建国
作戦の日まで僕らは前の家で過ごしていた。
ただ堕落していた訳ではなく、僕はヴィクトル達と訓練したり魔力の扱いを探ったり、アティマは昼の会議の鬱憤を発散してスッキリ目覚めていた。
今はレオが甲板で作戦内容の確認と激励中だ。
集まった人員は30人程度。ここからは5人組の救出班、2人組の放棄島制圧班、3人組の放火班に分かれて動き出す。
完璧にハッキング出来るのはイリヤのみ。ソラとレオを合わせたハッキング班は順番に島を乗っ取って行く今回の要だ。
僕はそれを滞りなく進めるために放棄島制圧班。
人がいる訳でも防衛戦力がいる訳でもないだろうから、道の確認程度なものなんだけどね。
相方は紡糸をしていたミリア。背中から出る一対の腕が精密作業を得意とするぜ。
「おい」
「はい」
一対足りないけど阿修羅みたいで恐いんだよな。
レオーどうしてこの子と組ませたんだ。魔力量が低いものを放棄島制圧に回したのはわかるけど、なんかなかったのかよ。まぁ、ヴィクトル達と訓練し始めたのは最近だし、魔力が身体強化に使われている奴らは見るからに動きが違うし、魔法も氷の生成とかいう今回の放火遅延作戦と真逆だし、元々魔力に目覚めたのが女性側の方が多いのも知ってるけど、僕のコミュニケーション能力からして難しくないですかね。えぇ。
「表情が硬いぞ、握手でもするか?」
「ああ、はい」
背中側から出る腕と恐る恐る握手をする。
肘からしか曲がらない|せい》で、通常の腕を使って前に伸ばす変な体制とる腕は少し震えている。
二対の腕を組み、仏頂面を浮かべるこの子も緊張しているのだと理解すれば、少し親近感が湧く。
「なに笑ってんだよ。アティマと作戦前に話しとかなくて良いのかよ」
「もう話した。昨日の夜からみっちりとね」
思い出すように言えば、引かれたような返事が返る。
数刻船に揺られれば作戦場所に着いたらしい。
救出班から小型船に乗って静かに発進する。
僕らは更に小さい救命艇を使って放棄島に乗り込む。
放棄されたとはいえ拠点よりも新しく、しっかりとした居住用の建物が出迎える。
カツカツとブーツがコンクリートの床を鳴らし、夜空に消えていく。
制御室は接岸場所の直ぐ近くで早々に見つけ、二手に別れて探索に移る。
島としては地平線がギリギリ見えるくらいの大きさはあるものの、建物は大きくない。
ミリアが外を見に行かなければ二手に別れる必要すらなかっただろう。
実験用だった名残に実験室が並ぶ。
機材や試薬は残されておらず、実験室らしい机とビーカーや薬さじなどからそれが主張される。
そんな中、何かが廊下の先で光る。
近づくとそれが光っているわけではなく、こちらの懐中電灯を反射しているだけだと判る。
人がいる。ナイフを床に置き、片手を頭上に挙げてもう片方を指を立て口に当てている。
「な、」
何者だ。声を上げようとした瞬間、爆発的な速度で飛び出してきた影に口を塞がれる。
???
声が出せず、息が漏れる。
だが痛みは訪れず、鼻も塞がれない。
何が目的だと相手の目を見ると、コンコンと床を蹴り埃の被った床に文字を書く。
『声 出す しない』
口を抑えられているせいで不格好ながら頷くと、手が離される。
床に文字を書こうとすれば、相手がペンとノートを取り出す。
『どうして話したら駄目なんだ?』
『音 伝わる 国』
徐に服を捲り、背中を見せられる。
真っ白な肌の一点が膨らみ、違和感を与える。
『これ チップ 取れない』
『わかった。お前は誰なんだ』
『私 ナターシャ つゆの国 こうさん する』
『投降するなら声出しても良いんじゃないか?』
『ノー 仲間 いる』
『僕らも稲の国とは敵対してるけどそれで良いのか?』
『マジック 持つ 同じ』
彼女の全体を見れば、頭上に猫のような耳を持ち、斑模様の細長い尻尾が生えている。
見たことのない変異だ。
『これ 取る』
床に置かれたままのナイフを指差し、背中を向ける。
『ちょっと待とう。僕と一緒に来た人は手先が器用なんだ。その人に任せよう』
『すぐ しない?』
『呼べば直ぐに取り出すから、ここで待ってて』
『わかった 待つ これ 持つ』
ナイフを預けられ、ナターシャはそこに座り込んだ。
なるべく足音を立てないように離れ、丁度外から戻ってきたミリアに事情を話す。
「それ大丈夫なんだろうな?」
「今僕が生きてるし」
「まあいいか。小さいものを取り出すならピンセットも欲しいな」
「それならあったと思うから取ってくるよ」
「後、切る時にナイフを冷やしてくれ。少しはマシになるだろう」
実験室からピンセットを取り、ナターシャの元に戻る。
