表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4、終わり

お待たせしました。



彼はトランクを下に置いて、扉に掌を押し当てた。

ブゥゥン…と腹に響くような音がした気がする。


扉と思ったところが溶ける様に無くなり、出入り口が開いた。

中はよく見えないが、何かがチカッ、チカッ、と様々な色の光りが点滅してる気がする。


彼はトランクを手にすると、私の手を引いた。

引かれるまま一歩入る。

ぐらっと身体なのだろうか、頭なのか、中身なのか、吐き気が伴うような奇妙な歪みを感じた。彼の腕を掴んだ。平衡感覚がおかしくなる。


中に入ったところで暫く立っていた。


辺りが少しずつ明るくなって来る。

グラグラするのが少しマシになって来た。

ふと気になって振り返ると黒い。淡く光ってたはずの通路があったはずのあの出入り口がなくなっていた。光が見えないから閉じてしまったのだろう。


退路がなくなってしまったのが不安になる。

自然と彼を掴む手に力が入ってしまう。

二人でいれば怖くはないが、勇気を奮い立たせる。


一歩入っただけだと思ってたのに、随分と中に入ってるようだ。不思議。

きょろきょろと周りを見てしてしまう。


見上げる程の大きな機械があった。首が痛い。

ますます頭の中に『?』がいっぱい。


「ふふっ、不思議だよね。こんな空間どこにあるんだって思うよね。この鞄と同じ。空間を歪ませてコレを入れる空間を作ったんだよ。これは先人達の努力の結晶さッ」


得意げに彼が語る。

声もなく見上げる。

あの古びた本の記述を思い出した。

『なんやかんやとやってた事』がコレの様です。

あの古びた本の神子さまたちは、あんまり分かってなかったって事だと思った。私も含めて。


確かにコレを文章なりで表現しようとしたら、抽象的になってしまう。中身がよく分かってなければ尚の事。


「これからどうするの?」


「コレを組み込む。そして、ほんの少し君の祈りをコレに込めて貰えば起動する。そうすれば、星の脅威が無くなるまでコレが『星の神子』の役割りをしてくれる。ーーーー起動が終わったら、王様にでも挨拶に行こうか。そして、旅立とう。どこに行こうか?」


嬉しそうに言葉が跳ねている。

明るい声と言葉に心が躍る。

希望が満ちてる。

私はこの塔を離れて好きなところへ行ってもいいし、王族に物の様に扱われる事もなくなる。

彼も同じ気持ちだと感じた。


私達の前に輝く道が開けてると感じていた。


絡めていた指を解き腕を離す。

見つめ合ってしまった。

私たちが出会ってまだ1週間も経っていないのに、随分前から知ってる懐かしい感じがする。

愛おしい気持ちのまま、彼の胸に身体を寄せていた。


彼の腕が包む様に抱きしめてくれた。

彼の匂いに満たされた。

大丈夫。

そう確信していた。


「話したい事がいっぱいあるんだ。あの時遠目だったけど君を見た時から、俺がその手を掴んで連れ出すって心に決めて頑張った。やっと努力が、俺の、否、先駆者たち、『知』の者たちの念願が…。さあ、始めよう…」


