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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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幕間その11 新年祭(下)

「トリス、エリ。楽しんでいるか?」

「ぼちぼちよ。・・・アンタは?」

「私はお嬢様の側仕えですので。」

 広間内を見回っていると、トリスの周りの人種達がちょうど居なくなっていたので、俺は2人に話しかけていた。

「俺もまあまあだ。色々とあったが、こうやってみんなが笑って過ごせているんだから、良かったとしみじみ思う。・・・ああ、そうだ。」

「なによ?」

 大事な事を言い忘れていた事を思い出し、話を切り出そうとすると、トリスは形の良い眉をひそめて碧玉色の瞳で俺を見つめてくる。

「ファリーナを守ってくれて、ありがとうな。トリス。熾石竜戦に参加した顔見知りのハンターから、1番活躍してたって聞いてな。」

「・・・アタシはアタシの信念に従って行動したまでよ。師匠からも頼まれてたしね。」

「それでもだ。ファリーナは俺の故郷みたいなもんだからな。そういや、何人かのハンターに話を聞いたら、トリスの事を褒めちぎるというか、妙に人気がある感じだったが、なんかしたのか?」

 何処かリコに対するヒイロの信仰心と同じ様なモノを持っているように感じたので、確認をしてみる。

「・・・あぁ。アレはなんと言うか、戦いの前にコリンズさんに一言話をって言われて、つい力が入ったせいというか。ま、まあ、それはそうと。ノール。アンタも随分と王都で活躍したみたいじゃない。帰りが随分早かったけど、祝勝会とかには招待されなかったの?」

 目を逸らしながら俺の質問をはぐらかす所を見るに、あまり聞かれたくない話らしい。あからさまな話題の転換だが、俺はそれに乗ることにする。

 ・・・そういえば、フォディーナ王国でも地元のハンター達に姐さんとか呼ばれていたし、何かこう人を惹きつけるカリスマみたいな物がトリスにはあるのかね?

「まあ、俺は目の前の敵に精一杯対処しただけなんだがな。祝勝会はあったんだろうが分からん。王都の騒ぎが片付いたその日に王都を離れたし。」

「激戦だったみたいだし、普通は何泊かして身体を休めるものじゃないの?」

 俺の返事にトリスがもっともな質問をしてくる。

「リコが言うには、王都襲撃で溜まった民の不満を逸らすために英雄に祭り上げられるかもって話だったからな。そんなもの望んじゃいないし、さっさと王都を逃げ出したってわけだ。」

「ああ、なるほど。周りから英雄とか呼ばれるのは、こそばゆいもんね。」

 正にファリーナを救ったトリスもそんな扱いを受けたのだろう。納得の表情をみせている。

「それに、ゆっくりしてたら俺をリーベルタルス王国に取り込む為に、どこの誰とも分からない貴族の娘といつの間にか婚約させられるだろう、とも言われてな。」

「・・・貴族と婚約、ですって?」

 トリスの眉がぴくりと動いて、表情が強張ったように見えた。

「ああ。リコがそんな予想をしていた。俺は平民だし、貴族生活は堅苦しそうだからな。英雄に祭り上げられるのも嫌だが、貴族になるのはもっと嫌だから、逃げ出したってわけだ。」

「・・貴族・・約は・。逃・・・・。」

 俺がそう言うと、トリスは何やら凄く衝撃を受けたようで、うな垂れて何事かをぶつぶつと呟いている。一体どうしたってんだ?

