閑話 飛行魔法
「ごめん、エレナさん。付き合わせてしまって」
「大丈夫です。私も忙しくないですから」
飛行魔法が上手く行かず、アティマに聞いても要領を得ないどころかより混乱するだけだった。なんだよ30兆個の細胞を把握してそれぞれの質量ごとに適切なベクトルを与える必要があるって。その8割以上が赤血球だから楽だと言われても、先ず体の細胞を一々認識する事なんて出来るわけないと思うんだ。
半端にベクトルを与えると皮膚だけ剥がれて持っていかれるとか、足が捥げるなんて言われて試すことも出来ない。
「空を飛ぶ魔法ですか?分からないですね」
「それはそうだと思うんですが、なにか助言を頂けないかと思いまして。水を出せるようになったのはエレナさんの助言からですから」
「助言ですか?それと、畏まる必要はないですよ。アスラさんの方が働いているんですから」
「エレナさんは第一印象がとても儚げだったので、」
「ここにきて強くなったんですよ。それと、1つ思いつきました。ジェットパックって知っていますか?背負ってそこから空気や水を噴射することで飛ぶんです。取り合えず何かを背負ってそこにベクトルを与えればどうでしょうか」
「それなら、捥げることはないか。試してみるよ、ありがとう。」
「一日一歩ずつ進み、三歩進めば二歩下がるといった言葉もあります。失敗を恐れずに頑張って下さい」
一日一歩~と歌って聞かせてくれる。
「僕ならどうせ三日に一歩しか進めなければ、二日休んでしまいそうです」
「失敗を恐れず進むことを歌って歌なのにそれだと何も伝わっていないですよ」
「なんの話をしていたの?面白い話?」
「アティマ、飛行魔法の相談に乗ってもらってたんだ」
「飛行なら私が教えたじゃない」
「アティマの方法は危なすぎるだろ。今ジェットパックっていう画期的な方法を教えてもらったんだ」
「それも危険なのよ。最初から出力を上げてしまうと反動が来て、首に負担がかかるんだから」
「細胞の把握が出来ない僕からしたら、足捥げるよりましなんだよ」
「アティマさんはいい方法知らないんですか?」
「ジェットパックでも反作用によるものの他にも、空気の熱膨張による押し出しや電離させた分子の電磁場に乗る方法もあると思うわよ」
「出来そうなのは熱膨張ぐらいかな。今回は相談に乗ってくれてありがとうございました。エレナさん」
「何かお役に立てたなら良かったです」
お互いに一礼して離れる。
その後は飛行場に行って試した。それはもう試しまくった。
皮膚が剥がれる心配も、四肢がもげる心配もしなくていいなんてなんて簡単な。
今は使っていない木材繊維の服を着て、それにベクトルを与える。
ゆっくりと出力を増やし、最初はただ浮かぶ。
浮かぶにしても背中からだけだと、重心が取れず安定しない。
地面が頭上に見えた時は流石に「ああ、これ死んだわ」と思ったが生きていた。もう半周回ってお尻から落ちたからそれなりで済んで良かった。
レオの協力を受けて、体重ごとにバランスを取るための出力を調整してもらう。
やっと安定して浮かべるようになると、上半身を傾けるだけでスライド移動するのは簡単に出来た。
陸の上を浮くだけなら走るより遅いのに気にすることが多く割に合わなかったが、海の上を移動できるのは革命的だ。何度も海に落ちることになったが、革命的だ。
途中でソラに目を付けられ、魔力の流し方を一般化する手伝いをさせられた。
重い紋様を刻み込んだ金属板を縫い付けたシャツを着る必要はあるが、誰でも飛べるようになっている。
それに、高さによって必要な力は殆ど変わらない。むしろ軽くなる為、何処までも浮かんで行けるのも面白い。
当たり前のように体重が持続力に直結してくるから金属板より自分で浮かんだ方が長く遊べる。
推進力を得るのは反作用を使った方が想像しやすく速いのだが、風に乗るようにすることで一旦魔力を切れる。
つまり、高く浮かび上がってから滑空すれば僕の魔力量でも飛んでる感が楽しめるのだが、果してこれは飛行と言えるのか?
今でも上半身の向きに関係なく魔力を流すことで上昇すれば、飛行と言えるだろうがどうやって上と下を区別するか。重力を何で感じれば良いのだろう、ジャイロスコープを埋め込む必要があるのか?
僕には無理だな、後でソラに相談しよう。
それでも僕らの移動能力が格段に高まったのは戦うにしても逃げるにしても理となるだろう。
「三日で一歩、九日で三歩、一歩進んで二日休む」という言葉を思いついたので書きました。
飛行魔法はおまけです。




