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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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第13話 或る狂信者の狂奔(上)

『・・・ウルビスには全く人気がない。2、3日前には活気が無いながらにも普通の人種はいたんだけどな。夜だというのに街に明かりはなく、見慣れない余所者が出入りをしていたっていう廃鉱にだけ明かりが灯っていたわ。明らかに怪しいが・・・今から突入する。アンタも今から侯爵邸にかち込むんだろ?注意するこったな。』

『ええ。君達3人の無事を祈ってますよ。特にノール君やミク君に何かあったらリコ様が悲しみますからね。』

『俺の心配はゼロかよ!・・・ちっ!まあいい。通信を切るぞ。終わったら、また連絡する。』


 ブツっという音がして、リコ様の部下であるクロ君からの通信が切れる。戦闘能力はまあ兎も角として、光学迷彩(カモフラージュ)というギフト込みなら、その諜報能力はかなりの物でしょう。流石、リコ様がスカウトした人材です。

 ウルビスを調査するように依頼した3人が王都を脱出する際に港で派手な海戦を行い、オウム伯爵の船を沈めたと聞いた時はなかなか愉快な気分でした。ウルビスに行くだけなら、レフォルマのスピードで振り切ればいいだけでしょうに。

 査問会なんていうふざけた茶番劇にリコ様を呼び付けた罪は重く、オウム伯爵にも何らかの報復を、と考えていましたが、少しそれが早まったようですね。まあ、私が考えた報復は報復でやりますが。

「まあ、それはそうとして。リコ様の信奉者として、ノール君達には負けていられませんね。私もそろそろ赴くとしましょう。」

 1人呟いて、私は自分の屋敷を後にしてハンターズへ向かうのであった。



「本部長!ご命令頂きました依頼の候補者の呼び出しは完了しました。」

「ご苦労様です。ヒナギク。」

 ハンターズに入るなり、私の部下、副本部長であるヒナギク・ヤヨイから報告があります。

 ・・・何やら浮かない顔をしていますね。いつもはピンと張っている耳も心なしか垂れていますし。

「何か気になる事があるのですか?ヒナギク。」

「ヒイロ様。本当に良かったのでしょうか。エルガオン侯爵邸を制圧することを正式なハンターズからの依頼として出してしまって。現時点でエルガオン侯爵が民に被害を与えるような事をしているという明確な証拠はないのですよね?」

 リコ様に似たヒナギクの緑玉色の瞳が心配そうに私を見ています。おや。部下を不安にさせるとは、私もまだまだですね。


「確かに明確な証拠はありません。ですが、私は侯爵が今王都に蔓延している麻薬密売の大元だと睨んでいます。王都の麻薬の流通は中央区からです。私の調査によると侯爵邸には不自然なほどに広大な地下空間が存在していることが分かっているんですよ。物凄く怪しいと思いませんか?」

「確かに怪しいですけど。・・・ちゃんとした根拠があって良かったです。私はてっきり、リコ様の為に無茶をしているんじゃないかと。」

 私の説明にヒナギクは少しホッとしたような表情を見せた。

「私はリコ様の事を敬愛していますが、これでもハンターズの本部長ですからね。最低限の理屈くらいはつけますよ。まあ、元々なりたくも無い本部長になったのはリコ様の役に立つ為ですから、いざとなれば強権発動しますし、無茶をしても構わないのですがね。」

「はあ。ヒイロ様らしいです。・・・様が羨ましい。」

 真顔で本心を伝える私にヒナギクは少し呆れると同時にその頬を僅かに赤く染めています。何を恥ずかしがっているのでしょうか?

 そんな私とヒナギクのやり取りを今回の依頼の為に召集を受けたハンター達が遠巻きに眺めています。おっと。無駄話が長すぎたようですね。

「皆さん。ハンターズからの緊急依頼にお集まりいただきありがとうございます。本部長のヒイロです。」

 一旦言葉を切って、私に対して視線が集まるのを待ちます。おや。私に対する呆れたような視線と私の隣に立っているヒナギクに対する同情するような視線が複数ありますね。私はともかく、ヒナギクには何故でしょうか。


