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魔王だけど、まだまだ修行中!〜未熟な魔王様が“平和のために”できること〜  作者: マロン
第一章:『魔王なんて柄じゃないけど、平和のためなら頑張ります!』
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33話_ 揺れる心は、風の中に

 空は、どこまでも澄んでいた。

 青く高く、どこにも曇りの気配はない。


 けれど、この場所だけが、時間から取り残されたように静かだった。


 辺りに立ちこめていた魔力の余韻は、ようやく風に攫われはじめている。

 焦げた草の匂い、魔力の残滓、そして、倒れ伏した魔獣たちの気配――それらを背中に感じながら、私はそっと息を吐いた。


「ティナ……ありがとう」


 腕の中で、ティナはぐったりとしたまま眠っている。

 けれど、その顔は穏やかで、口元がほんの少し笑っているようにも見えた。


 魔力の使いすぎ。だけど、ちゃんと生きてる。


 リシルの言葉を信じて、私はそっと彼女の髪を撫でる。


「こっちは、大丈夫そうだね」


 近くからフィオナの声がした。

 彼女は私の隣にしゃがみ込み、治癒薬と包帯を手際よく取り出す。


「……さすがに魔力の反動はきつそうだけど。すぐ良くなると思う」


「ありがとう、フィオナ」


「お礼なんていいって。リリが支えてくれてたんでしょ? だったら私も、できることをするだけ」


 その声に、私は小さく笑う。


 彼女の指先は慣れた動きで、ティナの傷を丁寧に手当てしていく。

 その姿を見ていると、ほんの少しだけ、緊張がほどけていくようだった。


「……って、リリ。腕どうしたの? 血、出てるじゃん」


「あ、これ? ちょっと引っかかれただけだよ」


「ちょっとで済ませないの」


 フィオナはため息をつきながら、手早く包帯を巻いてくれた。

 その手つきは、どこかあったかい。

 

 ――その時だった。


「いや、しかし……こんなの一撃で倒すとか、信じらんねえぞ……」


 後ろから聞こえてきたのは、ライオネルさんの声だった。


 視線の先には、地に崩れ落ちたザルヴァインの巨体。

 彼は肩で息をしながら、それを信じられないものを見るように見下ろしている。


 私は小さく笑って、ティナの額に手をかざす。


「一撃じゃ、ないですけどね。……ライオネルさんたちも、無事でよかったです」


 その言葉に、ライオネルさんは一瞬きょとんとした後、ふっと笑った。


「ま、そっちこそな」


 そして私の頭を軽く撫でるような仕草をしながら、肩の力を抜くように息を吐いた。


 フィオナが手当てを続ける中、少し離れた場所からリーネさんの声が聞こえた。


「それにしても……なんだったんだろうね。群れが森から出てくるのもそうだけど、倒したはずの魔獣が動き出すなんて……」


 彼女は眉をひそめ、ザルヴァインの巨体を見つめたまま、静かに言葉を続ける。


 その隣で、ユーマくんがうなずく。


「うん……あれは明らかに異常だった。魔核を潰しても暴走するなんて……早くギルドに報告した方がいいんじゃない?」


「そうね」


 リーネさんは一度だけ深く頷くと、少しだけ声を張って言った。


「バルド、ごめんだけど、先にギルドに戻って報告してきてくれない?」


「ああ。任された」


 短く返事をして、バルドさんは重たい重剣を背に収めると、すぐさま踵を返す。


 その背中は、頼もしくて、どこか静かな決意に満ちていた。


 そのやり取りを聞いていたライオネルさんが、バルドさんに向かって声を投げる。


「……なら、馬車を使って先に行ってくれ」


 バルドさんが小さく振り返ると、ライオネルさんは腰のポーチから紙とペンを取り出しながら続けた。


「荷物はすまんが、王城まで運んでもらえると助かる。門の兵士にはこれを渡せ」


 そう言って、簡潔な紹介状を書き記すと、ライオネルさんはそれを手渡す。


 バルドさんはそれを黙って受け取り、再び無言で頷いた。


「任せたぞ、バルド」


「……ああ」


 馬車の御者台に乗り込んだバルドさんが手綱を引くと、荷車はきしむ音を立ててゆっくりと動き出す。


 バルドさんの姿が草原の向こうに消えていくのを見届けたあと、ライオネルさんが腰に手を当てながら振り返る。


「――じゃあ俺たちは、少し休憩してから出発しよう。俺の国まではもうすぐそこだ。歩きでも問題ないだろう」


「わかりました」


 私は静かに頷く。疲労はあるけど、動けないほどじゃない。なにより、ティナの無事を確認できたことで、気持ちも少し落ち着いてきていた。


「護衛は私とユーマくんだけでも問題ないから、安心してね! ……って言っても、みんな強いから心配ないか」


 少し離れた場所で地図を畳んでいたリーネさんが、明るく笑いながら肩をすくめる。


「おいおい、あまり俺たちをあてにすんなよ?」


 ライオネルさんが笑いながら返すと、ユーマくんがふっと吹き出した。


「でも、王様が一番前に立って戦ってたし……なんか、妙に説得力ないよね」


「おい、お前もかよ」


 苦笑しながら頭をかくライオネルさんに、私はつい笑ってしまいそうになった。


 さっきまでの緊張が、少しだけ和らいでいく。

 

