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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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第7話 人為的な異常種

今更ながらなのですが、第1章について、丸々1話分のお話が抜けていたのが今判明しました。

最初はスマホで書き溜めていたものをコピペして投稿していたのですが、その時にコピペもれしていた模様です。

具体的にいうと、第1章の第6話大切な弟子と、旧第7話英雄の贈り物、の間にあったお話が抜けていましたので追加いたします。

繋がりが悪い話になってて、しかも長い間それに気づかずにすみませんでした。

「・・・話が大分それたね。そのニルちゃん、話の通りならシルバーランクにも満たないレベルなのに、ミスリルランク以上の実力が有りそうということは、レベルアップが極端に遅いタイプなんじゃないかな。」

 気持ちを落ち着かせる為か、リコはお茶を一口啜り、ゆっくり味わってから飲み込んで、言葉を続けた。


「僕はレベルアップ、つまり魂を強化するのに必要な魔素の量に何故個人差があるのか考えたんだけど、多分魂にも格みたいなものがあるんだと思うよ」

「魂の格?」

「例えば、建物を改築するのに小さな小屋と大きな城だったら、必要な建築資材の量が違うよね?レベルアップも同じで、格の低い魂は魔素が少なくすみ、格の高い魂は魔素がたくさん必要なんじゃない?」

「なるほど。でも、農村出身の俺が、魂の格が高いと言われても、違和感あるけどな。」

「人間社会の身分と魂の格は関係無いんじゃないかな。身分が高い貴族が戦闘能力や政治の実務能力が高いと限らないのと同じだと思うよ。君も知っての通り、貴族にもとんでもないクズが居るからね。」

 誰かを思い出したのか、リコは忌々しそうに吐き捨てる。


「それはそうと、最近面白い実験をしたんだ。異常種(アブノーマル)の発生についての実験。異常種(アブノーマル)は何らかの原因で自然発生した魔素溜まりの魔素を限界以上に吸収したら発生するんじゃないかって学説を僕が発表したのは知ってるよね?」

「師匠の論文だし、一応は。」

「よろしい。で、それを発展させた実験って事で大量の魔石を叩き壊して人工的に魔素溜まりを発生させた上で、その辺にいた普通のウサギを動けないようにして魔素溜まりに放置したんだけど、どうなったと思う?」


「なに危ない実験をしてんだ!」

 思わず怒鳴った俺に対して、リコは涼しい顔をして答えた。

「僕が完全武装状態で側に待機した上での実験だよ?何か起きても、ソレが何かを起こす前に鎮圧してお終いさ。で、どう思う?」

「・・・ウサギはウサギのままじゃねぇのか?魔素溜まりに当てられて死んじまったとか?」

 質問に答えないと話が進まないと悟った俺は渋々回答する。

「ブッブー!外れ。正解はね、レプスの異常種(アブノーマル)、ウォーパルバニーっぽい何かになったよ。」

「はっ?ただの動物が異常種(アブノーマル)??っていうかウォーパルバニーっぽいってなんだよ!」

 あまりの衝撃的な回答に俺は思わず声を荒げる。


「細かい部分は違うんだけど、ウォーパルバニーそっくりだったんだよ。全体的な能力はウォーパルバニーよりちょっと上だったかな?飼えるような代物じゃないし、ちょちょいと首を跳ね飛ばしたけど。」

 ゴールドランク下位に当たる怪物の首を、その辺の雑草を刈るかのように言うリコの非常識さに、俺は目眩を覚えた。

「ちょっとまて。ただの動物を異常種(アブノーマル)にできるなら、色々悪用できるんじゃ・・・。」

「そうだね。例えば、敵対する相手の土地で動物やら魔物やらをどんどん異常種(アブノーマル)に変化させる事ができれば、手を汚さずに相手の力を削ぎ落とせるだろうね。けど、何回か同じ実験をやったけど、ウォーパルバニーっぽいのに変わったのは3割ってとこだよ。確率が悪すぎるし、大量の魔石を使うから、コストがかかり過ぎる。そういう使い方は出来ないよ。・・・このやり方は、ね。」


 含みを持たせたリコの言い方に嫌な予感がする。

「危険すぎるから僕はこれ以上、この事を研究しないけど、仮に研究を進めた組織なり国なりがあったとしたら?」

「やばいじゃねぇか!」

「それが北の人族至上主義国家セプトアストルム帝国だったら?多人種国家の我が国リーベルタルス王国とは仲が悪いから、不味そうだよね。」


 セプトアストルム帝国はアエルニタス大陸北部に位置する大国で、元々は人族至上主義ではなかったらしい。

 在位20年になる現皇帝のクルムレクス帝は、即位前には帝国内でも穏健派として知られていたが、即位した途端に人族至上主義を掲げて、急速に国内を統制、掌握していった。

 結果、人族至上主義国家として生まれ変わったのだとか。嫌な生まれ変わりだが。


「セプトアストルム帝国の仕業かどうかはともかく。ノール君が昨日出会したシルバーデビルは自然発生的なものではなく、人為的なものだと、僕は思ってるよ。異常種(アブノーマル)2体分が変異できるだけの魔素溜まりが、こんな都市の近くで自然にできるなんて有り得ないからね。」

 細かな原理は分かって無いが、魔素溜まりは基本的に人里離れた場所に出来ることが多い上に、ファリーナがあるリーベルタルス王国全体でも異常種(アブノーマル)は年10〜20匹くらいしか発生しないらしい。

