金魚すくい
仕事からの帰り道。夜でも蒸し暑いなか、お寺の近くから人々の喧騒が聞こえてきた。
夏祭りでもやってるのかな?
ちょっとだけ覗いて帰ろうか。
なかなか大きなお祭りらしく、屋台が立ち並び、家族連れや浴衣を着た男女、私のような会社帰りの人たちで賑わっていた。
リンゴ飴だ。焼きそばも売ってる。あー、祭りって感じ。
屋台をひやかしていると、金魚すくいの看板が目にはいる。
黒と赤の金魚だ。
「やってく? 一回三百円だけど」
じっと見てたら、店員さんに声をかけられ、やってみようかなという気分になる。
「やります」
夢中になって挑戦し、何度目かで、黒い金魚と赤い金魚、一匹ずつすくうことができた。
袋の中で泳ぐ金魚に満足し、家に帰ったのはいいのだが。
水槽がないや。明日にでも買いに行かなきゃ。
自分のうっかりに頭を振り、とりあえずバケツに水を入れ、金魚をそこに放す。
ごめんね。しばらくそこで我慢してて。
◆◆◆
翌日、会社帰りに小さな水槽を買い、家に帰ると、黒い金魚が死んでいた。
やっぱり、バケツじゃ駄目だったのかな……。
残念で可哀想だけど、仕方ない。
黒い金魚を土に埋め、申し訳程度のお墓をつくる。
「こっちの子は大丈夫かな? なるべく長生きしてくれたらいいけど」
水槽に赤い金魚を入れ、泳ぐ姿を眺めて、瞬きした瞬間、私は水の中にいた。
え、……え? どういうこと? 何これ?
口からプクプクと空気の泡が漏れる。
紛うことなき、水中だ。
いや、おかしい! 普通に呼吸できてるのもおかしいけど、水の中にいること自体が異常なことだ!
水中で暴れると、壁みたいなものがあることに気づく。
透明な壁? あ、外側に誰か、何かがいる?
私が私を見ていた。
「こっちの子は大丈夫かな? なるべく長生きしてくれたらいいけど」
私が私を見てそう言った。
END
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