第14話 或る狂信者の狂奔(中)
グシャア!
「ガッハハハ!普段は踏ん反り返っている貴族様の屋敷を破壊するのは気持ちいいのぅ!!」
上機嫌に笑う鬼人族の大男は正門の門扉に引き続き、玄関の豪華な扉も大鎚でアッサリと破壊してしまいます。今度は木製だったようで一撃ですね。先程といい見事な破壊力です。それはそれとして・・・
「私は慎重に行こうと言ったハズですが、貴方は聞いていなかったのですか?ロキュオン。」
「おっと。すまねぇな、本部長。つい興が乗ってしまってな!」
そう言ってニカっと笑うロキュオンを見る限り、全く反省しているようには見えませんね。これだから鬼人族は始末におえません。
ロキュオンはこの辺りでは珍しい鬼人族のハンターです。種族的に恵まれた体躯とそれに見合った身体能力を誇っており、手にしたアダマンタイト製の大鎚で全ての障害物を叩き伏せてしまいます。
短絡的な性格で気に入らない依頼主を殴ってしまう、勢い余って周囲の建物を破壊するなどの問題行動を度々起こす為にランクはミスリルですが、こと戦闘に関してはアダマンタイトランク並の実力があるでしょうね。
「ラディウス、ロキュオン。出発前に決めていたようにそれぞれ6名ずつ率いて動いて下さい。2人のパーティーは2階の探索をお願いします。私は1階を探索しますので。」
「了解した!」
「任せろ!」
私の言葉にすぐさま反応し、2組のパーティーは玄関の正面にあった階段を駆け上がっていきます。
正直、2人ともリーダーとしては心許ありませんが、戦闘能力は今回集まったメンバーの中では群を抜いています。指揮については補佐役も付けてますし、大丈夫でしょう。
「では、私達は1階を調べましょうか。地下への入り口もあるはずですから、念入りにいきましょう。」
残りの4人に声をそう掛けると、私達は各部屋をしらみ潰しに調査をしていくことにします。
因みに私の元に残った4人は、戦闘能力よりも斥候能力を重視した人選になっています。戦闘は私1人の力で十分ですからね。
そうして探索を始めたわけですが、想定された侯爵家からの抵抗が全くありません。というよりも、ただの1人も人種が見当たらないのです。普通なら夜中とは言え警備の私兵や住み込み使用人ぐらいは居るはずなのですが。
「本部長。誰1人見当たらないのはあまりにも不自然だと思うんだけど。」
素早く確認作業を行いながら目ぼしい書類を収納袋に回収していた私に、同じ作業をしていた女性のハンター、カミュが声を掛けて来ます。
「もっともな疑問ですし私もそう思いますが、原因は不明です。2階からも戦闘音は聞こえないようですし。・・・嫌な予感しかしませんね。」
「本部長!驚かさないでよ!」
短めの緋色の髪を揺らし、金色の瞳を僅かに潤ませながらカミュは怯えた様子を見せていました。
カミュはとある盗賊団で育てられた小人族の女性ですが、ある事件をきっかけに盗賊から足を洗い、今はハンターになっています。戦闘能力は余りありませんが、その盗賊としての腕は一級品で、何かと重宝する子です。育った環境の割にはなぜか怖がりなのですが。
「ふふ。怖がらせたようで申し訳ありません。何が出てきたとしても守って見せますから安心してください。」
「ほ、本部長がそういうなら、まあ、いいけど。」
顔を僅かに赤くしながら頬をかくその姿は、小人族の女性特有の愛らしさがあります。
そう言えば、この子。ヒナギクと何故か仲が悪いんですよね。今のしおらしい姿と違って、会うたびに喧嘩をしてる印象です。もしかして、喧嘩するほど仲がいいってやつでしょうか?
それからしばらく経ち。最後の部屋である執務室を調べていた時でした。
「本部長!こっちに来て!!」
カミュが私の袖を力いっぱい引っ張ってきました。しかし、絶望的に力が足りない為、私の身体は微動だにせず、彼女は反動でぽすんと尻餅をついてしまいます。
「・・・あたたた。」
「大丈夫ですか?カミュ。」
「あ、ありがとう。」
尻餅をついた彼女に私は手を差し伸べます。どこかボーっとした様子の彼女の小さな手が私の手を掴んだ瞬間、彼女はハッとしたようです。
「って、そうじゃなくて!本部長。あそこの本棚、そこの真っ黒い背表紙の本をとってみてくれる?」
「・・・これでしょうか?」
カミュが指差す黒い本を抜き出すと、本が置いてあった場所に何やら突起物が隠れていました。
「本棚のそこだけ不自然にすれた傷跡が沢山ついてるから、何かあると思ったんだけど。」
「確かに、ボタンのようなものがありますね。」
「っ!ちょっとそこを見せてもらえる?」
キラリと金色の瞳を輝かせたカミュがそんな事を言ってくる。・・・ああ。カミュは身長が130メルくらいしかありませんから、単純に身長が足りなくて見えませんね。
『浮遊』
納得しながら指定したものを浮遊させる魔法を発動させます。見事にちょうどいい高さまでカミュを浮き上がらせることに成功したのですが、なぜか両手を上げていたカミュは少しだけ不満そうにしていますね?