 それが都市の近くで一気に2匹も出てくるのであれば自然発生では無いという考えは頷けるものがある。ただ一つの可能性を除いては。


「師匠の考えは説得力があるが、魔王復活の予兆って説もあるんじゃないか。前回師匠が活躍したのが500年前だから、周期的にはそろそろだろ?」

「それは僕も考えたけど、まだ違うと思うよ。魔王復活の予兆ならファリーナだけじゃなくて、大陸全土で異常種(アブノーマル)が大量発生するはずだけど、そういう情報は入っていないからね。」

リコは肩をすくめて返事をする。


「さっき言った実験の結果と、僕の考察、それから今から行うシルバーデビル発生の実地調査を踏まえて、王都の方には報告をするつもりだよ。ハンターズは政治には関わらないけど、異常種(アブノーマル)が人為的に作られた可能性が高いともなれば、大陸全体の問題だろうし。」

「ところで、何でしがないシルバーランクでしかない俺に、こんな重要な話をしてくれたんだ?」


 俺がそう言うと、リコは翡翠色の瞳を細めて、真剣な眼差しになる。

「・・・危険だから、だよ。君もシルバーデビルが2体出てきた事はおかしいと思っただろうけど、人為的なものという可能性は考えなかったでしょ?」

「そうだな。想像もしなかった。」

「人為的なものなら、ファリーナはどこかの国や組織に狙われてる可能性がある。君はファリーナが襲われたとしたら、全力で闘うよね?守るためにハンターになったんだから。」

「故郷と同じような事を防ぐためにハンターになったしな。」


 俺がリコのように強ければ、村を守ることができたかもしれない。何をしても壊滅した故郷は戻ってこないが、あんな想いは2度としたく無い。自己満足かも知れないけど、俺は今居るファリーナを守りたい。


「なら、油断しないように危険な状態だって認識してもらわないとって思ってね。君はすぐ油断するところがあるから。」

 そう言ってジト目で俺を見てくるリコに、それが事実なだけに俺は言葉に詰まってしまう。

 そんな俺をしばらく見ていたリコは急にニヤリと笑って言葉を続けた。


「それから、君はもうしがないシルバーランクじゃないから。今はゴールドランクだよ。僕の権限でさっき昇格させた。」

「はっ?何を冗談言ってんだ?」

「事実だよ。元々君の実力でシルバーランクはあり得ないから。普通のゴールドランクの昇格条件はレベルの他に武技をある程度覚えている事だけど例外があってね。ハンターズの支部長以上の推薦があれば昇格できるんだよ。推薦するのにも条件があるから簡単じゃないけど、公には昨日のシルバーデビルは2匹とも君が倒した事になってるから、楽に手続きできたよ。・・・おや?嬉しくないのかい?」


 達成感が全く無い昇格への不満が顔に出たらしく、リコは怪訝な顔をした。

「俺が倒したのは一体だけだしな。エコ贔屓で昇格してもって思ったんだが。」

「君は何故か自己評価が低いけど、一体でもゴールドランク上位のシルバーデビルをソロで倒せるなら、ゴールドランクに昇格するには十分すぎるよ。」

「それはそうかも知れねぇが・・・。」

「それにゴールドランクならハンターズとして色々便宜を図る事が出来るからね。例えば四次元収納機能(アイテムボックス)付きバックパックの貸し出しとか、ね?」

リコはそう言っていつの間に用意をしたのか、黒いバックパックを取り出し、テーブルの上に置く。


 四次元収納機能(アイテムボックス)付きの道具といえば、容量が小さい物でも王都の一等地に家を買うより高く、買う事自体にハンターズ支部長や領主の許可が必要になる代物だ。

 現代の技術では作製不能で、古代の超技術で作られた物を騙し騙し使っているのが現状の為、現存数が非常に少ない。隠して武器を大量に持ち込めるようになるなど、防犯上の理由から購入は許可制になっているらしい。

 武器代で懐が火の車の俺には逆立ちしたって買えるものでは無い。


「僕が使ってたヤツを譲ってもよかったんだけど、譲渡の許可を取るのはかなりの手間でね。若くしてゴールドランクになった有望なハンターであるノール君にハンターズとして貸し出す事にしたのさ。」

 耳長族にしては珍しく豊満な胸を逸らしながら、リコは自慢げに言った。


「僕個人からのゴールドランクの昇格祝いとして、中にはアレ用に弱目の武器を沢山と、ちょっとマシな防具、その他諸々を入れといたよ。それからバックパックを借りる為の保証金もお祝いにしとくね。」

「・・・ありがたい。が、手厚すぎて逆に怖いんだが。俺は何と戦わされるんだ?」

 急速に充実していく装備に返って恐怖を覚えて、俺は思わずリコに尋ねると、彼女は秀麗な顔を曇らせて深い溜息をつく。


「・・・さっき危険な状態だっていったでしょ。忘れたのかい?使える物は何でも使って君の装備くらいは整えないと。僕は大切な弟子を守る為なら職権濫用だろうが何だろうがするんだよ。」

 ドヤ顔でとんでもない事を宣言する支部長様に、気配を殺していたコリンズが「少しは自重して下さい。」とボソッと呟いたが、俺もリコも結局反応する事はなかった。


 そのまま、その日の話は終了し、俺は支部長室を辞去したのだった。

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