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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第3章 深紅の魔人
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第5話 雷帝

 グレゴリウスのおっさんが大量の武具を持ってやって来た日の翌日。俺とミク、グレゴリウス、トリス、エリの5人は朝っぱらから戦闘魔法実験棟にやって来ていた。

 新しい刀、雷帝をミクが使いたがったため、模擬戦(試し斬り)をするためにやって来たわけだ。

 当初は魔法の付与に数日かかると言っていたリコだが、珍しいミクのおねだりを受けて、本当に翌日までに魔法の付与を済ませてしまったので、幸か不幸か準備は完了していた。


 徹夜で武具への魔法付与を済ませたリコは、珍しく疲れた様子を見せていたし、今は自室に引っ込んで夢の世界へ旅立っているはずだ。

 最近は神具や血魔石の研究ばかりをしてて飽きていたため、いい気分転換になったらしく、久しぶりの魔法付与にテンションが上がってつい徹夜をしたらしい。

 因みに、リコは装備にほいほい魔法付与を行っているが、普通は簡単に出来るものではなく、たった一晩で20点を超える武具に魔法付与をするのは、魔法に携わる者としては異次元の出来事らしい。

 「ウチの師匠は何でもないような顔をして、とんでも無い事をやらかすわよね。」とはその話を聞いた時のトリスの台詞だ。


 そう。ファリーナ到着初日に魔法でやり合った(というよりトリスが一方的にリコに向かって魔法を撃っていた)2人だが、トリスはすっかりリコの事を師匠として慕っている。

 リコからわざと挑発したことに対する謝罪とその意図を説明したこともあるだろうが、何よりも魔導士としての圧倒的な実力を見せつけられたトリスが感服したことが大きいだろう。

 因みに『意図』については、炎の祝福(フレイムプレッシング)の特性である「感情の起伏で威力が増減し、威力が高くなればなるほど魔法の制御が難しくなる」を確かめるため、と説明しているようだ。

 まあ、そういう考えもあったんだろうが、主目的は神の炎(メギドフレイム)を解析したい!だからな。折角納得しているところに余計な波風は立てたくないし、これはトリスには黙っておくとしよう。


「ノール。ボーっとしているようだが、どうしたんだ?私はそろそろ模擬戦を開始したいのだが。」

 そんな取り留めもないことを考えていると、準備万端といった様子のミクが声を掛けてきた。昨日、雷帝を見てからというもの、妙にやる気になっていないか?

 実はミクと模擬戦をするのはフォディーナ王国へ旅つ前にしたきりだったりする。

 フォディーナ王国からファリーナに帰って来てからは、俺とミクはリコの指導に従い個々に鍛練を積んでいたのだ。

 俺はミスリル製の武器にウェポンブレイクを使う事による身体能力強化と魔力を限界まで使うことによる魔力量強化を主に行い、ミクは強化(ブースト)で身体に負荷をかけて身体能力強化を図るのと、その扱いそのものに慣れる訓練を行っていた。

 フォディーナ王国では俺もミクも攻撃力不足で地鎧竜を倒すことが出来なかった。その克服をするための基礎能力の向上を目指した訓練ってわけだ。

「ああ。すまん。俺も大丈夫だ。」

 言いながら俺はミスリル製の刀を鞘から抜き、正眼に構える。

「それでは行くぞ。ノール!」

 そんな俺の姿を見たミクはニヤリと笑うと、雷帝を抜き放って目にも止まらぬ速度で斬り掛かってくるのだった。


 ギィンと音を立てて刀と刀がぶつかり合う。互いの刀を弾き合いながら、目まぐるしく攻守を入れ替えつつ、打ち合いの音が複数回にわたって続いていく。

 俺はウェポンブレイクを使ってないし、ミクも強化(ブースト)を使っていない。だが、フォディーナ王国に行く前の模擬戦よりもその攻防の鋭さは増しているように感じられた。

「私も前よりは成長しているはずなのだが。流石ノールだ。」

「それはこっちの台詞なんだがな。ミク。」

 模擬戦を行わなくなった分、ファリーナ帰還後の鍛練は実に激しかった。ウェポンブレイクを使うことによる肉体的な疲労に、魔力を枯渇寸前まで使用することによる精神的疲労及び体調不良がプラスされるわけで、あれだけ辛いと思っていたリコの屋敷に居候を始めた当初の鍛練が可愛く思えるくらいだ。

