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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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幕間その10 新年祭(上)

 王都の動乱が終結したその日。エルガオン侯爵だったモノをリコが倒した後に、その足で俺達は港へ向かった。

 停泊していたレフォルマに乗り込み、直ぐに出航する旨をエンデに伝えた時には大分渋られたが、リコがオハナシ(説得)をした結果、まるで王都から逃げる様にして、本当にその日のうちにファリーナに向かって出航することになったのである。


「ふぅ。なんとか新年祭に間に合ったね!」

 王都を出航してから10日後。軽やかなステップでタラップを下り、ファリーナの港に降り立ったリコがそんな第一声をあげる。

 今日はちょうど12の月の最終日。新年祭は年明けしてから直ぐに始まるため、本当にギリギリの帰還になった。

「まさか季節外れの嵐に遭遇するとは思わなかったっスからね。もう少し足止めされていたら、レフォルマの中で新年を迎えるところだったっスよ。」

 船を係留する作業をしながら、エンデがしみじみと語りだす。

「プラリタ、嵐、嫌い。」

「大揺れに揺れたしな。船に初めて乗ったプラリタには辛かったろう。よく頑張ったぞ。」

 頬を膨らませて不満そうにするプラリタを、褒めながら慣れた手付きで頭を撫でるクロ。プラリタもされるがままで満更でもない様子だ。種族が違うのを除けばまるで親子の様だな。

 っていうか、クロの奴、あんな感じだったか?もっとなんというか、トゲトゲしかったと思うんだが。


「ようやく帰って来れたな、ノール。」

 まだ船上に残ってそれを眺めていた俺にミクが話しかけてくる。

「ああ、そうだな。ミク。まあ、船旅もそんなに悪くはないが、地面は揺れないほうがいいし、やっぱり久しぶりにファリーナに帰って来ると落ち着くな。」

「そうだな・・・。」

 俺の返事に何かを考え込むように沈黙するミク。

「どうかしたのか?ミク?」

「・・・ん?ああ。大したことじゃない。研究施設から逃げ出した私は、各地を放浪していただろう?」

「それがどうかしたのか?」

「その時は一時的に拠点としている街についても、「帰って来た」とは思ったことはなかったんだが、今は自然と「帰って来た」と思ってな。それが少し感慨深かったのだ。」

 言いながらミクは穏やかな顔をしている。

「それだけミクがファリーナの街に慣れたってことだろうな。俺の故郷は魔物の襲撃で無くなったが、今はファリーナが故郷みたいなもんだ。ミクにとっても故郷になったんじゃないのか?」

