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真相(中編)


神獣様はさも当たり前かのように姫様の頬を舐める。

「は?」「え?」

私と姫様が声を発したのは同時だった。

「サリー、黙っててすまん。」

私は突然の神獣様の出現に理解が追いつかない。

そして姫様が私と神獣様を交互に見る。

私より先に姫様は自体を把握し始めたようで、ハッと私の方を見て

「ハイロン、あなたググに会ったことあるの!?」

と聞かれたのだった。

「ググ?」

「あ、この子の名前ググって言うの。」

そう言いながら姫様はまるで自分のペットを触るかのように神獣様の首元を撫でる。ググと呼ばれた神獣様は気持ちよさそうに目を細める。

(この子?今姫様は神獣様をこの子と呼んだのか!?700年近く生きている神獣様を?)


私のように崇めたり慄いたりするわけでもなく自分のペットのように大事そうに神獣様を撫でる姫様。


「今の俺の愛しい子はサリャーナ姫なんだ。俺は今サリーのために生きている。お前のことをよく知っているのも俺はサリーが産まれた時からずっとそばで見守っていたからだ。」

神獣様は私の方に向き、そう言った。

愛しい子。神獣様は英雄王たちのことをそう呼んでいた。

(そういえば、姫様は神獣様が現れた場所を何もいない時から見ていた。もしかして私には見えなかっただけで姫様には神獣様が見えていた?)


「神獣様が助けるのって王子だけなんじゃ?」

そう、姫様は王子ではなく王女。

英雄王のように王を目指す王子の元に神獣様が現れるのだと私は勝手に認識していた。


「あぁ、俺もそう思ってた。今までの愛しい子ども達は9人とも男だった。俺もサリーに会いに行った時、王女で驚いたさ。」

神獣様は私の言葉に同調し、姫様を大事そうに見つめた。

9人。私が把握していたのは初代を含めて5人。

つまり姫様で10人目ということか。姫様は今の話は知っていたようで驚いた様子はない。

(それどころか、少し怒っているのか?)


「ねぇ!ググ、昨日は何も言ってなかったじゃない!?どういうこと?」

神獣様を撫でていた姫様の手はいつのまにか、止まっており、姫様は神獣様を問い詰めた。


「俺たち2人だけじゃ確実性に欠ける。協力者が必要だ。それにお前を後悔させたくなかった、だからハイロンを選んだ。」

神獣様は私を見やりながら姫様にそう言った。

(協力者?一体何の?)


「それでググからどこまで聞いているの?」

姫様は神獣様を撫でながら、心配そうに私に尋ねる。わからないことも多いが姫様が後で説明してくれるはずと思い私は素直に事実を伝えることにした。

「姫様が死のうとなされていると。昨晩は場所と時間だけ指定されていました。」

「はぁ、ググ。どうして、そんな嘘をハイロンについたの。」

姫様は少し呆れ気味に両手で神獣様の両頬を押さえ自分の方に向き直させる。


「嘘、なんですか…。」

私の問いに姫様は顔だけこちらを向きゆっくり頷く。眉を下げ申し訳なさそうな顔をしている。

私は全身の力が抜けた気がした。

(よかった、本当によかった。)

姫様は今世に絶望して死のうとしているわけではなかった。まだ姫様が生きる意思を持っている。

(でも死のうとしていないならどうしてあんな場所にいたんだ?)


「別に嘘じゃない。1ヶ月後サリーはあの橋から飛び降りて死んだことになる。その協力をハイロンに頼みたい。」

「どういうことですか?」

やはり私の理解が追いつかず、姫様の方を見た。

自殺の協力なんて絶対にしたくない。だか先程嘘だと姫様は頷いてくれた。

姫様は私に向き直って座り直し躊躇いがちに口を開いた。

「難しかったら断ってくれていいから。でもその場合、聞かなかったことにしてほしいの。」

「かしこまりました。聞かせてください。」

「次の満月の晩にあの川の下流から王宮から逃げようと思っているの。でも追われるわけには行かないから、あの橋から飛び降りたことにしようと思っているの。ただ、人に紛れるための服の購入が出来なくて。逃げてから買おうと思ってたんだけど、ググとしては少しでも見つかる確率を下げたいから協力者を探した方がいいって。」


