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2、里帰り


身一つ、この道具以外は何も持ち出せなかった。

でも、あそこに居れば、王族と子を成すような事をしなければならない。

嫌だ。

あの王様たちは好きになれない。

国の事は愛してるだろうけど。私の事は道具か何かみたいに見てて、人として見られてる気がしない。

そんな人たちに触られるなんて想像も出来ない。


私の祈りの力が増したからだろうか……。

『星の神子』の血を王族に取り込みたいと思ってるのだろう。もし生まれた命は命として迎えられるのか甚だ疑問。ゾッとする。


人の気配を探りながら、少しずつ進む。

耳が敏感になってるのが役に立ってるが、油断は大敵。


奥の方が騒がしくなってきた。

私がいなくなった事に気づかれたようだ。

息を潜めて耳をそばだてる。周りから音が遠退いて、奥へ向かって行った。


手薄の裏門のに人が来る前にと先を急ぐ。

天は私に味方してくれてる。


街まで出てきたが、ここからどうしていいか分からない。

祭りの余韻でまだ騒がしい。

音が耳いっぱいに満たして、頭の中を掻き回すように渦巻いてる。目眩が起きてきた。


ふらふらしながら逃げなければと足を動かす。

視界が悪い鈍色の布を剥ぐように外し、小さくまとめて抱えてふらふらしていた。


酔っ払いも多いからか誰も気にもしないようだ。


トンと何かにぶつかった。

幌の掛かった荷馬車。

もう立ってるのは無理だった。

その中に潜り込んだ。





「オットウ、女の人が寝てる」

子供の声がする。小さな子の声ではないが、大人の人の声でもない。

「別嬪さんだな。その辺に転がす訳にもなぁ…」


痛む頭をなんとか持ち上げて、開けれない瞼を無理やり押し上げ、声のした方を見た。

クシャッとした渋顔は許して欲しい。私は本来こんな顔しないのよ?


(ウチ)は何処だい?」

『オットウ』と言われた男の太い渋い声が自分に向けられてる。

勝手にここに潜り込んだ事を怒られてる感じはしない。心配してくれてる。


頭に浮かんだ町の名前を告げた。

私の故郷。父と母が眠る土地。


そのまま荷馬車の床と接触していた。




揺れてる。

緑の匂いがする。甘い香り。

身体を起こすと目の前に赤い物が現れた。

ピカピカに光る林檎が山盛り。

思わず手が伸びていた。


赤い実を両手で包むようにする。

ひんやりしてた果実は、体温を奪って瑞々しい香りが立ってくる。


「いい林檎だろ? オレが選んだんだ」

籠の向こうに座ってる影が声をかけてきた。

まだ少年ぽさが残る青年がいた。


「いい香り…」

溢す言葉と同時にお腹が鳴った。

恥ずかしいッ。


「食べていいよ。オレも食べるから」


ひとつ掴んで服に擦り付けて、シャクっと齧りついて、いい音を立てながら咀嚼する。

釣られるように動作を真似て齧り付いた。


水分をたっぷり含んだ欠片が口いっぱいに入ってくる。

夢中で次々と齧りついて食べた。


「美味しい…」

芯だけになった物を手に感想が漏れた。

感想を述べる間もなく最後まで食べてしまった。息継ぎをしてたかどうかも怪しい。

嗚呼、恥ずかしいッ。


「ありがとう。ーーーーオットウ、お嬢が目を覚ましたよッ!」


私の手から芯を取ると、荷馬車の前に移動して行った。


隙間から見える空は夕暮れをしめしている。

随分と寝てしまったようだ。


「おお、良かった。もう直ぐお嬢さんの町に着くぞッ」


王都から随分離れたと分かった。

私の故郷はこんなに近かったんだ…。


「丸一日寝てたから、どうしようかと思ってたんだ」

戻ってきた青年が告げる。

ん?

夕方じゃなくて、明け方?


「私、そんなに寝てたの?」

「うん。呼吸は落ち着いてたからそのままにして、途中仕入れとかしてた。オットウが疲れてんだろって言ってた」

「……疲れてた、かも…。スッキリしたわ」

「良かった」

可愛い笑顔。エクボが片方に出てる。ちょっとそばかすがある。短くした茶髪の髪と茶色の目。


あっ、私何も持ってない…。お礼のしようが…。

慌てて身体を探った。

着てる物は華美な物ではない。シンプルな物。いい布だと思うが…、脱ぐ訳には…。彷徨う手が耳の触れ、あっ!と思い出した。祈りの力を増すとかでつけていたピアス。小さいが珍しい宝石が付いてたはず。

