表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王だけど、まだまだ修行中!〜未熟な魔王様が“平和のために”できること〜  作者: マロン
第一章:『魔王なんて柄じゃないけど、平和のためなら頑張ります!』
14/47

12話_ 初陣の光

 湯上がりの体に、夜の空気が少しだけ心地いい。

 私はタオルで髪を拭きながら、フィオナの部屋のソファに腰を下ろした。


 ――あのあと、私は、ちゃんとフィオナに謝った。

 ひとりにしてしまったこと、心配させたこと。

 フィオナは「気にしてないよ」って笑ってくれたけど、そのやさしさが、胸に沁みた。


「紅茶、入ったよ。ほら、熱いうちに飲んでね」


 声と一緒に、ふわっと紅茶の香りが広がる。

 ティーカップを差し出しながら、フィオナが小さく笑った。


「魔獣討伐のこと、よく許してもらえたね?」


 私はカップを受け取りながら、少しだけ目を伏せる。


「……許してくれたというより、ママが強引に押し切ってくれた、って感じかな」

 

 そう答えながら、私はカップにそっと口をつける。

 ふわりと広がる紅茶の香りが、どこかほっとさせてくれた。

 

 明日の討伐への同行は、ドラグニアさんの提案だった。


 ――数時間前、魔導端末越しに、パパに討伐同行の報告をしたときのこと。


「だめだ……そんなの、だめだ……! リリ、おまえが行く必要は――」


 声が震えていた。いつもの冗談混じりではなく、本気で、必死に――。


 だけどその直後、後ろから――ママの声が、静かに響いた。


「……今のあの子には、きっと必要なことよ」


 たったそれだけの言葉だったのに、パパの声はぴたりと止まり、しばらく沈黙が続いた。


 やがて、かすかに何かを飲み込むような音のあと、低く押し殺した声が返ってきた。


「……気をつけて行け。無理はするなよ、リリ」


 ――きっと、本当は最後まで反対したかったんだろう。

 でもその言葉は、私にとって、誰よりも強い“背中の後押し”だった。


 それから、端末の向こうでママの声に切り替わる。


「一人で無茶はしないように。困ったら、ちゃんと周りに頼りなさい」


 優しく、でも甘えを許さない、いつものママの声。


「……うん」


 私は、小さく息を吐いて、顔を上げた。

 笑ってはいない。でも、もう泣いてもいない。

 目だけは、まっすぐ前を向いていた。


 ――


 私は、ふっと息をついてカップを置いた。

 その気配に気づいたように、フィオナがぽつりと口を開く。


「ねぇ、リリ……覚えてる? 前はさ、リリがひとりで泣いてると、私がよく慰めてたよね」


「……うん。フィオナがいなかったら、今の私はいないよ」


「でも今は……なんか逆だなって思って」


 紅茶を見つめたまま、少しだけ寂しそうに笑う。


「強くなったなって思った。ほんとに……リリはすごいよ」


「……フィオナ?」


「討伐の話を聞いて、ちょっとだけ焦ったんだ。守ってたはずの子が、もう自分の足で立って歩いてて……

 その背中が、もう追いかけなきゃ見えなくなりそうで」


「……そんなことないよ。フィオナがいたから、私はここまで来れたんだよ」


 その言葉に、フィオナはふっと目を細める。


「……ふふっ。そっか、そう言ってもらえると嬉しいかな」


 でもその笑顔の奥に、少しだけ陰りが見えた。


「――あーあ、二人を見てたら思っちゃったんだよね。

 私、このままでいいのかなって」


「ふたり? ティナのこと?」


 何気ない問いかけに、フィオナの肩がぴくりと揺れた。


「あ、ああ……ううん、なんでもないよ」


 慌てたように紅茶のカップをテーブルに置き、話を逸らすように立ち上がる。


「ほら、明日は早いんでしょ? 今日はもう寝よ」


「……うん?」


 キョトンとした顔のまま、私は頷いた。

 

