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神獣の倒し方(前編)


仕事が終わり夕食を取り終わった私は1人がけのソファに沈み、頭の中でトライアンドエラーを繰り返していた。

もちろん、誰も犠牲にせず姫様を連れ出す方法について。

だが、婚姻を控えている王女だ。いなくなった途端すぐにバレてしまう。また姫様は日中常に侍女か教師がそばにいる。そして、姫様の部屋は3階だ。周囲の木を全て切られ、隣接している建物がないため、部屋から脱出すらできない。


貴族や王族は相手のことをよく知らない状態で結婚することはザラにある。結婚で縁を結んだり、家に益をもたらすことが貴族としての義務だと私も教わってきた。王族の場合はそれが家ではなく国になる。

そう習ってきたと言ってもそれを受け入れられるかは別である。

姫様の結婚は政略結婚の中では好条件な方であろう。もちろん正妻としての結婚だし、なにより後継者争いの有力な候補で姫様が国母になる可能性も高い。相手の年も近く評判もいい。そして、結婚の話を持ち込んだのは姫様の母君のご実家からで、この国から提案しているのを受け入れてもらった経緯がある。そこに姫様の意思の介入は許されなかったが。

この好条件の婚姻のため、姫様の周囲は特に祝福モードが強かった。私でもその中にいるのは、辛かったのだ。姫様の辛さは私の比ではないだろう。


私も貴族のため、婚約の話は何度かあった。

だが、全て断ってきたし、親も私の執着を知ってるからこそ強く勧めたりはしなかった。

うちの家より身分の高く断れないような話がなかったのは幸いだった。


明日はサイアン様との授業がある。神獣の倒し方を聞かれ、咄嗟に話を持ち帰ってきてしまった。


どう答えようか。神獣様がいなかったら、姫様が死のうとしていることもわからなかった。

神獣様に会うまで姫様の悩みも苦しみもわからず、自分の嫉妬を抑え込むことに必死になっていた。

(姫様の笑顔を見るために生きてきたのに不甲斐ないな。)

今だって、姫様がこの世からいなくなってしまったらと怖くてたまらない。

神獣様が教えてくれなかったら姫様の話を聞くことができなかった、授業の楽しみを一時凌ぎで探すだけになっていただろう。

まだ姫様を傷つけただけで何もできていないが。


(あ、ダメだ。また思考が姫様のことに戻ってきてしまってる。)

頭は姫様のことでいっぱいなのに、サイアン様のことを考えないといけない。

神獣様には恩があるから神獣様を傷つける案を考えることはできない。だが、どう納得させるか。

神獣様は私が姫様のために教師になったのも知っているくらいなのだから、サイアン様との会話も知っているかもしれない。


「神獣様。」

部屋の外までには聞こえないくらいで神獣様を呼んでみた。いつも窓から入ってきていると想定しているので、窓の方をまだかまだかと見てみるが、カーテンが揺れる気配はない。


そのあとしばらく窓を見ていたが、神獣様は現れない。

やはり、自分で考えるしかないか。

神獣様を敵に回すのではなく、協力者になるように手懐けるように提案するのはどうか?

神獣様に好条件の待遇を提示して、協力体制を築くようにサイアン様に促す。確か、英雄王の時代の文献に神獣様は酒を好んでいたと記載があった気がする。それを必要数捧げるのはどうだろうか。

神獣様は讃える祭り、略して神獣祭では供えていたお酒が減っていたという言い伝えもある。

納得してくれるかわからないが明日はそれで提案してみよう。


その後も神獣様は現れることはなく、仕事の準備が終わった私は布団に入ったのだった。




ボフッボフッ

「ぉい。」

眠っていると腹部に上からの圧力を感じる。

「おい。」

ボフッボフッ

「ん?」

布団の上から叩かれているのが感じが止まらず誰かが私を起こそうとしている気がして仕方なく目を開ける。

すると、私の布団の上に見覚えのある猫のような、しかし白くて大きい手がある。

その腕を辿っていると暗闇に光る青い目があった。

「はっ!?」

咄嗟に私は逃げるように身体を動かしたが、白い腕が乗っていたため、腰が少し横にずれただけだった。

「起きたか。」

その低い声を聞き、この暗闇の中私を叩いて起こしたのはこの国の伝説の神獣とわかった。

「何してるんですか!?」

「話があってきたのにお前が寝てるから起こした。せっかく来たのに話さずに帰るわけがないだろ。」

なんと横暴な。一体、今何時だよ。

「さっき、呼んだのに。」

「なんだ、何か用があるか。」

私はベッドの上で身体を起こす。私の腹の上に置かれていた前足が太ももの上に滑り落ちる。ずっしりと重い。でもそれ以上に気になったのはどんな触り心地なのか。

「なんだなんだ!」

欲が我慢できず、人間で言う手の甲の部分を撫でてみた。想像以上に気持ちいい。

毛の密度が高いな。毛自体も柔らかい。

爪は締まってくれているようで布団を突き抜けてこない。すごくいい。

私がいきなり撫でたので神獣様は驚いたようだ。

「つい、触りたくなってしまって。」

「はぁ。で、何の用なんだ。」

神獣様は呆れながらも、そのまま私に尋ねてきた。別に撫でられるのを嫌がってはいないようだ。

「あの、神獣様は私の恋愛事情を知っているほど、物知りではないですか。確認なんですけど、神獣様に危害を加えようとしている人がいることはご存知ですか?」

私がそういうと、私の足の上にある前足がピクっと動いた気がした。

「それは誰だ!私はここ数十年外でこの姿を現していない!お前誰かに俺のことを言ったのか!」

神獣様は知らなかったようで、私にもわかるくらいの殺気を全身で表現した。私の手の下の前足も毛が逆立ったあと、私の掌から逃げ出した。

(またやってしまった。把握しているものだと思っていたが、知らないとは。私が伝えたことによってサイアン様ましては姫様に被害があってはたまらない。)

殺気にあてられ、心拍数が上がり自分の鼓動が聞こえてくる気がする。こちらまで毛が粟立ってきたのだった。



ヤンデレ気質なハイロンですが、立場上ヤンデレになってくれません。ヤンデレ好きとして悲しいです。

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