防衛戦
僅か数日で島での生活は劇的に変わる。
1区の専門知識を蓄えた者たちが中心となり、変革を齎す。
食事に彩りが増えた。
魚が中心なのは変わらないが、ほうれん草やレタス。ラディッシュなど野菜が並ぶようになった。
生育の早いものから育てているらしい。
全部一緒に持ってきたから、出来た物から収穫と種取りをしているとも言っていたが。
タンパク質確保のために鶏の繁殖にも挑戦しているそうだ。
鶏にも魔力を与えたら、小屋を破壊された。なんて言ってたのも種を持ってきた奴だったか。
木繊維の服は嫌だと魔力による生糸の生成を目指している人もいる。
アミノ酸のポリマーを作る必要があるとかで難航している。
蚕のようにヤママユガから取ろうとして、いなかったと放心している人やヤギの毛で下着を作ろうとしている人、蜘蛛の糸を何とか繊維として利用できないか模索する人。
魔力で強化すれば良いんだよとそそのかす人。
お前、鶏はどうしたんだよ。アティマも下着を見せに来るなよ。
家も作られている。
地下陣地掘った際の硬い土を利用し、木を柱にした土の家がいくつか建っている。
未だ堅牢性を調べている途中だが、結構丈夫そうで地下暮らしは必要ないかもしれない。
僕と言えば食料庫で氷を生産するマシーンと化していた。
地下に作られているおかげで朝に一回作れば後は暇なため、島を見回っている。
日々変化する島の様子が面白く、賑やかだ。
ヴィクトル達は同級生達と訓練を続けている。
知ってる奴がいなかったんだよな。残念だ。
アティマは更に次の計画を練っているらしい。
偶に参加している。
そして今日は船がやって来た。
大声でそれを知らせに走り回っている人がいる。
森の中から見ようと顔を出していると、偵察用とみられる戦闘機が頭上を飛んでいく。
「アスラ、此処に居たのね」
「アティマこそ、こんなところにいて良いのか?探し回って人いたぞ」
「だから一緒に行くのよ。行くわよ」
手を引かれて駆けだす。
魔力量が違うと強化の度合いも違い、傍から見れば引きずられる僕がいただろう。
「アティマ。やっと帰って来たか。敵は無人駆逐艦が4隻、揚陸艦が2隻、偵察機はもう帰った。島表面の3Dデータは撮られたと思う」
部屋には何時も作戦を練っているメンバーの他に数人が集まっている。
何気に一番筋力が上がっているヴィクトルは納得できるが、エレナさんがどうしているんだろう。
一人が立ち上がり、炭と膠を塗った木製黒板を取り出す。
「では作戦を発表します。今回敵は航空機戦力を使わず、無人兵器を主にしてきています。もう知っていると思うが、駆逐艦4隻と揚陸艦も中に入っているのは生身の人間は小隊規模でしかいないだろうと予測します」
「そうね、心音ぽいのは40個ってところよ」
「流石ですね、アティマ。そこで電子工学を目指していたソラのアンテナを使います。エレナの電気をマイクロ波に変換し、飛ばすことでショートもしくは誤作動させます。アティマも送電に加わってください。アスラはこれを限界まで冷却してください。温度が下がるほど効率が上がるので、ヴィクトルは5区の皆さんと上陸された時に備えていてください。戦闘が一番上手いのは皆さんなので。では、平穏な生活の為に頑張りましょう」
人が次々と出ていく。
船の修理材から作り出した巨大なアンテナも3人がかりだと軽々と運び出せる。
「どうしたんだい?立ち尽くして」
「さっきの作戦考えていた人か」
「そっか、会議には偶に来てるけど名前を教えたことはなかったね。俺はレオだ。よろしく。で、どうしたんだい?」
「連れてこられるまでは何時もだけど、仕事があったことに吃驚してて」
「人材を無駄にすることはしないさ。君みたいに原子の変換までイメージできるのに加熱を考えられない人は珍しいんだよ。俺も無意識に常温状態を想像してしまってね」
「そんなもんなんですか」
「ああ、今回の作戦は君がいなくても成り立つけど、頑張りしだいで敵の数が増減するから頑張ってくれ」
肩を叩いて、俺は非戦闘員だからと地下に走っていく。
かっこ良いんだか、かっこ悪いんだか分からないな。
作戦場所に到着するとアンテナを固定しているところだった。
「始めるわよ」