「・・・ありがと。」
ポツリと呟き、本棚を覗きこんだカミュは何やら確認をしているようです。カミュが本棚に腕を突っ込んで、やがてカチリと音がしたかと思うと本棚が音を立ててスライドしていきます。
「もう大丈夫。魔法を解除してくれる?」
カミュの声が聞こえてきたので床の近くまで高度を下げたところで『浮遊』を解除します。
「執務室に入った時から、屋敷の外郭とのズレが気になってたんだよね。案の定だったよ。」
そう言ってカミュが微笑む頃には本棚は動きを止め、その奥からは地下へと続く階段が出現していました。
「カミュ!お前、よくこんな隠し階段とか見つけたな!すげぇぞ!」
「アタイからしたら、こんなのは見つけて当たり前だよ。」
2階から執務室にやって来たロキュオンが隠し階段を見るなり、称賛の声をあげました。カミュも誇らしげで満更でもなさそうですね。
「俺やロキュオンは戦いしか能がないからな。実際大したものだと思う。なあ、本部長もそう思わないか?」
ラディウスはの問いに少しだけ考えて私は答えました。
「そうですね。カミュは優秀だと思いますよ。魔法的な仕掛けなら私も分かるのですが、物理的な仕掛けはサッパリですからね。いつも助かっていますよ。」
「なっ!いつもそんなこと言わないのに、急にどうしたんだよ?」
「おや?言っていませんでしたか?私は貴女のことを好ましく思っているという事です。」
「・・・っ!」
カミュがその金色の瞳を目一杯見開いています。そんなに驚くことですかね?
「何故なら貴女はああいう仕掛けや罠に詳しく、盗賊としても斥候としても、非常に優秀ですから。私がもしハンターに復帰するなら、パーティーメンバーに欲しいくらいですし。」
「・・・そんなこったろうと思ったよ。」
続けて言った私なりの最大級の賛辞に、カミュは肩を落としてしまいました。何故でしょうか?
「さて。それはそうと、ようやく地下への入り口を見つけたわけですが、おそらくここから先は今までのように誰も居ない、ということはないでしょう。」
「・・・そうだな。今までと違って階段の先に何かが居る気配がするぜ。」
ロキュオンが険しい顔でそんな事を言ってきます。野生の勘みたいな物でもあるんですかね。実際私の魔力感知にも反応がありますし。
「ああ。確かに気配がするな。本部長、どうする?」
「円錐形の陣で薙ぎ倒しながら進みましょう。先頭は私が。左右にはラディウスとロキュオンが付いて下さい。カミュは私の後ろに。外側は近接戦闘に長けた者、内側は魔法や遠距離攻撃に長けた者で固めましょう。準備ができたらいきますよ。」
私がそう言うと、全員が神妙な顔で頷きました。流石ヒナギク。いい人選ですね。
地下への階段はそれほど幅が広いものではなく、陣形を整えたまま突入することはできません。なので、階段の先にある扉は先ず私が開けることになります。
ギィイイと音をたてて軋む両開きの扉の向こうは、円錐陣形でも十分に進めそうな幅が広い通路がありました。
その左右には幾つもの扉が付いており、長い通路の1番奥には特に大きな両開き扉があります。
その通路の真ん中に、こちらに背を向けて佇むメイド服姿の女性がいました。
「おい、アンタ!俺達はハンターズの依頼でこの屋敷を調査しに来たんだが、アンタはこんなとこで何してんだ?」
私の右に位置取ったロキュオンがそんな言葉を投げ掛けます。ですが、背を向けたメイドはなんら反応を示しません。
ところで私は今、魔力感知を常に発動させている状態です。人種によって精度は違いますが私の魔力感知は相手の体内の魔力の動きまで視ることができます。つまり・・・
『炎弾』
私の放った魔法がメイドの頭に命中し、身体を残して頭だけがまるで松明のように燃え上がります。
「ほ、本部長!なに一般人を有無を言わさず殺してんのよ!!」
カミュが抗議の声をあげますが、何の問題もありません。
「大丈夫です。彼女は既に死んでいましたから。体内の魔力の動きが生きている人種のソレではありませんよ。あれはそう・・・。」
私が言葉を区切った瞬間、左右の扉が一斉に開き、虚な目の人形と爛れた顔のゾンビが飛び出してきました。
「人形と動く死体です。」
燃えるメイドの頭蓋を踏み潰し、おびただしい数の生ける屍たちが私達に迫ってきます。
「打ち合わせ通り円錐陣形であの奥の扉まで突っ切ります。気合いを入れてください!」
どれだけの人形と死体を抱えているのか。今、こうしている間にも左右の部屋からは続々と生ける屍がでてきています。
『風刃雷刃』
