【計画案その五】『反逆罪でっち上げ・実力行使ルート』
最後の羊皮紙、そこに書かれていたのは、もはや計画案ではなく、ただの「暴力」だった。
「……もういい」
アレスターはヤケクソになった。
「コンラート! 【計画案その五】『反逆罪でっち上げ・実力行使ルート』だ!」
「……」
「そうだ!俺は公爵家嫡男だぞ! ヴァルデン侯爵家なぞ、所詮は格下の貴族!」
(そう、ラノベなら公爵家は最強なんだ!)
「ヴァルデン侯爵家を『反逆者』としてでっち上げ、我が家の軍事力で滅ぼす! 家そのものがなくなれば、婚約もクソもないだろう!」
その瞬間、コンラートは初めて無表情を崩し、心底軽蔑したような、虫ケラを見るような目を主君に向けた。
「ひっ……な、なんだその目は……」
「……殿下。この【計画案その五】を実行された場合のみ、ただ一つ、殿下の望みが叶います」
「……ほ、本当か!?」
「はい。エラーラ様との婚約は、確実に破棄(解消)されます」
「おお!?」
一瞬、希望の光が差したように見えた。だが、コンラートの次の言葉が、それを地獄に叩き落とす。
「殿下が『反逆者』として断頭台で処刑された後に、ですが」
「――な、に……?」
「殿下。ヴァルデン侯爵家は、王国東方の守りを一手に担う、王国最強の騎士団領でございます。我が公爵家の軍(文官貴族の軍)ごときが手を出して、三日と持ちません」
「え? 最強?」
「そして、殿下は最大の事実をご存じない」
コンラートは、今までで最も冷たい声で、最後の事実を告げた。
「エラーラ様の叔父上は、現国王陛下の実弟であらせられます」
「――えええええええええええ!?」
「我が公爵家がヴァルデン家に私戦を仕掛けた瞬間、我々は『国王陛下に弓引く反逆者』となります。ヴァルデン侯爵家に滅ぼされるか、王国軍に捕らえられるか。どちらにせよ、殿下はアンナ嬢と結ばれる前に、断頭台で首を刎ねられることになりますが、よろしいか?」
「…………」
俺は、執務室の椅子にがっくりと崩れ落ちた。 戦争、火刑、破門、親父の舗装、そして断頭台。 俺の「完璧な計画案(ラノベ知識)」は、完膚なきまでに木っ端微塵に砕け散った。
「……もう、何も思いつかん……。詰んだ……」
俺が死んだ魚のような目になったのを確認し、コンラートは、机に散らばった「完璧な計画案」を無言で片付け始め、事務的な声で告げた。
「さて、殿下。三日後に迫りました、エラーラ様との最初のお茶会の式次第でございます。ご確認を」
差し出された羊皮紙にさっと目を通し
「……ああ、これでいい……」
俺は掠れた声で指示を出した。
「それから……」
コンラートは、疲れ切って項垂れる主君を、いつもの表情のない顔で見降ろした。
「殿下は、貴族としての一般常識をこそ、お学び直しになるのがよろしいかと存じます。他の教科があまりにも優秀なため、そのあたりの教育が見落とされてきたのかもしれません。 ――家庭教師を、新たに手配いたしましょうか?」
「……あぁ」
椅子の背にもたれ天井を仰ぎながら、俺は力なく答えた。
「とびっきり、優秀なのを頼む……」