 フィオナは「おやすみ」と小さくつぶやくと、そっと灯りを落とした。

 静かになった部屋に、しばらく紅茶の香りだけが残っていた。


 翌朝。

 すでに朝の光が差し込む議事堂の正門前には、今回の討伐に参加する冒険者たちが集まり始めていた――


 鋼の胸当てに剣や斧を背負う戦士、軽装の弓使い、ローブ姿の魔導士たち――それぞれが、自分の役割を果たすべく、静かに出発の時を待っている。

 

 その中で私は、今朝ノワールさんが届けてくれた装備に身を包んで、ゆっくりとその輪に加わった。

 

 淡い灰色の軽装の上着に、動きやすさを意識したショートマント。見た目は軽やかだけど、布地にはしっかりと魔力防護の加工が施されている。

 

 ――きっと、パパがノワールさんに頼んでくれたんだ。

 何も言わなかったけど、そういうところは、やっぱり“父親”なんだと思う。

 

 そんなことを思いながら周囲を見渡すと――

 ふわりと、場違いなほど華やかな気配が目に入った。


「おはよう、リリシア♪」


 すっと歩み寄ってきたのは、セレナさんだった。

 彼女は、出発前のこの場所に似つかわしくない、淡いブルーのドレス姿。細かな刺繍があしらわれた布地が朝日にきらめき、まるで舞踏会にでも向かうような装いだった。


 周囲の冒険者たちが鎧や戦闘服に身を包む中、ひとりだけ、まるで“いつものまま”の姿で立っている。だけど、それが不思議と馴染んでいるのは――きっと彼女が、ただ者じゃないからだろう。


「……おはようございます、セレナさん」


 思わず背筋が伸びて、私は小さく会釈する。

 彼女は微笑みながら、私の装備にそっと目をやった。


「うん、とっても似合ってるわね、リリシア」


「あ、ありがとうございます……」


 そう言いながら私が少しだけ身を引き締めると、セレナさんの視線が、ふと私の腰に注がれた。


「あら……短剣なんて、持つようになったのね?」


 私は思わず手を添えながら、少しだけ視線を逸らした。


「っ……あ、これは、その……一応、護身用で……」


 セレナさんはそんな私を見て、くすっと笑う。


「ふふ。鞘から抜ける日は来るのかしら?」

 

