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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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第15話 或る狂信者の狂奔(下)

「貴方が(マッド)科学者(サイエンティスト)デノデラの部下、番号持ち(ナンバーズ)のノウェムですか。」

 言いながら私は改めてノウェムの姿を確認します。

 身長180メルほど。()()()()人族の男性。歳の頃は40歳前後でしょうか。

 前髪が目に少しかかる程度の短めの黒髪に、印象的な紅い瞳。筋肉質な身体で身長以上に大きく見えますね。

 黒い革鎧の上から紅いコートを羽織り、両方の腰には一目で業物と分かるロングソードを下げています。・・・装備に籠る魔力の質・量から一級品の装備であることが分かりますね。

 ですが、ノウェム自身が内包している魔力量は膨大で、装備よりも本人の格が高いことが伺えます。クロ君がオリハルコンクラスと言っていたのはあながち間違いではなさそうです。


「俺みたいなのを知ってるのか?アンタみたいな有名人に知っていてもらえるとは光栄の至だな。」

「有名人?私などリコ様に比べれば大した事はありませんよ。ところで、エルガオン侯爵が何処に行ったのか知りませんか?」

「ああ。侯爵ならそこの桟橋から船に乗って何処かに逃げていったな。あのいけ好かない貴族のおっさん、大分不安定になってたし、ロクな事を考えてねぇと思うぞ。まあ、俺は足留めを頼まれたから此処に居るってわけだが。」

 ダメ元での質問でしたが、予想外に色々と喋ってくれます。嘘を言ってる様子はありませんが・・・。

「貴方が侯爵のような小物の言うことを素直に聞くとは思えないのですが。」

「確かに他国人である俺が侯爵の依頼を聞く必要はねぇ。だが、ミクが居るかの確認(確認したい事)があったからここに残った訳だ。で、確認は済んだから俺はこのまま立ち去りたいんだが、見逃してくれねぇか?アンタと事を構えるのは骨が折れそうだしな。」


 おそらくノウェムと戦っても負ける事はないと思いますが、狭い地下空間では魔法を使いづらいですし、簡単には決着はつかないでしょう。

 ロキュオンやラディウスは防御に徹すればノウェムにある程度対応出来るかもしれませんが、それ以外のメンバーは無理でしょうから、狙われれば私が守らなければなりません。

 それにノウェムの側で控えている人形(クグツ)。よく見れば、それぞれ顔に見覚えがあります。少し前に行方不明になった王国本部(ウチ)に所属しているミスリルランクのハンター達です。・・・見たところ、アダマンタイトランクよりも少し弱いくらいの強さになっているようです。それが6人ですか。まとめて掛かってきたら、被害は免れないでしょう。なかなか厳しいですね。


「・・・貴方は、何故ミク君にこだわるのですか?デノデラの命令以外に個人的な用事があると言っていましたね。」

「少し話したいことがあってな。内容は言えねぇな。」

 私の質問に答えるノウェムの顔は、実に穏やかなものでした。・・・ミク君に対する敵意がない??

「まあ、そうだな。逃げた侯爵だが、多分麻薬で増やした人形(クグツ)やゾンビを王都中に解き放つと思うぞ。俺も詳しくは知らんが、この地下と似たような場所が何ヶ所もあって生ける屍どもを溜め込んでいるらしい。気が触れた侯爵が、王都ごとリコ・キサラギを葬るみたいな事を言ってたからな。」

「なぜそんな話を私に?」

「俺はデノデラ(クソ野郎)の部下だからな。リコ・キサラギを葬りたいのは諜報部の意向でもあるが、単純にリコ・キサラギの抹殺(侯爵の計画)がどうなろうとも俺には関係ないからだ。ソレが出来るとも思えないしな。それから王都の方が一刻も争う事態になると分かれば、アンタは俺に構っている暇が無くなるだろう?因みに俺は王都がどうなろうとも興味がないし、諜報部の作戦に手を貸すつもりはさらさらないぜ。」

 ノウェムがそう言った時でした。



『ヒイロ様!今よろしいでしょうか。緊急事態です。』

 ヒナギクから念話が入り、頭の中に彼女の声が響きます。余程のことが無い限りは連絡してこないように言っていたのですが。

『どうしました?ヒナギク。』

人形(クグツ)とゾンビが大量に出現しました。主に中央区、西区にある貴族の所有する屋敷や施設の地下から溢れ出しているようです。また、中央区、西区に限らず王都内の各所でも、数は少ないものの出現しています。おそらく麻薬を摂取していた人種達が急激に変化したものと思われます。』