落とさないように慎重に両耳のを外した。


「私、何も持ってなくて、コレ…お金に変えて?」


青年は不思議そうな顔をしながら受け取ってくれて、また前に向かった。

戻ってくると返してきた。

「ついでに運んだだけだし、別に迷惑かけられてないから」

要らないとの事だった。


何かお返ししたいが、もう直ぐ町に到着してしまう。

何かお礼をしたい事を伝えると、暫く考えてくれて、「売り子して?」と笑顔で返してくれた。


その町でこの林檎を売り捌くつもりらしい。




「美味しい林檎ですよ〜」

通りの端で林檎を売る。

まずまずの売れ行き。布を借りて三角巾にして髪を覆うように着けた。腰に巻いてエプロンにもした。

ぱっと見、町娘のようだ。


私は言葉を交わしながら、林檎を渡す。

楽しい。

生きてると思える時間だった。

最後の林檎を渡す。

あっという間になくなってしまった。寂しく籠を見てると、『オットウ』さんが、お礼と銅貨を数枚渡してくれた。

全部捌けるとは思ってなかったようだ。


お礼のつもりがお礼をされて、恐縮してしまった。

当然の対価だと言う男の笑顔に素直に受け取った。布を返し、唯一の持ち物の布を手に深くお辞儀した。

涙が滲んでるのを見られたくなかった。


三角巾にしてた布を渡される。バレていたようだ。

道具を片付けて去って行った。


秘密道具を渡された布で包み持ちやすいようにして、町はずれの墓所へ向かう。

生家は多分もうないだろう。家はあっても別の家族が使ってるかも知れない。


教会の白い建物が見えて来る。

あの近くに共同墓所がある。


ひっそりとある墓石。花が添えられてる跡がある。誰か来てくれてるようだ。


肩に暖かい布が掛けられて、自分が随分とここに座り込んでた事に気づいた。身体が冷え切っていた。

神父さんが立っていた。

促されるまま教会に入った。

祭りの余韻があった。


そういえば、私が王都から、あの塔から離れてしまったが、大丈夫だろうか…。

空に意識を向けたが何も危機感は感じられない。ーーー大丈夫…みたい?


「神子さま、おかえりなさい」

住居部分に通され、簡素なテーブルに導かれた。

温かな飲み物を目の前に置かれ、そう穏やかな声がした。


もうバレてるんだ。

帰らないと行けないのか。迎えが来るんだろうか…。


「大丈夫です。私は『知』の者と繋がる者です。もう直ぐ、」

ぼんやり神父さんの動く口を見ていたら、言い終わる前に勝手口が勢いよく開いた。


「居るか!」

「お静かに。神子さまもおられますよ」

汗と埃に塗れた顔がこちらを見た。

あの青年だった。


「あと少しだったのに、何故ここに?!」


怒られた。

勢いにびっくりしたが、湧き上がる喜びに胸踊ったのに…。急激に萎んだ。

シュンとなってしまった。

シクシク泣きたい気分。

泣いてた。


ただ、思ってたのとは違って、わんわん泣いてしまった。


「泣かしてしまいましたね…」

神父さんの声が静かに響いてる。


「怒ってはないんだ。俺は理由が知りたいだけで。嗚呼、どうしたらいいんだ?」

情けない声が神父と自分に向けられてる。


もう知らない!


さらに声をあげて、思いっきり泣いた。




こざっぱりした青年と暖炉の前で椅子に座ってた。手には神父さんが淹れてくれたお茶。木の器が手に馴染む。温もりが心地いい。

逃げ出した顛末と心配事を告げる。


膝の上に小型犬サイズ布に包まれた物を乗せた。

布を花開くように解く。

歯車や何やらごちゃごちゃ付いてるが、規則正しいようなスッキリした作りの物があった。


「塔は大丈夫。祈りの力が充分に満たされてるから。さぁ、仕上げをしよう。あとコレに石を嵌めれば終わる。その耳の石をくれないか?」

長い指の綺麗な手が差し出される。物を作ってる手だ。柔らかさはない。

あの祭りで握った手。


見惚れる美しさを持った機械。

魔道具だろうか。

だとするとこの人は『魔法技師』?

手を改めて意識して、慌ててピアスを外す。

大事な物だったんだ。返してもらえて良かった。


受け継がれてたピアスは、この為のものだったの…。

自分の浅はかさに泣けてくる。


「な、泣かないでくれ。もう少しだから」

泣きそうな私を宥めるように頭を撫でる。

ぐすぐすしながらもお茶を飲んでる私を見て安心したのか、受け取ったピアスを精査し始めた。


何かブツブツ言ってる。

耳は正常に戻ってるので、何を言ってるのか分からないが、大変そうであり、楽しそうだ。


「そうかッ」

弾む声が上がった。


嬉しそうに懐から掌に乗る綺麗な箱を取り出した。年季の入った革張りの赤茶の箱。

トン、トト、トン…とリズミカルに軽く小さく指先で叩く。

ピンッと小さな突起が現れた。


躊躇なくその突起に指を押し当てた。


「あッ」と小さく叫んでしまった。

痛そうッ!

手の中のカップを握り締めた。


暫くするとカチッと小さな音がした。


「コレはこの為だったんだ。コレは『始まりの人』が作った物なんだ。『知』の者たちはコレを守り、作り続きたのがこれさ。ついこの前まで図面だけだったんだけどね」


中身を取り出すとケースは用済みといった様子で床に転がった。昔に作られた物とは思えない輝きを放ってる複雑に歯車がはまってる金属の塊だった。


それに付いてる窪みピアスをそのまま嵌めた。窪みは二つ。ピッタリと嵌まった。

その塊を膝の機械に嵌め込んだ。


「出来た…」





もう少し…(⌒-⌒; )


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