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魔王なんて柄じゃないけど、平和のためなら頑張ります!  作者: マロン
第一章:「リリシア様の日常(たまに非日常)」編
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プロローグ

 ――この世界は、かつて争いの炎に包まれていた。


 魔族と人族。エルフ、獣人、竜人、そして人魚たち。

 それぞれが、それぞれの正義を掲げ、互いに刃を向けていた。


 ルミエルの地では、種族同士の争いが絶えず、

 魔族たちの間でも、血で血を洗う抗争が繰り返されていた。


 そんな時代を変えたのは、一つの“統治”だった。


 魔族の中から一つの家系――

 ディアブローム家が魔族領を統一し、

 “魔族の国”ディアヴェルドが誕生した。


 しかし、それは同時に、他種族にとっての“脅威”となる。

 各地の王たちや族長たちは危機感を覚え、種族の壁を越えて手を取り合い、ルミエル連合が結成された。


 やがて、二つの勢力は衝突する。

 世界を二分する、数百年に渡る大戦争の時代――


 幾度となく戦火が広がり、多くの命が失われた、その戦争を終わらせたのは、ひとりの魔王だった。


 マグナス・ディアブローム。

 剣ではなく言葉を、力ではなく誓いを――

 彼は各種族の代表たちと幾度も話し合いを重ね、長き戦争に終止符を打った。


 それは、世界が初めて迎えた“真の和平”だった。


 ……けれど。

 その影では、いまもなお“認めない者たち”がいる。

 種族の誇りを、怨念を、力への渇望を手放せない者たちが。


 そして――

 時の彼方に葬られたはずの“何か”が、静かに目を覚まそうとしていた。

 誰も知らず、誰も気づかぬまま。

 再び、世界を揺るがす波紋が広がろうとしている。


 だからこそ――


 平和の象徴として、ひとりの少女が“魔王”を継ぐことになった。


 争いを知らぬ世代。

 戦火の記憶を持たぬ者。

 その存在が、未来への“信頼”となるように。


 その少女の名は――

 リリシア・ディアブローム。


 これは、“彼女の物語”が始まるずっと前の――

 ほんの小さな、ひとつの勇気の記憶。

 

 

 「おねーちゃ〜ん!!こっちこっち!」

 

 森のはずれ。

 暖かい風が木々を揺らし、ティナの元気な声をそっと運んでくる――


「ちょっとまってー!」

 

 私の声は、森のはずれに優しく響いた。

 

 小さな背中が、風に吹かれて草むらの向こうへ跳ねていく。

 少し困りながらも、私は足を速めた。

 

 ――いつもの、平和な朝。


「も〜っ、遅いよぉ〜!」

 

 ティナが笑顔で振り向き、無邪気に手を振っている。


 その時――

 

 ふと、森の奥がざわめいた。

 小枝が折れる乾いた音が、森に響いた。

 次の瞬間、空気が変わる。重く、湿っていた。


 ティナの背後――その茂みが、ゆっくりと揺れた。


「……なに……?」


 声がかすれる。

 胸の奥で、何かがじわじわと広がっていく。


 嫌な予感がした。けれど、目をそらせなかった。

 


 ティナが、無邪気に手を振る――


 ……その後ろ。

 

 茂みの奥から、黒い“何か”が、じり…じり…と近づいてくる。


 闇の中に、ぎらりと赤い光がふたつ――

 それは、静かに狙いを定めていた。


 怖い。怖い。

 助けてって、誰かに叫びたかった。

 体が勝手に震えて、息がうまく吸えない。


 でも――


 ティナがいる。あの子は、まだ気づいていない。


 逃げたい。後ろに走って、どこか遠くへ行きたい。

 だけど、それじゃ……ダメだ。


 私が行かなきゃ。私が――ティナを、守らなきゃ。

 

 一歩だけでいい。

 それでも、私は――進まなきゃいけない。


 震える足に、力を込めた。

 喉が震える。けれど、声を出さなきゃ――!