「……それは、まだわかりません」


「でも、いいと思うわ。持つだけでも覚悟になるもの」


 セレナさんの言葉は、軽やかだけど――

 どこか、私の変化を見抜いているようで、胸の奥が少し熱くなった。


 セレナさんの言葉に小さくうなずいた、その時だった。


「――全員、注目ッ!」


 鋭く、よく通る声が広場に響き渡った。


 思わず肩をすくめてそちらを向くと、ドラグニアさんが、議事堂の正門前に設けられた簡易の壇上へと力強く歩み出ていた。


 彼女の声は、ふだんの丁寧さと荒っぽさが混ざったものではなく、まるで訓練場で号令をかける軍の指揮官のようだった。

 その場にいた全員が、自然と動きを止め、静まり返る。


「これより、《魔獣出没区域の調査・及び討伐任務》を開始する!」


 風になびく赤髪と、褐色の肌。鋭いまなざしが全体をぐるりと見渡す。


 ――そして、彼女の視線がふと、こちらをとらえた。


 一瞬だけ、ドラグニアさんの目がやわらかくなった気がした。

 ほんの一瞬だったけど、確かに私に向けて、小さくうなずいたのがわかった。


 私は、背筋を伸ばし、うなずき返す。


 それを確認すると、彼女は再び視線を全体に戻し、いつもの鋭さを取り戻していた。


「討伐隊は、三班に分かれて行動する。詳細な編成と役割は、すでに各隊長に伝えてある。すぐに確認し、出発に備えろ!」


 凛としたその姿に、どこか息を呑んでしまう。

 いつもの私たちに対する面倒見のいい“ドラグニアさん”とは、まるで別人のようだった。


「繰り返す。各自、持ち場と役割の確認を。予定時刻になり次第、現地へ向けて出発する――以上ッ!」


 最後の言葉が空気を切り裂くように響くと、広場に再び動きが戻った。

 隊員たちが小さくうなずき、それぞれの隊長のもとへと動き出していく。


 私は、息をのんだまま立ち尽くしていた。


 ――すごい……これが、ドラグニアさんの“本当の顔”なんだ。


「ふぅん……朝の静けさが台無しね」


 隣から、セレナさんの小さな声が聞こえた。


 見ると、彼女は涼しい顔で紅茶を啜るみたいに、優雅に髪を払っている。


「戦場じゃないんだから、もう少し静かにできないのかしら」


「……セレナさん、それはちょっと……」


 思わず苦笑いが漏れたけど、少しだけ肩の力が抜けた気がした、そのとき――


「おい、そこの場違い女。聞こえてんぞ」


 低く、だが確実に響く声がこちらに向けられる。


 セレナさんの指先が、ぴたりと止まった。


「……は? 誰が“場違い”ですって?」


 振り返った彼女は、にっこり笑っていたけれど、その目はまるで笑っていなかった。


「戦う気あるのか? そのドレス……舞踏会と間違えたのかと思ったぞ」


「うふふ……ごめんなさい、目立ちすぎちゃって。あなたには、目立つ方法が“声量”しかないものね?」


 どちらも一歩も引かない、涼しい顔での応酬。

 ――でもなぜだろう。なんだかこのやり取り、すっかり“いつもの空気”に感じてしまった。


「……あの、仲良しなんですね?」


 ぽつりと漏れた言葉に、二人の視線がぴたりと私に向く。


「「仲良くない!」」


 声がぴったり重なったのは、偶然じゃない気がした。


 私は思わず、苦笑いを浮かべてしまう。


 ◇◇◇


