救出
「今日は遂に出発の日よ。夜ごろに到着して動くから、計画は船の上で再確認するわ。しっかり頭に入れておきなさいよ」
「必要な食料は積んだ。水は魔力で生み出すか最低限」
「洞穴は拡張して、空気穴や浸水対策。防衛用に迷宮っぽく通路を作っておいた」
来た時に乗ってきた船に乗り込んで出発する。
昼間の出発であったが、放置された車から取った磁石が方位を示してくれる。
4人も居れば窮屈だが、夜に向けて一人ずつ休憩をとる。
夏ではあるが日が傾くにつれて肌寒くなる。
海の色がより暗い青へ変わった感じがし、重く粘ついた空気が僕を包む。
水平線の先に見える積乱雲は僕らを阻む壁のようだ。
「緊張しているの?」
「勿論、アティマは?」
「私もよ、作戦だって今からでも考え直したい。でも結局は貴方なの、アスラ。救出は最悪失敗してもいい。その時はエレナやヴィクトルを囮にすることだって考えているわ。アスラだけは死なせたくないの」
「大丈夫だって無責任に肯定は出来ないけどさ、成功すると思うよ。僕だって魔法のおかげで、銃弾くらいは防げるだろうし、ね」
アティマの瞳を覗き込む。
淡い輝きを放つ瞳は不安げに揺れている。
額を合わせて魔力を繋げる。
魔力は感情を表情よりも目よりも如実に示す。
いつ見てもアティマの魔力量は多い。
僕はただの砂粒で、アティマは砂漠のようだ。
「卑下しないで、アスラの絶対零度の氷は生物に対しては極めて強い力なんだから。後は直ぐに溶けないように工夫が必要なだけ」
「魔法はエネルギーを与えることは簡単だけど、奪うことが難しいんだよな」
「そうね、原子が動かないように上手く力を与えるのは人の思考能力的に実用可能な大きさで行うのは無理だし、ヘリウムの同位体の性質を利用しようにもヘリウムの同位体をわざわざ作り出すより、氷を新しく作った方が便利だものね」
「アティマぐらい魔力があって、頭も良ければ連続使用が出来るんだけど。よくて10秒しか持たないからな」
「それなら、私の脳を移植してみる?今なら神経細胞だって見て繋げると思うの」
「頭を開いた状態で手術するつもりか?僕に繋いだ時点で意識が途切れるだろ」
「それもそうね。私以外にアスラの脳を触らせたくないし。後、アスラが感じている緊張感は大体、緯度の変化からくる変化だから気負わないでね」
アティマは船内に戻り、エレナさんを起こす。
もう見える範囲に映るわよと発破をかける。
エンジンの出力を落とし、静寂のベールが船を覆う。
アティマの魔法だ。
意図的に温度差を作り出し、蜃気楼のような原理で光や音を曲げ、姿を隠す。
僕らからも見る方向が変わる面白い魔法だ。
本にあった西瓜割りをこの魔法かけてやれば楽しいと思う。まっすぐ進んでいるのに遠ざかっていくんだから。
ヴィクトルとエレナさんは鋭くなった知覚を最大限活かして目標を探している。
海上に建設されたメガフロートは大きさの違いがあるものの、形は殆ど等しく、移動もするため、何処に同級生が居るかは見ないと分からない。
勉強島の1万分の1程度の面積しかなく、間を抜けていく。
「見つけた。北北東の島」
エレナさんが声をあげる。
舵を取って迫り、着岸。
「わかってると思うけど、ここからは時間が全てよ。私は船を奪ってくるから、アスラたちは同級生を連れてきなさい」
「わかった」
小声で短い会話を行い、走り出す。
寮までは見つからなかったが、乗り込むとロボットたちが集まってくる。
一瞬、強い光が走る。
エレナさんの魔法で、強い電気をロボットに直接叩き込んだ余波だ。
ロボットの電気回路は焼き切れ動きを止めている。
ヴィクトルが扉を開け、寝ている同級生をたたき起こしていく。
勉強島からの改悪要素である5人部屋もこういう時は便利だ。
僕は起きた人に説明をしながら、辺りを見回し続ける。
マズルフラッシュ、遅れて弾丸がやってくる。
脚へと向かう弾丸の通り道に氷を生成し、床に着弾させる。
少し遅れて発射音が聞こえる。
「お前らなにもn」
教官だろう人間に容赦なくエレナさんの魔法が刺さる。
