宇宙人と猫
ムギが頻繁に出掛けるようになった。今まではのんびりと家の中でくつろいでいるだけだったのに、どういう訳か毎晩出掛けるようになった。猫の集会でもやっているのだろうかと思って後をつけた。ムギはずっと遠くの広場まで出掛けていた。こんなところでいったい何をやっているのだろうと思って、しばらく様子を伺っていた。ムギは空を見上げていた。空はあいにくの曇り空だった。月も星も出ていなかった。それでもムギはずっと空を見ていた。いつまでここにいるつもりだろう? 知り合いの猫でも待っているのだろうか? そんなことを考えながらじっと待っていた。どれくらい時間が経っただろう? ムギの視線を追いかけて、ふと空を見上げた時、私は目を見張った。いつの間にか、ムギの頭上に緑色に輝く物体が浮かんでいたのだった。そして次の瞬間、その物体からオレンジ色の光線がムギに向かって照射された。危ないと思ったが、声が出なかった。オレンジ色の光を浴びたムギは前足を地面から離し、少しずつ身体を起していた。やがて猫背をピンと伸ばし、その場に直立した。私は唖然として事の成り行きを見ていた。そしてそのムギに面会するような形で緑色に輝く物体から人影が現れた。宇宙人に違いないと思った。ムギはうなずきながら、口を動かしていた。ムギは宇宙人に何か報告しているようだった。宇宙人は猫と話せるのだろうかと思った。やがてオレンジ色の光は消えた。緑色に輝く物体もいつの間にか消えていた。ムギはいつものように四つ足で歩いていた。そしてその辺りの臭いを嗅いでいた。しばらくするとムギは歩き出した。家に帰るようだった。声を掛けようと思ったができなかった。
そういえば最近、ムギがじっと私の方を見ていることがある。ムギは私のしていることを観察して、宇宙人に報告しているのかもしれなかった。そして次の日の夜もムギは出掛けて行った。昨日と同じ広場まで歩き、そこでじっと待っていた。やがて緑色に輝く宇宙船が現れて、オレンジ色の光をムギに照射した。ムギはすっくと立ち上がった。そして緑色の光の前に立つ宇宙人に何か伝えようとしていた。私は昨日と同じように隠れていたが、昨日よりはずっとムギの近くにいた。ムギがいったい何をしゃべっているのか聞きたいと考えていた。ムギは一生懸命口を動かしていた。でも私には何も聞こえなかった。宇宙人には聞こえるのだろうかと思った時、ムギから思念の形でメッセージが伝わって来ることに気付いた。
<そうですね。サブスクで映画やテレビ番組を見ていることが多いですね。料理は簡単なものしか作らないです。十分くらいでできるやつですね。いちおう、自炊していると言えると思います>
なんだかやはり私のことを報告しているようだった。その時、オレンジ色の光が広がって来て、私もその光の中に包まれてしまった。見つかったのか? そう思った時、ムギは私の方を向いた。
<いつもありがとうニャー>
ムギからそんなメッセージが伝わって来た。
<こちらこそ、いつもありがとう>
私は思った。その気持ちが伝わったのか、ムギは微笑んだ。
<お刺身が食べたいニャー>
微笑んだムギから一段と強いメッセージが伝わって来た。しばらくしてオレンジ色の光は途絶えた。緑色に輝く宇宙船も消えていた。広場には、四つ足に戻ったムギと私が取り残されていた。
「今日は奮発してお刺身買っちゃおうか?」
私はムギに話し掛けた。ムギはいつものようにミャーと鳴いた。