 その分、ファリーナ帰還時から比べれば身体能力も魔力量もかなり上がって強くなったはずなんだが、それはミクも似たようなものだったらしい。身体能力も刀を扱う技量も以前より格段に向上していて、むしろ前よりも実力差が縮まっているように思えた。


 そして、俺とミクが扱っている武器には明確な格差がある。一流の鍛治士が作ったと思われるミスリル製の刀と、最高級の素材を使用し世界最高の鍛治士が作った銘入り(神のお気に入り)の刀。その性能差は火を見るより明らかだ。

 ミスリル製の刀も少し前まで俺が使っていたアイアンソードと比べれば、月とスッポンくらいには違うわけだが、それでも雷帝とは比べるまでも無い。

「ちっ!」

 少し斬り合いしただけで俺が手に持つ刀は既にボロボロになっていた。性能差は分かり切っていたため、ミクの攻撃を出来るだけ受け流すよう立ち回っていたが、早くも限界が来たらしい。

 どうせ壊れるならばとウェポンブレイクを発動し、切り掛かると見せかけて少し離れた距離から刀を思いっ切り投げ付ける。

「なっ!」

 流石に意表をつかれたのか、ミクは驚きの声を上げつつ飛んできた刀を斬り払って叩き落とすが、その隙は俺が新たな刀をバックパックから取り出すには十分な時間だった。

「その刀、斬れ味が良すぎるだろ!」

「それを受け流せるんだから、ノールも大概と思うがな。まあ、一瞬で終わったら日頃の怒りを晴らせないし、ある意味ちょうど良いのだが。」

 俺が泣き言を言うと、ミクは奇妙な返事をしてきた。日頃の怒り?

「日頃の怒りって、俺が何かしたか??」

「・・・はあ。何もしない(気持ちに気付かない)からタチが悪いのだ。」

 ・・・??何のことだ?

「まあいい。今から雷帝のスキルを使う。ノール。受け切れるか?」

 そう言ってミクは雷帝を鞘に納めて腰を捻りつつ左手を鞘に添え、右手で柄を握りしめるのだった。


 ・・・これは、初めてミクと模擬戦をした時にミクが最後に放った居合い斬り??

 だが、ミクは雷帝のスキルを使うと言った。全く同じ技を使ってくるとは思わない方がいいだろう。

 俺は警戒を強めながら、よく目を凝らしてミクを見つめる。以前と同じく目線の先や身体の向きで斬撃の軌道を、体内の魔力の高まり具合で攻撃のタイミングを読むためなんだが・・・。

 攻撃の軌道は何となく分かるものの、体内の魔力の動きが生命活動を維持する最低限のものしかない、だと?

 元々常時魔力が不足しているミクは体内を巡る魔力量が極端に少ない。

 それでも、攻撃を仕掛けようというときは僅かながらも力を入れている箇所に魔力が集まるんだが、ソレが全くなく魔力的には完全に脱力した状態だった。

 そんなことを考えて意識が僅かに逸れた時。ちゃんと視界に入れていたはずのミクの姿が消えたかと思うと、いつの間にか目の前に現れていた。

 ・・・予兆が全く無かっただと!

 気付いた時にはもう首筋の側に紫電を纏った刃が迫っている。前とは違って全く予測が出来ていないため、当然掬い上げるなんていう真似は出来ない。刃が首を斬り、紫電が肉を焼く感触を一瞬感じたところで俺の意識はブラックアウトした。



「はあはあはあ。首は・・・ある、な。」

 斬られた感触が残る箇所をぺたぺた触りながら、俺は呟いた。普通ならあんな攻撃を喰らえばもちろん即死だが、これは悪魔でも模擬戦だ。

 この鍛練場内であれば致命傷を防ぐ不死の魔導具・・・右腕にはめた腕輪をみれば、真ん中の魔石が粉々に砕け散っている。その効果を発揮したということだろう。

 死なないとは分かってはいても、致命傷に至る攻撃の感触は味わうわけで、精神衛生上はあまりよろしく無い。感覚的には悪夢を見て目が覚めた後みたいな精神的な疲労がある。

「ミク。さっきは魔力の動きが全く分からなかったのに、距離が詰まってたんだが、一体何をしたんだ?」

「雷帝のスキルの一つ雷歩だ。一瞬だが爆発的なスピードを得ることが出来る。まあ、私も初めて使ったが。」

 最後の攻撃について疑問をぶつけると、ミクからそんな答えが返ってくる。

「つまり身体能力強化系のスキルってわけか。普通は強化するなら魔力を使うんだがな。」

 スキルの一つってことはまだ他にもあるのか?