 場所は変わって、グラディス南方に広がる森へと向かう道中。


 朝の光を受けながら、私たちは整然とした隊列で進んでいた。


「――今回の編成について、軽く説明しておくぞ」


 前方を歩いていたドラグニアさんが、少しだけ振り返り、私たちに声をかける。


「前衛は私が務める。セレナは魔法で私達の支援だ。リリシア、お前はセレナの指示に従ってサポートに回れ」


「……はい、わかりました!」


 少し緊張しながらも、なんとかしっかり返事をする。


 隣にいたセレナさんが、ちらりと私を見て小さく微笑んだ。


「ふふ、頼りにしてるわよ? “新人さん”」


「……が、がんばりますっ」


「ふん、無理だけはするなよ。おまえが無茶したら、マグナス殿に怒鳴られるのはこっちなんだからな」


 そう言いながら、ドラグニアさんは一瞬だけ口元を緩めた。

 それはどこか安心したような、それでいて頼もしい笑みに見えた。


 周囲にはまだ朝靄が残っていて、湿った草の匂いが鼻をかすめる。

 足音が小さく地面を踏み鳴らしながら、私たちは慎重に森へと歩を進めていった。


 やがて、森の入り口が見えてきたところで、ドラグニアさんがぴたりと足を止める。

 そして、振り返って声を張った。


「今回の標的は、小型の魔獣どもだ。身体は小さいが、油断すんなよ。あいつらは数が多い」


 その声に、冒険者たちがぴたりと足を緩める。


「一匹一匹は大した相手じゃねえ。腕の立つ奴なら一人でも倒せる程度だ。だが……最近は群れを組んで出てくる。下手すりゃ、囲まれて終わりだ」


 私は思わず背筋を正した。


「今回は、奴らの出没地点に近い森の奥まで踏み込む。こっちも戦力は十分だが、油断すんな。数で押されりゃ、こっちが不利になる」


 ドラグニアさんの視線が、ちらりと私に向く。


「リリシア、特におまえは初陣だ。セレナの指示に従って、サポートに集中しろ。前には絶対出るな」


「……はい!」


 ぴしっと返事をした私に、隣のセレナさんがふっと笑みを向ける。


「そんなに張り詰めなくていいのよ。ちゃんと支えてあげるから、安心してついてきて」


「……ありがとうございます、セレナさん」


 小さくお礼を言うと、セレナさんは「ふふ」と微笑んで、軽く目を細めた。


 その直後――


「――行くぞ、気を抜くな!」


 ドラグニアさんの低く鋭い号令が飛ぶ。


 一斉に冒険者たちの空気が引き締まり、私たちは森の奥へと足を進めた。


 木々の間から差し込む陽光が斑に揺れ、葉擦れの音が耳に心地よいはずなのに、どこか不穏な気配が空気を震わせていた。


「……来るわね」


 先頭を進むドラグニアさんがわずかに足を止め、セレナさんも同時に立ち止まる。私も思わず足を止めた。


 そして――低い茂みの影から、小型の魔獣が一匹、ぬるりと現れた。


 灰色の体毛に、鋭く光る黄色の眼。


 「よかった……一匹ですね……」


 思わず、ほっと息を吐いたその時。


「――リリシア、やってみなさい」


 隣から、セレナさんが静かに言った。


「えっ、わ、私が……!?」


「ええ。落ち着いて、最初に教えた通りよ。あれなら、今のあなたでも倒せるはず」


 魔獣はこちらに気づき、低く唸り声を上げながら近づいてくる。


(落ち着いて……落ち着いて……!)