「あ、後はまあ。新年祭を過ごすならファリーナで・・・。トリスを含めた『暁の明星』のみんなと過ごしたいとも思ったし。」

「・・シと・・・たい?」

 尚も俯いたままで、小さな声で呟くトリスの耳は真っ赤になっていた。その様子に心配になった俺が声を掛けようとすると

「ノール様。そこまでです!」

 口を開く前に、エリがトリスを庇うようにして俺の前に立ちはだかる。

「どうやらお嬢様はお疲れのようです。これ以上話しかけないでもらえますか?」

「お、おう。じゃあ、また後でな。2人とも。」

 有無を言わせない口調のエリに、俺はややビビりながらもその場を立ち去るのであった。



「ミク。大丈夫か?」

「・・・ん?あ、ノールか。どうやらうたた寝をしていたようだ。」

 広間に設置された休憩スペース。そこに置かれた柔らかそうなソファーの上で寝入っていたのはミクだった。

 ミクの白い肌は全体的に薄っすらと朱に染まっていて、顔も耳の先まで赤くになっている。

 ソファーから半身を起こしたミクは、頭を抱えて苦しそうにうめいていた。まあ、一言で言えば飲み過ぎなのだろう。

 ミクは進んで酒を飲むような人種ではない。飲んでも少量なので、ここまで具合を悪くすることは普段からは想像もつかない。

 そう言えば、フォディーナ王国の褒賞式後の大宴会でも、ミクは酔い潰れていたから、酒にはそれほど強くないのかもしれない。

「飲み過ぎたんじゃないか?ちょっと待ってろ。」

 俺はそう言って、テーブルに置いてある水差しからグラスに水を注いで、ミクに手渡した。

「ありがとう、ノール。」

 そう言いながらグラスを受け取ったミクは一息にその中身を飲み干す。

「・・・ふぅ。私としては昇格などどうでも良かったのだがな。だが、私を祝ってくれる人種達に杯を勧められると断るのも忍びなくて飲んでいたらこの有様だ。どうやら私はお酒には強くないようだ。」

「かなりの人数に取り囲まれていたからな。あの人数を相手にまともに飲んでいたら、酔っ払っても仕方ない気はするぞ。」

「そういう物だろうか。・・・なあ、ノール。私は最近ふと考える事があるんだ。」

 ミクがその満月色の瞳で、俺をじっと見つめてくる。

「何をだ?」

「貴方に出会えていなかったら、私はどうなっていたのかと、な。」

 酔いがまだ回っているのか、少しふらつきながらもミクは言葉を続けた。

「貴方と出会えていなかったら、おそらくグリフォントゥルスに殺されていただろう。仮に生き残ったとしても、血魔石に侵食されて遠からず死んでいたはずだ。」

 ミクは右腕のブレスレットを左手で優しく撫でる。

「それでも死ななかったとしたら?私は名無し(ネームレス)のままで、強さだけを求める寂しい生き方をしていただろう。当然、先程の様に大勢の人種達と知り合うこともなかったはずだ。」

「だが、現実はそうはなっていないだろう?」

「その通りだ。・・・ふふ。不思議な物だ。あの時、死にたがっていた私が生きたいと願うようになり、ガウェインの分まで生き抜こうと強く思うようになったのだから。」

 確かに、グリフォントゥルス戦の直後からすれば、ミクは強くなったと思う。心も、身体も。

「また1年後、年越しの宴や新年祭で、こうやって貴方の側で過ごせるのならば・・・」

 そこまで言ってミクは何故か口籠もり、元々赤くなっていた顔を更に赤くした。

「私はきっと幸せなんだろうと思う。そして、私は、ノール。貴方の・・・いや。何でもない。今のは忘れてくれ。ともかく、これからもよろしく頼む。」

 酔っているせいなのか、恥ずかしいのか、どちらか分からない理由で赤くなっているミクが俺に手を差し出し、俺もおそらく顔を赤くしながら握手を交わしたのであった。

 


 あの後、ミクは熟れたトマトのように真っ赤になった結果、酔いが急速に回って具合が悪くなったらしく、俺が付き添って自室へ帰らせた。本当は新年祭が始まるまで、俺と一緒に居たかったらしいが・・・。

 そんなこんなで、再び会場に戻ってきた俺はリコを探していた。日頃から本当にお世話になっているので、今年の最後として話をするのはごく普通の流れだろうし、少し用事があったからだ。

 だが、会場の広間内をいくら探しても姿が見当たらない。ふと見れば、バルコニーへ繋がるガラス戸が僅かにズレて開いていたので、もしかしてと思ってバルコニーに出ると、見慣れた後ろ姿があった。

 いつもはストレートの髪を、かんざしを使って珍しく結い上げてはいるが、俺がリコの後ろ姿を見間違えるはずはない。

 リコはバルコニーの手すりを掴んで、じっと満月を見上げているようだった。

 月明かりを浴びたかんざしがキラキラと輝き、リコの栗色の髪はいつも以上に艶を増しているように見える反面、その背中は何故か寂しそうにも見える。

 大きな満月を背景にしたその光景は何処か神秘時な雰囲気で話しかけ辛かったが、意を決して口を開こうとしたその時だ。

「ノール君。君と初めて会った時も、こんな綺麗な満月の夜だったっけ。」

 俺に背を向けたままのリコから声を掛けられる。

「気づいていたのか。・・・そうだな。綺麗なんて考える余裕は無かったが、こんな感じだったかもしれない。」

 言いながら、俺はリコの横まで歩を進め、手すりに両手を置いた。真っ直ぐに満月を見つめるその翡翠色の瞳は何処か悲しげに見える。

「僕はこんな満月の夜があまり好きじゃなくてね。知ってるかい?創世神話では傷付いた神々は天界に引きこもって、この世界から姿を消したけど、その天界が月だっていう学説があるのを。だとしたら、神々は空の上からずっと見ているわけだ。」

