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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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第9話 ヒイロ・ミナヅキ

「ヒイロ。僕は君に弟子が出来たことを言って無かったと思うけど、何で2人のことを知ってるんだい?」

「リコ様の事ならば、私は何でも知りたいと思っておりますので。リコ様の情報は常に集めさせていただいております。」

 促されたソファーに座りながら、リコがヒイロに尋ねると何とも気持ち悪いが回答があった。俺だったら勝手に情報を集められるのはいい気がしないな。


「・・・そういうのは前にやめてほしいって言わなかったっけ?」

「ははは。ご冗談を。私の生き甲斐を奪わないで下さい。それに、仮にリコ様が関わって無かったとしても、彼らの情報は手に入れてたと思いますがね。」

 眼鏡の位置を鼻の部分で調整しながら、ヒイロは話を続けた。

「ノール君はシルバーランクで足踏みをしていたようですが、ゴールドランク昇格直後のグリフォントゥルス討伐でミスリルランクに昇格、地鎧竜アダマンティスマトゥラでも見事に囮の役目を果たしてフォディーナ王国を救うのに一役買っています。その結果、約3ヶ月の間にシルバーランクからアダマンタイトランクまで昇格したのですから、驚異的な早さです。」


 そう、実はフォディーナ王国の一件の後、俺のランクはアダマンタイトランクに上がっている。アディト支部長のムクルスとアウグスト王の強力な推薦によって昇格を果たしたのだ。

 身分不相応な昇格は要らないと言ったんだが、「我が国の英雄がアダマンタイトランクに不足すると?」っていうアウグスト王の圧力が強くて断り切れなかったんだよな。


「かたやミク君はグリフォントゥルス戦で角を斬り落とすなど活躍して、いきなりゴールドランクになると、フォディーナ王国では地鎧竜にトドメを刺している。ハンターとしての登録期間が短すぎてミスリルランクまでしか昇格出来ませんでしたが、実力的にはアダマンタイトランク以上でしょう。」

 言いながら俺とミクをその蒼い瞳で品定めをする様に見つめてくるヒイロ。

「有望な新星が現れたとなれば、私の立場としてはチェックしなければならないもので。」

 全てを見透かすような視線だったが、急にグリフォントゥルスや地鎧竜と同じような殺気を感じ、俺はハンターズ内であることを忘れて戦闘態勢を取ろうとする。しかし、その殺気は一瞬で消え去ってしまっていた。

 隣を見ればミクも同じ状況のようで、強張った顔で雷帝の柄に手をかけていた。リコは微動だにせずに優雅に紅茶を楽しんでいたが。


「僕の可愛い弟子達で遊ぶのは感心しないんだけど、ヒイロ。」

 不満気に言うリコはジトっとした目でヒイロを見ている。もしかしてヒイロに何かしたのか?

「少し試させてもらっただけですよ、リコ様。リコ様の弟子を名乗るのであれば、生半可では務まらないでしょうからね。ちゃんと殺気に反応できるようで素晴らしいです。」

 つまり、今の殺気はヒイロが意図的に出したってことか。体格面では大きく劣るはずなのにそれが出来るってことは、目の前のこの男はアダマンタイトランクの魔物以上の化け物ってことになる。


「まあ、僕の弟子だから当然だね。それよりもヒイロ。勝手に僕の情報を集める君のことだ。何故僕が王都に来たのかも知ってるんじゃないのかい?」

「もちろんです。リコ様が王都に来られたのはバルトゥム王から召喚状が来たからですね?リコ様について国家転覆を図った国家反逆罪の疑義があるという、実に下らない理由で貴族院がリコ様の召喚及び査問会の開催を議決したからなわけですが。・・・全く。リコ様を呼び出すなど失礼にも程があります。」

 憤慨した様子でヒイロは語っているが、いや、怒るポイントが違うんじゃねぇか?