彼女は変わらず座っており、こちらが見つけると服を捲って背中を見せる。
『切るよ』
床に書いて教えれば、捲った服を噛み締める。
ナイフに氷を纏わせ冷やす。
冷気が漂うのを確認してから、ミリアの二対の腕が舞う。
皮膚を固定し、切り開く。ピンセットとナイフを駆使し、ゆっくりとしかし、迅速に埋められたチップを取り出す。
ナターシャは目に涙を浮かべながらも声を押し殺し、取れたチップを見せると踏み潰す。
「ありがとう」
糸が切れたように眠りにつく。
頭を打たないようにゆっくり寝かせてやるが、背中から少なくない量の血が流れている。
ミリアが服から糸を取り出して肌を無理やり括る。
「イリヤが来たら見せるぞ。あの子は治療も出来るから」
「制御室まで運ぶよ。ここに来るのは最後だろ」
「そうだな、任せた」
ナターシャを背負い、後ろを見ることなく進むミリアについていく。
女性らしい柔らかさよりは肋骨などの骨の硬さが直接伝わり、魔法を使ったアティマ程ではないもののとても軽い。そしてどこか獣のような匂いがした。
それ以上することもなく、外を眺めていた。
1時間ほどでイリヤたちが乗る船が着く。
先に島の制御を奪った後でナターシャの治療を行ってもらい、レオとこの後について相談する。
「なるほどね。露の国のスパイか。こんなところにいた理由も気になるな。通信装置はもうないんだよね?」
「無いと思います。治したときに全体を探りましたが変な反応はありませんでした」
「連れて戻っても問題ないか、アスラはその子の監視をしておいてくれ」
「僕が見てても音もなく死ぬと思うぞ」
「そんなに強かったのかい?銃弾を見ていたと思ったけど」
「弾は見えないさ。銃口から弾道を予測して光に合わせて置いてるだけだよ。それにこれはレオの方が得意だろ?」
「じゃあ、アスラが死ななければ安全ってことで」
「それ僕に死ねって言ってないか」
「そんなことないさ、ああそうインターネットに近づく事も監視してくれよ。俺たちは発信用の動画を撮ってくる」
大きな声は出さないようにしてくれ。
そう言って手を振って2階へと上がるのを、見送る。
音を立てないように、ミリアと小声で話しながらナターシャを見張る。
しばらくすると放火班の船が見え始め、更に訓練島が近づき、島が進んでいることに気づく。
島は船と訓練島に囲まれるように進み、遠くでは煙が上がっている。
その頃にはレオ達が下りて来て、拠点で撮った動画も併せて世界へ発信しているようだ。
眠っていたナターシャが突如起き上がり、鼻をピクピクさせて話す。
「ご飯、食べる」
「ミリアは持ってる?」
「持ってるわけないだろ、こんな時間に食べたら肥る」
「と言うわけなんだ。拠点に着いたら魚と野菜は食べられるから我慢してくれ」
「今食べる。来る いる」
立ち上がり、外に繋がる扉を見つめるナターシャにギョッとしながらも言葉を返す。
その間も彼女の腹は鳴り続け、両手で押さえる姿に鳥の雛の幻影を見る。
バタン。
どうしようか?ミリアと流石に可哀想だと相談していれば、勢いよく扉が開く。
まだ誰か残っていたのか、振り返っていたのはアティマだった。
「アスラ。訓練島にあった設備で夜食を作ってきたから一緒に食べましょ」
アティマは制圧した島に乗って帰る筈では?レオ達と船に乗って来るならまだしも、外から来るってどう言うことだ。片手に銀トレーを持っているし。
「飛び移って来たの。私が乗ってた訓練島はここの真反対を囲ってるから時間が掛かっちゃった」
「ご飯、食べる」
可愛らしくポーズを取るアティマへとナターシャが動く。
アティマがナターシャを踏んでいる。どうしてそうなった。全く見えなかったぞ。
「アスラ、この子は何?」
あの笑みだ。言葉にも怒気が混ざっている気がする。
気圧され返答に詰まると、圧が余計に強まる。
それでも何とか答えようとした時に制御室からレオが現れ、早口で言い訳を述べる。
「計画だとここは稲の国を責めつつ、稲の国以外に庇護を求めて攻撃されないようにする筈だったんだけど、俺も未だ未だ子供みたいで、余りにも作戦が上手く行ってしまったから、気持ちが昂ってつい独立なんて言っちゃって、そのまま流しちゃった。イリヤには止められたんだけど、行っている時は止められなくて、発信してから冷や汗が止まらないっていうか、その、なんていうか、ごめん」
「は?」
アティマの動きが止まった一瞬の隙を突いてナターシャが銀トレーを強奪し、食べる。
ちょっと待てよ、今レオはなんて言った?
日別のPV20超えたの初めてだー
何でだ?