故郷が壊滅(あんな経験)した時もこんな満月だったから、俺も満月は好きじゃないな。神々云々はよく分からないが。」

 リコは俺の方をチラリと見て、満月に手を伸ばして潰すようにギュッと拳を握りしめる。

「空から見ているなら、僕ら眷属を助けてくれればいいんだよ。だけど、あの時、僕を、あの人を。神々は助けてはくれなかった。神々は見ているだけだ。そんな物は居ないのと同じと思わないかい?」

 ・・・何の話かは分からないが、リコは昔のことを思い出しているようだ。普通の人種はここまで神を否定するようなことを言わないんだが、今のリコはいつもの飄々とした雰囲気が無く、深い怒りのようなものを感じる。ここまでリコが感情を露わにするの見た事が無いかもしれない。

「なあ、リコ。俺の村が壊滅したあの後。何でリコは俺を引き取って育ててくれたんだ?正直、子供のお守りなんて面倒なだけだろう。」

 普段は本音を話してくれないリコだが、今なら何でも答えてくれるような気がして、前から聞きたかった事を聞いてみる。

「理由はいくつかあるよ。一つは昔僕も満月の夜に酷い経験をしたから、同じように満月の夜にあんな事になった君に親近感が湧いたこと。もう一つは僕が魔物の襲撃を察知出来ていれば防げていたから申し訳ないと思ったこと。そして最後の一つ。君はあの人に似ていたこと。取っ掛かりとしてはそんな所だけど、今ではそれを抜きにしても、君のことを大切に思っているよ。」

「さっきも言ってたが、あの人って・・・」

 俺が続く言葉を言い掛けたその時。ドーンっという轟音と共に夜空に光の欠片が飛び散って、大輪の花を形づくる。それは新年の始まりを告げる花火だった。

「新年おめでとう。ノール君。・・・ふふ。さっきは神々が居ないのと同じとか、ちょっと言い過ぎたね。五神教の関係者が聞いていたら、面倒なことになっていたよ。」

 次々と夜空に上がる花火を眺めながらリコがそんな事を言ってくる。リコはいつもと同じような飄々とした態度に戻っている。

 花火が上がる前に言い掛けていたことは聞こえていたはずだが、言及する様子は無い。あの話はこれで終わりってことかもしれない。

「新年おめでとう、リコ。じゃあ、あれは聞かなかったことにするわ。」

 打ち上がり続ける花火を眺めながら俺が軽口を叩くと、互いの笑顔と共に、重苦しい雰囲気は霧散するのであった。


 そして、雑談を交わしている途中で、何故リコを探していのかを俺は思い出す。場の空気に呑まれて忘れかけたが、リコにプレゼントを渡そうと思っていたんだった。

 新年祭は家族や恋人、友人などの近い間柄の人種同士で過ごすのが一般的で、親子間では成人などの節目のタイミングでプレゼントが贈られることがある。

 前にリコと暮らしていた時は、リコから毎年何かしらのプレゼントを貰っていた。だが、俺はまだ小さい事もあってリコにプレゼントをあげた事がなかったってわけだ。

 まあ、相手は生ける伝説みたいな英雄だし、俺が贈る事ができる物なんて、貰っても仕方ないかもしれないが。

 そんな事を思いつつも、俺は懐から用意したプレゼントを取り出そうとしていた。

「ああ、そうだ。ノール君。血魔石の研究なんだけど、ある程度目処がついてね。少し遅くなったけど、近々研究成果の発表が出来ると思うよ。」

「本当か!」

 リコは自信があるようだし、これでミクが血魔石の侵食に悩まされなくなるなら万々歳だな!

「うん。楽しみにしててよ。それとね。まだ分からないんだけど、ひょっとしたら僕が長年目標にしていた事が達成できるかもしれないんだ。」

「そうか。リコが何を目標にしているか知らんが、何か協力出来るような事があれば言ってくれ。」

 俺の返事にリコは微笑みながらも首を振る。

「ありがとう。気持ちだけは貰っておくよ。・・・でも、そうだね。」

 少し間を置いて、リコは口を開く。

「ノール君。君は君の大切な物を見失わないようにしなよ。例え()()()()()()()()、ね。」

 そう言ったリコは憂いを帯びた表情をしており、気圧された俺はプレゼントを渡すタイミングを逸する事になる。

 この時のリコの意味深な発言の意味が分かるのは、これからしばらく後の話となるのであった。

以上で第3章を全て終了致します。

しばらくお休みをいただいて、別作品を少し更新した後に、第4章「灰色の科学者」を更新させていただきます。


そういえば、このお話を投稿し始めてから、つい先日で1年が経過しました。

モチベーションが下がる時もありはしましたが、皆さんの閲覧や評価、ブックマークなどが継続する上での力となりました。

拙いお話ではありますが、完結までは頑張りたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

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