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運命の日(前編)

月が頂上にくるしばらく前、私は人の目を忍んで橋に向かっていた。神獣様が言っていた時間よりは少し早いが、胸騒ぎが収まらず寮を飛び出していた。

だいぶ暖かくなってきたが、まだ夜は少し寒い。

部屋を出る前に着込んできてよかった。何かあった時にすぐ走れるように動きやすい靴と服できた。運動は得意ではないからそこまで早く走ることはできないが。

私たち職員の寮は南東に固まっており、川までは少しかかる。途中見回りの兵士に出くわしたが夜の散歩と伝えたら、足元に気をつけるよう声をかけられただけだった。

誰も見ていないことを確認し、整備された道を外れ林の中を歩く。あの橋はたくさん死者を出していることもあり、不吉ということで日中であってもあまり人が近づかない。夜中は尚更人気がない。

風で木々が揺れる音、歩くたびに大きくなっていく川の流れる音、そして私が草花を踏み歩く音、それだけが聞こえる。


木々の間にその橋が見えてきた。不吉な橋だというのに月夜に照らされて私には綺麗に見えた。


隠れるのに適当な場所を探す。橋から近く、遠目で見ても気づかれにくい場所。


川の両側には遊歩道があり、川のこちら側つまり東側は遊歩道は橋までで終わっており、その先は今歩いて来た場所と同様に林だ。西側は川の終着点である王宮の壁まで続いている。

私は東側の遊歩道の終着点である林の中に身を潜めた。足元には黄色いたんぽぽと綿毛になったたんぽぽが咲いている。時々風が吹くと綿毛が飛ぶ。

月夜に照らされ橋がよく見えるため、もし姫様が現れたらすぐわかる。


(現れるのが姫様ではありませんように。姫様がこの世に絶望し死のうとしているなんて信じたくない。)


まず屋敷の部屋から抜け出すことすら難しい。しかし、元々は活発なお方だ。戻ることを考えていないのなら、無理矢理にでも降りて来そうだ。


橋から水面まで3mほど。改めて川を見てみたが、やはり浅瀬な箇所はなく、岸から水面までも1mほどの高さがあるので川から引き上がることは中々難しい。またここから身投げする多くものは着衣のままだろう。重たくなった衣服でこの川の中泳ぐことなんて出来ないだろう。

(絶対に姫様が飛び込む前に止めよう)

私はそう決意した。



月がちょうど真上に来てからしばらく経った。今夜は満月でありがたいことに橋が良く見れる。

橋の周りには特に見回りの兵士もこなければ、猫1匹現れない。

相変わらず川の流れる音と草木が揺れる音しか聞こえてこない。

私は遊歩道の上流側の東側と西側を交互に視線を送り続ける。姫様の屋敷から近いのは東側の遊歩道だが、上流の方にも橋はあるので人目のより少ない西側に渡っている可能性も高い。


(姫様、頼むこないでくれ。この世からいなくなる決意なんてしないでくれ。)


そう願っていると遊歩道の西岸の下流側から足音が聞こえた気がして、そちら側から完全に見れないよう身を隠す。

(下流側から?動物か?見回りか?)

そう思い、そっと視線を送る。


対岸にいたのは月の光を反射するように輝く金髪を持った私の想い人だった。


人目を確認するように左右を見渡し橋に向かう彼女。

現実を受け入れたくなくて見たくない。でもすぐに向かえるように走り出す準備をしないといけない。姫様がもし橋を渡りきらず、止まってしまったらすぐに走って向かおう。

(本当に死ぬつもりなんだ。私を置いてこの世界から一人でいなくなってしまうつもりなんだ。自殺なんて私と神獣様の勘違いであってくれ。)

姫様が橋を渡りきるのを私は願った。


姫様はちょうど橋の真ん中にたどり着いたくらいの時にその場にしゃがんだ。石でできた橋の防護柵でこちらからでは何をしているのかわからない。

(もしかして遺書など置いてるのかもしれない、いやきっと靴を履き直しているだけだ。)

考えてしまった嫌な思考を言い訳のように打ち消す。きっとすぐに橋を渡りきる。そう信じて。


しかし、無情にも姫様のその場で立ち上がり歩みを進めなかった。一度橋から下流側を見つめ、その後上流側を向く。

姫様が少し身を乗り出した気がした。その瞬間私は走り出したのだった。



全部で3話に分かれてます。ハイロン頑張れ!!

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