身体の染み入る様な声音を聞きながら、身体の奥から湧いてくる温かい物に包まれた。

『星の神子』達の念願でもあるのかも。


『星の神子』達は、皆、この国の地と人を守りたい気持ちだけで祈り続けた。

時には心折れそうにもなっただろう。

だが、自分の大切な人たちを思えば、頑張れたのだと思う。


この魔道機械にその役割をお願いしてもバチは当たらないのではないだろうか。


安心出来る温もりからそっと身体を離す。


始まる。


彼はふわりと片膝を折ってしゃがみ込むと、恭しくトランクを開けた。

組み上がった機械を捧げて持って、見上げる大きな機械の中に差し入れ、最後の作業を始めた。


長い様な短い様な時間が過ぎていく。私はただただ彼の背を見詰めるしかなかった。


振り返った彼の明るい顔に思わず微笑んでいた。

手が差し出された。彼の掌に手をそっと乗せて合わせた。

優しく握られ、機械に導かれる。


「祈って。君の気持ちを込めて。『星の神子』の想いの全てを…」


言葉が心地よく鼓膜を震わせている。

トクントクンと心臓が煩くなってくる。

導かれた水晶の様に透明にも見える金属の球体を手で包む。

握った手に手を重ねて、祈る。


祭りで踊った人々の顔を思い出す。

父と母を思い出す。

彼を思い描く。

私の、私達の、この国の皆を、これから守られる世界を…思い描いた。


祈りを込めた。

強く、強く、皆の幸せを祈った。

全てが昇華して溶け込んでいく様だ。


「離れて! 強過ぎる!」

機械が唸り出した。

ドクゥン、グオォン、ドクゥン…

自分の心音が同調してる様だ。

ふわりとした気持ちで意識が白くなって溶けていく。


「手を離すんだッ!」


彼の声が遠くで聞こえる。

『手、離す? 手とは?』


「行くなッ! 彼女を連れて行くなッ! こんな事は書いてなかったじゃないかッ!」


金属の紐の様な物が生き物の様にこちらに近づいてくる。

嗚呼、私はこの大きな機械と一緒になるのね。

この機械と一緒に私の『星の神子』の祈りが、この国を、星を包むのね…。

素晴らしいわ…。

祈りが全てを包むなんて…なんて素敵なの。

私の愛しいもの全てを守れる…力。

大好きな人々、生きる者たちを……。


「ミッシェル! 君は僕と帰るんだッ! 失うくらいならこんな機械! 壊してやる! 作るんじゃなかった…ッ」


酷い事を言う声がする。


振り返ると、ひとりの青年が立ってる。私を掴んで引っ張って…。管を私から遠退けようとしていた。

機械と私の隙間に無理やり入り込んで来ようとしている。


大きな音がする。

邪魔だと告げている。

私と機械の邪魔をする存在…。


「ミッシェル! ミッシェル! この手を掴んでッ!」


……私の…わたしの名前。

久しく聞いてなかった。忘れてかけていた、私の名前。

『星の神子』となった瞬間から、私から名前は無くなってしまっていた。


「カイ…」

確か、彼の名前?

神父さんが言っていた…。


「そう! カイル! 僕の名は、カイル。君にこの名を捧げる。君を失いたくない。僕と一緒に来てッ!」


強引に私の手を握った。

引っ張られる。

あの祭りで引かれた手と同じ。


私は、私は、彼に恋をした。

淡い恋心は、彼の来年も踊ろうという誘いに、火をつけた。

胸が熱い。


一緒にいたい!彼と共に。


手を掴んだ。


「私は、あなたと共にいたい…。愛おしい人」


ブヲォンッ!と一際大きな音と共に私たちは放り出された。


球体を掴んでいた腕に金属の紐が絡んでいたが、引き千切られるように離れた。


腕が一緒に持っていかれるような焼けるような痛みを感じた。


一瞬気が遠くなったが、暖かな温もりに心が満たされるように穏やかな揺蕩いの中に落ちて行った。


気がついたら、彼が布を引き裂いて、私の腕に巻きつけている。指先から滴る赤い雫…。血?


床に点々と赤い雫の跡がついている。

私の白ぽいドレスは赤い小花が散っていた。

あら、綺麗ね…。


「ごめん。治癒魔法は専門外で。止血はしたから」


「大丈夫。ちょっと血が出てるだけよ。死にはしないわ」


笑って言ったつもりだけど、笑顔で言えてるかしら…。

彼の表情が曇ってしまった。

心配してくれてるんだろうけど…。


金属の紐が束になって、ゆっくり私に近づいて来た。

彼の背中で視界がいっぱいになった。

この大きな機械に敵意のようなものは感じられない。寧ろ、同志のような近しいモノに感じられる。


「大丈夫。彼は私に用があるだけ。ーーー手を握っていて」

彼の背に手を添えて訴えた。

不安そうな彼を安心させたくて…違うわ。私の不安を和らげたくて、お願いした。

痛いぐらいに手を握られた。


「何がお望み? 私自身はここを出たいの。ごめんなさい…」


床にシミになってしまった血を金属のの紐が手のように撫でている。


「血? 血が要るの?」


なんとなく喜んでるように感じた。

可愛い。

「あまりはあげれないけど。死なない程度だったら持っていって?」


「ミッシェルッ」

隣りで息を詰まらせながら、カイが手を引き寄せた。

床に座っているのに、バランスを崩しかけた。


紐が慌ててる。


「大丈夫。私、死にたくないの。分かる? 私はこの人と一緒にここを出たいの。ーーーダメかしら」


布の巻かれた腕に優しく絡んでくる。

痺れた感覚の中にチクリとした感覚を感じた。


採血の時のあの感じ…。

神子になって定期的に血を取られた。

健康診断だとか。血で何が分かるのか分からないけど、病気になる前の対処したいんだとか。

病気の初期に見つけて、退治しようって事かしらと思っていたけど…。


身体が冷えてくる。

沢山持って行くのね、欲張りさん。


「なんで君たち『星の神子』たちは、自分を大切にしないんだ!」

カイルが叫んでる? 声が遠いわね…。


「もうこれ以上は死んでしまうッ!」

泣いてる?