「・・・私にとっての故郷、か。そうかもしれないな。」

 俺は先に船から港に降りて、タラップに立ち止まっていたミクに向かって手を差し出す。

「おかえり、ミク。」

「ああ。ただいま、ノール。」

 俺がそう言うと、ミクは満面の笑みを浮かべるだった。


「遅かったわね、ノール。」

「お帰りなさいませ、ノール様、ミク様。」

「よく戻ったな、坊主、嬢ちゃん。」

 ハンターズ支部に寄った後、そのままリコの屋敷に戻った俺とミクは玄関でトリス、エリ、グレゴリウスの3人から、三者三様の出迎えを受けていた。

 因みにリコとクロ、プラリタはハンターズ支部で色々と手続きをする事があるらしく、俺とミクの2人だけ一足先にリコの屋敷に戻っていた。

 リコは顔見せだけで直ぐにハンターズから引き上げようとしたが、鬼気迫る表情のコリンズ()()に引き留められて本当に渋々残る事を了承していた。

 20日ほど留守にしている間に、支部長でしか処理出来ない案件が溜まりに溜まっているらしい。

「3人ともわざわざ出迎えに来てくれたのか?」

「アンタが帰ってくるのが、窓から見えたから、ちょっと寄っただけよ。」

「・・・私はお嬢様についてきただけですので。」

 ぷいっと顔を横に背けながら言うトリスの隣では、グレゴリウスが何故か笑いを堪えていた。

「・・・嘘は言ってねぇが。トリスの奴、レフォルマが入港したって連絡を受けてから、屋敷の門が見える窓の辺りを、ずっとウロウロしてたんだぜ。」

「グ、グレゴリウス!」

 それだけ言うとグレゴリウスは腹を抱えて笑い出し、慌てたトリスは顔を真っ赤にさせていた。

 俺がトリスへ視線を向けると、トリスは碧玉色の瞳で睨み返してくる。

「な、何よ!ギルドメンバーの心配をして何が悪いのよ!」

「まだ何も言ってないし、別に悪いとも思って無いって。ありがとな、トリス。」

「トリス。友として心配してくれたのだろう?その心遣いが私は嬉しい。」

「ふ、ふん。分かればいいのよ。」

 気恥ずかしいのか、トリスは赤い顔のまま言葉を続けた。

「ところで2人とも。まだ昼過ぎたばかりだけど、長旅で疲れてるんじゃない?風呂の準備をしてもらってるから、入ってきなさいよ。」

 どうやら、トリスは俺達にかなり気を遣ってくれているらしい。至れり尽くせりだな。

「じゃあ、お言葉に甘えて風呂に入らせてもらうかな。」

「私も有り難く入らせてもらおう。」

「少しお待ちを。ノール様、ミク様。風呂上がりにお食事はいりますか?」

 俺とミクがそれぞれ風呂に向かおうとすると、エリが食事について尋ねてきた。

「あー、そうだな。ファリーナに着くちょっと前に昼食を取ったからな。俺はいいや。風呂上がったら、少し部屋で休憩するから、また年越しの宴の時にな。」

「私も食事は遠慮しよう。・・・だが、トリス、エリ。後でお茶会はどうだろうか。」

 俺は腕を振りながら風呂へと向かい、ゆっくりと旅の疲れを癒すと、新年祭の前夜祭となる年越しの宴まで、自室で眠りこけることとなる。



「さあ、それじゃあ、年越しの宴を始めようか。みんな、手元にグラスの準備はいいかな?」

 リコの声が大広間に響き渡る。年に数回しか使われることがないらしい大広間には中央に大きな長方形テーブルが置かれ、その上には贅を凝らした料理がずらりと並んでいる。

 そして、日頃は人気の無いこの大広間には、大勢の人種が招かれ、詰めかけていた。

 俺やミク、トリス、エリ、クロ、グレゴリウス、プラリタだけではなく、副支部長のコリンズや受付嬢のミランダなどのハンターズ職員一同、ミスリルランクハンターのファリオをはじめとしたファリーナ支部所属の見覚えのある高ランクハンターの面々などだ。

 例年、リコの屋敷では節目毎に様々な人種を招いて宴を開催しているが、今年の年越しの宴は通常より遥かに規模が大きいらしい。

 ファリーナは8の月にはグリフォントゥルス、俺やリコ、ミクが留守の間のつい先日には熾石竜サラマンドラマグニフィと、今年は2回も大型の魔物から襲撃を受けている。

 ハンター達もそれぞれの戦いで奮戦しており、その慰労を兼ねての大規模な宴会となったようだ。

「今年は本当に色々あったけど、みんなの頑張りのおかげで、ファリーナに大した被害も出さずに切り抜けることが出来たと思っている。今日は僕なりに日頃の感謝を込めて、細やかながら宴を開催します。今年1年、本当にお疲れ様!新年祭まで好きなだけ飲んで食べて大いに騒ぎなさい!乾杯〜!!」

『乾杯!』

 こうして、リコの号令の下、盛大な宴会が開催されたのだった。



「おう、坊主。飲んでるか?」

「まあ、ぼちぼちだな。」

 ある程度時間が経った頃、1人で佇んでいた俺にグレゴリウスが話しかけてくる。

 最初は『暁の明星』のメンバーで固まっていたんだが、リコが乾杯の挨拶の後に、ミクはウルビスや王都での戦いを、トリスは熾石竜の討伐を、それぞれ評価されてアダマンタイトランクに昇格・・・特にトリスはゴールドランクから2ランクアップの異例の昇格が発表されて会場は大騒ぎとなった。