「あの、ヒイロ殿。国家反逆罪の部分については怒らないのですか?」

「ん?そこはどうでもいいのですよ。リコ様がやりたいのであれば、自由になされば良いのです。まあ、その様な些事はなさらないでしょうが。ああ、それから私のことは、ヒイロ、と呼び捨てで構いませんよ。」

 リコの質問に平然と答えるヒイロ。いやいや。国家転覆は些事じゃないし、やっちゃダメだろ。リコの信奉者というより狂信者だろ、この人。誰だよ。こんなのをリーベルタルス王国のハンターズのトップにしたのは。


「ヒイロは相変わらずだね。まあ、確かに面倒だし国家転覆(そんなこと)はしないけど。それより、非公開のはずの貴族院の議決内容をどうやってそこまで細かく把握してるのか気になるんだけど。」

「それは秘密です。このような立場にいると、情報はとても大切なもので。リコ様の情報を集めるのにも役立っていますしね。」

 この人なら秘密にしてる理由は絶対後者がメインだろうな。

「信奉者という割には、僕の言う事をあんまり聞いてくれないよね、君は。・・・まあいいよ。その情報収集能力で何かめぼしい情報は得てないのかい?」

「・・・そうですね。少し気になる事があります。貴族院の今の議長がエルガオン侯爵なのはご存知だとは思いますが、最近侯爵の様子がどうにもおかしいのです。」


「おかしい?」

 リコの疑問にヒイロは頷きながら話を進める。

「エルガオン侯爵は以前から、愚かにもリコ様に対して敵対的な行動を繰り返してきました。今回を除けば直近ではグリフォントゥルスの襲撃があった時の呼び出しですね。人為的な異常種(アブノーマル)が発生している可能性があるとのリコ様からの報告を直接聞きたい、というアレです。」

「そんなこともあったね。アレってやっぱりエルガオン侯爵の差金だったんだ。」

「あの時の呼び出しは召喚状のような命令ではなく、来てもらえたら、という要請でした。それ以前も似たような呼び出しをしては、リコ様が無視して来ないものですから、その事について周囲に批判してまわっていたようです。それが前回は実際にリコ様が王都に来られたので、大層怯えていたんですよ。今まで好き勝手に批判してきた報復をされるのではないか、とね。」

「師匠が王都に来たくらいで怯えるのなら、最初から批判をしなきゃいいだろうに。」

 呆れて思わず俺がそう言うと、ヒイロは大きく頷いた。


「その通りです。怖がるくらいなら、最初からしなければいい。要するにエルガオン侯爵は裏でコソコソと嫌がらせ程度の行動しか出来ない小者なのです。」

 なかなかの辛辣な評価だが、その評価通りだとすると・・・。

「そのような人物だとすれば、今回の行動はおかしくないだろうか。リコ殿が王都に来ただけで怯えるような人物が、真っ向から対立するような行動を起こすのは違和感しかないのだが。」

「そう。だから、おかしいのですよ。貴族院での議決も明らかにエルガオン侯爵が主導していたようですし、裏でコソコソしていた人種がする行動ではありません。」


「エルガオン侯爵のことは興味もないし、あまり覚えてないんだけど、そういう臆病者の気が強くなる時って、強力な後ろ盾を手に入れたとか、強大な力を手に入れたとか、何かしらの手段で彼が僕に喧嘩を売っても勝てる確信を得たと考えるべきじゃないのかな。」

 リコがそんな事をいってくる。確かにその通り何だろうが、かなり敵愾心を持たれてるみたいなのにあんまり覚えてないのかよ。

「私もそう思って調べたのですが、ソレが何なのかは分かりませんでした。エルガオン侯爵については引き続き調べたいと思います。」

「よろしく頼むよ。ヒイロ。他には何か気になることはあるかい?」

 ヒイロは少し考え込むと何かを思い出したかのように口を開いた。

「今回の件と関係あるかは分からないのですが、最近王都では奇妙な麻薬が流行っています。」


「麻薬?」

「ええ。接種すると強烈な多幸感があるようで、かなり強い依存性が確認されています。初期の症状として他者に対して攻撃的になったり、身体能力が異常に強化されて自分の身体を壊したりする程度ですが、最終的にはゾンビのような化け物になるか、身体はそのままでも意思のない人形の様に無気力になるかのどちらかの様です。」