親に叱れてた子どものように視線を下げたまま姫様は事情を話す。

怒らない、大丈夫って伝えたくて机の上に置かれた姫様の手にそっと私の手を重ねる。

姫様の顔を上げ私を見る。頷いて続きを促す。


「昨日は脱出のための下見だったの。ググに先に橋から降りてそこでこの姿になってもらって、そのあと私が橋から降りてググに飛び乗る予定なんだけど、思ったより橋が高くて。シーツで綱を作るにしても橋に結び目が残るから燃やすにしても灰が残るしどうしようかって困ってて。ハイロン、できたら服とか縄の梯子とか買ってきて欲しいし、当日も私たちが脱出したあとの後始末の頼みたいの。お願い。」

姫様はそう言って私に頭を下げた。


「俺からも頼む。サリーをこの国の跡取り争いから逃がしたい。自由に長く生きて欲しいんだ。」

続いて神獣様も私に頭を下げる。

(そんなの、答えはもう決まっているだろ。悩む必要なんてない。)

「顔を上げてください。協力します。」

そうして、姫様と神獣様と一介の教師である私の協力体制が決まったのだった。


「ありがとう。絶対、貴方が関わったってバレないように気をつけるから。」

姫様は涙を目に溜めながら微笑んでくれた。空いているもう片方の手で、すでに重ねている手の上に乗せ、ぎゅっと握るように包んだ。

(姫様はほんと涙脆いな。やっぱりこんな人が王子妃や国母なんてなるものじゃない。)


「ハイロンありがとう。お前を選んでよかった。俺のことをググと呼んでいいぞ。」

神獣様はそう言って、私の頬を舐める。神獣様の舌はザラザラしていてほんと大きな猫のようだ。

「その、、今後の話の前に、姫様はググといつから協力を?」

そう、私と姫様が仲良くなったのは結局神獣様の話をしたのがきっかけだ。神獣様という呼び名からググと呼ぶのは少し緊張した。

「ハイロン怒らないでね?物心ついた時にはもうずっとそばにググがいたの。でもググがいるのに誰も気づかないの。ググの声は私にしか聞こえないの。寂しい時も悲しい時もググずっとそばにいてくれたの。私にとって親のような兄のような存在なの。」

つまり、私と初めて会った時には神獣様がいることを知っていたのだ。もしかしたら、あの時もググはそばにいたのかもしれない。

姫様と姫様の母君には距離があるのはよく知っていた。王族や貴族ではよくある話だ。先に生まれた姉より、後に生まれた息子の方が大事にされることを。この屋敷も姫様の母君の屋敷ではあるが、夕食の時にしか母君と顔を合わせないと話していた。サイアン様の方にはよく顔を見せるようで、何度か授業の様子を見に来られたこともある。

「大きくなって、ググが神獣だってわかったけど、お母様も侍女も兵士も先生達も神獣は伝説だって、いないって言うの。私のそばにずっといるのに。でもググが私のそばいるって言ったら殺されちゃうってググが言うから誰にもググの話出来なくて。だから、ハイロンの神獣のチャーム見た時嬉しくて。初めてググがいるって認めてくれた気がして。ググは昔の過去の話をしてくれないから、あなたからググの活躍を聞けて嬉しかったの。大好きなググのこと話せるし話してくれるから嬉しくて。ググが見えることを黙っていてごめんなさい。」

(私と同じだ。)

私も神獣はいるって話したかった。でも周りに否定された。姫様なんて自分には見えているのにそれを否定されるなんて悲しかっただろう。それが親のような兄のような存在だったら、尚更寂しい。