「今回の依頼ですが、最近王都で流行っている麻薬に関わるものです。摂取すると最終的にゾンビの様な化け物になるか、自我のない人形の様になる、非常に危険な代物です。今回の依頼に至るまでの調査で麻薬は中央区から各地区に流出している事が分かっています。」

 喋りながら集まったハンター達の顔を見渡しましたが、みな真剣な表情で聞いています。選抜はミスリルランク以上でヒナギクに任せましたが、いい人選のようですね。

「そして、件の侯爵邸には国に提出した設計図以上の広大な地下空間があることが分かっていること、また、麻薬はセプトアストルム帝国が関与した可能性が非常に高いこと・・・」

 帝国の名前を出した途端にハンター達が騒つきます。ここに集まったハンター達には人族以外のものも大勢いる為、人族至上主義を掲げる帝国にはいい印象を持っていないものが多いのでしょう。

「以上のことから総合的に判断して、私はエルガオン侯爵邸を早期に制圧し、エルガオン侯爵の身柄を早急に抑える必要があると考えました。ハンターズの中立の理念に反する事になるかもしれませんが、ご協力頂けないでしょうか?」


「本部長。少し確認したい事があるのだが、良いだろうか。」

 そう言って頭を下げた私に誰からか声が掛かる。顔を上げると中肉中背の人族の男が手を挙げていました。

「もちろん何でも質問してもらって構わないですよ。百剣のラディウス君。」

「感謝する。」

 手を挙げていた男は、『百剣』の二つ名を冠しているソロのアダマンタイトランクハンターであるラディウスでした。王都には沢山のハンターが登録しており、中には最高位であるオリハルコンランクのハンターもいるにはいるのですが・・・。

 だが、()()()はふらふらと各地を放浪しているため、今は王都を不在にしています。全く。肝心な時に使えない奴です。まあ、帝国もアイツが不在のタイミングを狙ったのでしょうが。

 ソレと私を除けば王都で個人の戦闘能力が1番高いのは彼になるのではないでしょうか。当然、ハンター達の中でも一目置かれている存在です。その彼の黒い瞳が私を射抜きます。


「先程の本部長の説明は筋が通っているとは思う。だが、かねてより本部長は我々ハンターの英雄であるリコ様を信奉していると公言している。罪の真偽はともかくとして、エルガオン侯爵はそのリコ様を捕らえた張本人だ。本部長は今回の依頼がご自身の私怨に基づかないものだと断言できるのか?」

 ・・・痛い所を突いてきますね。

「そうですね。敬愛するリコ様を謂れもない罪で捕まえたのですから、恨みがないと言えば嘘になります。ですが、それが無かったとしても、私は侯爵邸の制圧(同じ結論)に達したでしょう。まあ、言うだけでは説得力が無いでしょうから、コレをご覧下さい。」

 私はそう言って、ノール君から預かった黒い筒がついた魔導具を起動する。すると、筒から薄っすらとした光が宙に向かって投影され、映像が映し出されました。


『君達の妄想は分かったけど、僕が各地の異常種(アブノーマル)を発生させたっていう具体的な証拠はあるのかい?』

 聞き慣れたリコ様の美しい声が馬鹿面を下げた貴族共に突き刺さり、その顔を強張らせていきます。その顔を見れば証拠など無いのは一目瞭然でしょう。

『フハハハハハハハハハ!・・・証拠かね?そのような物、後で作ればいいのだ!!』

 しかし、突如としてエルガオン侯爵が狂ったように嗤いだし、撮影者(こちら)に向かって手を振りあげました。

『我々が貴女を招き入れるのに、何の対策もしていないと思ったか?高ランク魔物用の拘束魔導具の味はどうかね??』

 そして、奥の方に大きな鏡のような魔導具が映し出されたところで映像は途切れます。


「今のは一体??」

 映し出された映像にハンター達が騒つきます。中にはエルガオン公爵の顔を知っている者も居るようですね。

「この魔導具は黒い筒を通して見たモノを記録する魔導具です。リコ様が帝国が使っていた魔導具を参考に作ったらしいですよ?そして、今のは今朝リコ様が捕まる直前の映像です。エルガオン侯爵が発表しているリコ様の容疑は『魔物を操り我が王国を崩壊させようとした罪』でしたか。侯爵は面白い事を言っていましたね?証拠は後で作ればいい、と。こんなクズが信用できますか?」