 頭の中でヒナギクと話をしながら、私はノウェムを常に視界にいれて警戒します。

()()()来ましたか。』

『ですね。では、()()()()に私が指揮して生ける屍の掃討に移ります。ですが、全ては無理そうなので、ヒイロ様には中央区をお任せしてよろしいですか?』

『分かりました。任せてください。』


 麻薬の推定流通量からして、ハンターズで把握している被害者の数があまりにも少なかったことから、何処かに隠しているものと私とヒナギクは考えていました。

 そして、ノール君達から人形(クグツ)とゾンビはデノデラの命令で動いていたと聞いた時から、隠された生ける屍達がいつか操られて牙を剥くだろうと想定していたのです。

 その備えとして、エルガオン侯爵家制圧にヒナギクを加えずに待機させ、且つ、それほどハンターを動員しなかったことで十分に戦力を残しているのですから。


 ヒナギクは元々アダマンタイトランクのハンターで個人としても強いのですが、彼女の真価はそのギフトにあります。

 彼女のギフト『指揮者(コンダクター)』の能力は、指揮下に入った人種の能力を大幅に上昇させ、且つ、指揮者であるヒナギクは念話による意思伝達が可能というものです。

 その強化は凄まじく、例えばゴールドランクのハンター100人をヒナギクが指揮すれば、能力的にはミスリルランクのハンター100人となり、ヒナギクの命令で統一した意思のもと動く強力な部隊に早変わりすると言う非常に強力な能力なのです。

 しかし、そんな彼女をもってしても、全てをカバー出来ない状況とは・・・。



「ノウェム。貴方の要望通り、見逃します。但し、言葉に反して一般市民に被害を与えるような事をした場合は、私が全力で叩き潰して差し上げましょう。」

 今ここでノウェムを倒した方がいいとは思うのですが、その場合は時間もかかるし私達の被害も甚大なものになるでしょう。生ける屍達が王都に溢れている現状では時間もなく、やむを得ませんね。

「ありがとよ。ああ、勝手だが一つだけ頼まれてくれねぇか。」

「何でしょうか?」

「アンタ達がこの屋敷に突入する少し前なんだが、ウルビスに配置してたアダマンタイトランク相当の魔物が討伐されている。ミクはそっちに行ったんだろ?だから戻ってきたら伝言をお願いしたい。」

 私達が突入する前ということは10時くらいですかね。

「ミクがまだ『出来損ない』と言われていた頃にした約束を今果たしたい。闘技場で待つ。ってな。」

 言うだけ言うとノウェムは脱出用に準備していたらしい船に、人形(クグツ)を引き連れて乗り込みます。

「あっちの方に階段があるからそれを使えば地上に出れるぜ。じゃあな!」

 そうしてノウェムは水路の奥に消えていきました。


「本部長。ヤバそうな奴だったけど、逃して良かったの?」

 ノウェムが完全に見えなくなってからカミュが尋ねてきます。

「私でもなかなか手こずりそうな相手でしたし、取り敢えず敵意はありませんでしたからね。それに、ヒナギクから念話がありました。」

 ヒナギクの『指揮官(コンダクター)』は自身と同格以上の者を指揮下に加えることは出来ませんが、事前に登録した1人だけ双方向に意思疎通が可能な念話をすることが出来ます。つまりは私が登録されているわけです。

「王都に人形(クグツ)とゾンビが大量に出現したそうです。気にはなりますが、ノウェムよりそちらを優先するべきでしょう。カミュ。ノウェムが言っていた階段を罠がないか念のため調べてもらえますか。」

「アイツの言う通りにするのは癪だけど、今は急いだ方が良さそうね。了解。」

 そう言って、カミュは足早に階段の方に向かいます。結果、罠などは無く、私達は無事に外に出ることが出来ました。



 エルガオン公爵邸の敷地の端に出てきた私は、他の皆を待機させて、1人飛翔の魔法で空に飛び上がります。

 その私の目に飛び込んできたのは、生ける屍達が王都の各所を破壊してまわる様子です。ヒナギクの報告通り、彼等は中央区と西区の数ヶ所の建物から続々と現れてきているようです。

