表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

序章

水温、摂氏8.3度。

胴長のゴム越しに、それが膝から染みてくる。冷えた身体は、まず感覚を失い、それから視界がじわじわと暗くなる。

俺は、それを数値で理解していた。

けれど、知識は寒さを防いではくれない。


ヘッドライトの光が、川面で波紋を描いて揺れる。

対岸の茂みから、かすかに笑い声がした。何を笑っているのかは、わからない。

作業が始まって一時間。言葉は少なく、動きは機械的だった。


俺は今、うなぎの稚魚を採っている。

正式名称は「シラスウナギ」。

海で孵化した稚魚が黒潮に乗ってこの川へと辿り着く。透明な体。夜行性。流れに逆らい、川を遡上する。今夜のような朧月の夜が最適らしい。


ここは、高知県四万十市。

大学の先輩から「美味しいバイトがある」と聞いたのは、2週間前だった。画像付きのDMには、こう書かれていた。


《期間限定高額案件》

《内容:うなぎの稚魚の捕獲》

《月収50万円、旅費・交通費支給》


最初は冗談だと思った。

けれど、リンク先にはそれなりの企業名と連絡先。合同説明会の案内もあり、「冬休みだけなら……」と、俺は申し込んだ。


それがどういう意味を持つかなんて、このときはまだ知らなかった。


シラスウナギ。一匹あたり、X円。

単価を聞かされたとき、俺たちは興奮すら覚えた。

けれど、初日の夜、川に立った瞬間、そんな数字は頭から抜け落ちた。

ただ寒かった。

底冷えする水。膝を刺す冷気。ゴム胴長の中に、じわじわと水が染みてきた。


誰も言わなかったが、みんな気づいていた。

「これって……密猟だよな」って。

けれど、口にした瞬間、全てが壊れる気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新連載開始おめでとうございます。 レプトケファルス。 魚類に見られる、平たく細長く透明な幼生のことを指す言葉なのですね。 ラテン語由来の言葉は、ドイツ語同様に無駄にかっこいい(おい)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