 そんな会話を聞きながら、私はふと、腕の中に視線を戻した。


 ――ティナのまぶたが、かすかに動いた気がした。


「……ティナ?」


 そっと呼びかけると、彼女の長いまつげが微かに揺れた。


 次の瞬間、ゆっくりとその瞳が開かれる。


「……ん、え……?」


 焦点の合わない瞳が、瞬きとともに少しずつ私の姿を捉えていく。


 ぼんやりとした表情で、ティナは小さくつぶやいた。


「……リリ……姉……?」


「うん……おはよう。……ティナ、大丈夫? ……どこか痛くない?」


 私は静かに問いかけながら、彼女の頬に触れるように手を添える。


「……んー……痛いような……そうでもないような……あれ……私、なにしてたんだっけ……?」


 ティナは自分の手を見つめるようにして、ゆっくり瞬きをした。


 ――けれど、次の瞬間。


「――っ!? ま、魔獣はっ!?」


 ティナは突然、バッと身体を起こした。


「ちょ、ちょっと! まだ無理しちゃ――!」


 慌てて支えようとする私の手をよそに、彼女は辺りをぐるりと見回す。


 寝起きとは思えないほど素早く、真剣そのものの表情だ。


「ザルヴァイン! わたし防御して、リリ姉がすごいの撃って……で、で……ん? そのあとどうなったっけ……?」


 記憶をたどるように言葉を連ねていたティナの動きが、ぴたりと止まる。


 ようやく状況を理解したのか、目をぱちくりとさせた彼女は、私とフィオナを見比べた。


「……あれ? 終わってる……?」


 私は思わず、ふっと笑ってしまった。


「うん、全部終わってるよ。よく頑張ったね、ティナ」


 ティナは数度瞬きを繰り返し、ぽかんとした表情のまま、もう一度あたりを見回した。


「……ほんとに……終わってるんだ……」


 呆然としたようにそうつぶやいた後、ぽそっと一言。


「……あ〜……よかったぁ……」


 そのまま、私の胸にふにゃりと身体を預けて、へなへなと力が抜けていく。


「ちょっと、もう……またそんな無茶して……」


 私は困ったように笑いながら、そっと彼女の頭を撫でた。


 その時、すぐ横からフィオナが、軽くため息をつきながらも、どこか安心したような声で言った。


「まったく……あんま心配させないでよね」


 ティナはくすぐったそうに笑って、顔だけこちらを向く。


「えへへ……ごめん、フィオ姉……」


 その素直な一言に、私も思わず笑ってしまう。


「もう。……でも、ほんと無事でよかったよ」


 ティナの髪をもう一度撫でる。少し汗ばんだ感触すら、今は愛おしく思えた。


 そんな私たちのやりとりを、少し離れた場所からリーネさんが微笑ましそうに見つめていた。


「ほんと、三人とも仲良いんだね。そんなに仲良くて、あれだけ強いんだから、冒険者にも向いてるんじゃない?」


 軽く肩をすくめながら、リーネさんが冗談めかして言うと、すかさずユーマくんがそれに乗る。


「確かに、君たちならすぐに上位ランクになれると思う! 僕の所属してるギルドにも紹介したいくらいだよ」


 その言葉に、少し離れた場所にいたライオネルさんが苦笑しながら口を挟む。


「おいおい、冗談はやめとけ。……二人はともかく、リリシアは魔王だぞ、これでも」


 その言い方が少しおかしくて、私は思わず肩をすくめた。


 すると、すぐにフィオナがぷくっと頬をふくらませて声を上げる。


「ちょっと、その“二人”の中に私も入ってないよね? こう見えて、お父さんの手伝いで毎日忙しいんだから!」


「そうだそうだ!」

 ティナもすかさず乗っかって、胸を張るように言う。


「私だって、リリ姉のサポートで忙しいんだよ! 起こすのも着替え手伝うのも私だもん!」


「ちょ、ちょっと!? そこまで言わなくていいからっ」


 私は顔を赤くしながら慌てて手を振る。


 そんな中、ふと視線が落ちて――私は少し、考え込むように黙ってしまった。


「………」


 ほんの数秒の静寂。


 その空気に気づいたのか、フィオナがそっと私の顔を覗き込む。


「ん? どうかした? リリ」


「ふぇっ? ううん、な、なんでもないよ!」


 慌てて笑ってごまかすけど、内心は少しだけ揺れていた。


 ――もし、私が“魔王”じゃなかったら。

 この三人で、ずっと一緒に旅をして、冒険をして、どこまでも笑い合って――そんな日常も、あったのかな、なんて。


 ……でも。


 私は魔王で、二人は私の大切な仲間で。

