誘い
「本日集まってもらったのは次の作戦を提案したいからだ」
もし次に戦闘機が来た時の対処法に四苦八苦している中、何時もの会議メンバーに加えてヴィクトルと共に訓練している者も集め、レオはそう切り出した。
「俺たちは今、本島からの追撃に悩まされている。正直、露の国への攻勢も始まるであろうこの時になぜこうも執拗に狙われるのかはわからない。先の戦闘機には仲間をやられ、繰り返さない為の作戦を練っているところだが、それでは足りない。アスラもそう思うだろ?」
えっなに?ここで振る?
取り合えず返事だけしておこう。
「だから我々は攻勢にでなくてはならないのだ。そこで、他区の魔力持ちが捕らわれているであろう訓練島を島ごと強奪する。ついでに近くに浮かんでいる放棄された試験用農業島も強奪する」
「無理でしょうね。人だけなら何とかなるでしょうが、メガフロートの強奪となると話が変わるわ。移動速度が全然違うもの、ここに戻る前に追撃に合うわよ」
「持ってきたところでどうするんだよ。追撃が激しくなるだけじゃないのか」
「私は勉強島に残っている友達を助けたいです」
「奪うって言っても場所がわからないとどうにもならないだろ」
「一つずつ答えよう。追撃に関しては時間稼ぎが必要だ。幸いにも今はブランド米の収穫後の乾燥期、燃やす材料は大量にある。強奪できれば単純に島の面積が増え、食料生産が安定するだけではなく、ネット接続用のハブを確保できる。これによってより世界情勢を知ることが出来るようになる。友達は魔力に慣れていないだろう、ここにきても孤立してしまう。諦めてくれ。場所については前に鹵獲した揚陸艦のコンピューターに残っていた。多くの情報は自壊されたが、優先度の低いメガフロートの情報は残っていた」
「それでも追撃が来たらどうするの?島に戻ってからもよ。一撃加えられたら沈むかもしれないでしょ。訓練島には防空システムも付いていたから島の周りに配置することで防空も一定の効果を得られる筈だ」
「防空システムは精々、戦闘機用でしょ。長距離弾道ミサイルを使用されたらどうするつもり?良くて10倍、核弾頭が飛んでくる可能性もあるのよ」
「わかっている。それには我々の外見を利用する。角や羽を隠せばまだ子供、15歳が最も多くを占めているんだ。インターネットを用いて全世界へと発信する。我々は大人から命からがら逃げてきた子供だと。殺される。助けて。とな」
「大っぴらには殺せなくなるわけね。それで、これを話すためにこんなに大量に人を集めたの?」
「これは最大で危険な作戦になるからね。まずもって参加するしないは自分で決めて欲しい。作戦に必要な人員が欠けた場合、必要な人数が確保出来なかった場合は中止。戦闘機の対策を頑張って考えることにするよ」
レオが改めて辺りを見渡す。
ちょっと不安そうな顔で見つめられると断りずらい。
でも、静かな空間で真っ先に手を挙げるのはなんか、恥ずかしい。
「私は、参加します」
レオの横に控えていたイリヤが最初に声を上げる。
「俺も参加しよう。友を死なさない為に鍛えているのに、ただ待っているのは性に合わない」
ヴィクトルも続く。
「ヴィクトルがやるなら私も参加する」
「僕も」
エレナを筆頭にヴィクトルと鍛えている者が参加し、便乗して僕も参加表明をしておく。
僕を見て、アティマも参加する。
去る人もいる。
「私は殺しに行くことになるのは、」
「当たり前の感情だ。元々作戦中にこの島を守って置いてくれる人も必要だったんだ。任せても良いだろうか?」
「はい、守ってます」
レオの表情や仕草が大袈裟に見えるんだが、あれ?僕も危険な作戦に乗せられたか?