アティマの声で防衛戦が始まる。
ソラさんがアンテナの照準を合わせる。
手を離してもらい、後ろに氷を生成して冷やす。
エレナが電線のようなものに電気を流すと、目には見えないマイクロ波が飛ばされる。
アティマはそれを収束している感じがする。
照準が向けられていた駆逐艦が赤熱していくのが見え、何かに着火し爆発する。
次々と誘爆して沈んでいく。
「計算以上の出力です。この調子で別も沈めましょう」
船が回避運動を始めたために1隻目より時間がかかったが2隻目も沈めたところで、反撃がくる。
攻撃手段が分かっていないのか、ばらまくように海岸線沿いの廃屋に穴を空けている。
4隻も墜とせば流石に位置を特定され進路がこちらを向き、戦車が甲板に表れ主砲と機関砲を撃たれる。
「私が防ぐから、もう一隻沈めましょ」
機関砲の20㎜は氷を打ち出して弾道を変え、戦車の120㎜は水の流れを当てて滑らせる。
アティマの手助けがないと赤熱するような力は生まれない。
その分、広い範囲を攻撃し精密回路を焼く。
1隻の動きが完全に止まるが、2隻目が着岸する。
地下陣地を通って前線へと向かう。
入り口の穴を広げられ、戦車が入ってこないように機械兵の進行を押しとどめている。
機械兵が入ると統率を失うことから、魔力が良いように働いているのは間違いないが、有効打を出せずに戦闘は長引く。
段々《だんだん》にしているため戦車に撃たれることはないが、機械兵共に容赦なく撃たれ、死傷に至る傷はないが負傷者は増えている。
僕も戦闘に加わり、銃弾を逸らすが決定打に至らない。
連射されてしまうと氷は急激な熱を受けて膨張、粉砕してしまう。
エレナさんの電撃も地面に逃げてしまい、本領を発揮できない。
「アスラ、君の氷は敵まで飛ばせるかい」
後ろからひょっこりとレオが聞いてくる。
「飛ばせるが、あいつの装甲は貫けなかったぞ」
「貫く必要はないさ。出来るだけ冷たい氷を当てて、装甲を急冷して欲しい。君も聞こえるだろ、あいつはモーターで動いている。冷やせばグリスが硬化して動きが悪くなるはずだよ。それに、内部で結露すればエレナの電撃が通るようになるし、金属が脆化するかもしれないだろ」
「やってみよう」
何時ものように絶対零度氷を生成し、更に周りの空気ごと覆うようにして薄い氷を張る。
二つの氷に重量分の運動量を与えて発射する。
空気抵抗で直ぐに中の氷が出てしまうが、着弾。
金属が急激に氷表面の溶けかけた水の膜から僅かな熱を奪って温度が下がる。
金属は氷にも触れ、更に温度が下がり、水の膜が凍り付く。
氷は金属に張り付き、更に金属の温度が下がる。
機械兵はモーターの回転数を上げ、氷を溶かしにかかる。
再度冷やそうと、もう一発打ち込むが一瞬しか冷やせない。
だが、レオがその部分を銃で撃ち壊す。
「よし、行けるぞレオ」
「アスラはその調子で頼む。他のやつらは集中砲火だ」
この戦法は劇的な戦果を挙げる。
エレナが焼き、レオが撃ち、少なくなった所をヴィクトルが突撃して破壊する。
多脚小型自爆兵も突入してくるが、それこそ氷のカモだ。
細い多脚は直ぐに凍り付き、地形への対応能力を奪う。
爆弾も冷却してしまえば引火せず、右往左往するのを叩くだけだ。
「アスラ、小っちゃいのに構ってないで戦車を破壊するわよ」
「外ならアティマ一人でどうにかなるだろ。僕はこっちで食い止めるよ」
「いいから、行くのよ。履帯を凍らせて動けなくしなさい」
別の出入り口から近づく。
一応、履帯へ向け氷を打ち出すが元々《もともと》動く気配を見せない。
アティマは主砲から熱硫酸を流し込む。
直ぐに黄色い体に悪そうな煙を上げ始める。
「やっぱり僕要らなかったんじゃない?」
「いるのよ。要るんです。ほら、次に行きましょ」
「でも、一切動きがなかったぞ」
「回避運動をする程の時間を与えなかったからかと思ったけど、違うみたいね」
「違う?何が?」
「揚陸艦を制圧したみたいね。だから、動かなくなった」
辺りを見渡すと、機械兵も完全に動かなくなり、凪が訪れている。
地下陣地でもそれに気づいたのだろう、歓声が上がる。
作品の投稿を月水金の10時か20時に行っているのですが、別の曜日、時間の方が良いのだろうか?