「ティナーッ! うしろーっ!」

 

 叫びながら駆け寄る私に――

 ティナが、はっと振り向いた。


 その後ろで、両親の足音が草を踏み鳴らす。


 だけど、それより早く。

 “それ”が、茂みから姿を現した。


 四つ足。牙。鈍く光る、赤い目――

 パパの本に載っていた“魔獣”に、そっくりだった――


 魔獣は、ティナのすぐ側で低く喉を鳴らしている。

 今にも飛びかかりそうな態勢だった。


 ティナは足がもつれ、その場にしゃがみこんでいる。

 大きく見開いた瞳に、恐怖の涙が溜まっていた。


 私たちは必死に駆け寄った。

 でも、遠い。――間に合わない。


 魔獣が、ティナを狙って腰を沈める。

 今まさに、飛びかかろうとしている――!


「ティナーッ!」

 

 私の叫びが届くより早く――

 魔獣は、音もなく跳んだ。


 ティナの小さな背中に、黒い影が覆いかぶさる。


 間に合わない……!


 その時……


 私の右手が、熱を帯びた。


 何かが、指先から脈打つように走り、

 眩い光が――右手の甲から、ほとばしった。


 一瞬時が止まったようだった――


 その光は、あたたかく、やさしく。

 世界を包み込むように広がっていく。


 白く輝く羽のようなものが、ふわり、ふわりと空に舞った。


 「……なに……?」


 いったい何が起きたのか、わからない。

 混乱する中――


 魔獣の、低く唸る声が響いた。


 ――視線が、そちらに向く。


 魔獣は、眩い光に反応するように身をよじった。

 赤い目が細まり、狂ったように暴れ始める。

 

「――なに……?なんで……痛がってるの……?」


 魔獣は鋭い爪で土をえぐり、牙を剥いて苦しげに吠えた。


 私は……見ていることしかできなかった。

 足が震えて、動けなかった。

 声も、出なかった。

 

 魔獣は、まるで光を振り払うように暴れ回った。

 爪が地面を裂き、牙が宙をかむ。

 苦しげな唸りが、喉の奥からひき裂くように響く。

 赤い目がぎらつき、何かを叫ぶように口を開けた――


 だが、次の瞬間。

 眩い光に包まれた魔獣の体が、ゆらりと揺れ……


 膝を折るように、力なく崩れ落ちた。


 その直後、しぼり出すような咆哮が響き――

 すべてが、静かになった。


 そして、私の右手からあふれていた光が――ふっと、少しだけ弱まった。


 けれどまだ、消えきらない。

 右手は、まだ淡く光を放っている。


「……なに……? いったい……なにが起きて……」


 私は、何が起きたのか理解できず、ただその場に立ち尽くしていた。

 右手が、じんわりと熱い。心臓が早鐘のように鳴っている。


「……リリシア! 」

 

 ママが駆け寄ってきて――ぎゅっと、私を抱きしめた。


 その瞬間。

 右手を包んでいた光が、ふわりと宙に溶けるようにして、静かに消えていった。

 ――代わりに。

 肌の上に、淡い桃色の“刻印”が浮かび上がっていた。まるで光が跡を刻みつけたかのように、はっきりと、そこに。


「もう大丈夫よ……」

 

 優しい声。震える手。息が詰まるほどのぬくもり。

 私も、ようやく震えた手でママの服を握る。


「ティナは……!」


 顔を上げると、パパがティナのそばにしゃがみこんでいた。

 倒れて気を失っているティナを、そっと抱き上げている。


「大丈夫……無事だ。ケガも……たいしたことない」


 パパの声に、ホッとし、少しだけ安心した。


 その瞬間、全身の力が抜け、私は気を失った。

……そして、この出来事を――私は二度と思い出すことはなかった

今回初めて書いてみました。

なにかと至らない点があるかと思いますが優しい目で見守ってください。

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