稲の国の先にあり、十の国も海の繋がりが南方に一度向かわないと厳しい。麦の国が一番現実的だろうね。そして麦の国はネットから反応があった。数日後に接触があるようだ」
「これ以上はそのあとに決めましょうか。で、次は?」
「国のリーダーだが、アティマにしようと考えている」
その言葉に反対するものはいない。頷くものが殆どだ。
「私?会議を進めるのはレオじゃない。独立国家としては力を見せないといけないのだから、一般的に男性の方がいいでしょ」
「アティマ自身は気付いていないかも知れないけど、魔力を感じられる者からはアティマの魔力は威圧感を覚える量だよ。それだけで象徴に成れるのに、頭もいいじゃないか」
「そう、なの?アスラも?」
アティマが振り返って見てきたので、頷く。
「一緒に脱出した仲だし、今はもう慣れているけど、最初は圧倒された」
「ああ、そう。象徴程度ならいいでしょう、成ってあげるわよ。はい次」
ようやく土下座状態から解放されたナオがナターシャを指差す。
「その子の取扱いだな。独立宣言はちょっと自治権を主張するものでしかないけど、その子は真に爆弾と言っていい」
「ちょっとどころじゃないわよ」
ゴスッ、鈍い音を立てる裏拳が腹に致命傷を与え、レオが崩れ落ちる。
「ナターシャだっけ?貴方はどうするの」
殺人的な目付きをもって睨み付けられ、こちらへと避難してくる。
「アスラ、怖い」
「それだと僕が怖い人になるし、アティマの眼光が僕にも向いた気がするから離れようね。ナターシャから聞き出した話をまとめると、一つ目にここで暮らしたい。ご飯、出来れば肉を食べられるなら少々危険な作業も手伝うらしい。二つ目に仲間もお互い出しているから、それを受け入れて欲しいらしい。作られた世代が同じなら薄っすらと繋がりがあって、外に出たことが分かるらしい」
「便利そうだけど、増えすぎたら困るわよ。こっちが千人強しか居ないのだから食われちゃう」
「一世代としては10人位で全員来ても150人いるかどうからしい。三つ目に持っている情報は全て開示するらしくて、その一つにアティマの誘拐計画が出ている」
「私の誘拐?何で?」
「露の国が戦争を始める前にレヴァンシア夫妻を攫う交渉材料にしようとしていたらしい。夫妻を攫えたのか、アティマが5区に移ったからか別の事があったのかは分からないが誘拐計画は中止され、爆弾の着弾観測に回された後は食料が放棄島からの自給自足で限界だったようだ」
「それは興味深いな、俺も詳しく聞きたい」
「私もよ。父様と母様から見限られたと思っていたけど、違う可能性があるのね」
「我も興味があるぞ、彼女の魔人化は見たことのないもので、しかも作られたと言っていただろう?」
「私が取り合えず言葉を教えるから、そこからじっくり聞き出しましょ」
ナターシャを狙う蛇が増えた。
それぞれ別種の輝きを持った瞳で見つめてるわ。
ナターシャ震えて縮こまって、救いを求めているが僕にできることはない。アティマが見ているなら監視も外れることになるだろう。頑張れ。
会議はその後も進む。
会議終了後にナターシャは3人の捕食者に連れられて行った。
助けを求める姿が真に迫っており、ついつい乗せられてしまったら僕まで睨まれて怖かったです。
久し振りに新拠点の方で寝て起きたら、横にアティマがいて驚かされたりもした。
1週間が過ぎると、麦の国と平の国からの使者が訪れたりもした。
麦の国は潜水艦で訪れ、表面上は和やかに交渉したようだが、終わってからレオが怒っていたのは印象的だった。
「あいつら人を数人招待したいなんて言ってきやがった」
「ソラやナオ辺りは行きたいって言うんじゃないか?」
「技術交流みたいなものならな、あいつらが言うのは実験用に寄越せって言ってるんだよ。生贄をくれたら支持してやるってな」
平の国では逆に魔人化した人を引き取ってくれたら中立を保つらしい。
一部で魔人化した者が迫害を受けているのに、国で匿えば陰謀論が立って大変らしい。
そちらは受け入れ、一緒に放棄予定のメガフロートも確保出来るらしい。
一ヶ月立つ頃には、平の国から送られてきた人と露の国からの離脱者で人口は二千人弱になっていた。
言葉はアティマが逐次教え、拠点島の建物を再建させながら、確保した島や船に寝泊まりさせることで成り立っている。僕とアティマは旧拠点に戻った。冬に備えて隙間風を防ぐ様には改善した。
食料生産では、魚介類の確保に網を使い始め、蛋白質確保が追いつかないからと大豆を何とかして栽培出来ないか頑張っている。少しは平の国から牛を仕入れ、麦の国からもここでの実験に協力する事を条件に仕入れている。
アティマ、レオ以外の会議メンバーが主に参加し、魔法についての情報を暴かれている。
こちらも気付くところがあるのはいいことだが、戦車を乗り回していたような時間が無くなったのは残念。
ナターシャの仲間たちは強かな人が多く、殆どが居た実験施設や軍事基地を叩いてから逃れて来ており、そこで死んだ人までいるらしい。更に、泳いで来た人までおり、なんかもう凄いよね。
しかも、その反乱によって露の国が戦争で劣勢に移ってきているらしい。
初期こそ反物質爆弾による同時攻撃で優位に立っていた大国が150人程度の反乱で傾くことに、魔力が世界を変え得るものだと再認識させられる。
ナターシャ以外からの情報が入ったことで、アティマ誘拐計画も明らかになった。
中止理由はレヴァンティア夫妻の自殺。リスクを取って娘を誘拐してもダイソン球を作ることも、停止させることも、エネルギーを掠め取ることも出来なくなって中止されたらしい。
アティマにとっては捨てられたわけではなかった喜びと、死んでいた悲しみで数日は寝込んでいた。