ロボット同様に神経回路が焼き切れたんだろう、煙を吐いて倒れる。
まだ、人の気配は残っている。
壁に映る僅かな反射、心音、匂いが伝わってくる。
魔力に目覚めた人間は同じように感じるようで、一人倒しても緊張は解けていない。
「俺が向かう。援護してくれ」
起きたばかりの同級生が一人、駆け出す。
廊下の先で顔を出さない一人に向かって、超人的な速度で突っ込む。
通り過がり死体からナイフを回収し、速度を落とすことなく走り、壁に着地して無理やり方向を変える。
そこを狙っていた相手が連射してくるのを当たりそうな弾だけ弾道を逸らす。
飛びつくように肉薄し、首へナイフを突き立てる。
「あんたが教えた技術を最初に使う相手があんたになるとはな」
「せいぜぇ、いきのこるんたな」
掠れた声で笑みを浮かべながら話す。
話しながらも弱っていく様が見て取れ、血が流れ続ける。
初めてはっきりと死んでいく人を見て、胃液が込み上げるがぐっとこらえる。
戻れば、全ての人が集まっている。
相手が使っていた小銃を回収し、船に向かう。
断続的に襲ってくるロボットを破壊する。
玄関ドアの先に4人ほどの人がいるのが分かる。
じりじりと距離を詰める。
相手の一人が動き出す。
ピンを抜く音、恐らく手榴弾。
投げ込まれる手榴弾に銃口を合わせ弾く。
「スタンだ」
誰かの言葉に、咄嗟に目を瞑り、耳への魔力を止める。
前方に氷を生成する。
貫通して飛んでくる銃弾を肌で感じてギリギリで防ぐ。
視界が戻ると同時に最適な位置に氷を再生成、撃ち返す。
初めて自分の手で人を殺した。
血を吐いて倒れる姿がフリップブックのようで、目の奥に鮮烈に焼き付く。
それ以上の襲撃は訪れず、船までたどり着く。
船の近くで倒れていた人はアティマがやったんだろうな。
始動している船に乗り込み、海へ繰り出す。
「今回はGPS装置を破壊しなくていいのか?」
「こんな大きな船、どうせ衛星で発見されるわよ。それならあった方が便利でしょ」
「確かに。ん?あの船近づいて来てないか?」
「そうね、近づいて来ているわ。でもあれは大丈夫よ」
「え、どういうこと?」
船が近づくと甲板に男が出てくる。
「俺たちは1区の生徒だ。逃げるなら俺たちも受け入れて欲しい」
「いいわよ。ついてきなさい」
「その声、アティマさんですか?お久しぶりです」
「話すのは後で、着いてからよ」
そんなこんなで他に2隻加わり、拠点の島に辿り着く。
「本当にアティマさんじゃないですか。別区へ飛ばされたと聞いていましたが、こんなところに居たんですね」
「まあね。貴方たちこそ何でついてこれたのよ」
「時期を伺っていたからです。一つから脱走者が出たのを感じまして、戻ってくると思っていたんですよ。合同訓練時に一番慕われていた奴が逃げていたようでしたから。来るなら夜だと思って、何時でも出れるように交代で番をしていたんです」
「ふーん。他の区も同じような感じなのかしら?」
「はい、そうです」
「ええ、そんな感じです」
「まあいいわ。これだけの人数を収容する予定なんてなかったから地下陣地をそこまで大きく掘ってないのよ。食料も問題よ」
「軍用のシャベル盗ってきたので掘るのは任せてください」
「作物にも魔力を通すことで成長速度が劇的に変化することが分かったんです。それで少し貰っていた作物の種です。作物に必要な要素さえ揃えれば短期間で成長可能です」
「なんでも、成長させられるのかしら?」
「果菜類は駄目ですね、葉菜類と根菜類は出来ますね。イモ類も難しいです。茎や蔓ばっかり伸びてしまって、肝心の可食部が育ちません」
「ストレスを与えてみたらどうだ?日長や寒暖差によって花をつける種類も多いぞ」
「なるほど、地下陣地内で育てて管理してみましょう」
区を超えて20人ほどが話し始め、それ以外にもいくつかのグループに分かれる。
それでも半数は加われていなかったが、アティマがグループに振っていく。
5人から30人ほどのグループが42個、色々な役割に別れる。




