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姫様の弟

あれから数日たったが、姫様にあの本のことを聞くことができていなかった。

何をしていても姫様のことを考えてしまう。


「では次のページ開いてください。

建国して80年当時の第一王子と第二王子の跡取り争いが起こり、その際に神獣様が現れ第二王子陣営を勝利に導いたとされています。第一王子は北の大国ゾピペ王国と共謀し、国土を譲り渡そうとしておりましたが、第二王子と神獣様の一騎当千な働きにより国土を守ることができました。」


姫様の弟君サイアン様の授業中ですら、姫様のことが頭から離れない。


「ねぇ、リード先生って神獣はほんとにいるって思っている派だよね?」

サイアン様は姫様と同じ水色の瞳を私に向けた。

姉弟よく似ている。彼は今年13歳で姫様と5つ離れている。


「はい」

実際に会ってしまったしな。想像以上でデカくて驚いた。でも想像以上にモフモフしていてあの毛並みを撫でてみたい。首元やお腹に飛び込んでみたい。


「もしさ、神獣が現れたとしてどうしたらやっつけられると思う?」

「はい?」

やっつける!?

何を言っているんだこの方は。王族は神獣様に感謝しこの国栄光を祈る祭りを開催しているくらいなのに。


「そりゃ、味方だったら心強いと思うよ?でもさ、他の王子に神獣様がついたらピンチすぎない?王子はみんな父上から聞くんだ。神獣様を絶対に怒らせちゃいけないって。俺たちからは見えないけど見張られているって。」


確かに視点を置き換えてみれば、神獣は邪魔な存在なのかもしれない。建国80年や、英雄王の時代も勝ったのは神獣側だが、負けたのも王族だ。

どんな基準で神獣様は味方になっているのだろう。そう思うと、今回神獣様が私の前に現れたのは姫様にとって良いことなのだろうか。

だが、神獣様のおかげで姫様が死のうとしていることを知れたし私としてはありがたい話だが。


「とても良い発想ですね。この国の守護者という言われているだけにその視点で見れていなかったです。」

サイアン様の着目点に脱帽だ。私は絵本や教科書通りに神獣様を正義のヒーローの相棒のように捉えていた。もちろん他国からしたら恐るべきものだとは思いつつも、国内の場合でも神獣様がつく相手によってはヴィランになるという発想にいたれてなかった。

その視点で歴史を考えるとより捉え方が変わる事象もでてくるだろう。面白い。


「怖いんだよ、神獣は王族全ての味方なわけじゃないんだ。それどころか王族を恨んでるかもしれない。リード先生は知ってる?建国後神獣が現れたのは3回だけじゃないんだって。20本の剣で刺してもまだ動いて、とどめを刺す前に消えちゃったことがあるんだって」


初耳だった。神聖視されている神獣にそんなことをしていたって想像がつかなかった。今まで神獣関連の本はできる限る読んできたつもりだか、そんな話聞いたことがなかった。

神獣様はやはり自由に姿を現したり、消したりできるってことだ。そして、私の部屋にいきなり現れたってことは大きさを変えるか、壁や扉をすり抜けることができるのだろう。


「それも陛下からお聞きしました?」


「うん。父上から。昨日他の王子たちと一緒に聞いたんだ。

あんまり話しちゃいけないらしいけど、神獣を殺す方法をリード先生に一緒に考えてほしくて。」


サイアン様、人選ミスがすぎるって!!

冷や汗が背中を伝う。サイアン様のいう通りもし見張られているというなら下手なことを言えない。神獣を殺す方法なんて論外だ!

神獣様は俺の恋愛事情すら知っているんだ。そう思うとどこで見ていたって可笑しくない。

喉が引き締まった気がした。

口の中が渇き、用意されていた紅茶を一気に口に含む。


「どうして20本の剣で刺すっていう残忍な行為をされたんでしょう、理由は聞いていますか?」


「その時の后が、王太子を殺そうとしたら神獣が邪魔して殺せなかったんだって。そうしたら、神獣を脅威に思った王様が王太子と神獣を密室に閉じ込めてご飯も水もあげなかったんだって。1ヶ月くらいたって部屋にいくと神獣の姿はなかったんだけど、王太子の遺体に触ろうとしたら突然現れて襲いかかってきたからみんなで囲んで剣で刺したって。やばいよね。絶対神獣は王族恨んでるって。怖すぎっ。」


サイアン様はそういって自身の両方の二の腕をさすった。こんな重い話を自分では抱えきれなかったのだろう。


絶句とはこのことをいうのだろう。つまり国王が王太子を餓死させたと。

今まで信じていたものが足元から崩れ落ちていく気がした。


「さらに攻撃したら、余計神獣様から怨みを買うのでは?」

すでに王族やこの国を神獣様が恨んでいてもおかしくないのではないか。気づかないうちにあの鋭い爪が自分の首元にかかっているかもしれない。第一見えていても倒せる相手じゃないのに姿を消したり現したりできるなんて殺す方法はないのではないか。


「リード先生、わかってないなぁ。せっかく姉上が隣の国の王妃になるかもしれないんだよ。王太子を産んだら国母だよ。これからこの国は俺の天下になるかもしれないのに、神獣なんかに邪魔されるわけにはいかないんだよ。何も対策しないなんて馬鹿だろ。」


わかっていた、わかっていたはずだった。確かにサイアン様は姫様の婚姻を誰よりも喜んでいた。

でもサイアン様の野心を私は理解できてなかったのだろう。わかっていたはずなのに何故か悔しくて両手を強く握りしめた。

姫様が王妃や国母になることによって、サイアン様が姫様が信じていた神獣を殺そうとする。

やりきれない思いが私の心を占める。

しかし、顔に出すわけにはいかない。


「サイアン様から聞いたお話を元に私なりに少し考えてみますね。さぁ、授業の続きしますよ。」


私は表情を取り繕いながら、授業を再開したのだった。


あぁ、姫様に会いたい。あの笑顔を私に向けてほしい。

それだけで私はなんでもできる気がするのに。

あいにく今日は姫様の授業は入っていなかった。


その後1人になったところで、「神獣様、話があります」と呼びかけても、あの白い獣は現れなかった。


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