いつかの今
「これなに~」
娘が持ち出してきたのは、何時か使用していた端末。
既に充電は切れていたと思っていたものが、淡い光を放っている。
何をしたのか、所々《ところどころ》が焦げ、画面は蜘蛛の巣状のヒビが見える。
「随分懐かしいものを掘り当てて来たね。これは、つい彼女が可愛くて内緒で撮ったものだよ」
画面の中の少女は、小さく丸まって寝ている。
「え~、それって良くないんじゃないの」
「今となっては時効だよ。もう許してくれるだろう」
「怒ると怖いよ~」
「そうだね。だから内緒にしておいてもらえるかい」
「二人で何の話をしているの?随分楽しそうじゃない」
扉から彼女が入ってくる。
彼女は写真の面影を残しつつも、大人びた雰囲気を纏い、頭上に生える角が光を反射し、神聖ささえ覚える。
僕らは顔を見合わせ、笑うと。
「「秘密」」
笑い声が部屋に木霊する。
コンコン
「魔王様、歓談中申し訳ありません。人間側からの使者が到着しました。謁見の間への移動をお願いします」
「判りました。直ぐに向かいます」
扉の向こうの足音が遠ざかっていくのを待ってから声をかける。
「本当に一人で行くのか?」
「ええ、平和の為だもの。一人で行くだけで和平が結べるなら安いものよ」
「魔王様頑張ってね」
「勿論。でも、お母様って呼んでくれた方が頑張れるかも、あなたも応援してね。ようやく血みどろの時代から言葉で話し合いで解決出来る時代に変わる」
彼女は僕らというより自分に言い聞かせるように、外を眺めながら語る。
「でも、何かの罠かもしれない。あいつらは魔人化した者たちを取り入れて勢いづいているじゃないか」
「お母様、大丈夫?」
「大丈夫に決まってるじゃない。私が一番強いんだから、何かあったらぶっ飛ばしてあげるわよ」
不安げな瞳を向ける僕と娘を心配させまいと彼女は僕らを抱きしめる。
彼女は最後にもう一度笑みを浮かべると凛とした佇まいで去っていく。
「お母様大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。なんたって我らが魔王様だからね」