「一緒です。私も姫様と神獣様の話ができて嬉しかった。姫様に会うのがすごく楽しみでした。」

「ありがとう。私もあなたが領地に帰っちゃった時はすごく寂しかったし、次の年からは直接話すことも出来なくて悲しかった。」

私たちは同じ気持ちだったことがわかって嬉しくて笑い合った。

視線の端でググがニヤニヤしている気がしたが気づかないふりをした。


「それで婚姻が決まったから、王宮から出ていくことにしたんですか?」

「王宮から出ていくこと自体はサリーが子どもの頃から決めていた。外でも生活できるようになるべく大人になってからと決めてはいたが。サリーが幸せになれるなら俺としては誰と結婚してもいいんだが今回はダメだ。ユラーベットとの結婚が決まってからサリーの飯に3回も毒が入れられてた。」

「3回!?」

ユラーベットは隣国の国名。姫様を見ると静かに頷いて肯定する。

「でも首謀者の特定ができていなくて。ほかの派閥の王族か、ユラーベットの人間かもわかってないの。」

「体調は大丈夫なんですか?」

王族の暗殺はよくある話ではあるが、姫様やその周りからそのような話を聞いたことがなかったため、失念していた。

(王族なんだから、可能性はいくらでもあっただろ。どうして私はそんなリスクを考えたこともなかったのか。今も毒の影響を受けているのだろうか、私と会っている時も辛さを隠していたのか?)

「うん。大丈夫よ。そんなに心配しないで。私が口に入れる前にググが毒味してくれているの。」

心配が顔に出ていたのだろう、姫様は安心させるように頷いてくれた。

「そして、普段の姿の時は俺は毒の影響も受けないし死ぬこともない。」


自殺以外にも姫様がこの世からいなくなる可能性があったとは、それを認識すらしていなかった自分に憤りを感じる。

そんな中、ググはずっと姫様を守っていてくれたのか。

「私が言うのは大変烏滸がましいとわかっているのですが、姫様をずっと守っていてくださりありがとうございます。」

今があるのも姫様と話せているのもググのお陰だ。烏滸がましいとはわかっていながらも言わずにはいられなかった。

姫様を大事に自分の妹や子を見守るようなググの目線や接し方をみて嫉妬などは生まれるはずがなかった。


「隠し通路は王宮の外には繋がってないんですか?」

昨晩姫様がお屋敷から出た方法のように隠し通路があればリスクなく王宮から出れるのではないかと思ったが、それを選択しないということは何か訳があるのだろう。


「昔はいくつか、外に繋がる出口があったんだが古すぎて建物が上に立てられたり、設備不良だったりで今は使えないんだ。」

とググが苦虫を噛み潰したような顔をした。


「私が使っている通路もね、すごい埃だらけだったのよ。使えるようになるまで数年かかったわ。」

「仕方ないだろ?何百年前に作られたと思ってるんだ。俺の子にしか整備できないし、整備できる年まで成長した子も少なかったんだから残っているだけ奇跡だろ。」

ググの話は時々悲しい事実を突きつけてくる。

だが、姫様は掃除が大変だったのか、そこに対しては怒っているようだ。

「王族用の隠し通路じゃなくて、姫様のようにググが見れる王族しか知らないんですか?」

「あぁ、俺の鍵がないと通れない。だが、一ヶ所だけ国王の部屋に繋がる部屋があってな、そこだけはどの王でも入ることができて換気と掃除をするように言い伝えさせている。だが、俺の子も全て王子だからな、中々掃除が得意じゃなくてその積み重ねでサリーが大掃除をすることになった。」

(王族や国王に掃除をされるとはさすが神獣様だ。つまり姫様は数百年分の掃除をさせられたわけか、それは怒るなぁ。)

「ほんと大変だったんだから!って、ハイロン何笑っているのよ。すごい長い道をずっと掃除するのよ。いつ終わるのって私ずっと絶望してたんだから。」

つい、文句を言っている姫様が可愛らしくて、笑ってしまった。文句をいいながらも真面目に掃除を頑張っている姿が想像ついてしまい微笑ましい。

「もう!」と言いながらも姫様も笑ってくれて嬉しい。久々に姫様と楽しく笑い合った気がする。


やっと神獣様の名前出せました。

ハイロンはスルーしてましたが、ググはサリャーナ姫のことをサリーと呼んでます。

過去一長い1話でした。

後編も近日更新予定です。

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