 その結果、ミクもトリスも大勢の人種に取り囲まれる事になり、俺達は半ば強制的に会場内にバラけてしまったのだ。

 ミクやトリス以外のメンバーには、俺も含めて多少の人種が来たものの、そこまで数は多くない。今は話に来る人種が途切れたので少し休憩していたところだ。

 ミクやトリスは、まだまだ数多くの人種に取り囲まれるていたが。

「人種が来過ぎてちょっと休んでたとこだが、おっさんもか?」

「ワシは『暁の明星』じゃないからな。それほど群がられても無い。コイツをゆっくりと楽しんでたところだ。」

 言いながらグレゴリウスが差し出したのは一本のワインボトルだった。

「ワイン?」

「ああ。ただのワインじゃねぇ。リコがユズリハ連邦から取り寄せた100年物の極上ワインだ。」

「なんでそんな貴重なモノを持ち歩いてるんだか。・・・もしかして、俺に見せびらかそうってことか?」

 冗談に任せて言うと、おっさんは苦笑しながら首を振る。

「いや。これは坊主と一緒に飲もうと思ってな。」

「なっ!おっさんが酒を、しかもそんな高そうなものを分けるだと!」

 基本的にグレゴリウスは豪快で何事にも寛容だが、ただ一点、酒についてだけは意地汚い。前にあんまりにも美味そうに飲んでいた酒があったから分けてくれと頼んだら、取り付くしまも無く、一滴もやらん!と即答で断られたしな。

 そんなおっさんが、貴重なワインを分ける!?

「そんなにビックリせんでもいいだろ。・・・このワインはな。本当はグリフォントゥルス戦の時にリコから参戦の報酬として貰うはずだったものだ。」

 不満そうな顔をしたグレゴリウスが、ヒゲを撫で付けながら語り出す。

「だが、あの時のワシは腑抜けきっていて、この報酬に値する働きが出来ていないと思っての。だからコイツはリコに預けて、ワシは自分自身を鍛え直すことにしたのじゃ。ワインをお裾分けするのは、お前さんがワシが自分を見つめ直すキッカケになったからだな。」

「それで強くなったのはおっさんの努力であって、俺は関係なく無いか?まあ、滅多に飲めなさそうな代物だし、くれるなら有り難くもらうがな。」

 グレゴリウスの気が変わらない内にいただくとしよう。俺は渡されたグラスを受け取って、おっさんから赤ワインを注いでもらう。

 トクトクと音を立てて注がれるワインは、どこか艶のある深い赤色をしていた。一口飲むといろいろな果物をミックスして湿らせたような複雑な香りが鼻腔をくすぐり、ねっとりとした濃厚な甘味が口の中に広がる。

「う、うめぇ!」

「だろう?だが、お代わりは無しだ。他の連中にも注がなきゃいけねぇしな。じゃあ、またな。」

 あまりの美味しさに動きが止まった俺を置いて、グレゴリウスは何処かへ立ち去って行った。

 ・・・もっと飲みたかったんだがな。



「クロ、何してんだ?」

「・・・ん。ああ、ノールか。」

 会場を彷徨いていると、何やら抱え込んで何処かへ行こうとしているクロに遭遇した。

 それなりに大きな物を布で包んで慎重に運ぼうとしているその様子は、はっきり言って不審者以外の何者でもない。

 その抱えている物を覗き込むと包んだ布の隙間から、艶のある藍黒色の髪が一房垂れて揺れていた。

「・・・ひょっとして、プラリタか?」

 俺の問いにクロが頷く。

「ああ。子供には夜遅過ぎたんだろう。眠そうにはしてたが、さっき完全に寝てしまってな。」

 今の時刻は夜10時くらいだろうか。推定5〜6歳の子供であるプラリタには辛い時間だろう。

 年越しの宴は12の月の最終日、夜8時くらいから始まって、新年に入るまでぶっ通しで行われて、そのまま新年祭に突入する。

 プラリタみたいな小さな子供が途中で寝てしまうのは年越しの宴にありがちな話だろう。

「なので、今から部屋に寝かしに行くところだ。」

 言いながら優しい手つきで、プラリタの頭を撫でるクロ。その顔つきは今まで見た事がないほどに優しげな物になっている。

「前から聞きたかったんだが、クロとプラリタはどういう関係なんだ?」

「命の恩人の子供だ。・・・それから、昔世話をしていた孤児(ガキ)に少し似ている。」

 クロはそれだけ言うと、そんな事はどうでもいいとばかりに、俺に背を向けて足早に会場を後にする。・・・クロのやつ。前にも思ったが、本当に父親みたいだな。


 まあ、この際だ。『暁の明星』のメンバーとは一通り話をする事にするか。こうして、俺は会場の広間を彷徨く事になったのである。

という事で新年祭(上)でした。

またしても上下に分かれましたが、まあ、いつものことですね。

因みに(下)については、既に書き上げていますので、明日26日の夜に投稿させていただきます。

明日もご覧頂ければ幸いです。よろしくお願いします。


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