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緑の髪の男

翌日私は地元で姫様に頼まれていた必要物資を購入し、王城に戻った。城下町で買うということも考えたが、城下は城勤めのものが買い物に来ることが多い。そんな環境で買い物をするには少しずつ購入することになりそうで手間がかかる。

幸い、私は姫様やサイアン様に仕える前は貴族子息たちの家庭教師を細々としながらも、歴史学者として遺跡などの探察をしていたため、姫様が一番購入をネックとして考えていた縄梯子は実家の私の部屋で保管していたため購入の必要はなかった。

それよりも平民の女性用の服の購入が一番肝が冷えた。参考にしようと人の多い通りで女性の服装を観察していたため、誰かに見られたら怪しかったかもしれない。その努力の成果もあってスムーズにシンプルめな服や靴を購入できた。

姫様もググも着目していなかったが、平民として紛れるには姫様の髪色はいささか目立つ。王族の血が引く者しかこの国には金髪はおらず、貴族社会には多少血縁者がいて金髪の者がいるが、平民には馴染みのない髪色だ。あの綺麗な髪色が隠れてしまうのは勿体無いが、背に腹は変えられない。この国にはメジャーな茶髪のカツラも購入しておく。人間の髪を使用しているため今回購入した物の中で一番高価だった。カツラの購入は定員に不審がられるかと思ったが、医療用など深く聞かれたくない人が普段から多いのか、定員は何も言わず淡々と販売してくれてありがたかった。

あとは食料品などの購入だが、それは近くなってからで良いだろう。


明日は姫様の授業があるため馬を走らせ急ぎ王城へ帰る。母上の状態によっては授業は休みになるかも知れないと侍女たちに伝えてはいるが、姫様に会える機会をなるべく減らしたくない。

途中の街で休憩を挟みつつもなんとか城の閉門前に帰ってくることができた。国王が住み政治を行う王宮を中心にその周囲に国王の夫人や子どもたちが住む屋敷が取り囲むように立っており、南東に兵士や侍女、文官、教師などの寮があり、それを取り囲むように大きな塀が立っている。入り口は南門だけで、緊急時にのみ北門が開放されるそうだが、ここ数十年正式に開門された記録はない。もちろん点検や設備の為に開門されてはいるだろうが。

塀の各所には見張り塔があり、不法侵入者が入ったり、人目を避けて逃げようとするものがいないかどうか監視している。夜間も内部にその人が本人であることを証明してくれる人を呼び出して本人であることを確認したら、手続きをしたら塀の内部に入れてくれるが、他の教師たちや仕事中かもしれないノールを呼び出すのは嫌だったため、なんとか閉門時間に間に合うよう帰ってきたのだ。

普段は城下に馬を預けているが、閉門時間ギリギリだったため、今日は城内に預け明日城下に預けることにした。

馬を預け、荷物を自分の部屋に置いたあと、食堂へ向かう。

2日連続馬に長時間乗ったため、久々に疲れた。

(早く姫様に会いたい。ここを上手く脱出できたら、もう身分を気にせずそばにいられる。あと少しであるが待ち遠しい。)


食堂内は食事時ということもあり賑わっていた。食堂は大量に同じものを作り、注文されたら盛り付けるだけなのですぐに提供してくれる。

空いてる席に座りやっと一息ついた。今日は鶏のもも肉のグリルで、バジルの匂いが香ばしい。

貴族たちの使う食堂ということで良い肉を使っているらしい。脂分も適度でとても柔らかい。

「君がハイロン•リード?」

声をかけられ横を見ると、知らない男がたっていた。剣を下げているし、焼けた肌に引き締まった体格を見るに騎士だろう。隣の席の椅子を掴んでいる腕には細かな切り傷の痕が多数見える。

歳の近い貴族は大抵面識があるはずだが、全く見覚えがない顔だ。異国の血が入ってそうな顔なのため忘れてしまったと言う事はないはずだ。

相手も品定めするように私のことをじっと見ている。一体何のようだ。疲れているから早く食事を終えて部屋に戻りたい。

「そうですが、何か?」

「聞いた通り貧弱そう優男って感じだな」

男はそう言いながら何故か私の隣の席に座る。

会って早々失礼な男だ。人には得手不得手がある。他の貴族たちが身体を鍛える時間を全て勉学に使ってきただけだ。

確かに騎士たちに比べたら私は細いかもしれないが、城下では私ぐらいの細さのものもよくいるはずだ。貧弱とは言い過ぎだ。

「君さサリャーナ姫の家庭教師なんだって?サリャーナ姫ってどんな子?物静かにお高く止まったお姫様って感じ?」

(なんだ、この無礼者は。姫様への敬意を微塵も感じられない。)

この者の身分がわからないため、注意することもできない。たとえ、相手に非があろうとも口答えするリスクは高すぎる。

第一、屋敷から抜け出したり、平民になろうとしている姫様は物静かでもないし、お高く止まっている気がしない。

(でも、第二王女に比べたら物静かに見えるのか。)

姫様やサイアン様とは腹違いである第二王女レーナ様は剣術なども嗜む王女で活発なお方だ。姫様と関わったことのない者は半月違いのレーナ様と姫様を比べてそう思うのかもしれない。

