嫉妬な朝
その後、私は寮に荷物を取りに一度戻り、いつもと違う最高品質なベッドと枕でぐっすり眠った。
私は早起きが得意な方で、イレギュラーな環境ではあるが、翌日も問題なく起きることができ朝食が運ばれてくるまで読書をする時間が作れていた。
以前は歴史書や歴史小説を読み漁っていたが、最近は経営や就職について、土地や家を選ぶ基準を学べる本を読むようにしている。
行儀が悪いとわかりながらも、本を読みながら食事をしているとテラスの方から話し声が聞こえた。
聞き慣れた声に聞こえて、テラスに出てみる。
「よう、ハイロン!今日もよろしくな。」
テラスを出ると同時にアフィ殿下に声をかけてきたのはアフィ殿下だった。その奥には、聞き慣れた声の正体である姫様が一緒におられた。姫様は声に出さずきっと「おはよう」と言ってくれているだろう口の形で挨拶をしてくれた。
2人はアフィ殿下の部屋に繋がるテラスで朝食を囲んでいるようで、私がカーテンを開けて外に出てきた音に気づいたのかこちらに体を向けられていた。
「アフィ殿下、姫様おはようございます。殿下、本日もよろしくお願いいたします。準備を終え次第お部屋にお伺いさせていただきます。」
「おう。急がなくていいからな。」
自室に戻りつつ、朝食を再開させる。
(昨夜アフィ殿下は、朝食を姫様と一緒にすると話していただろうか?朝から姫様のお顔を見ることが出来たのは嬉しいが、私は姫様と朝食を共にしたことがないのに。もちろん、朝食を共にすることは教師の領分から反していることはわかってはいるが…。こんな嫉妬をしてこの先やっていけるのだろうか?)
本に栞を挟んだまま、食事に集中する。カーテンが不自然に揺れたのが見えた。手を止め、水で咀嚼していたものを飲み込む。
「ググおはようございます。」
「おはよう。気にせずそのまま食べてていい。昨日は寝るの早かったな。」
私の予想は当たっており、白い獣が目の前に現れた。お言葉に甘えて私は食事を再開させる。
「昨日?疲れてたのでいつもより早く寝たのですが、来られたのですか?」
「あぁ、サリーが行ってくれって。近かったから起こさず帰ったが。世話役のこと止められなくて悪かったって。でも、普段よりお前に会える機会が増えるのが嬉しいってさ。」
姫様が私を気遣ってくださってるってだけでも嬉しいっていうのに、私と同じようなことを考えてくれているということについ顔がニヤけてしまい、口元を押さえる。
だが、昨晩の自分の失態を思い出し我に帰る。
「昨日の私の失言について姫様は?」
「あぁ、気にするなってさ。」
「そうですか。」
ほっとしつつ、昨日からずっと気になっていたことをググに聞いてみることにした。
「その、姫様はアフィ殿下のことどう話してました?かっこいいとか魅力的とか…。何か言ってました?あの、ニヤニヤしないでもらえます?私は真剣なんですが…。」
話している途中から、この獣は顔を緩ませ始めた。
「そりゃ、気になるよな。お前と違ってアフィディは凛々しくて背も体格も良くて、暴漢に襲われたとしても守ってくれそうだしな。」
ググの一言一言がグサグサ私の心に刺さる。それをわかっててググは楽しそうにアフィ殿下を褒めたのだろう。
「アフィディは野蛮で馴れ馴れしいってサリー怒ってたよ。心配するな、お前たちには俺がいる。サリーと一緒にいるお前ごと俺が守ってやるよ。」
その言葉を聞いて安心と喜びをもらった。
正直、見目もよく男らしく、実力もある将来有望なアフィ殿下に会ってしまった今姫様は隣国に嫁ぐことに心変わりしないだろうかと考えてしまっていた。アフィ殿下に怒っている姫様は想像できるが、それを直接聞けない今ググからこの一言でとても安心した。
そして、私のことも守ってくれるというググはとてもかっこよかった。その言葉を信じられる実績と自信を彼はもっていた。
私の長年の憧れであり姫様のことと同様に私の人生の支柱である神獣様が、このように頼もしく優しく尊敬できるだけでなく協力をしてくれているということがものすごく嬉しかった。
「ググがかっこよすぎて安心できないですよ。」
照れ隠しでそう言ったが、ググには見透かされていそうだ。
「フッ。神獣って呼ばれるのも納得のかっこよさだろ。俺に惚れるなよ?」
「私は姫様一筋なんで。」
私がそういうとググは嬉しそうに私の髪をクシャクシャと触った。
「そういうのはサリーに直接言ってやれ。
お前に良いことを教えてやる。サリーはかなり嫉妬深いぞ。お前が想像していないくらい。」
「そうなんですか?」
私としては姫様が嫉妬深いと思ったことはないが、まだ姫様が私のことを好いてくれているとわかってから日も経ってないからだろうか?
(嫉妬をしてるのは私だけではなかった…。)
「なるべく気をつけてやってくれ。」
「気をつけてみます。」
(なるべく女性と2人っきりになるのはやめておこう。)
先程まで姫様と朝食を共にするアフィ殿下に嫉妬していたのに、姫様も嫉妬してくれていることがあるとわかり、つい心が躍る。
「ところで今朝は姫様とアフィ殿下は朝食を一緒にするお約束をされていたのですか?」
「いや、早朝にいきなり使いが来て慌てて用意したんだ。おかげで俺まで寝不足だよ。」
ググもやはり睡眠を取るようだ。ググと会ってからも神獣様は私の生涯の研究対象であり、会うたびに記録している。もちろん、公表できる情報ではないので完全なる自己満足だ。
「そうだったんですね。アフィ殿下から朝食のことお聞きしていなかったで、少し驚いてしまいました。」
姫様とアフィ殿下が一緒にいるだけで心がざわつくのに不意打ちは心に一層悪い。
「あっ、忘れてた。ハイロンに渡そうと思ってたものがある。俺の首にかけられてるポーチの中身を出してみろ」
白い毛が邪魔をして気づかなかったが、ググは確かに小さいポーチを首から下げていた。
「可愛いですね。」
手作りだと思われる花柄のポーチでつい笑みが溢れてしまう。
「似合うだろ?子どもが作ったものを使うのは親の役目だからな。」
とググは誇らしげに言う。
頷きながら中を開けてみるとそこには一つの笛が入っていた。
「これは?」
「犬笛だ。俺は犬じゃないけどな。お前にやるよ。人間に聞こえない高い音が出る。何か困ったことや緊急事態が起きた時それを吹け。」
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。」
「じゃあ、今日も頑張れよ。」
そう言ってググは私の前から姿を消した。このようなものを頂けるとは信頼してもらえているようで光栄だ。