まさか、イリヤとヴィクトルは仕込みだったりするのだろうか。
「アスラも参加してくれて嬉しいよ。冷却能力を最大限生かす作戦を考えるから、期待していてくれ」
「雰囲気に当てられたっていうか、手柔らかに」
レオが参加表明した全ての人と一言二言話して回る。
レオって全員の名前と特異な、もしくは得意な魔法を覚えているのだろうか。いつの間に。
「アスラは面倒なことに首を突っ込むのが好きなのかしら?」
「アティマ、さん」
「怒っているわけじゃないから、さん付けは止めて。私を救ってくれた事は嬉しかったのに、今こんなことになってるのはアスラがヴィクトルの誘いに乗ったからなんだからね」
「に、賑やかになったのは良いことじゃないかな。それに、戦車に乗ったりするのはあのままじゃ経験できなかったことだろ。今回はレオに乗せられたのを自覚している所だよ」
「私はあのまま二人でいても十分楽しかったのに」
んぐ、流し目でそんなこと言われると胸が痛い。
そのまま、胸に抱きつかれて耳元で囁かれる。
「今夜は私の誘いに乗ってくれるわよね」
アティマは離れて笑みを浮かべながら、手を差し出す。
「喜んで」
差し出された手を取り、抱き寄せ、ブライダルキャリーをする。
しっかりとした重さを感じるが、あれから少しは鍛えたんだ。
涼しい表情で一回転させて下ろす。
「私はこのまま運んでくれても構わないんだけど」
「作戦会議があるだろ、前の家に泊まれるようにだけはしておくよ」
「逃げないでね」
余りにも上機嫌で、スキップして歩く。
トトンッ、トトンッと軽快な音が立つ。
レオの襟を掴み、力尽くで椅子に座らせる。
グェッと気道が圧迫されて出された汚い声を出すのもお構い無しだ。
「さあ、早く作戦を詰めるわよ。ヴィクトル達は作戦が決まったら再度連絡するから訓練でもしてなさい。会議に加わってもいいわよ。残る人は着席」
「アティマがやる気になっているところで、もう一個報告がある。ミリア、頼む」
「やっとかよ。ずいぶん待たせてくれたな」
背中から生える対の腕が特徴的で、手には白い光沢をもつ布を持っている。
蜘蛛の糸から服を作ろうとしてた人だ。成功したのか。
「魔力を与えて狂暴化させた蜘蛛から布になる糸を作らせることに成功したのまでは良かったんだが、それを付けていると魔力が阻害される事が分かった。解決策は実にシンプルで使用者が糸を作成する際に魔力を与えることなんだよ。この糸は強度も高いから、作戦参加者はなるべく早くウチの所にくるように」
「そういうわけだ。では、作戦会議を始めるので、参加者は座ってくれ」
きょうも戦車を乗り回そう、主砲がアレな見た目になったけど操縦席からは見えないから問題ないだろう。
荷物を運び込まないといけないしな。
なんだか、悪いことをしている気分になりこそこそと戦車に積み込む。
よく話す人は会議か訓練をしているから、どちらでも変わりはないんだが。
運び込むのは1時間かからずに終わり、手持ち無沙汰となると、ただ待つだけの時間に気が滅入る。
海へ行って釣りをするも、こういう日に限って当たりがなく解決に至らない。
他にすることもない。
上の空の状態で戦車を走り回らしていれば事故るだろう、農業系は効率化を進めていて魔力が少ない僕が入っても邪魔になるだろう、戦車で来ている為に海に直接入れば怒られるし、氷室は朝のうちに冷やしてしまったし、勿論何もせずに待つことなんて出来ないし、そうだ、今の僕には釣りしかない。
一投入魂、指先に神経を集中させて疑似餌を本物のように動かす。
僕は哀れな小魚だ。
波にさらわれ群れとはぐれ、そのまま岩礁にぶつかってしまう。
ああ、痛い。傷む体に鞭打って大海原へ、群れの元へ帰ろうとするも波がそれを許さない。
逃げるときは大きな助けとなった波は今では壁だ。
何処に行っても追ってきて、何度行っても戻される。
僕の運命はこのまま衰弱か、打ち上げられるか、岩に叩きつけられるか。
僕はなんと哀れな小魚なのだろう。
「キタ」
食らい付いた手ごたえ。
一気に竿を立てて合わせる。
だがここで焦ってはいけない。逆に進むときに無理に上げれば糸が切れてしまう。
相手と波の動きに合わせて勢いよく引き上げる。
これはでかいぞ。竿が大きくしなり、その姿を表す。
赤い魚だ。ベルクマンの法則は何処に行ってしまったのか、恒温動物に適応されるものなのだから当然ではあるのだが。
そこから2、3匹追加で釣りあげると夕刻だ。
絞めて凍らせた魚を紐で縛り上げ、戦車に括りつける。
大量、大量なんて思いながら戦車を家につけて、今夜は魚。腹いっぱい魚。干物にしたって良い。
上機嫌で扉を開けると、扉の先にいたのは腕を組み仁王立ちで待つアティマ。
???。!
瞬時に状況を把握、これより言い訳作戦を開始する。
「本当はメデ鯛が欲しかったんだけど、うまく釣れなくてさ。この赤い魚じゃ駄目かな?」
「別に焦らなくていいわよ。分かっているし、準備もしてくれている。夕飯が必要なのも事実だもの、ちょっと驚かせたかっただけよ」
「それならよかったよ。ずっと立っていたのか?」
「この島の中なら地下以外知れるもの、アスラが直ぐ近くまで来てから立ったわよ。私じゃなくても戦車の音で分かると思うけどね」
「僕の耳が麻痺していただけだったか」
「そういうこと。それじゃ始めましょうか」
「先に夕飯を食べたりしない?」
「しない。一食抜いた所で支障はないわ。寧ろ一色を求めてくれると思うのだけど、魚も凍らせてあるんでしょ」
「僕の判断ミスか」
「相手が悪いもの、手に持ってるそれは何処かに吊り下げておいてこっちにきなさい。大事な出来事の前に済ませるのは、フラグを立てないって意味でも重要なのよ」
「フラグってなんだよ」
とても良かった。
それだけは言っておこう。