「・・・確かに、信用出来ないな。麻薬の件が無くとも、リコ様の冤罪だけでも、ハンターズとして今回の依頼を行う価値があるだろう。本部長。今回の依頼、快く引き受けよう。」

 ラディウスは納得した様子で依頼を引き受ける宣言をしました。それに伴って他のハンター達も続々と参加を表明します。

 ・・・これは。皆が依頼を引き受けやすいように、あえてラディウスは質問したのではないでしょうか。そんな気がしますね。

「では各人の準備が整い次第、出発します。現地には私も赴きます。万が一、何も出てこなかった場合は、私が全責任を負いますので、思う存分に力を奮ってください。それでは、各人の奮戦に期待します。」

「オオオォォォオ!」

 こうして、士気が上がり怒号をあげるハンター達と共に、私はエルガオン侯爵邸を襲撃することになったのでした。



 そして夜10時頃。ミスリルランク以上のハンター達で構成された20人からなる精鋭部隊は南区にあるハンターズから中央区にあるエルガオン侯爵邸に向かって出発します。普通はそんな大勢が気付かれずに移動することは不可能です。

 ですが、昼間にノール君達が港で騒ぎを起こし王都から逃走をしたことで、警備兵が彼等が逃走した北東の方に重点的に配置をされた結果、ハンターズがある南区の警備が手薄になっていること。

 精鋭故に優れた身体能力で通常通れないような経路で移動できること。

 クロ君ほどでは無いにしろ私の認識阻害の魔法に一定の効果があったこと、などが要因となり誰にも気付かれることなくエルガオン侯爵邸まで辿り着きました。

 まあ、正確には気付いた巡回の警備兵もいたのですが、他に知らせる前に意識を刈り取っていましたしね。


 そのエルガオン侯爵邸ですが、正門は重厚なウーツ鋼製の門扉でピッタリと閉ざされています。門番は見当たりませんね。夜ですし門が閉まっているのは当たり前ですが、侯爵家の家格からすれば門番がいないのは明らかにおかしいでしょう。

『静穏結界』

 私の力ある言葉と同時にエルガオン侯爵邸が外に音を漏らさないようにする結界で覆われていきます。

「さあ。これで多少派手な音を立てても大丈夫なハズです。」

 振り向いた私が言うが早いか、200メルは超えるであろう鬼人族の大男が金属製の大鎚を振りかぶって渾身の力で門扉に打ち付けようとしていました。

「城門壊し!」

 硬く大きな物を破壊する場合によく使用されるスキルが発動し、ガァン!と大きな音を立てると門扉をボコっと凹ませ、2度3度と大鎚を打ち付けて、歪み、捻じ曲げていきます。

 そして5度目。大鎚の衝突と同時に遂には門扉は片側が完全に壊れてふき飛び、盛大な音を立ててながら玄関へ続く石畳を滑ると、途中で脇に逸れて庭園らしき場所に角から突き刺さりました。


 だが、しかし。これだけ大きな音を立てているのに、屋敷には何の反応もありませんね。

 『静穏結界』は外側に音が漏れるのを防ぎますが、結界の中については問題なく音が響き渡るため、さっきのアレは屋敷の中に誰か居るのなら確実に聞こえているはずなんですが。

「あれだけ音を立てても何の反応もないのはかえって不気味です。みなさん、慎重にいきましょう。」

 私のセリフに頷くハンター達。私を先頭に続々と屋敷の中に踏み込んでいきます。

 ・・・どうにも嫌な予感がしますね。今夜は長い夜になりそうです。胸の中には何故かそんな想いが溢れていました。


 結論から言えば、私のこの時の予感は的中します。これから起こる一連の出来事は後に一纏めにして『王都の1番長い夜』と言われ、王都の歴史に名を残す大事件になるのですから。

 プライベートで少々忙しく、更新が遅れて申し訳ありませんでした。今回はリコ姉さんの狂信者ヒイロのお話です。

 ウルビスの続きを書いても良かったのですが、そろそろ別視点の話がいいかと思い、こうなりました。

 書いているうちに内容が膨らんで、1話に収まらなかったのはアレですが。

 何はともあれ、3章はまだまだ続きますし、是非とも最後までお付き合いいただければ幸いです。

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