【計画案その二】『恋愛至上主義・世論操作ルート』
「コンラート! 次は【計画案その二】、『恋愛至上主義・世論操作ルート』だ!」
「……はあ」
コンラートから、もともと無かった感情が更に抜け落ちた気がする。
「トップダウン(上から)がダメなら、ボトムアップ(下から)で行く!」
俺は二枚目の羊皮紙をコンラートの前に掲げた。
「 いいか、婚約破棄の為に『民衆の力』を利用する!」
この世界、貴族たちは民衆たちを殆ど無視している。だが彼らが一丸となって声を上げたら?
俺は、前世のネットで見た「炎上」や「世論操作」を思い浮かべた。個々人に力はないが、彼らの意見が流れをつくり大きくうねればサイバーカスケード(ネット雪崩)となって政治をも変える。
それをこの世界で再現するのだ。
もちろん、ネットほどの大きな流れは作れない。だが、この王都で世論操作が出来れば十分だ。
俺は一気に自信を取り戻した。
「王都の市民はギルドで組織化されている! 彼らに訴えかけるんだ!」
「……ほう」
「吟遊詩人や劇団を雇う! 俺とアンナ(うさぴょん)の『身分差を超えた真実の愛』の物語を作らせるのだ。エラーラ嬢は、その愛を妨げる悪女とでもすればいい。それを王都の広場で昼夜問わず上演させる!王都の市民が俺たちの愛を支持すれば、教会も王国も『世論』を無視できないはずだ!」
コンラートは、しばらく無言で天を仰いでいたが、やがて絶対零度よりも冷たい声で口を開いた。
「……殿下。もし本気でそれを実行された場合、我がハイゼンベルク公爵家は、三日と持ず滅亡いたします」
「な、なんでだ!? 王都の市民が味方するんだぞ!」
コンラートは、冷たい視線で俺を一瞥した。
「まず第一に。『市民の力』。彼らの力は『経済』と『都市自治』です。彼らに、教会が公認した大貴族間の婚姻を覆す『権限』は一切ありません。殿下はパン屋ギルドの投票で王位継承順位を変えることが出来るとお思いですか?」
「うっ……」
「第二に。『王都の広場で上演』。殿下、それは『世論』とは呼びません。王都の秩序を乱し、貴族の婚姻に口出しする行為は、明確な『市民暴動』であり『反逆行為』です。国王陛下は『民の声』など聞かず、即座に近衛騎士団を派遣し、首謀者(劇団員)を鎮圧・処刑なさるでしょう」
「処刑!?」
「第三に。そしてこれが致命的ですが、『教会』です」
コンラートは、まるで汚物でも見るかのように目を細めた。
「殿下。ここは教皇猊下のお膝元である王都です。その中心で、『神聖な婚姻(エラーラ様との誓い)』よりも『個人の情欲(アンナ嬢との恋)』が尊いなどという芝居や歌を上演することは、教会に対する最大級の『冒涜』であり、『異端思想の宣教』そのものです」
「情欲!?異端!?宣教!?」
俺は思わず絶叫した。
何より、情欲って何よ!
いやいやいや! 尊いうさぴょんとの間に情欲など断じてない! 厳禁だよ!? うさぴょんは観賞用でしょう!
だって彼女は「うさぴょん星から来た妖精戦士」で、しかも「うさみみ型聖遺物で歌いながら戦う適合者」で、おまけに「魂をソウルジェムにされてうさぎと契約した魔法少女」っていう設定だぞ!?(……あ、設定って言っちゃいけなかった……ってなんかいくつか設定混ざっとるな?)
あぁ、でもそんな娘 (のそっくりさん)と、俺結婚しようとしてたんだ……
それに気づいた俺の魂が、口からピヨピヨと抜けていくのを無視して、コンラートが続ける。
「教会は『市民の意見』などに一切屈しません。むしろ、そのような『神を冒涜する芝居』を上演した劇団員を異端者として捕らえ、火刑に処すでしょう。そして、その背後にいる殿下に対し、即座に異端審問所からの召喚状が届きます。それで殿下も異端者と判断されれば、末路は同じく火刑です」
「いっ……異端審問所!?かっ……火刑!?」
「第四に。『戦争』です。王都の広場で、エラーラ様を、物語の構成上『悪女』として描いた瞬間、それはヴァルデン侯爵家に対する公然たる『宣戦布告』となります。結果は【計画案その一】と同じ、戦争です」
コンラートは、冷ややかに俺の策(と心)を一刀両断にした。
「殿下。その策は、鎮圧・火刑・戦争の三択ですが、どれがお好みで?……いずれにせよ、アンナ嬢と結ばれる前に、聖火で浄化されることになりますが、劇団の手配を?」
「……次だ! 次の策だ!! 」
俺は、震える手で、三枚目の羊皮紙をひったくった。




