基盤整備
「残っている戦車はどうするんだ?破壊するか?」
「また追跡が来た時に使われると厄介だし。ゴミ掃除みたいで面倒ね」
「破壊するのは待ってください」
機械兵の残骸をヴィクトルが掻き分け、間からレオが現れる。ともう一人。
「私の魔法で命令系統を書き換えます」
「そんなことできるのか?一応軍の兵器だろ」
「さっき、自爆蜘蛛でやってみたら出来ました」
「戦車が動くようになったら助かるけど、最初から自爆兵器で試すなんて度胸あるわね」
「爆弾は取ってから試しましたよ。3区の方が外してくれました」
「そいつも度胸あるわね。駄目だったら言いなさい破壊するから」
「よし、他の奴は兵器が遠隔操作されないように地下に運びこむぞ」
「無理だぞ、機械人形でギリギリだろうに、戦車を運べるわけないだろ」
「アスラ。手動操作も出来るはずだよ。だれもヴィクトルのように手で引っ張れとはいっていないさ」
「手で押していくんじゃないのか」
沈黙する戦車を無理やり押し進めるヴィクトルが声を上げるのを捉える。
乗り込んでも何をどうするかわからなかったが、アティマにオートマチックトランスミッションと同じだと言われて、知らん。
一から操作を習っている間に全部運び終わってしまいそうだったので、ギアをニュートラルに入れて動かしやすくするところまで行う。
これをしないと履帯が動かないらしいのに、動かしてたヴィクトルの筋力どうなってるんだよ。
戦車は動かすだけなら簡単だった。
ハンドル操作も良いが、レバー操作も良い。
乗り回すときはハンドルで、精密操作はレバーで、なんだか近未来的だ。手動操作の時点で前時代的だと揶揄されたけど。
楽しいからいっか。
燃費が悪いのが難点で6時間も走り回っていたら止まってしまう。
船から燃料を失敬するのも申し訳なく、バイオガスの実験に付き合っている。
ゆくゆくは燃料タンクに直接生ごみを入れるだけで発電するようにしたいらしい。
3区は謎な方向に進んでる奴が多いのかも、バイオガス発電は必要なことなんだがな。
ダイソン球が出来ている今となっては、燃料タンクを電池式か水素式に変える研究の方が役立ちそうと思ってしまうのが。
「今日も走るの?私も乗せて行ってもらえる」
「アティマはバイオガスの精製にも協力してもらってるから拒めるわけないだろ」
「そういうのじゃないんだけど」
僕に続いてハッチから入る。
「アティマも操縦する?」
「しないわよ。飛行場跡地まで向かってね」
「了解。発進します」
「なによそれ。毎回そんなことしてるの?」
「気分上がるだろ、9時方向に転身。みたいな」
「パンツァーフォーの方が良いわね、戦車前進の意味よ」
「そんなことどこで知って来たんだよ。まあいいや使わせてもらうよ」
「ねぇ、今アスラは楽しい?」
「楽しいよ。勉強島にいた時は余裕がなかったからな。戦車を乗り回すことになるなんて思わなかったよ」
「私もそうよ。あそこに留まっていても何もできず、雑兵となっていたでしょうから。連れ出してくれて本当によかったわ」
「言っただけで、アティマに頼りっぱなしだったけどな」
転輪が履帯を回す音が聞こえる。
履帯は地面を噛み、鉄の塊を前へと進ませる。
時々《ときどき》石や木の根を踏み、ガタンとサスペンションで吸収しきれない振動が来る。
「アスラ、」
「着いたけど、どうした?」
「運転上手くなったわね」
「1週間は乗り回してるからな、もう一台でレースするか?」
「ギアチェンジを使いこなせるようになってから出直してきなさい」
「一回も乗ったことないだろ」
「そうかもね。戦車はここに停めて待っておいて」
戦車から飛び降りて倉庫に走っていく。いや、跳んでいく?
そのうち飛びそうだな。魔法もあるし。
戦車は乗り物にしかならないな。
乗り心地改善の為にクッションでも持ち込むか?