私は右手から風の刃を、左手から雷の刃を作り出し、それぞれの手を振って刃を飛ばします。崩れ落ちる人形と死体を横目に私は内心ため息をつきました。
外で襲われたのなら大魔法で一撃なんですが、地下だと生き埋めになってしまいますからね。面倒な話です。
「飛燕斬」
私の左側ではラディウスが片手剣に魔力を纏わせて次々に斬撃を飛ばしていき、軌道上にいる生ける屍達を次から次へと倒していきます。飛燕斬は込めた魔力の斬撃を飛ばす武技ですが、普通はここまで連打出来るものではないのですがね。見事なものです。
「ガッハハハハ!うじゃうじゃ居るじゃねぇか。これでもくらいな!旋風豪鎚!!」
私の右側からは暑苦しいロキュオンの大声が聞こえます。声の方に顔を向ければ、全身をオーラのように魔力で覆ったロキュオンが全身の筋肉を隆起させて駒のように回転していきます。
まるで竜巻のように高速で回転するロキュオンの両手に握られた大鎚は進路上にいる全てのものを吹き飛ばし、薙ぎ倒し、潰していきます。凄まじい破壊力ですね。
私の魔法、ラディウスの剣技、ロキュオンの大鎚、他の皆の攻撃が道を切り拓いていき、ついには奥まで辿り着きます。
「城門壊しぃ!!」
渾身の力と魔力を込めたロキュオンの「城門壊し」が一撃で奥にあった両開きの扉を吹き飛ばすと、私達はその中に雪崩れ込みました。
しかし、私達の後を追ってきた生ける屍はロキュオンの大鎚で空いた大穴から私達に迫ろうとします。えぇい!しつこいですね。
『鉄壁』
ちょうど先頭の一体目が穴を潜ろうとした時に魔法が発動し、地面からせり出した分厚い鉄の壁が天井と人形をサンドイッチにして、グシャッと首から下を潰してしまいました。
「ひっ!」
生首がこちらに向かって飛んでくるのを見てカミュが悲鳴をあげます。・・・一応手で目を塞ぎましたが少し見えたようですね。なかなかショッキングな光景です。
ですが、これで生ける屍達は此方にはもう来れないでしょう。
「ふう。一息つけそうですね。」
「ああ、そうだな。」
「まだ、ヤリたりねぇがな。」
「アタイはあんなグロいのはもう見たくないわよ?」
私の呟きに三者三様の答えが返ってきます。騒がしい人種達ですね。
少し身体を休めてから周辺を探索すると、ちょっとだけ進んだ所に先が見えないほど長く続く水路と中型船くらいまでは停泊出来そうな真新しい桟橋を発見ました。そして、その桟橋の前に異様な魔力を纏ったひとりの男が武装した人形を数人引き連れて佇んでいます。・・・これは、手強そうですね。
「こんなところまで、わざわざご苦労なこった。ハンターってのは他人様の屋敷に土足で勝手に上がり込むもんなのか?」
腕を組んだ黒髪の男がそんな言葉をかけてくる。身長は180メルくらいでしょうか。人族にしてかなり大柄です。筋肉質な身体をしていて紅い瞳で鋭い眼光を放つその姿からはかなりのプレッシャーを感じます。
おや。誰かを探してるのか、私達を全員を舐め回すように眺めていますね?そして、目的の人物がいなかったのか、あからさまに残念そうにため息をつきました。
「一つ質問なんだがいいか?」
「なんでしょうか?」
「アンタ達の中には居ないみたいだが、ミクっていう銀髪の耳長族がどこに居るのかしらねぇか?」
この男、何故ミク君を知っていて、且つ、探しているのでしょうか?
「そのような耳長族は知りませんし、仮に知っていても教える義理はありませんね。」
私の返答に男はニヤリと笑いました。
「まあ、教えてくれないのは当然か。だがな。ハンターズのリーベルタルス王国本部長であるヒイロ・ミナヅキが知らないってのは無いんじゃないのか?2日前・・・いや、さっき日を跨いだから3日前か。本部長室で会ったんだろ。リコ・キサラギと一緒に。」
この男。私の事を。そして、リコ様が王都に来てからの事を知っている?
「・・・確かにミク君には会いましたが。私には貴方のような人族の知り合いは居ないのですが、お名前を聞いても?」
「俺の名はノウェム。デノデラっていうクソ野郎の命令でミクを探している。まあ、個人的な用事もあるんだがな。」
男は意外な事に私の質問に素直に答えます。・・・ここでクロ君が言っていた番号持ちの登場とは。
クロ君はオリハルコンランク並と言っていましたが感じる圧力は・・・なるほど。これは気合いをいれる必要がありそうです。
ありのまま今起こった事を話すぜ。上下の話を書くつもりだったに、いつの間にか上中下の3話分になっていた。何を言っているのか分からねーと思うが俺も何が起こったのか分からなかった・・・
と言うのが私の今の心境です(笑)