 私は深く息を吸い、右手を前に突き出す。


「《ライト・スパーク》!」


 ――パッ、と光がはじけるように走り、魔獣の顔面を直撃した。


 ギャッ、と悲鳴のような声を上げて、その魔獣は地面に崩れ落ちた。


「や……やった……?」


 おそるおそる呟いた私に、セレナさんが軽く拍手を送る。


「ふふ、お見事。“新人さん”にしては上出来ね」


「おう、思ったよりやるじゃねぇか」


 ドラグニアさんまで微笑みながらうなずいてくれる。


 胸の奥に、じんわりと温かいものが広がった。


「えへへ……少しだけ、自信ついたかも……!」


 思わずこぼれたその言葉に、周囲から小さな笑い声が漏れた。


 ちらりと見れば、周りの冒険者たちもどこか嬉しそうにこちらを見ていて、中には親指を立ててくれる人までいた。


 ……そっか。私、ちゃんと“みんなの中”にいるんだ


 胸の奥がほんのりと熱くなる。これまでとは違う、確かな手応えがそこにあった。


 ――けれどその束の間の安堵を、次の瞬間に打ち消すように。


「……リリシア、気を抜くな。まだ終わっちゃいねえぞ」


 唐突に低くなったドラグニアさんの声。その目は、すでに別の方向を見据えていた。


「……セレナ」


「ええ。気配が増えてるわね――囲まれてるわ」


 私は息を呑んだ。


 森の空気が、ひやりと凍るような気配に変わっていく。


「囲まれた……!?」


 思わず周囲を見渡す。どこからともなく、低く唸るような音と、枝を踏みしめる足音が近づいてくる。


「リリシア、落ち着け。まだ冷静に対処できる」


 ドラグニアさんが鋭く言いながら、一歩前に出る。


「全員、陣を組め! 前衛は円形を維持! 中衛は後方支援、後衛は回復と魔法支援を!」


 その声に、冒険者たちが一斉に動き出す。各自の武器が抜かれ、素早く配置につき、地面を踏む音が力強く重なる。


 私はセレナさんの隣で、背中を守られる位置に立ったまま、震える指先を必死に落ち着かせようとする。


 その瞬間――


 茂みを裂くように、数匹の小型魔獣が飛び出してきた。


 牙を剥き、目を光らせた魔獣たちが、一気に前衛へと襲いかかる。


「来るぞっ!!」


 ドラグニアさんが咆哮のように叫ぶと同時に、大剣を振り下ろす。その一撃で先頭の魔獣が吹き飛び、地面に叩きつけられた。


 けれど、それでも止まらない。次から次へと現れる魔獣たちが、前衛の冒険者たちに群がる。


「……っ、しまった!」


 前衛の一角――小柄な剣士の横をすり抜けた魔獣が、一匹こちらへと飛びかかってきた。


「リリシア!」


 セレナさんの声に、私は咄嗟に手をかざす。


「――《ライト・ボルト》!」


 光の矢が放たれ、魔獣の体を貫いた。直後、セレナさんの放った氷の魔弾が追撃し、魔獣は地面に崩れ落ちる。


「ふぅ……た、助かりました……」


「まだよ。気を抜かないで、次が来る」


 セレナさんが鋭い声で言う。


 私は大きく息を吐きながら、再び魔力を練り始めた。


  ――魔獣の群れは確かに数が多かったが、隊列を崩すことなく、冒険者たちはそれぞれの持ち場で的確に動いていた。


 前衛が引きつけ、中衛が的確に削り、後衛の私たちがその隙を狙って魔法で支援する。


 どこかで叫び声があがるたびに、ドラグニアさんの号令が響いた。


「下がれ! そいつは俺がやる!」「弓手は左を見ろ、来るぞ!」


 その声に応じるように、皆の動きが噛み合っていく。


 ……すごい。これが、現場の戦い……!


 息を呑む間も惜しむような数分が過ぎた頃、ついに――


「……よし、終わったな」


 ドラグニアさんが大剣を振り下ろし、最後の一匹を地面に沈める。


 その声を合図に、場の空気が少しだけ緩んだ。


 セレナさんが魔力を収め、ひとつ息を吐く。


「ふふ……紅茶が恋しくなるわね、こういうのは」


 私はその言葉に思わず笑ってしまった。


 周囲の冒険者たちも、互いに軽く肩を叩き合い、ささやかに安堵の色を見せている。


 空気が緩み始めた、その刹那だった。


 茂みの奥から――最後の一匹が、飛びかかってきた。


 しかもその狙いは、まさかの――


「ドラグニアさんっ!!」


 誰より先に、私は反応していた。


「――《ライト・ボルト》!」


 咄嗟に放った光の矢が、空中の魔獣を貫く。ぎゃっ、と短く鳴き声を上げて、それは地面に倒れ伏した。


 場が、一瞬にして静まり返る。


 ドラグニアさんが、ゆっくりと振り返る。


「……助かったぞ。ナイスだ、リリシア」


「え、あ……い、いえ……!」


 急に注がれる視線に、私は戸惑いながらも、胸が少しだけ高鳴った。


 周囲の冒険者たちも、思わずというように私の方を見て、口元を緩める者、うなずく者、目を細める者――皆、静かに何かを認めてくれたような空気があった。


 セレナさんが、ふっと笑った。


「ふふ、なかなかやるじゃない。」


「へっ……まさか一番の手柄を持ってくとはな」


 誰かのそんな冗談まじりの声に、私は思わず顔を赤くする。


 ――だけど、少しだけ、自分の足で立てた気がした。

 


 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。


 次々と現れる魔獣たちを、私たちは全力で迎え撃った。

 ドラグニアさんが最前線で敵を斬り伏せ、セレナさんが鋭い魔法で援護し、私はその隙を縫って支援魔法を放ち続けた。


 周囲には、冒険者たちの掛け声と魔法の炸裂音、そして魔獣の断末魔が絶えず響いていた。


 そして――

 日はすっかり傾き、森の中にも長い影が伸び始めていた。

 誰もが汗をにじませ、疲労の色を滲ませながらも、なんとか踏みとどまっている。


「よし、今日は一旦退くぞ! 森の外れで他の隊と合流する、夜営の準備に取りかかるぞ!」


 ドラグニアさんの声に、静まりかけた空気が再び引き締まった。


「了解です」


 誰かがそう返事し、一行は再び動き出した。


 陽が傾き始めた空の下、私たちは森の出口へと歩き出す。ほんの少しだけ軽くなった足取りで――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