そのためには綿花をどこからか調達しないとな。
繊維を丸めて詰めるか?ススキを集めるのは面倒だし、籾殻は痒くなるんだよな。
動物も良いな、鶏かヤギなら直ぐに使えるけど今は布団に回されてるからな。
「アスラ、聞こえてるか?一回出て来てくれ」
視察窓から見れば会議メンバーが勢揃いだ。
「どうしてここに集まってるんだ?会議室より随分遠いだろ」
「新兵装のお披露目だよ」
「はい、アスラ君の冷却能力を使い、エレナさんの電撃能力を持ってすれば、所謂レールガンが出来るかと思いまして、今回はアティマさんにエレナさんの代わりを受け持ってもらいます」
「だから、アスラが走り回っている間中金属加工に駆り出されてたのよ」
「会議もここでやってたのさ、運動不足気味だったし」
「魔力を通せば耐久力を大幅に上げることも分かりましたからね」
「お前は鶏を暴走させた奴だろ」
「実験に失敗は付き物ですから、魔力が抜けてからちゃんと捕まえましたので問題はありません。それに、卵が大振りになって味も良くなったと感謝されましたよ」
「本当かよ」
「主砲の換装できました。試しましょう」
無残にも主砲の上下が溶断されたスカスカの主砲が愛車に付け替えられている。
しかも冷やすため何だろうけど、薄い金属板がスカスカの主砲から生えている。キモイ。
「アスラさんはこの主砲を塞がないように、フィンを覆うように氷を生成して下さい。アティマさんは撃つときに電流を目一杯流して下さい。弾丸置きますね」
氷で形作るのは慣れていたが、砲身を全て覆うのは魔力量的にきつい。
使い切った魔力を戦車内で送ってもらう。
疲弊している間にレオが発射の号令を取り、弾丸が放たれる。
一拍
隣に雷が落ちたような凄まじい轟音と、電の光。
覆っていたはずの氷は解け、火柱が上がる。
一瞬戦車が持ち上がるような浮遊感を覚え、反動で後退する。
「アティマ、大丈夫か?」
「なんとか」
僕も勿論椅子から落ちたが、立って砲身を直接触れていたアティマは倒れている。
頭を打ったのは強化で防げただろうが、音と光にやられたようで目を回している。
血を流していないことを確認して、ハッチから這い出す。
外でも全員が倒れていたが、ナオが最初に復活して近づいてくる。
そのまま砲身を確認し、触れて、火傷する。
「あっつい」
「お前は馬鹿か」
それなりに熱を加えた氷を差し出す。
「ありがとう、君。君も見ろこの砲身を赤熱してはいるが削れてはいない。素晴らしい耐久力だ。加工した際に色々したから強度の低下も懸念していたんだが、魔力が全てを解決してよ。やはり魔力。全てのモノに魔力を注ぎ込めば強くなると思うんだよ。ソラ君どうだい?魔力がなければ壊れていたはずだよ。必要だと認めてくれるかな」
興奮したようで話し出し、せっかく上げた氷も砲身に押し当てて溶かしてしまう。
彼を止めるようにソラが手首を掴む。
「ここまでの威力はまず想定してないですよ。弾丸も焼失しましたからね。本当に良く持ち堪えましたよ。アスラ君は大丈夫ですか。貴方の冷却能力が高いのか、アティマさんの魔力が強すぎるのか」
「それなら弾丸も魔力を注いでみようよ。魔力最高」
「ナオ君落ち着いてください。戦艦を貫くのにここまでの威力は必要ありません。一発でここまでになっていると連射性能もカスです。威力を最適化することで効率の良い兵器を目指しましょう」
「その通りよ、今のままだと使えたもんじゃないわ」
アティマも出て来、他の人たちも復活する。
「今のままだと、人数が必要だという問題はあるが発射点が特定されないという意味でアンテナの方が使い勝手が良いな」
「レオ君、アンテナじゃなくてマイクロ波収束射出装置だと言っているでしょう」
「長いのとアンテナの方が分かりやすいため却下だ。今回のレールガンは判り易く良い名前だぞ」
「そうとしか言えないですからね。どの程度の電気を流せばよいのか計算したいので、レオ君とアティマさんは付き合ってもらっていいですか?」
「私は明日ね。ふらつくからアスラに看病してもらうわ」
堂々と胸を張っての宣言。
わざとらしく手を頭に当て、寄り掛かる。
絶対嘘だろと誰もが思うのを笑顔に封じられる。
「体調が悪いなら仕方がない。イリヤに言えば簡単な処置くらいはしてくれるだろう」
「それは要らないわ。アスラが氷を出してくれるもの。ね?」
「あ、ああ」
「そうだな、それが良い。所でソラ、これは量産できるのか?」
「量産ですか。出来なくはないですが、アティマさんに金属の生成か、船からの切り出しをお願いすることになりますね。量産してもアスラ君かアティマさんがいないと使えませんし」
「それはどうしてですか?」
アティマの頭を撫で続けながら尋ねる。
「必要な温度まで冷却できるのが、アスラ君かアティマさんぐらいだからです。伝導率がよい素材を確保できない都合上、冷却によって無理やり伝導率を上げるしかないんです。電流を流す魔法を使える人はぽつぽついるんですが、水分子の生成まで考える中途半端に頭が良い人も、ヘリウムの同位体なんてものを正確に創造できる人も他にいないんですよ。原子の作成はアティマさんの独自技術と化していますし」
「1区の人間でもまだ出来てないんだ」
「そうなんですよ。変に常識が邪魔しているっていうのもあるんですが、僕やレオ君みたいに頭でっかちになって魔法が得意じゃない人も多いんです」
レオの頭に刺さるように生える板のような角は頭の冷却用らしい。
夏の暑さで昼の野外だろ冷やしきれず頭が回らなくなったり、揺らされると脳まで届いて目が回ると言われた時は間抜けだと思ってしまったが、あれが標準なのか。
「アスラに一応言っておくぞ、俺のこれは極端な例だからな。5区は全員ヴィクトルみたいな奴かと言われたら反論するだろ?」
ヴィクトルは突然変異なんじゃないかと言うが、そういうのを言われてる本人が言うのもどうなんだろう。