この鮮やかな緑色の髪を持つこの男もそうなのか、はたまたその情報を教えたものがそうなのだろうか。この緑の髪は南部出身者に時々見られる特徴だが、似た者も知らない。平民ならもちろんわからないが、身につけているアクセサリーを見るにかなり高位の貴族でありそうだ。

「どなたか知りませんが、家庭教師を務めるにあたり守秘義務がございます。姫様のことは雇い主である姫様と姫様の母君が許可がなければお話しすることができません。」

私はテンプレ化している返答で伝えた。実際姫様のことを知りたがる者は多い。だが、許可をもらう相手が王女と国王の妻の1人というのを明確に伝えるとみな諦めざるおえない。

「そうか〜、じゃあさ、君がサリャーナ姫がどう思っているのか教えてくれない?それなら守秘義務に引っかからないよね?」

「素敵なお方だと思います。」

「近くにいたら、好きになっちゃうんじゃないの?」

「畏れ多いことでございます。」

この男何が目的なんだ。私の名前と見た目を聞いて話に来たということは姫様の情報収集が目的なのか?だが、この男の視線は私のことも探っている様子もある。明日授業の際に姫様にこの不審者のことを伝えないと。

すると、賑やかだった食堂が一気に静かになった。食堂の奥に目をやれば、これまた見たことない30代後半くらいの顎髭のある男が現れた。だが、その風貌が問題だ。

大柄で筋肉質な体格に頬に大きな傷跡、私ですらは一目見て歴戦の騎士であることがわかる。食事中だった大勢の騎士たちも警戒の色を高めて様子を伺っている。

その男はあろうことか、こちらに近づいてきている。

周りの様子に私の目の前の緑の髪を持つ男も気づいたようで、大柄の男の方に振り向く。

大柄な男は緑の男の前で跪き、

「お部屋の準備ができたそうです。」

と告げた。

「そうか。ありがとう。」

緑の男はそう返事をすると私に向き直り、

「じゃあな、ハイロン•リード、また明日。」

そう言って大柄の男を連れて食堂から出て行ったのだった。

名乗らずに行ってしまった。

(ほんとなんだったんだ。また明日って…。)

2人が出て行くと共に食堂の警戒が解けたようで、一気に話し声が戻る。それと同時にいつもワイワイ騒いでいる騎士たちの集団が私の元に向かってくるのが見える。もちろん、毎日同じ食堂をお互い使っているのだから顔見知りではあるため、席が近かったり注文のための列で前後に並んだ時に言葉を交わすことはある。しかし、10や20歳上の方々だ。先ほどとはまた別の緊張感を持ちながら、席を立った。

「こんばんは、リード先生。食事中悪いな」

「こんばんは。いえ、私も今の2人のこと気になりますし。」

集まった騎士たちの中で一番位の高いシュトリガー隊長が声をかけてきた。シュトリガー隊長は普段200人ほどの軍隊を束ねており、身分問わず慕われている印象だ。

「何者だったかわかるか?」

「名乗らずに立ち去ってしまいました。しかし、立ち振る舞いからくらいの身分の高い貴族で間違いはないかと。」

「何を聞かれた?」

「サリャーナ姫様のことを。守秘義務があるので答えられないと伝えました。」

やはり、騎士であるシュトリガー隊長ですら知らない者なのか。何者なんだ、あの2人は。

すると、その集団では若めの騎士が手を上げた。

「俺、南部軍から移動してきたのかと思って雑談のつもりで姫様のこと話しちゃっいました。」

「何の話をした?」

「サリャーナ姫に恋人はいるのかって聞かれて、浮いた話は全く聞かないって話しつつ、まず周りに年の近い男がほとんどいないって話になって。年が近いのはリード先生くらいだから、唯一可能性があるならリード先生じゃないかなって話をしたら、あの人先生のこともいろんな人に聞き始めて。ほんとリード先生すまん。」

私1人だったら天を仰いでいただろう。迷惑なことをしてくれる。

「どうりで、彼は私の見た目を知ってたんですね。」

何とか言葉を発したが、顔は引き攣っていたかもしれない。

特に恋人のような雰囲気を外に出したわけでもないのに、そのような話がでるとは。時々、姫様はお茶会などで他の貴族と会うこともあるがそこまで頻回ではない。また、護衛も10代の者はそばに置いておらず、確かに姫様に関わる年の近い男は私だけである。他の者と姫様が疑われるのもきっとモヤモヤしてしまうだろうが、変に噂が立ってしまったら大変だ。認めないとしても家庭教師を続けられなくなってしまうかもしれないし、脱出に支障が出るおそれもある。

「リード先生、部下が申し訳ない。もしそのような噂がたったら責任とって否定しておくから。また、あの男から接触があったり何かわかったら教えてくれ。」

「はい。もちろんです。」

シュトリガー隊長たちは私に頭を下げたあと、立ち去った。明日姫様に伝えなければいけないことが山盛りだ。

変に噂が立たないことを願うしかない。

再び席について、食事に手をつけたがやはり少し冷めてしまっていた。

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