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少年と少女

ベッドに横になり目を閉じるも思い出すのは姫様の両眼いっぱいに涙を溜め込んだ姿だ。


最悪だ。

これでは追い討ちをかけただけではないか。この世で一番大切な人を傷つけた。

消えてしまいたい。


仕事クビになったらどうしよう。そうしたら、もう2度と姫様に会えないんじゃないか?

姫様が拒否すれば、もう2度と会うことも謝ることも出来ない関係なのに、姫様が優しいことをいいことに踏み込みすぎてしまった。

姫様の心の近いところにいると自惚れてしまったんだ。


私の口から聞きたくないってどういうことなんだろう。結婚なんて一生しなそうなくせにとか?


「どうして泣いてたんだ?」

つい、1人でぼやいてしまった。

「わからないのか?」

部屋に誰もいないはずなのに聞いたことのある声が聞こえてきて目を見開くと、あの晩と同じく美しい毛並みの獣が俺の顔を望みこむようにベッドを見下ろしていた。




それは約10年前の秋。10歳の誕生日を迎えてしばらくのこと。

弱小領主ながらも領主会議には一応出席していた父親に連れられ、私は王宮に初めて来た。

領主の子供たちはお茶会と呼ばれる子どもたちだけの社交の場を開かれており、そちらで話したりお茶をして会議が終わるのを待っていた。

しかし、自分より年上ばかりな上、派閥だか、身分だかで集まっており、子どもだった私には息苦しく王宮の庭を1人で散策していた。

その時、屋敷の窓から1人で歩く私の姿をみた姫様が部屋を抜け出して会いに来ただった。


突然女の子の声が聞こえて生垣からこっちこっちと手招きをされた。

向かってみると綺麗な金髪の女の子がいたずらっ子ぽく笑っていたのが印象的だった。私と同じでお茶会を抜けてきたのかと思ったら、近くにある屋敷を指差して、「あの窓から木をつたって遊びにきちゃった」と言われてその事実と彼女の行動力にとても驚いた。


そのとき、私のカバンに神獣モチーフのチャームがついているのに彼女が興味を示した。

親や教師たちから神獣なんてただの伝説で存在しないと言われ、神獣を信じながらもチャームまでつけているのを見られて恥ずかしいと思った。

しかし彼女はそのチャームを褒めてくれただけでなく「私も神獣はいると思っているの」と話してくれた。神獣なんて存在しないと言われてた私に彼女は否定せず一緒に神獣のことを考えてくれ仲間ができたみたいで嬉しかった。

歴史を勉強し、神獣がおこなった可能性のある話や神獣が傷を残した建物の話などを話すととても喜んで聞いてくれて、彼女に聞いてもらいたいと歴史にのめり込んで行った。彼女の笑顔を見たくて勉強し、その勉強をしていても彼女のことを考えるようになり、それが身に無相応な恋をしてしまった始まりだった。

彼女も同じ年頃の友達はほとんどいなかったのだろう。領主会議の期間中、部屋から抜け出して私との時間を作ってくれた。

しかし、領主会議が終わると当たり前だが領地に帰ることになった。私たちは翌年もまた一緒に話そうと約束した。そして私は彼女に褒めてもらったチャームをプレゼントし、地元で同じものを買ってお揃いにすることも約束した。

それが、彼女と身分を気にせず話せた最後だった。


それから姫様に会った時に聞いてもらうことを楽しみにたくさん歴史を勉強をし、思い出話も作り満を持して領主会議に向かった。もちろんお揃いになったチャームをカバンにつけて。


一緒に遊んでいた場所にいくと一通の手紙が生垣に綴りつけられていた。

それは彼女からの手紙だった。

隠れて抜け出していたことがバレてしまったこと、そのため屋敷周辺の木が全て伐採されてしまったこと、今年からはお茶会で社交をするように言われたことが書かれていた。最後に本当は今年も2人でお話ししたかった、楽しみにしていたと書かれていた。

それを読んで残念に思いながらも、お茶会に行けばまた彼女に会えると希望を持ってお茶会に参加した。しかし、お茶会で待っていたのは絶望だった。

彼女は国王の長女であり、昨年末国王の第一子である長男が亡くなったことにより国王の子の中で一番の年長者になっていた。そのため、今回のお茶会では姫様が主役だった。姫様の周りには常に公爵や侯爵の息子や娘が蔓延り、その周りを伯爵の子たちがお近づきになるタイミングはないかと今か今かと探っている。お茶会の中では年少者で子爵の息子である私には近づくことができなかった。

領主会議の期間中、お茶会は毎日のように開催されたが、私は順番にならんで自己紹介と挨拶をしただけで追いやられてしまった。

お茶会の最中、姫様は何度かこちらに視線を向けてくれたが、私には自分の家より身分の高い年長者を押し退けて姫様に近づくことが出来なかった。

昨年はずっと隣で笑っていたのに、もうそばに近づくことが出来ない。あの笑顔を向けてもらえない。

子どもながらにどうすれば姫様のそばに行くことができるか考えた。運動神経には恵まれてなかったものの、勉学面に秀でていた私は教師になる道を選んだ。しかし人並みでは、2個しか年が離れていない姫様の教師になることは出来ない。そのため、飛び級をしてでも早く一人前になりことが必要だった。

そして、やっと一年半前、姫様の家庭教師になることができたのだった。

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