「っ!それって!」

 俺は思わず声を出して立ち上がった。ヒイロの話で先ず思い浮かんだのはフォディーナ王国での一件。ミクが戦ったフレッシュゴーレムの材料となった()()()について、デノデラは実験に失敗した結果と言っていたそうだ。

 そして、『鋼の心』を使って作られたのがデノデラがいう実験の完成品であるクグツだった。

 クグツについて、デノデラは「自我を無くして思うがままに操るという目標は達成された」と言っていたはず。デノデラの命令に従うクグツにされた『鋼の心』のメンバーは、それこそまるで()()のようだった。

「どうかしたのですか?」

「そのゾンビのような化け物と意思のない人形のような相手と、俺とミクは戦った事がある。」

 俺がそう言うと、ヒイロは軽く目を見開いて驚いていた。


「なるほど。フォディーナ王国でそのような事があったのですね。それに異常種(アブノーマル)の異常発生もセプトアストルム帝国が原因ですか。予想はしていましたが。」

 ファリーナ襲撃からフォディーナ王国の事件の顛末までを一通り説明した後、ヒイロは眉間にシワを寄せながらそう呟いた。

「王都で流行している麻薬も帝国の仕業である可能性が高そうですね。何を企んでいるのかは分かりませんが、あの(マッド)科学者(サイエンティスト)デノデラが関わっているのであれば、ロクな事にならなさそうです。」

「麻薬の出所は分からないのだろうか?」

 ため息をつきながら肩を落とすヒイロに、ミクが尋ねる。

「ハンターズからの依頼として、ハンター達に調査を依頼していますが、まだ調査を始めたばかりで大した事は分かっていません。これも何か分かればお教えしましょう。しかし、エルガオン侯爵の強気の理由は、帝国の後ろ盾を得たからでしょうか?」

「それは分からないけど、麻薬についての僕の推論を聞いてもらえるかな。」

「ええ!是非拝聴させて下さい!」

 さっきまで渋い顔をしていた同じ人種とは思えない和かな笑顔で答えるヒイロ。・・・リコの話を聞けるなら何でも良さそうだな、この人は。


「性格はともかく、デノデラは一流の研究者。()()()として使っていた坑道内にあるはずの研究室をフォディーナ王国軍が押さえる前にクロ君に漁りに行かせたんだ。その結果、異常種(アブノーマル)を作り出す進化薬、クグツを作り出す傀儡薬、そして、ごく少量ながらも血魔石を手に入れることが出来た。僕はそれらの分析と研究を行っていてね。進化薬についてはグリフォントゥルスの襲撃直後にも手に入れているから、研究を始めてもう4ヶ月以上になるかな。」

 そういえば、血魔石の侵食からミクを救う方法を探るために、進化薬で作り出された魔物の魔石も含めて研究するって言ってたな。というか、サラッと流したけどフォディーナ王国に黙って持ち出したらダメなやつじゃないか、それ。


「分かったことは幾つかあるよ。一つ、進化薬は血魔石を元に作られた液体であること。進化薬の成分と血魔石の成分は濃淡はあれども一致した部分が多かったからね。二つ、傀儡薬は進化薬を主成分に様々な種類の既存の麻薬などを合成して作られたものであること。三つ、血魔石、進化薬、傀儡薬のいずれも身体能力を強化し、精神に作用すること。」

「そうすると、血魔石が全ての大元というわけですか。・・・血魔石とは一体何なのでしょうか。」

「サンプルが少ないのもあるけど、血魔石の正体が何なのかはまだ分かって無いんだ。まあ、それはそうと。王都で流行ってるっていう麻薬は傀儡薬を基に改造したモノじゃないかな。最終的にゾンビか人形になるっていう特徴が似てるしね。本来の傀儡薬は即効性があるんだけど、ワザと遅効性を持たせたんだろうね。・・・気付くのを遅らせて被害を拡大させるために。」


 それを聞いて俺は背筋が凍る思いがした。フォディーナ王国の坑道で戦ったゴールドランクハンターの成れの果て(ゾンビ)が頭に思い浮かぶ。下手すればあんなのが街中に溢れるってことか!