 中央区は・・・エルガオン侯爵邸の周辺にはいませんが、奥の方にある査問会に出席していたいくつかの貴族の屋敷から溢れ出ていますね。ちょうどいいかもしれません。

 私は地上に戻り、指示を出します。

「ラディウス。ロキュオン。エルガオン侯爵邸に戻って人形(クグツ)とゾンビを殲滅してきてくれますか?溢れ出てきたら困りますしね。」

「了解した。」

「ちょうどいい。消化不良だったからな!」

 元気よく返事をした2人は、再びエルガオン侯爵邸に入っていきます。


「カミュ。貴女は残った皆と一緒にハンターズに戻ってヒナギクの指揮下に入ってくれますか。」

 ラディウスとロキュオンは強さ的にヒナギクの指揮下には入れません。なので2人は戻しませんが、カミュをはじめとした他のメンバーは違います。ヒナギクの指揮下に入った方が能力をフル活用出来るでしょう。

「・・・それはいいけど、本部長はどうするんだよ?」

 間をおいて答えるカミュの眉間には深いシワがよっています。仲が悪いですからね。カミュとヒナギクは。必要な事だとは分かっていても、指揮下に入るのが嫌なのでしょう。

「私は中央区の発生源を潰します。」

「たった1人でやるのかよ!」

「先程は侯爵邸内の探索をしなければならなかったこと、また、地下という閉所であったので威力のある魔法を使えませんでしたが、外なら問題ありません。カミュ。早く行ってください。」

「・・・分かったよ。本部長。ちゃんと無事に帰って来ないと承知しないからな!」

「ふふ。ありがとうございます。では、また後ほど。」

 私はカミュ達を残して再び空に飛び上がりました。



『魔力探知』

 空を飛びながら、私は生ける屍達が出てきている貴族の屋敷を全て視界に入れて精密な魔力探知を行い、生きている人種が居ないことを確認します。

『閉鎖結界』

 次に該当する4軒の屋敷の全てを結界で覆いました。生ける屍達がこれ以上外に出ないようにする為でもありますが、この結界にはもう一つ理由があります。

『穿天岩槍・焔』

 一連の中で私が最も魔力を込めた魔法が発動します。大地が激しく揺れると、小山のような巨大な岩の槍が地中から迫り出して、全ての屋敷を地下から屋根まで貫いた上で炎に包みます。その様子は、さながら地獄にあると言う燃える山のようです。

 これによって結界内に閉じ込められていた生ける屍達は全て焼き尽くされ、結界の中の魔法であるために周囲の屋敷に燃え移ることもありませんでした。

 明らかな過剰火力ですし、ここまでする必要はないのですが、リコ様をコケにした貴族の屋敷など粉々にするに限りますね。モヤモヤとしていた胸がスッとします。

 ちなみに、結界の外側で灰になる屋敷(自宅)を眺めて呆然としているオウム伯爵の姿がチラリと目に入りましたが、いいキミです。


 ・・・早めに発生源を潰したおかげで、中央区の生ける屍達はそれほど多くありませんね。

 そんな事を思いながら、私は空を飛び回り王都のあちこちに居る生ける屍達の駆除を進めていきました。そうして粗方の駆除が済んだと思ったころ。私はいくつもの巨大な魔力が王都の外側から迫っているのを感知します。

『ヒイロ様、大変です!!王都の西側、北側、東側から多数の巨大な魔物が接近しています。』

 まだ西区で生ける屍達を相手に戦闘中のヒナギクから悲痛な叫びが念話で届きます。


 ・・・今度は進化薬による異常種(アブノーマル)の襲撃ですか!?若干の疲労を感じながら、私は王都の夜がまだまだ終わらないことを悟り、ため息を吐いたのでした。

 ヒナギクの『指揮者』は指揮下にいれた人種をおおよそランク1段階分強化しますが、ミスリルランクについては強化率は小さくなり、アダマンタイトランクには遠く及ばない程度の強化となります。

 仮にヒナギク自身がオリハルコンランクであればミスリルランクすらアダマンタイトランクに強化できるようになるため、恐ろしいギフトです。

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