 この関係は、たぶん、なによりも大切で――


 この気持ちは、きっとすぐに忘れる。

 けれど、どこか胸の奥に――ほんの小さな棘のように、残っていた。


「ま、いっか」


 小さくつぶやいたその声は、誰にも聞こえなかったはずなのに。


 すぐ隣にいたティナが、不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。


「え? なに? 今なんか言った?」


「な、なんでもないってば!」


 そう言って笑ってみせたけれど、心の中ではまだ、あの感情の余韻が微かに揺れていた。


 だけど、それを言葉にするには、今はまだ早すぎる気がして。


 だから私は、話題を変えるようにそっと視線をリシルに向けた。


「そ、そうだ、リシル」


「なに?」


 軽やかに跳ねながらこちらへ戻ってきたリシルが、くるんと一回転して、私の肩にふわりと乗る。


「さっき……言ってたよね。呪いが“強化”になることがあるって」


「ああ、その話ね。……ちょっと難しいけど、大事なことよね」


 リシルはぴこっと尻尾を揺らしながら、少しだけ真剣な声になる。


「簡単に言うと、呪いってのはね、“心の隙”に入り込んで、その人自身の感情や思念と結びつくものなの」


「心の隙……」


「たとえば、恐怖とか怒りとか。自分でも制御しきれない“負の感情”が、呪いと共鳴すると――それは“力”に変わる」


 私は思わず息を呑んだ。


「……でも、それって……強くなれるってこと?」


「確かに“強く”はなるわよ。普通の強化魔法よりも、ね」


 リシルは静かにうなずいた。


「けど、その代わり……その力は“呪いに借りてる”ものなの。だから、自分では気づけないうちに、呪いに心も体も侵されてしまう」


 その言葉に、ティナもフィオナも息をのむ。


「……じゃあ、自分では……強くなった理由も、呪いに蝕まれてることも気づけないの?」


「そう。呪いの厄介なところはそこなの。使ってる本人には、“ただ力がみなぎってる”ようにしか感じられない。むしろ、気持ちいいくらいにね」


 リシルの言葉は穏やかだったけれど、その中にある重みは誰の耳にも伝わっていた。


「じゃあよ、さっき俺たちが倒したザルヴァインも、その“呪い”ってやつにかかってたってわけか?」


 ライオネルさんが腕を組みながら、じっとリシルを見つめて問いかける。


 その目には、ただの王ではない、戦場を知る者としての真剣な色が宿っていた。


「いいえ、それは違うわ」


 リシルは肩の上で静かに首を振ると、空を仰ぐように小さく息を吐いた。


「リリシアにはもう教えたけど……呪いにかかっていたのは、あの“大きなザルヴァイン”だけよ。おそらく、あの群れのリーダーだった個体ね」


「リーダー……」


「ええ。そしてそのリーダーが呪いに飲まれて暴走したことで、他の魔獣たちにも異常な興奮が伝播したのかもしれない。まるで……負の魔力が感染したように」


「魔獣たちが……呪いに操られてたってこと?」


 フィオナが顔をしかめながら問いかけると、リシルは小さく頷く。


「正確には、“導かれていた”って言ったほうが近いかもね。直接的に支配されてたわけじゃない。でも、あの呪いには“群れごと引きずり込む”だけの力があった」


「そんな……」


 ティナが、まだ少し頼りない動きで身体を起こしながら、小さくつぶやく。


「でも……でも、それって……じゃあ、その呪いをかけたのは、誰?」


 その問いに、場の空気が一瞬だけ静まり返った。


 誰もが、言葉の先を知っているのに、それを口にすることを躊躇していた。


 そんな沈黙を破るように、リシルが静かに、でも強い調子で言葉を重ねる。


「……わからない。でも、ひとつだけ確かなのは――こんな使い方、絶対に許されちゃいけない」


 その声には、普段の飄々とした調子ではない、怒りにも似た感情が込められていた。


「呪いは、本来“内側から滅ぼす力”よ。それをあえて“外に向けて”誰かにぶつけるなんて……それはもう、ただの破壊者と同じよ」


「……じゃあ、その呪いを“かけた奴”がいるってことか」


 ライオネルさんの声が低く響く。


「誰かが、意図的にあのザルヴァインを暴走させた――?」


「……その可能性は、十分にあるわ」


 リシルが静かに答えた時、私の胸の奥で、かすかな不安が波紋のように広がった。


 ――誰が? 何のために?


 そして、なぜ、今このタイミングで?