 聞けば刀身に紫の雷を纏わせるのが「雷装」、神具と同様に壊れることが無くなる「不壊」、敵を倒せば倒すほど武器として成長していく「進化」、などなど色々あるらしい。


「細かな原理など私には分からないが、魔力によらずに強化できるのは、ノールみたいな防御技術を持った相手には有効というわけだな。・・・さて。まだ物足りないから、あと何戦かしたいのだが構わないな、ノール?」

「あー、いや。雷帝を扱い慣れていないなら、先ずは一通り1人でスキルを試してみたらどうだ?ここなら多少の無茶も出来るし。」

 交戦的な笑みを浮かべるミクに、俺は遠回しに連戦を断ろうとミクに提案をする。・・・このままやっても勝てるイメージがわかないんだよなぁ。何か対策が必要だろう。

「・・・模擬戦が出来ないのは残念だが、それも一理あるな。ふむ。では私は()()譲るとしよう。」


「後・・・だと?」

 不穏な言葉に俺が呟いた時には、さっきまで無かった気配が背後にいつの間にか現れていた。

「次はアタシの相手をしてもらいましょうか。」

 振り向くと大きな赤い魔石が先端にはまった杖を持つトリスの姿があった。何故かその顔はやる気に満ちている。

「ト、トリスは模擬戦の必要はないんじゃ無いか?」

「何言ってんのよ。アタシもこのネックレスをもらったでしょうが。」

 トリスはそう言いながら花を模した装飾が美麗なミスリル銀のネックレスを指先でイジっている。

「いや。俺はさっきの模擬戦で疲れてるからまた明日にしないか。な?」

 リコに完封されたとはいえ、俺達『暁の明星』の中でトリスの攻撃力は群を抜いている。その圧倒的な攻撃力に地鎧竜の防御力とかヤバすぎるだろ!


「いいからやるわよ!こっち来なさい!!」

 トリスの怒声が降り掛かるのを無視して、慌てて身を翻そうとした俺の腰をガシッと掴む者が居た。エリだ。

「お嬢様がお呼びです。ノール様。お戻りください。」

 小さい身体なのになんて膂力だ。普通なら体格差で引きずってでも動けるはずだが、身体が前に進まねぇ!

「おっさん!助けてくれ!!」

 近くで黙って俺達の様子を見ていたグレゴリウスに助けを求めたが、グレゴリウスは首を横に振る。

「諦めろ。坊主。金髪の嬢ちゃんは何でか知らんがやる気マンマンみたいだし今日逃げ切れたとしても、いつかはやる事になる。」

「・・・そりゃそうだが。」

 確かにグレゴリウスの言う通りトリスは諦めそうにない。いつかはやる事になるだろう。


「それにな。」

「それに?」

「ワシもアウグストに装備を作ってもらっててな。坊主と模擬戦したいからの。今やめられたら困るんだわ。」

「あ。私も殺りたいので後でよろしくお願いします。」

「心配してくれてると思ったら、おっさんは私欲かよ!あと、エリは文字が物騒な感じがするのは気のせいか!?」

 グレゴリウスの丸太のような腕が迫り、俺の肩をガシっと掴む。エリとグレゴリウス。2人の力に敵うはずもなく、俺はトリスの前に引きずられていく。


 こうして、俺のささやかな抵抗も虚しく結局はトリス→グレゴリウス→エリ→ミク!→トリス!?・・・と延々と模擬戦を繰り返す日々を過ごすのだった。

次の更新ですが、仕事が少し立て込んでまして、日曜日にさせていただきたいと思います。遅筆で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

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