「・・・今分かっている以上に麻薬の影響を受けている人種は多そうですね。麻薬の調査についてはハンターズとして全力で当たることにします。」

 思った以上に深刻な状況にヒイロの顔が一瞬だけ曇り、次の瞬間には麻薬の調査に全力を上げる事を宣言していた。こういう迅速な判断する所は流石本部長!って感じがするな。


「エルガオン侯爵のことは気にしないで、そっちを優先するといいよ。」

 リコがヒイロにそう言った時だった。コンコン、と控えめにドアをノックする音が聞こえた。

「入り給え。」

「・・・失礼します。ヒイロ様。王城からリコ様宛の()()が届いています。」

「ほう。()()ですか。いつからこの国の王族はリコ様に()()()()()()と勘違いをしているのでしょうね。リコ様に命令出来るのはリコ様自身だけだというのに。」

「ひっ!」

 殺気すら放つほどに激怒した様子のヒイロに、伝令を伝えに来ただけの美人の受付嬢は可哀想に悲鳴を漏らした。


「召喚状の件もありますし、やはりここは私が出て行って()()を施す事にしましょう。」

 一体どんな教育をするつもりなんだよ!不穏な台詞を吐きながら立ち上がろうとしたヒイロをリコが諌める。

「ヒイロ。そういうのは自分でやるから止めてくれる?・・・ええと、そこの君。僕は構わないから、伝令の内容を今ここで読み上げてくれるかな。」

「リコ様がそう仰るのであれば。」

 不満げソファーに座るヒイロ。

「か、畏まりました。『リコ・キサラギに対する査問会は、明朝9時より開始する。中央区の貴族院議事堂へ1人で出頭すること』、だそうです。」

 ヒイロの殺気に当てられて泣きそうな表情だった受付嬢は、リコの求めに応じて、それでも伝令を読み上げた。

「王城には王都に到着したことを特に知らせていなかったんだけどね。」

「リコ様が乗って来られた船が帆も無いのに早く動くと話題になってましたからね。注目を集めたところに有名人であるリコ様が降り立ったのですから、まあ、目立ちますよ。私でなくても王都にリコ様が来た事は直ぐに把握出来るでしょうね。」

 まあ、見たこともない異質な船で港に乗り付けたんだから、そうなるわな。


「そんなものかな。まあ、いいや。面倒なことはさっさと済ませたいし、明日はお望み通り査問会とやらに行こうかと思うよ。」

「査問会で何か仕掛けてくる可能性も十分にあると思います。リコ様に限って万が一も無いでしょうが、お気を付け下さい。」

 まるでその辺の野原にピクニックに行くかのように、嫌な予感しかしない査問会へ行く事をあっさり決定するリコ。

 ヒイロも口では注意をしているが、微塵も心配してなさそうだ。なんでこの人達はこんなに余裕なんだか。

「ありがとう、ヒイロ。じゃあ、王都滞在の間はハンターズの部屋をちょっと借りるけどいいよね?」

「もちろん構いません。なんなら私の屋敷に滞在していただいても構いませんよ?」

「それはいいや。めんどく・・・じゃなくて、襲撃の可能性なんかを考えるとハンターズ運営の宿屋の方が安全だろうしね。」

 ハンターズはどこの国にも所属していない国際的な組織であると同時に強力なハンター(武力)を持っているため、正面から喧嘩を売ろうという相手は確かに中々いないだろう。

 っていうか、今、面倒くさいって言いかけたよな。ヒイロは笑顔でスルーしてるけど!


 こうして、俺達はハンターズが運営する上級ハンター用の高級宿屋に宿泊する事になったのだった。ヒイロの屋敷は色々とヤバイ気がするから、これで良かったとは思うけどな。

 いつも私の拙い話をご覧いただきありがとうございます。

 最近更新が少し遅くなっていて申し訳ありませんが、プライベートが少々忙しいのと、そもそもが遅筆なだけであって、エタらせる気は全くありませんので、ご安心?ください。

 もし、この話が面白いという方がいらっしゃったら、評価やブックマーク、いいね、コメントなんかを頂けると、ワタクシのやる気が急上昇しますので、よければお願いいたします!

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