 小さな疑念が、頭の隅にこびりつくように残る。


 けれど、それを追いかけようとした瞬間、リシルが私の耳元で、そっと囁いた。


「……焦らないで、リリシア。まだ“全ての答え”には届いてない。でも、確実に――何かが動き出してる」


「……うん」


 私は小さく返事をして、そっと視線を上げた。


 空は、相変わらず、どこまでも澄んでいた。


 けれど――その静けさの裏に、何かが潜んでいる気がしてならなかった。


「まあ、難しいことはよく分かんねーけどよ」


 ライオネルさんがぽりぽりと頭をかきながら、いつもの調子で言った。


「今考えたって、何か分かるわけでもねーしな。俺たちは、俺たちにできることをやるだけだろ?」


 その言葉に、場の空気がふっと和らぐ。


「そうだね」


 フィオナが立ち上がりながら、軽く伸びをして言った。


「ティナも起きたことだし、私たちは先を急ご! 私、さっきの戦闘で汗かいたから、早くお風呂入りたいんだよね」


「えっ、ずるっ!」


 ティナがびくんと反応して身を乗り出す。


「それなら私も早くご飯食べたい! 朝ごはん途中だったから、もうぺこぺこ~!」


「お前らなぁ……」


 ライオネルさんは思わず苦笑しながら、腰に手を当てる。


「……ったく、自分のことばっかだな。まあ、らしいっちゃらしいが……」


 そう言いながら、ちらりと周囲に目を向けた。


「おい、そろそろ出発するぞ。お前たちも準備いいか――って、おい? どうした?」


 その視線の先には、どこかぼんやりとした顔のまま、口を開けて固まっているリーネさんとユーマくんの姿があった。


 二人は、肩の上で気軽に会話をしていたリシルを、まるで“未知の生物”でも見るような顔で凝視している。


「……なに、今の説明……猫が、喋ってた……よね……?」


 リーネさんが眉をひそめ、思わず口に出す。


「うんうん……あの喋り方、聞いたことないくらい理知的だったし……あれ、あの子って……何者?」


 ユーマくんも困惑したように眉を下げながら、リシルと私とを交互に見つめてくる。


「あっ」


 私は思わず口元に手をやった。


 ……しまった、リシルが普通に喋ってたの、ユーマくんたちには秘密にしてたんだった!


 そんな私の焦りなんて気にも留めず、リシルはくるんと尻尾を一振りすると、にっこり笑いながら言葉を紡いだ。


「ふふん、私はリシル。次、猫って言ったら――ただじゃおかないから。よろしくね?」


 ――けれどその笑顔は、どこかゾッとするような静かな怒気を含んでいる。


「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ……!?」


 リーネさんとユーマくんが、声を揃えて思いきりのけぞった。


そのリアクションに、ついフィオナとティナが吹き出す。


「ぷぷっ、やっぱそうなるよね〜」


「びっくりしすぎ~、ふふっ!」


 そんな賑やかな空気が戻ってきた草原に、いつのまにか、優しい風がまた吹きはじめていた。


 ライオネルさんが少し声を落としながら、けれど確かな圧を込めて言う。


「――おい、今のは聞かなかったことにしとけよ」


 いつもは穏やかなその声音に、珍しく鋭さが混じっていた。


「冗談で済む話じゃねぇ。口外したら、本気で怒るからな」


 その眼差しは真っ直ぐに、リーネさんとユーマくんを射抜いていた。


「……っ、はい!」


「わ、わかってます!」


 二人は思わず背筋を伸ばし、真剣な顔で頷く。


 その様子を見て、私はほっと胸をなでおろす。


 リーネさんもユーマくんも、ちゃんとわかってくれた。

 ライオネルさんの言葉の重みも、リシルの秘密も――きっと、守ってくれる。


「……ありがとう、ふたりとも」


 小さくつぶやくようにそう呟いて、私は改めて草原の風を感じた。


 空は相変わらずどこまでも高く澄みきっていて、風は優しく草をなでていく。


 ――あとは、みんなで前に進むだけ。


「よーし、それじゃ出発だ!」


 ライオネルさんの明るい声に、みんなが立ち上がる。


 最後にもう一度だけ、地面に横たわるザルヴァインの巨体を振り返る。

 異変の気配を残すその姿を目に焼きつけて、私は静かに前を向いた。


 向かう先は――ライオネルさんの国。


(どんな場所なんだろう……)


 心の中に、わくわくとした気持ちが小さく膨らんでいく。


 見たことのない景色。出会ったことのない人たち。

 そして、まだ知らない出来事が――きっと、そこには待っている。


 私は、そっとティナの手を握った。


「行こう、ティナ」


「うんっ!」


 その元気な返事が、草原の中に軽やかに響いた。


 ――そして、私たちは歩き出す。


 風に背を押されながら、澄んだ空の下を。

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