泣かないで?


あなたの泣き顔は、心臓が鷲掴まれるように痛い。

掴まれた手を彼ごと持ち上げ、彼の頬を撫でた。


「泣かないで。私の、好きなのは、笑顔。あなたが笑って、くれるのが、私の幸せ…」

ちゃんと届いただろうか…。


泣き笑いのカイの顔を見ながら、瞼が重くなってきた。


「もういいだろッ!」

沈みゆく意識の中、機械が『ありがとう。さようなら』と言ってくれた。

コレで彼は大丈夫なのだと思う。

カイが言っていた『始まりの人』だろうか。ローブの背の高い男の人がいた。

その横に寄り添う人は…。綺麗な女の人…。初代の『星の神子』のような気がする。


良かった…。






「ママ〜、カブトムシ捕まえたぁ」

幼子が駆けてくる。


あの後、気づいたら神父さんが、汗だくで治癒魔法を使い、お医者さまが白衣を血に染めながら私に輸血したりしていた。

私はそんな二人とその周りを忙しそうに動き回ってる看護師とカイルを目で追っていた。


「気づいたよッ、カイ!」

神父さんが私の様子に気づいた。


「ミッシェル」

そばに来てくれたら嬉しいなぁって思ってたら、現実になって嬉しかった。

名を呼んだつもりが声が出ない…。悲しい。


「あのポンコツ、ギリギリまで血を持って行った。無茶をして…。だから、王様に挨拶どころか説明してる時間もなくて、ここまで君を攫って来た感じになってて…。ここは今、王兵に囲まれてたりするんだけどね」


あらあら…。笑ってしまうわね。


「今から説明に…離してくれないか?」


行ってしまうと感じがしたから、彼の服を掴んだ。行くなら一緒に。


「カイ、行くなら一緒がいいんじゃないか? 大雑把なところは説明してくるよ。殺されそうになったら…ごめんね」


さっさと神父さんが出て行ってしまった。


私は人質になってるんだから大丈夫って最後に言い残して外に出て行った。


ちょっと危ない事になったそうだけど、あの神父さんはそれ以上は言わなかった。


動かして良いとお医者さまから許可を貰うとすぐに神父さんの後を追ったんだけど。


カイルにお姫様抱っこで運ばれての謁見は恥ずかしかった。


王様もこの国を思えばの所業だったけど、そもそも、伝えるのを口伝にしてるところでアウトな気がするわ。

『神子』達の恨み節をみっちり返して、私は自由を手に入れた。


カイルは定期的に機械を見に行く。

私は子供とお留守番。

彼は二度とあの機械と私を会わそうとしない。


分からなくもないが、私は遠く離れた王都から広がってくる優しい波動を感じている。

ひとりの乙女とひとりの天才が出会った事で危機を回避し、今もこの国を守っている。


地下に潜っていた『知』に連なる者も徐々に王都に集まっているそうだ。

きっとこの子が大人になる頃には、空にある脅威は脅威でなくなってる事だろう。


私は今もこの国の生きとし生けるもの全てが幸せで、笑顔である事を願っている。


一番の願いはもちろんこの子とカイル、そして、もうすぐ会えてるもう一つの命。


草木を撫でる風が私の髪と頬を撫でていった。





終わりました。


感想や星やいいねを頂けたら嬉しいです。


感想欄の↓下の方にスタンプや匿名でメッセージ送れるの設置してあるので、使ってみて下さい(๑╹ω╹๑ )


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘

感想欄はログインしなくても書き込めます。
いいねや星や感想が欲しいんですけど。
↓匿名でメッセージなど送れます。↓

▶︎恥ずかしがり屋さんはココをポチッ◀︎


感想、ご意見、お待ちしております。スタンプのみの足跡もOK。

⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘ ⌘⌘
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